家庭で手作りの食事を用意する人が、残念ながらどんどん減ってきているようです。
私共は昆布屋ですので、その価値を理解し使って下さる方が増えることを、当然望んでいます。
知っていただく機会として開催してきた「たぶん日本一のだしの取り方教室」は、今年で14年目です。
今後も、様々な取り組みは続けていきますが、それでも難しさを感じることばかりです。
近い未来に於いて、家庭で昆布だしを常用する方が増えている予想図は、なかなか描きづらいものです。
前回の投稿では、うまみ調味料の歴史について少し書きました。
https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/07/09/091210
もう、化学調味料が発明されてから100年以上が経過するようですね。
その後も、うまみ調味料の業界は進化を続け、様々なタイプのものが登場しました。
化学調味料に代わって多く使われるようになったうまみ調味料の代表格は「酵母エキス」でしょうか。
このうまみ調味料は、化学調味料に比べて味がマイルドであることや、食品添加物でなく食品として扱われることから、多用されるようになりました。
それによって、「化学調味料無添加!」とアピールして販売する構図も非常に多いです。
うまみ調味料のカテゴリーによって変わる原材料表示については、過去投稿をご参照下さい。
「表示を免除されるもの①」
https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/05/27/160912
うまみ調味料業界の技術は、日進月歩です。
実際に、過去と比べて安価な大量生産品の味覚的な品質は飛躍的に上がっています。
簡単に言えば、今の時代「まずい加工食品」があまり無いと思います。
「おいしくない加工食品」なら、たくさんあります。
ただ、「まずい」と断言してしまえるような製品は、少ないのではないでしょうか。
例えば、100円均一のお店へ行けば、様々な食品が並んでいます。
すべて100円ですね。
普通に考えれば、そんな価格で販売できるわけがないのです。
作る側になることを想像すれば分かります。
徹底的な原料や手間のコストカットをしないと、100円などではとても売れないはずです。
ただ、そんな商品であったとしても、吐き出さないといけないようなまずいものがあるでしょうか。
今の時代、「60点」の商品なら大量に安く簡単に製造することができるのだと思います。
これらは、本物の素材を使用して作った製品と同じような品質は決して出せませんので、「95点」のものはできません。
過去には、「安かろう悪かろう」という言葉がありましたが、現在は安くても「普通」のものなら手に入るのだと思います。
食品の、こういった構造にうまみ調味料は大きく貢献しています。
「自然なもの」「伝統的なもの」を使わずとも、なんとなく味を調えてしまうことが簡単にできるのです。
このような状況ですと、手間とコストをかけて昔ながらの良い原料を使わなくてもいいじゃないかと考える方が出るのは、普通のことだと思います。
ただこれは、伝統的で自然な食品の衰退に関係します。
本物が価格競争に敗れて淘汰されていってしまうのです。
昔ながらの伝統的な食品の中には、本当に人を幸せにするような素晴らしく美味しいものが存在します。
言ってみれば「100点に近い」食品です。
人間の工夫によって作り出されたものもありますし、単に自然から与えられるものもありますね。
例えば昆布屋的に申し上げるなら、本当に品質の良い昆布と鰹節があれば、特別な調理技術などなくても素晴らしいだしが誰でも用意できます。
この素晴らしい食品の品質は、いかにうまみ調味料の世界が進化しようと、決して到達できないところにあると思います。
ただ、そのような高品質な本物の食品は、時代と共に、どんどん入手できなくなっています。
昆布を例に考えます。
大阪の昆布の業界は江戸時代から続く仕事ですので、先人が多くいます。
過去の昆布を知る方々は、例外なく「昔の昆布の品質は良かった」とおっしゃいます。
これは、昔の記憶を美化して言っているのではなく、実際にそうであるようです。
理由は簡単です。
昆布は人間が生み出したものではありません。
それをつくってきたのは、豊かな自然に他なりませんが、それがどんどん破壊され変容しているわけです。
昆布の品質が下がってきたとしても、不思議はありません。
また、過去の投稿でお伝えしたように、例えば真昆布を見れば、昭和40年代に昆布養殖が実用化されるまでは全量が天然昆布だったわけです。
ところが、近年では養殖昆布がほとんどを占めます。
https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/07/07/094116
どう考えても、過去と比較すれば品質は下がってきています。
つまり、うまみ調味料の品質は日進月歩で向上し、本物の昆布の品質は時と共に低下する。
差が縮まってくるわけです。
このような状況で、うまみ調味料に侵食される伝統的なだしの業界がⅤ字回復することなど、考えられるでしょうか。
私共としても、多くの方に良い食品を理解して使っていただくことが願いです。
ただ、前述のような理由により、それは簡単なことではありません。
不本意ではありますが、本物を理解する経済的にも余裕のある一部の方向けの仕事になってしまうのではないかと危惧しています。
しかしこれは健康にも関係している話なので、なんとかその裾野を広げ、できるだけ安価で便利な本物を提供する必要性を感じています。
過去にも書きましたが、「十倍出し」や「しっとりふりかけ」、「ミネラルいりこん」などは、自然素材のだし文化を守り、同時に健康にも寄与すると自負しているので、安くおいしいものを多くの方に買いやすい形で提供し続けたいです。
時代が大きく移り変わる中で、自分の仕事の社会的な役割を考える必要があります。
未来の世界において、社会に昆布屋としてどのように貢献できるか、その明確な答えが出せないのであれば私共の仕事も必要ないということでしょう。
こんぶ土居ウェブサイトのトップページには
『こんぶ土居では、伝統ある大阪の食文化を守り育て、本物を次代に伝えることが私どもの使命だと考えています。』
と書きました。
http://www.konbudoi.info/main/index.html
こんな理由もあって私共では、業界の衰退にも関係するうまみ調味料を一切使わないことを自らに課し、伝統的な原料のみを使って製品づくりをしているわけです。
一人でも多くの方が本物の価値を理解し、支持して下さることを願っています。