こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

昆布の熟成について

 

「梅雨が明ける」。

これは昆布屋にとって、大きな意味を持っています。

昔から大阪では、どこの昆布屋でも「昆布は梅雨を越えてから」と言ったようです。

これは、昆布の熟成による味の向上についての話です。

漁期である7月~8月に北海道で水揚げされた昆布が、ちょうど一年ほど経過したタイミングで、より美味しくなっていることを表現したものです。

 

熟成により味がよくなる仕組みについては、よく分かりません。

たくさんの人が研究したようですが、これといった結論は見当たらないようです。

ただ、本当に熟成によって昆布の味は大きく変わるのです。

 

私が熟成の効果を明確に感じたのは、初めて昆布漁の手伝いに浜を訪問した平成16年です。

この年のことは、前回の投稿に書いています。 

https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/06/27/092818

 

昆布漁に参加し、海から上がったばかりの昆布を干して、食べてみたのです。

すると、普段大阪で取り扱っているものと別物と言って良い差がありました。

同じものだとは俄かに信じられなかったほどです。

 

多くの業界の先人も似た経験をし、熟成に関する認識ができたのだと思います。

こんぶ土居でも、熟成と安定供給のために十分な備蓄に努めてきました。

しかし私共では、それを商品に表記して強調して販売はしていません。

 その理由は、次のようなところでしょうか。

 

まず、昆布の熟成にも、ピークがあります。

長ければ長いほど良いというものでは決してありません。

分かりやすい情報を強調し消費者の関心を引く手法は、よくある構図です。

例えば鰹節の枯節でも「~番カビ」等とカビつけの回数の多いことを謳って付加価値をつけて販売されることも多いですが、鰹節のカビつけの回数と品質は、正比例の関係にあるわけではありません。

こういった状況を、「優良誤認」と表現することもあります。

 

昆布を熟成させるにしても、その保管状況が大切で、それは昆布屋としてのノウハウです。

時間ばかり長ければ良いというものでは決してありません。

実は熟成の効果は、適切な環境下であれば、概ね一年で十分に発揮されます。

それが、冒頭の「梅雨を越える」であるわけです。

 

梅雨時に何が起きているのかと言えば、昆布が「高温と高湿度」にさらされているのです。

この、ある程度の高温高湿度こそが、昆布の品質を向上させる条件です。

 

冬場には昆布は乾燥しきってバリバリですが、梅雨時には湿気を吸ってベロベロに柔らかくなります。

梅雨を越えると、少し湿度が下がるので、昆布に含まれていた湿り気もいくらか放出されます。

このタイミングで、一年の熟成サイクルが終了です。

同じサイクルをもう一年繰り返すと、更に変化はしますが、その幅はさほど大きくありません。

更にその翌年の効果となれば、もうかなり限定的です。

 

この熟成の効果は、四季の移り変わりに合わせた自然な温度湿度の変化を受けた場合の話であって、空調を入れた倉庫に保管していると、同じような熟成の効果は得られません。

同じ理由によって、大阪で保管した場合と、昆布産地である北海道で保管した場合では、気候条件の違い(北海道には梅雨がない)によって大阪での方が良い結果を生みます。

ただ、湿度の高い時期などは、保管環境が悪いとカビが生えたりするリスクもありますので、そうならないように適切な対策をするのも昆布屋の技術です。

   

昆布の熟成の効果は、今や多くの方が知るところとなりました。

北陸地方の某昆布屋さんが「蔵囲(くらがこい)昆布」という言葉を多用した影響が大きいでしょうか。

高級感を感じる非常に上手に表現された言葉ですが、この言葉に登録商標を取っておられます。

つまり、他社はこの言葉を使用できないわけです。

 

現在販売中のこんぶ土居製品「天然真昆布一本撰」は、平成27年産の昆布です。

五年前ですね。

「五年蔵囲昆布」等と付加価値をつけて販売してもよさそうなものですが、こんぶ土居では、熟成期間を強調しての販売は一切していません。

私共だけでなく大阪のどこの昆布屋も同じで、熟成に付加価値をつけて販売するようなことは、あまり前例がありませんでした。

美味しさと不作時の安定供給のために十分な量の昆布を備蓄するように努め、それが結果的に効果を得ていたというだけのことなのです。

 

 昆布の熟成のお話をすると、ご自身で長期熟成をやってみようとされる方が、たまにおられます。

それはお勧め致しません。

昆布の熟成にも適切な環境を整えるノウハウがあります。

ご家庭では、熟成ではなく劣化してしまうように思います。

 

これからもこんぶ土居では、本来の昆布の力を十分に引き出し、ご満足いただけるものを提供できるよう努力致します。

 

(倉庫で出番を待つ昆布)

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平成16年夏、昆布漁のお手伝い

昆布の漁期は真夏です。

私が初めて昆布産地を訪問したのは平成16年で、漁師の方と一緒に昆布漁の船に乗り、泊まり込みでお手伝いをさせていただきました。

当時、そのことについて書いた文章がありますので、転載致します。

 

 

こ ん ぶ 土 居 通 信 №12  平成 16 年8月発行

【昆布漁体験記】

美味しいものを食べられるのは、素材を作っていただいている農家や漁師の方のおかげだというのが、こんぶ土居の考えのひとつです。

消費者は良いものをいただいたときは生産者に感謝をし、生産者は消費者の期待に応えられるものを提供する。そうすることで、良い関係を築くことができるのではないでしょうか。
昆布の場合は、生産地の方々と両親がそれなりのお付き合いをしてきていますが、私は漁師の方が一番大変な時期に漁のお手伝いをすることにより理解を深めたいと思っていました。

川汲漁業協同組合の最後の組合長(現在は合併して組織変更)吉村 良一氏のお宅へ泊めていただき、一週間昆布漁のお手伝いをさせていただくことになりました。

今年は7月17日が天然昆布採取の解禁日です。朝3時半の起床、大急ぎで朝食もとらず、4時過ぎには船に乗り込みます。

普通は3人で船に乗り、一人が昆布の採取、一人は船の位置を固定する「トメシ」と呼ばれる係り、もう一人は取った昆布の根の部分を切り取り、異物を除いて船の上へ揃えて積んでいく「中乗り」という係りです。

吉村良一氏の船は、良一氏が昆布採取、長女の幸恵さん(中学三年生)がトメシ、奥様が揃え係です。

私の滞在の最終日には、次女の麻稀さん(中学一年生)もトメシとして初めて海に出ました。

私は良一氏のお父さん捨良氏の船で、中乗りをさせていただきました。

5時ごろ良一氏の合図で、好みのポイントに陣取った川汲地区の約160隻の船が、いっせいに昆布採取をスタート。

良い昆布が密集しているところに止めた船から、捨良氏はのぞきめがねを見ながら先が二股に分かれた「まっか」と呼ばれる棹に昆布を巻きつけて引き上げます。

海底の岩にしっかりと根を張った昆布を剥がし取って引き上げるのには技術と体力が必要です。

通常は一度に数本の昆布が上がってくるのですが、大きな石と一緒に昆布が33本あがったときは二人で大笑い。
80歳の高齢とは思えぬ力強さです。昆布で船が満タンになったころ、良一氏の合図ですべての船が港に戻り昆布を陸にあげます。
休む間もなく重い昆布を一本ずつ吊るして乾燥室へ入れます。

「この乾燥の時間と温度が昆布の品質を決める」と父が言っていましたがそんなことをゆっくり考える余裕もありません。

今朝とった昆布をすべて吊るし終えたら、ようやく朝食です。

少し昼寝をして、乾燥ができた昆布から倉庫に取り入れていきます。その後しばらくあん蒸ののち、自宅二階へ取り入れ、漁期が終わってから整形して製品になります。

一日の仕事が終わると日も暮れ始めます。

奥さんと二人のお嬢さんは夕食の準備。奥さんは船に乗ってはご主人と一緒に昆布漁、陸に上がっても家事を一手に引き受けて大忙し、大活躍です。

二人のお嬢さんもほんとによく家のお手伝いをして、子供の頃の自分と比較すると恥ずかしくなるほどです。

家族そろっての楽しい食事。捨良氏からは昆布と関わって60年の薀蓄をたっぷり聞かせていただきました。そうこうしているうちに疲れが出てきて眠くなり、長い一日が終わります。
大阪にいて昆布を選別しながら不満もありましたが、漁師の立場に立ってみると考え方も変わります。都会で家族全員でこれぐらい働くとかなりの収入になるはずです。
7月24日朝日新聞〔ひと〕欄に、社会保険庁長官 村瀬清司氏の言葉として「勤め先を問われて社会保険庁と言えますか」が載っています。吉村幸恵さん、麻稀さん、おうちの仕事はと問われて胸を張って「昆布の漁師」と言えますよね。

家族が力をあわせて仕事をしている美しさ、失いたくはありません。

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日本の出し(だしパック)について

前回の投稿では、一般的なだしパック製品について書きました。

本日は、こんぶ土居の製品のだしパック「日本の出し」につきまして。

販売開始時(2012年)に、開発の経緯を書いた文章がありますので、以下に転載致します。

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「日本の出し」は、古来より最高品位に格付けされた白口浜天然真昆布と優良生産者の鹿児島産鰹枯節のみを原料にした、日本初のセパレートタイプのだしパックです。
元々は、フランスへの輸出向けに開発した製品ですが、この度国内販売もさせていただくことになりました。国内販売に際し、開発の動機から製品化までのストーリーを、少しご紹介させていただきたいと思います。
●フランス人シェフの昆布の評価
かつてホテルニューオータニ大阪のフレンチレストラン「サクラ」で料理長をされていたドミニク・コルビ氏は、日本の食文化にも非常に理解の深い方で、以前から親しくさせていただいていました。 「サクラ」では、フランスから有名シェフを招いて度々イベントを開催されていましたが、そのたびにコルビさんはフランス人シェフを連れて私共を訪問して下さっていました。そこでお見せするのは、当然日本の出しです。美食の国フランスですし、ましてやミシュラン三ツ星をはじめスターシェフ達ですから、美味しいものは知り尽くしているはずです。しかし日本人として、フランスに決して負けない素晴らしい食文化として昆布出しの味を見せなければなりません。当初は、フランス人に昆布の味が理解されるのかとの不安もありましたが、それは見事に裏切られます。彼らは、その美味しさに心底驚き、非常に高く評価し、フランスのレストランで料理に使う人まで現れてきました。私共はこのような経験から、昆布の味は海外の方々にも十分理解していただけるものであることを知るようになります。


●フランスにおける日本料理の現状
フランスほど、日本文化を愛してくれている国は無いと思います。パリの街を歩けば、数え切れないほどの日本料理屋をそこかしこで見かけます。日本人としてとてもうれしいことですが、店先のメニュー等をよく見てみると、何やら不思議な料理の数々。どうやら、経営しているのは日本人でない場合がほとんどのようです。日本人が関わっていなくても、日本料理のことが好きで、きちんと修行した外国人が営業しているのなら全く構わないと思います。しかし、もともと中華料理屋であったものを日本料理屋の方が儲かりそうだから変えただけ、というようなものは困ります。このような店では、当然まともな料理が出るはずもありません。ましてや、きちんと出しを引いているような店はほぼ皆無で、うまみ調味料が主成分の業務用の出しの素が使われます。このように、日本料理が変質した形でフランスの方々に伝わっている現状を見るのは昆布屋として非常に辛いものです。まっとうな出しがフランスで広く使われるようになって欲しいとの思いから、輸出向けの製品を考えるようになりました。


●出しパックという形態を取った理由
美味しい出しに質の高い昆布が必要なのは当然ですが、もうひとつ大切なのは良い鰹節です。昆布と鰹節の出しは、言わば日本料理の王道で、両者が合わさることにより素晴らしい味をつくり出します。つまり、昆布だけが良くても、良い鰹節が無いと片手落ちだということになります。ところが、EU向けに昆布は問題無く輸出できるのですが、鰹節には少しやっかいな規制があり、現状としては輸出は難しいのです。このためフランスでは日本以外で生産された鰹節が多く流通しているようです。しかし、品質を考えれば日本の鰹節に勝るものはありません。そこで目をつけたのは出しパックです。配合割合などに取り決めはあるものの、鰹節単体での輸出よりはるかにハードルが低く、輸出が可能です。このような経緯から、良い昆布と良い鰹節を使った出しパックを、輸出向け商品として開発することになります。


●出しパック特有の問題点
出しパックを作るにあたり、昆布の品質も鰹節の品質も、どこにも負けない高いクオリティの原料を私共ではご用意できます。
しかし、出しパックには出しパック特有の難しいハードルがありました。
市場には、多くのメーカーが製造した鰹節と昆布の混合出しパック製品が流通しています。鰹節粉末と昆布粉末の混合物が不織布パックに詰められたものです。しかし、そのほとんどが鰹節の配合割合が主で、昆布は少ししか入っていません。これには理由があります。昆布のうまみ成分はパック素材から溶出しづらいのです。私共が当初試作した際にも、やはり鰹節主体の方が良いと感じました。しかし、輸出の条件として鰹節の配合割合は半分以下である必要があり、非常に困ってしまいました。


●ある日の思いつき
前段の問題点には非常に悩まされましたが、意外に簡単なことで解決することになります。パリで私共の製品を販売してくださっている日本食材販売店の社長さんとこの件について相談している途中、なにげなく「昆布のパックと鰹節のパックを別にしたらどうか」と思いつきをお話したところ、強く賛成してくださいました。自分では何気ない思いつきで言っただけだったのですが、このアイディアには出しパックの問題点を劇的に解決する力がありました。


●本来の姿に戻っただけ
端的に言えば、昆布と鰹節は性質が大きく違うということです。出しを引く際の適切な温度帯、パック詰めの際の適切な粉砕粒度、それに応じたパック素材など、昆布と鰹節にはそれぞれに応じたアプローチが必要だったわけです。一般的に出しパックは簡便さを求めた製品ですから混合型ばかりで、色々と探しましたがセパレートタイプにした製品は見つかりませんでした。混合型は、配合割合にしても、出しを引く際の温度にしても、パック素材にしても、鰹節を基準に考えられたものばかりです。これでは、美味しい昆布出しが出るわけは無いのです。これが、一般的な出しパックの配合割合が鰹節主体になっている理由であり、別の言い方をすれば昆布の味がしっかり出ている混合出しパックなど、市場には全くと言って良いほど無かったわけです。実際に製品にするまでは様々な苦労がありましたが、昆布を先に続いて鰹節を使う伝統的な出し取りの手法を踏襲することにもなり、他には類を見ない昆布のうまみをしっかりと感じられる出しパックが完成することになります。他社に例が無いと言う意味では画期的な商品であると自負していますが、何のことはない、伝統的な手法に忠実に出しパックを作っただけのことなのです。


●国内販売にあたり
昆布と鰹節の出しは、日本料理の隠れた主役です。また、世界に誇れる素晴らしい文化です。にもかかわらず、うまみ調味料が主成分の安価な出しの素に押され、自分できちんと出しを引くご家庭は、どんどん少なくなってきているのではないでしょうか。
この現状を憂慮し、私共でも常日頃から、本物の出しと一般的な出しの素の違いを訴えたり、毎月出しの取り方教室を開いたり、啓蒙活動に努めてきました。そして同時に、お忙しく時間の無い方にもお使いいただける「便利な本物」の必要性を強く感じてきました。これはまさに「十倍出し」の開発動機でもありました。このたび製品化致しました「日本の出し」だしパックは、濾す手間がいらないこと、材料の計量の必要が無いこと、昆布の水漬に要す時間が粉砕により大幅に短縮していることなど、とても簡便にお使い頂けると思います。もともとは輸出のために製品化したものでしたが、非常に品質の高いものが完成したと自負していますし、多くの方々にお使いいただきたいとの思いから、国内販売をさせていただくことになりました。この製品が、日本の伝統的な出し文化の衰退を食い止める一助になれば非常にうれしく思います。軽く、かさばりませんので、海外の方向けのお土産などにも最適だと思います。


(以上、2012年4月記述。「日本の出し」には、だしを取ったあとの昆布と鰹節も使っていただきたいと思い、簡単なふりかけのレシピを同封しています。その文章も、以下に載せておきます。)

  

●だしをとった後の昆布と鰹節で、手作りのふりかけを作ってみませんか。とて簡単です。
〔材料〕
だしを取った後の昆布・鰹節、各一包分
醤油 大さじ2(30㏄)
みりん 小さじ2(10㏄)
〔作り方〕
軽く水分を絞った昆布と鰹節と調味料を混ぜ合わせ、フライパンで加熱して水分を飛ばす(耐熱の容器に入れ、電子レンジでラップなしで加熱して作ることも可能です。その場合、調味料が電子レンジ内で飛び散りやすいので、ペーパータオルをかける等、工夫して下さい)。 お好みで、いりごま、焼海苔、青海苔、ぱりぱりに焼いたちりめんじゃこなどを加えると更に美味しくなります。


【だしがらは栄養豊富】
昆布や鰹節には、良い栄養素がたくさん含まれています。
現代人に不足しがちなミネラル分も豊富です。
ただ、その栄養素で大切なものが水に溶け出しにくく、「だし」の中には多く含まれません。つまり「だしがら」に残っているということになります。
例えば、昆布には、食物繊維やカルシウム、マグネシウムなどが豊富に含まれていますが、それぞれのだしがらへの残存割合は、93%、86%、68%と非常に高くなります。
同様に、鰹節はたんぱく質を多く含みますが81%残存しています。鉄分、亜鉛などについては、鰹節そのものには含まれているものの、かつおだしに溶け出した量は微量で、文部科学省の栄養成分データの最少記載量にも達していません。
つまり、だしを取った後の昆布や鰹節は、美味しさは減っているものの栄養素の宝庫だと言えます。だしがらを美味しく調理して健康維持にお役立て下さい。

「日本の出し」栄養成分表示(100gあたり) 熱量243kcal たんぱく質40.3g 脂質2.2g 炭水化物32.5g 食塩相当量4.3g  食物繊維14.2g カルシウム395mg マグネシウム311mg (文部科学省の食品成分データベースより)

昆布に多く含まれるヨウ素も、健康維持に不可欠な大切な栄養素です。ただ、過剰摂取にも注意が必要です。特に小学生以下のお子様には、多量の昆布の常食はお勧めしません。昆布のヨウ素はだしに多く溶け出ますので、だしを取った後の昆布は子供さんにも良い食品です。

だしパックもいろいろ

だしパックの製品が人気のようです。

ここ数年、本当にたくさんのメーカーが作るようになりました。

 

ご存じのように「だしパック」とは、昆布や鰹節、煮干しや干椎茸等のだし素材を紙や不織布に詰めたものですね。

計量や濾す手間がないので便利です。

昔は、このような本来のだしパックが多かったのですが、最近、少し変わったものが作られるようになっています。

 

例として、日本最大のかつお削り節メーカー「Y社」の製品を二つ取り上げます。

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白いパッケージの方は「鰹節屋のだしパック」

もうひとつは「鰹節屋の割烹だしパック」という製品です。

「割烹」というネーミングから、何となく後者の方が高級なイメージですね。

パッケージも金色に輝いています。

 

さて、それぞれの原材料を見てみましょう

前者の原材料は「かつおぶし、そうだかつおぶし、こんぶ」のみです。

つまりこれは、昔ながらの本物のだしパックだと思います。

  

対して、後者の金色の「割烹だしパック」の原材料表示は、以下の通りです。

 「調味顆粒(食塩、粉末醤油、砂糖、かつおぶし、そうだかつおぶし、たん白加水分解物、ばれいしょでん粉)(小麦・大豆を含む)、かつおぶし、そうだかつおぶし、こんぶ粉末、焼きあご / 調味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア)」

 

うまみ調味料として「たん白加水分解物」や「調味料(アミノ酸等)」(←化学調味料のことです)、その他に色々な成分が含まれています。

つまりこれは、昔ながらのだしパックと、「顆粒だしのもと」のハイブリッドのような製品だと言えるかと思います。

 

実は最近、こんな製品が非常に多くなっています。

非常に人気でよく売れている九州のK社の製品も、この形です。

 

昔ながらのだしパックと見分けることは簡単です。

原材料表示欄に自然の素材だけが書かれているか、それともうまみ調味料やエキス類が表記されているかをチェックして下さい。

 (エキスとだしの違いについては、2020年6月3日投稿の「エキスとだしの違い」をご覧ください。)

https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/06/03/085729

 

実は、後者タイプには、だしの素材が少ししか使われていません。

それは、だしを取った後の袋を切り開き、中身を見れば分かります。

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 右は「鰹節屋のだしパック」ですが、昆布や鰹節の砕いたものがたくさん入っています。

左が金色の「鰹節屋の割烹だしパック」ですが、袋を開いて出てきたのは、なにやらよくわからないネチョネチョした物体でした。しかも、量がかなり少ない。

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昆布にせよ鰹節にせよ、それ自体は水には溶けません。

だし成分が溶け出るだけです。

つまり、パックの中にだしがらが多く残っていないということは、自然のだし素材の使用量が少ないということを示しています。

 

何を使うもそれぞれの方次第ですが、是非違いを把握してお選びになることをお勧めしたいと思います。

やはり原材料表示をしっかり読むことは、とても大切ですね。

 

こんぶ土居でもだしパック製品をご用意しています。

一般製品との違いなど、次回の投稿で書く予定です。

 

 

(余談)

「だしパック」という言葉は一般的です。

私共の製品でも、そのように表現します。

ただ、紅茶のティーバッグは「tea bag」であり「tea pack」ではありません。

ですので、本当は「だしバッグ」が正しいと思います。

 

 

ミネラルいりこんの役割

 

「ミネラルいりこん」開発の経緯

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●だしに溶け出す栄養素
こんぶ土居の製品「十倍出し」は、製造開始から30年以上が経過し、様々な改良を加えつつ今日まで製造を続けてきました。
高級な原材料を使用した「本格十倍出し」と、原材料の品質を少し下げた廉価版「標準十倍出し」があります。
「標準十倍出し」は2017年より、原材料に鰯煮干しを加え、製造方法や配合割合の工夫でより美味しく生まれ変わりました。
煮干しの使用については栄養成分の増強も期待したポイントです。煮干しなどの小魚は、不足しがちなカルシウム等のミネラルを多く含むことは良く知られていますので、だしの中にもその栄養成分が溶け出ているであろうと考えたわけです。


しかし、出しの栄養成分を検査機関に依頼して分析しますと、驚くべき結果が出ました。カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分は、出しの中にはほとんど溶け出ていなかったのです。つまり、その多くはダシガラの残っていることになります。こんな驚くべき発見から、ダシガラを美味しく食べる健康スナックとしてのミネラルいりこんの開発は始まりました。

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(ラベルにも、その旨を表記しています。)

 

●ダシガラの栄養価値
文部科学省の「食品成分データベース」には、様々な食品の栄養成分が示されており、出しに含まれている成分も見ることができます。また、その出しを取るにあたって、どれぐらいの量の素材を使用したかも明示されています。
例えば、煮干し出しを例に取ると、煮干し自体の栄養成分も示され、また煮干しだしの栄養成分も出ているので、その差から煮干しのダシガラに含まれる栄養素も計算することが可能です。
加工食品の栄養成分表示にも義務付けられる「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」「食塩相当量」と共に、「食物繊維」「糖質」、ミネラル成分として「カルシウム」「マグネシウム」「鉄」「亜鉛」などの成分を計算してみました。

 

【各成分が、ダシガラに残存している割合(概算値、残存割合の高いものから順に)】
(昆布)鉄ほぼ全量、亜鉛ほぼ全量、食物繊維92%、カルシウム86%、たんぱく質76%、マグネシウム68%、炭水化物58%、食塩相当量43%、糖質32%(脂質は昆布にほとんど含まれません)
(煮干し)鉄ほぼ全量、亜鉛ほぼ全量、カルシウム96%、たんぱく質95%、マグネシウム73%、脂質47%、食塩相当量23%(炭水化物は煮干しにはほとんど含まれません。)

 

以上のように、昆布、煮干し共に、不足しがちな栄養素であるたんぱく質やミネラル分や食物繊維ほどダシガラに多く残り、むしろ摂取量を控えることが推奨されている脂質や食塩分ほど溶け出していることが分かります。
つまり、ダシガラは、美味しさは抜けていますが、栄養成分のバランスから見ると出しを取る前よりも良くなっていると考えることができます。

 

●ダシガラは美味しくなれる
成分分析から、ダシガラには高い栄養価値があることが分かりますが、ダシガラを美味しく食べるのは難しいものです。
昆布のダシガラをそのまま食べても決して美味しいものではありませんし、煮干しも同様です。
しかし、調理法によっては、ダシガラの方が美味しいと感じるものもあります。
傾向としては、多くの量を食べる調理法ほど、ダシガラが適しています。


例えば、古くは大阪の名物として親しまれた昆布の佃煮などは、たくさんの量を食べるものではありません。ごはんのお供などに、少量を使用するものです。しかし、沖縄の昆布の利用法は大阪のそれとは大きく違い、たくさん消費する料理があります。代表的なものは「クーブイリチー」と呼ばれる、昆布の炒め物です。
このようなメニューに使用する場合は、昆布に含まれる凝縮されたうまみが強いと、それがむしろ過剰で、食べづらくなってしまうことがあります。
そこでダシガラを使うと、あっさりといくらでも食べられる味になる傾向があります。
つまり、調理の方法さえ工夫すれば、ダシガラは栄養が豊富で美味しさの面でもより好ましいものになる可能性を秘めているわけです。

 

●特に、子供の健康的なおやつとして

前述のように、「ダシガラ」は味覚の面でも新しい世界を開くことができます。

ミネラルいりこんに入っている昆布は、少しの圧搾ごま油をまぶしてオーブンで焼いたものですが、だしがらでない昆布でつくると、塩分も他の味も過剰です。

煮干しも同様で、いくら栄養豊富でも、適度に塩分などが抜けたものでないと、たくさん食べることはできません。

こういった意味で、だしがらを上手に調理することは、本当に意義深いのです。

 

現代人はカルシウムが不足しているとのことで、いまだに学校給食で牛乳が提供され続けています。

牛乳の問題点は、日を改めて書きますが、日本の伝統的な食品でカルシウムを摂取したいものです。

 

ミネラルいりこんは、最小限の飽きない味付けを目指しています。

今後も、多くの方に喜んで頂けるよう、改良していきます。

実は今、ある方の助けを借りて、『ミネラルいりこんカレー味』を試作中です。

 

「しっとりふりかけ」自画自賛

 

前回に引き続き、「だしがらは素晴らしい」がテーマです。

 

こんぶ土居に「本格十倍出し」という製品があります。

 

昆布と鰹節の濃縮液体だしです。

この製品を作る際、当然だしがらが出るわけです。

そのだしがらを利用して製造しているのが「しっとりふりかけ」です。

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 写真の裏ラベルの説明文に「十倍出しの副産物を利用した ~ 」と書いているのは、その趣旨です。

 

「しっとりふりかけ」は、作っている側が申し上げるのは馬鹿みたいですが、こんなに素晴らしい製品はなかなか無いと思います。

ミネラル豊富、高タンパク低脂質、理想的な健康食品です。

当然製造に際しては、一切の食品添加物やうまみ調味料を含みません。

70gたっぷり入って、税込み価格250円です。

しかも、こんぶ土居店頭でお求めいただいた場合は、ひとつずつ無料のギフト包装まで承っています。

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おかげ様で大好評、こんぶ土居の大人気商品ですが、もっと人気になっているべきだとさえ思います。

 

「しっとりふりかけ」と、コンビニやスーパーで売っている大メーカーのふりかけを比較して、後者を選ぶ理由が見つかりません。

特に子供さんは、おかしな原材料で作られて栄養の乏しい一般的なふりかけなど、召し上がらない方が良いと思います。

蛇足ですが、昆布を大量に摂取するとヨウ素過多のリスクもありますが、昆布のヨウ素はだしに多くが溶け出るので、しっとりふりかけは子供さんにも安心です。

 

低価格で本物の味、そして栄養豊富、こんな製品を提供できていることを非常に嬉しく誇りに思います。

 

次回の投稿は、もうひとつのだしがら利用製品のご紹介です。

「だしがら」こそ栄養豊富

 

ご家庭でだしを取って、残るダシガラの処理にお困りのことはないでしょうか。

捨ててしまう場合もあるかと思いますが、できれば食べていただきたいです。

それは、「もったいないから」だけでなく、「だしがらこそ栄養豊富」だからです。

 

例えば、昆布と鰹節のだしを考えましょう。

昆布には、海からの栄養成分が豊富に含まれています。

ミネラルを例に取ると、昆布には、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など、健康に必要なものがたくさん含まれています。

文部科学省の食品成分データベース(https://fooddb.mext.go.jp/)を上手に利用すれば、各成分について、だしへの溶出量と、だしがらへの残存量を計算できます。

 

結果は、上記の全ミネラル成分、ほとんどがだしがらに残っている計算になります。

ナトリウムもミネラル成分ですが、日本人は塩分を取りすぎの傾向にありますので、ナトリウム摂取は控えめな方が良いです。

ナトリウムは、多くがだしに溶出し、ダシガラには多く残りません。

つまりだしがらは、不足しがちな栄養素ほど豊富で、不要なものは少ないということになります。

昆布は食物繊維も豊富ですが、だしがらに多く残ります。

こう考えると、だしがら昆布は実に理想的な栄養食品であると言えるわけです。

 

実はこれは、鰹節の成分でも似た傾向を見せます。

また、鰹節はタンパク質が豊富ですが、だしがらにほとんどが残留します。

 

総合的に考えますと、

『だしは主に美味しさに寄与し、いくらか栄養的価値もある。だしがらの栄養価値は、だしより遥かに強い』

といったところでしょうか。

 

このような結果ですので、是非ダシガラも美味しく調理していただければと思います。

昨日投稿しました拙著「土居家のレシピと昆布の話」には、ダシガラ活用レシピも掲載しています。

 

次回は、こんぶ土居で製造している、ダシガラ活用製品のお話です。