こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

映画『タネは誰のもの』の感想

つい先日12月2日の参院本会議で、品種改良によって生まれた農作物の種や苗木の海外への流出を防ぐ仕組みを強化した、「改正種苗法」が可決されました。

近年では、海外へ日本の独自品種が無許可で流出する事例が多いようで、その防止策として「育成者権」を保護するためものです。

 

まず、農作物の種には「一般品種」と「登録品種」があります。

登録品種とは、簡単に言えば個人や団体が開発した独自品種です。

農林水産省に申請して、認可されれば登録品種となります。

今回の改正種苗法は、登録品種に向けたものであり、一般品種には及びません。

 

この登録品種は、言ってみれば誰かの著作物のようなものですから、それが「コピー」されていくようなことがあっては、育成者の権利が侵害されていると見ることもできるわけです。

 

コピーとは「種を取る」ことです。

育成者から種や苗が農家に有償で販売されたとして、それを育てて種を採取するのなら、言ってみれば農家で増殖させることが可能だと言うことでしょう。

そうなれば、もう農家は再び種や苗を買うことはないはずで、場合によっては、それを他者に分け与えることも可能だと思います。

こうなると、その種を育成した人へは利益が入らず、困ったことになりますね。

 

改正種苗法は、農家が独自に登録品種の種を取ることを禁じた法律で、その延長線上に、日本独自の登録品種の海外流出を阻止しようという狙いがあります。

 

繰り返しますが、農作物には「登録品種」と「一般品種」があり、改正種苗法は登録品種についてのものです。

ですから、今後も一般品種から種を取ることは全く制限されません。

登録品種は、全品種の中で一割ほどに過ぎず、一般品種がほとんどを占めます。

であるならば、やはり育成者権保護の観点から、改正種苗法は良い方向だと見ることもできそうです。

実際に、農家に種を自由に増殖されては、新品種の開発者としては、たまったものではないでしょう。

 

理屈の上で言えば、改正種苗法は正しい方向かと思います。

私自身、そのように考えていました。

以前から、ネット上の情報や、SNSで流れてくるもの、マスコミの報じるものであっても『種苗法で農家さんが種を取れなくなったら大変なんだ!!みんなで阻止しよう!!』といった、ある種の正義感を振りかざしたような情報が非常に多かったのです。

こういった場合、「登録品種に関して」の部分が表現されず、いたずらに危機感を煽り立てるようなものをたくさん見かけました。

そんな情報に触れるたびに、何やら嫌な気分になっていたものです。

 

 

先日、タイトルに書いた「タネは誰のもの」という種苗法に関する映画を見る機会がありました。

それを見て、少し考えが変わった部分がありますので、今日の投稿は、そのお話です。

 

 

結論として、「個人の権利の保護」と「国全体の未来の利益」という大きな話に関係しているように思いました。

前述のように、登録品種の育成者の権利は、当然保護されないといけませんね。

海外流出を防ぐことも大切でしょう。

その一方で登録品種を栽培する農家は種や苗を買い続ける必要が生まれ、コストが増すことになります。

 

つまりこれは、「農家」と「育成権者」の利害が対立しているということです。

ですから、どちらかを立てれば、もう一方が泣くことになります。

 

つまり焦点は、「どちらを泣かせるべきか」ということなのでしょう。

正しいとか正しくないとか、そんな話とも少し違うように思います。

たとえ理屈の上では正しいとは言えないとしても、より大きなものを守るために為すべき事もあるでしょう。

「今後の日本の食糧生産を、どうするか」という視点で考え、その方向性に合致する方を選ぶべきなのだと思います。

 

①農家を保護して農業を活発にする(育成権者が泣く)

②育成権者を保護する(農家が泣く)

このそれぞれについて考えます。

 

①については、現在の日本の食糧自給率と農業従事者の減少を抜きには語れません。

自給率が非常に低い日本、目下急速に農業人口が減少する中で、自給率は今後更に低下していくのでしょう。

個人的には、やはりこれはあまり好ましいことではないと思います。

日本の経済の先行きが非常に怪しい中で、『食べるものはお金を出して外国から買う』というスタンスは、やはり無理があるかと思います。

そうなれば、農家に有利な策を講じて、農業従事者の数を増やす必要があるのでしょう。

 

②については、育成者権は最大限保障されるべきだとは思うのですが、①の意義と比べてどちらが大事かと言えば、未来の日本を考えた場合個人的には①がより大切なのではないかと思います。

仮に理屈としては②の方が正しくても、それによって日本の未来に問題が発生するのであれば、育成者を泣かせる①の選択をすべきなのかも知れません。

 

 

映画を見て印象的だったのは、沖縄のサトウキビ農家の話です。

前述のように、全体で見れば登録品種は一割に過ぎません。

しかし、サトウキビに限って言えば、9割が登録品種だということです。

当然これまでは、沖縄のサトウキビ農家は、その登録品種を自家増殖しているのです。

今後は、それができなくなるのでしょうか。

 

私共でも昆布加工製品を製造するのに、種子島の粗糖と波照間島の黒糖も使用します。

共に原料は、地元のサトウキビです。

日本のサトウキビ農家が減って、伝統的な日本の砂糖が入手困難になると困ります。

代わりに何を使えば良いのでしょうか。

 

ひょっとすると、砂糖の需要は昔より減っているのかも知れません。

加工食品の原材料表示に「ぶどう糖果糖液糖」などと表示されているのをご覧になったことは無いでしょうか。

酵素やアルカリ処理によって果糖の割合を増した「果糖ぶどう糖液糖(異性化糖)」は砂糖と同等の甘さを持ち、清涼飲料水などにも多用されます。

これは、英語では「high fructose corn syrup」と呼ばれています。

corn syrupですから、原料はトウモロコシです。

そのトウモロコシは国産品であろうはずがありませんし、遺伝子組み換え作物の可能性も高いでしょう。

 

そんな新しい甘味料以外でも、例えば水あめを作るとしても同じことが言えます。

 こんぶ土居でも製品に甘味をつけるため水あめも使用することがありますが、その原料は国産のサツマイモの澱粉と国産の大麦麦芽です。

しかし、一般の安価な水あめや還元水あめと表示されるものの原料は、おそらく輸入のコーンスターチだろうと思います。

何しろ、こういった甘味料はコストが安く、私たちの周りの加工食品に、砂糖の代わりに使われることがどんどん増えているように思います。

アメリカでは加工原料のトウモロコシの収穫が多く、余ってきているという話も聞きます。

そんな事情とも関係あるかもしれません。

 

映画の中で表現されていて興味深かったのは、サトウキビが多く栽培される南西諸島には、産業と言えるものは砂糖ぐらいしかないということです。

つまり、サトウキビ栽培が廃れるのであれば、南の島から急速に人がいなくなるのでしょう。

場所によっては無人島化するかも知れません。

それは国防上の問題にもつながる可能性があります。

海外の一部の国にとっては、とても都合が良いのかも知れませんが。。

 

今回の種苗法は、2018年4月に廃止された「種子法」という法律とも密接に関わっています。

以前は、種は言わば国民の共有財として守られてきました。

新しい品種を開発するにしても、それは農業試験場などの公的機関に予算が与えられる形で進み、良質な種苗を農家に提供してきた経緯があるようです。

その背景になっていたのが種子法であったわけですが、それが廃止され、新しい種の開発が民間に移っていくことになります。

また過去からの公的な知見を、民間の育成者に無償で開示する方向になっているようです。

どちらかと言えば、この種子法の問題が、より大きいのかも知れません。

 

 

現場を知り、大きく長期的な視点で利益を考えることの大切さに改めて気づかされた映画でした。

何事も、頭の中の理屈だけで考えていてはいけませんね。

 

もしご興味あれば「タネは誰のもの」、ご覧になってもよろしいかと思います。

DVD化はされていないようですが、たまに小規模で上映会が開催されていたり、オンライン上映会などもやっていることがあるようです。

一時間ほどの短い映画ですが、なかなか面白い内容でした。

 

質より量

健康を考えたとき、食べ物に気を付けるとして、ポイントは主に下記の三つでしょうか。

 

①必要な栄養を十分に摂取する

②必要な栄養素であっても過剰にならないようにする

③農薬や食品添加物などの不要な化学物質の摂取をできるだけ少なくする

 

まず、①と②については、日々自分が食べている食事に含まれる各栄養素が過不足ないのかを把握することが必要です。

ただ、昔はそれは不可能に近かったでしょう。

データが不十分でしたし、書店などで販売されていた栄養成分表などを利用したとしても、計算に手間がかかりすぎて現実的ではありません。

それ故に、なんとなく「野菜や果物をたくさん摂っていれば健康的」などと曖昧に考えられていた節もあるように思います。

 

しかし、今は便利なツールのおかげで、自分の料理した食事の栄養成分を微量成分まで含めて計算することも、そう難しいことではありません。

お菓子メーカーのグリコが提供している「栄養成分ナビゲーター」などは、計算に非常に便利です。

すぐわかる栄養成分ナビゲーター

 今年から加工食品の栄養成分表示義務化も始まりました。

 

毎日すべての食事の栄養成分を把握することなど現実的ではありませんが、少なくとも三大栄養素たんぱく質、脂質、炭水化物)の過不足、所謂PFCバランスぐらいは、なんとなく気を付けておいた方がよろしいかと思います。

生活習慣病予防のために大切です。

可能であれば、過不足が起こりがちなビタミンやミネラルについても把握できれば、素晴らしいですね。

 

 

その一方で、こんぶ土居の製品づくりに関係するところが大きいのは、③の「農薬や食品添加物などの不要な化学物質の摂取をできるだけ少なくする」でしょう。

厚生労働省によって認可された食品添加物だとしても、体に害悪を為すリスクのあるものを、製品を買って下さるお客様の口に入れたくありません。

このような考えから、表示義務の有無に関わらず一切の食品添加物を使用せずに製品づくりを続けてきました。

今後も同じように続けます。

 

しかし、本物の自然な原料のみを使った製品であっても、食べ過ぎると②に沿う食事だとは言えないかと思います。

前回の投稿で書きましたヨウ素の過剰摂取のリスクも、そのひとつです。

昆布の佃煮などは塩分も少なくないので、良いものだからと言っても食べ過ぎは禁物です。

 

タイトルにしました「質より量」とは、7年前に齢七十を機に引退した、こんぶ土居三代目の言葉です。

なかなか面白い表現です。

食品にこの言葉が使われる場合、一般的には「品質に無頓着」であることを表現したものかと思いますが、三代目の意図したものは前述の①と②の重要性です。

 

こんぶ土居は、これまで③については十分な対応ができていると思います。

その一方で、今後の時代を考えると①と②に貢献できるものづくりにも積極的に取り組む必要を感じます。

煮干し、大豆、昆布でつくった健康スナック「ミネラルいりこん」と「ミネラルいりこんスパイシー」は、そんな考えを体現する製品でありたいと思います。

この両製品が本当に現代人の健康に寄与するものであるのか、あらためて成分を詳細に分析します。

情報が整理でき次第、このブログでご報告致します。

 

過去には、③の問題で大変な健康被害が起きた事例なども多々あります。

しかし現代社会に於いて優先順位をつけるとするならば、どちらかと言えば③よりも、むしろ①と②の方が大切。

まさに「質より量」である気がします。

 

 

ヨウ素と海藻食

昆布は、健康的な食品だとのイメージを持って下さっている方が多いようです。

そのイメージは間違ってはいないと思います。逸話にも事欠きません。

 

例えば、沖縄はかつては長寿県として知られましたが、戦後のアメリカ占領時代から食の西洋化がいち早く進んだ結果でしょうか、あっという間にその名声は過去のものとなりました。

特に男性は、今では都道府県別ランキングを下から数えた方がよほど早い状態です。

 実は、沖縄の伝統食に昆布は欠かせません。

 

江戸時代の北前船は、北海道の産物を本州へ運び、それが最終的に沖縄にまで運ばれていたわけです。

消費量も非常に多く、1980年代までは沖縄県が昆布の購入量日本一でした。

ちょうどその頃まで、沖縄は長寿県だったのです。

その後、状況が一変するのですが、沖縄県民の昆布購入量と平均寿命順位は足並みを揃えるように低下していきます。

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(データ:沖縄県統計資料WEBサイト、総務庁統計局「家計調査年報」、厚生労働省都道府県別生命表」より)

 

これが昆布の影響だと断言するつもりはありませんが、とても面白い傾向を見せていますね。

 

実際に、昆布の健康効果を挙げ始めればキリがありません。

〇食物繊維が豊富で腸のアンチエイジングになるとか

〇豊富に含まれるカリウムが血圧を下げるだとか

〇フコイダンが免疫を高めるだとか

〇フコキサンチンが脂肪の蓄積を抑えて血糖値も下げるだとか

〇アルギン酸が脂質の吸収を抑えるだとか

〇うまみ成分のグルタミン酸に減塩効果があるだとか

 

私は研究者でもありませんし、それがどれほどの効果を見せるのかは分かりませんが、やはり体に良い成分が豊富であるのは間違いないのでしょう。

 

その他の良い成分の中に「ヨウ素(ヨード)」があります。

ヨウ素に関しても、昔の逸話があります。

秦の始皇帝が「東の国に不老長寿の妙薬あり」と日本まで探しに行かせたのが昆布だったと言うのは、昆布業界内でよく聞かれる話です。

これが本当なのかどうかは分かりませんが、次のようなストーリーかも知れません。

 

海に囲まれた日本に住む私たちには想像し難いですが、内陸国では海産物を食べる機会など、古い時代にはまずありません。

ご存じの通り中国は大国ですから、内陸地方に行けばそのような状況であったはずです。

そんな食生活で、必ずと言っていいほど不足する栄養素が、海産物に多く含まれる「ヨウ素」です。

ヨウ素が不足すると、ホルモン分泌を司る甲状腺の機能が正常に働きませんので、内陸国では甲状腺疾患を抱える人が非常に多かったのです。

昆布に含有するヨウ素の量は、他の食品と明確に一線を画すほどですから、患者に昆布を食べさせると症状がたちどころに改善したはずです。

そう考えると、秦の始皇帝の話も、まんざら嘘ではないのかも知れません。

 

実際に今でも多くの国では、ヨウ素不足に悩まされています。

そのため、食卓塩のようなものにヨウ素を混ぜたり、中には水道水に入れる国もあると聞きます。

私が過去にアメリカへ仕事へ行った際にも、複数の食品のパッケージに、ヨウ素の良い供給源になるとの謳い文句を見つけました。

このように、人間の健康に絶対に欠かすことのできない栄養素であるヨウ素ですが、一方で過剰摂取にも注意が必要かも知れません。

 

日本で暮らす人が伝統的な食生活をしていれば、ヨウ素不足になることは、ほぼありません。

しかし前述のように、昆布には他の食品とは比較にならないほどの量のヨウ素が含まれているので、たくさん食べると過剰摂取につながるリスクがあるのです。

その摂取量の目安となるものは、厚生労働省の資料「日本人の食事摂取基準」です。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4al.pdf

 

この資料の中に「2. 2 mg/日(3. 3 mg/日÷1. 5=2. 2 mg/日、2, 200 µg/日)を成人男女共通の耐容上限量とした」との一文があります。

つまり、厚生労働省は、これ以上の量のヨウ素を常時摂取することを勧めていないわけです。

 

ただ、日本では、ヨウ素の健康に及ぼす影響についての研究が非常に少ないようで、厚生労働省のデータも海外での研究に基づくものです。

ある成分が体にどのような影響をもたらすかは、人種民族によって大きく差が出ます。

古くから海産物に親しみ、ヨウ素を常時摂取してきた日本人は、海外の方々とは違う適応をしていると考えるのが普通かと思います。

 また、「脱出現象」と呼ばれる、過剰に摂取したものを体外に排出する機能もあるようです。

ただ数字で見れば、昆布が好きで毎日大量に召し上がる方であれば、前述の耐用量「2. 2 mg/日」は、簡単に突破してしまいます。

 

甲状腺に疾患がないなら過剰に反応する必要はないかも知れませんが、健康に良いとされる昆布であっても、食べすぎにはリスクがある可能性も頭に入れておくべきかと思います。

 特に、子供さんへの配慮は必要でしょう。

 

こんぶ土居オンラインストアで、子供に人気の「こんぶ飴」のページには、下記のご説明文を入れています。

 

『日本では海藻類を多く摂取する食習慣がありますので、ヨウ素が欠乏することはほとんどありません。ヨウ素の過剰摂取は甲状腺機能に影響を与える場合がありますので、特に子供さんは、1日あたり2、3個を目安に召し上がり下さい。』

 

製品ラベルは、このようになっています。

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過剰に反応する必要はないかも知れませんが、「何事も適量」を心掛けたいものですね。

 

 

美食に代わる言葉を探す

 

今日は、私達を取り巻く食を「ハレ」と「ケ」に分けて考えてみたいと思います。

儀礼や祭、年中行事などの「非日常」をハレ、普段の生活である「日常」をケと呼びます。

両方大切ですね。

それでも「ケ」がおろそかになって「ハレ」ばっかりが派手、というのはやはり良くないと思います。

 

「ハレ」の日には、当然ごちそうを食べます。

逆に言えば「ケ」の日常は、特に豪華なものを食べたりせず、普通のものを食べるのだと思います。

 

しかし、中には年中ハレのような食生活をしている人もおられるでしょう。

所謂「美食家」でしょうか。

改めて辞書で「美食」という言葉の意味を参照してみましたところ、こんな説明が出てきました。

 

『ぜいたくでうまいものばかり食べること。また、その食事。』

 

こんな説明をつけられると、なんだか少し軽薄な行為のようにも感じます。

 

 

見方を少し変え、時代変化から「美食」を考えたいと思います。

例えば「グルメブーム」という言葉がありますが、それはいつ頃に始まったのでしょうか。

こんぶ土居も掲載していただいた、漫画「美味しんぼ」。

連載開始は1983年です。

美味しんぼ」は決して軽薄なグルメブームを煽り立てたものではなく、むしろその逆だったとすら言えますが、当時は所謂グルメ漫画が乱立していました。

一般にバブル経済は、その3年後の1986年からという認識がされるようなので、経済的にもお金が余っていたような時代で、加速がついたのでしょう。

そして更にその3年後の1989年、元号が昭和から平成に代わります。

このように考えると、平成の時代に、グルメブームは広まっていったと考えて良いように思います。

その 日本に於ける大量消費型物質文明の末期だと考えられる平成が終わった今、新たな時代が動き始めているように思います。

 

 

 

これまでこんぶ土居では、おいしいものを提供するために、ものづくりを続けてきました。

「おいしいもの」をつくるには、たいてい高品質な素材が必要です。

それらは通常、高価です。

言ってみればこれは、こんぶ土居の「ハレ、美食的側面」だったと思います。

 

例えば、主たる原料として使用してきました「川汲浜の天然真昆布」。

古来より献上品に指定されてきた昆布の王様、まさに「美食」的なものです。

こんな素晴らしい昆布の天然物が、平成の時代には豊富に採れたのです。

そんな時代背景の中で、私共のような小さな昆布屋は、一般スーパーなどで買えるものでなく、特に高品質なものをご用意することが社会的な存在意義であると考えて営業してきました。

それは間違ってはいないとは思います

しかしその一方で、特に品質が高くない昆布はあったとしても、「まがいもの」の昆布はありません。

加工品でないなら、一般スーパーや量販店で売られているものであっても、本物の昆布です。

全てが海からの恵みです。

 

 

こんぶ土居のだし昆布製品、「天然真昆布一本撰」。

川汲浜の天然真昆布から、特に品質の良いものを選別してご用意しています。

この製品は、以前からブログに書いた通りの常態化した大不作を受け、本年値上げさせていただきました。

100ℊあたり2500円で量り売りしておりますので、大きな昆布になりますと、一枚で4000円ほどにもなります。

なんとも高価なものです。

それでも、その品質を評価して下さっている方が多いのでしょう、意外によく売れます。

 

「ごちそう」という言葉は「御馳走」と書きますが、食べてくれる人のことを想い、方々走り回って良い素材を集めて料理したことが語源だと聞きます。

そんな気持ちは非常に嬉しいですね。

しかし、自分のために品質の高いものをお金に糸目をつけず集めて食べることは、なんだか時代に合わなくなってきているようにも思います。

 

 

持続可能なタイプの食品であれば良いのですが、特に自然の恵みである天然の海産物の現状を見ていると、何か資源を採りつくしていっているような印象を受けます。

それは、果たして美しい行為でしょうか。 

普段は「普通」でいいじゃないか、そんな風にも思います。

 

こんぶ土居でご用意している昆布の品質を高く評価して下さって、購入していただけるのは非常に嬉しいことです。

その一方で、日々の食事のだしを取る用途に、私共の昆布をお使いにならなくても良いのかも知れません。

上手に調理すれば、スーパーの昆布でも、それなりに美味しい料理はできます。

何かハレのときに、特別品質が高いものが御入り用であれば、買って下さると良いかと思います。。

 

時代と共に、あるべき姿は当然変わります。

やはり企業として絶対に必要なのは、その時代の「社会的意義」です。

「社会に貢献している」と胸を張って言える仕事でないと、続かないように思いますし、続くべきでもないでしょう。

  

現在のこんぶ土居の仕事の中で、「美食」の部分は、前述の高価なだし昆布を販売したり、加工品であっても逸品原料を手間暇かけてつくったもの、またミシュラン三ツ星を始め一流の料理店様へ昆布をお納めしたり、そんな仕事が該当するでしょう。

その一方で、「ケ」の部分。 

「体を養う真正な食品が、安価でおいしい」、そんな製品をご用意できるなら素晴らしい仕事であることに疑いの余地はありません。

求めて下さる方がいる以上、「美食」に向けた高級で高品質な製品づくりも続けますが、令和の時代の意義としては美食より、特別な美味でない本物の日常的なおいしさの食品をつくる仕事に注力すべきであるように思っています。

 

 

 

ただ、一般的に広く市販される食品は、そのコストダウンの過程などで、真正な材料を使わず、まがいものに化けてしまうことが多々あります。

こんぶ土居では、これまで表明したものづくりの姿勢は、一切変えません。

今後も、一切の食品添加物やうまみ調味料を使用せず、本物の製品をつくります。

しかしその方法によって作り出したいものは、必ずしもハレの美食ばかりではないということです。

 

250円で販売している「しっとりふりかけ」を近所の子供さんが大喜びで買ってくれる。

そんなシーンが、こんぶ土居の最も美しい部分でしょう。

『体を養う正しい日常の食品が、安価でおいしい』

そんな難しいテーマを成し遂げられるよう、製品づくりに励みたいと思います。

 

パンと日用品の店「わざわざ」、訪問時の感想

 

前回投稿しましたヴィナイオータさん訪問。

大阪を出発して、一連の行程でもう一軒訪問した先がありました。

それが、長野県にある「わざわざ」さんです。

 

 

パンと日用品の店 わざわざ

 

社名「わざわざ」の通り、通りすがりで寄るような場所でなく山道を車で登って辿り着く、まさにわざわざ訪れるお店です。

製造のお仕事としてパンを焼いておられるのと、社長の平田はる香さんが選ぶ日用品や食品も販売する会社です。

 

わざわざさん、とても有名ですので、ご存じの方も多いでしょう。

創業からまだ10年ほどですが、あっという間に多くの方の支持を集め、知る人ぞ知る存在となりました。

 

わざわざさんの魅力を構成するものは、本当に多面的です。

 

〇つくること

〇審美眼

SNSを駆使した現代的な販売戦略

〇人材育成

〇社長、その人

 

ざっと、こんなところが主でしょうか。

それぞれについて書きますと、

 

〇つくること

もともとパンを焼いて販売するところからスタートされた会社なので、原点はものづくりです。

今でも現役で稼働している創業当時に作られたパン焼きの釜を見せていただきましたが、本当に小さなスペースでした。

その場所で、平田さんが生地をこね、発酵させ、焼いておられた姿が、浮かび上がってくるような不思議な場所です。

そこはパンを焼く厨房でもあり、同時に店舗であるわけですが、増築を繰り返して変化していったその場所は、多くの部分が平田さんのセルフビルドだと伺いました。

私も小さな家を一軒セルフビルドでリノベーションした経験がありますが、本当に大変な作業です。

大工さんに施工してもらったのとは違う、念がつまったような空間になっているように感じます。

 

〇審美眼

作ることと共に、良いものを見つけてきて販売できることがわざわざさんの強み。

独自の基準でセレクトされた商品群が人を惹きつけているのは間違いありません。

平田さんのおめがねに適う美しさを備えたもの、同時に実用性も高いものを取り扱っておられます。

最近では、新店舗「問(とう)」で、本のセレクトまでされているのは驚きました。

 

SNSを駆使した現代的な販売戦略

写真が趣味の平田さんの本領発揮インスタグラムを始め、SNSのフォロワー数は、すごいことになっています。

共に学ばせて頂いている「良い食品づくりの会」にて、以前発表していただいたことがあったのですが、わざわざがダテにわざわざになっていないことがよく分かりました。

緻密な戦略と、それを具現化する日々の取り組み、本当に驚きます。

「わざわざオンラインストア」は「カラーミー」というサービスを利用してつくられていますが、今年から運営している「こんぶ土居オンラインストア」もカラーミーです。

「あやかって」というところが無いでもないです。

2018年の「カラーミーショップ大賞」では、なんと大賞を獲得されました。

当時45000店のカラーミーのネットショップの中での頂点です。

倣いたいものですが、とてもマネできません。

 

〇人材育成

「仕事」というものに明確なビジョンを持つわざわざさん。

それに共感してくれるスタッフを集め、共に仕事をしていくことを大切にしています。

2017年にわざわざさんが初めて出版した本のタイトルは「わざわざの働きかた」です。

文章や写真、デザインや編集まで自社制作の、完全自費出版本ですが、かなりの部数が売れているようです。

わざわざで働くことを希望する人は、まずこれを読んで感想文を書くことが第一歩です。

こんぶ土居と取引していただくようになって、私が最初に触れたのがこの本で、内容に驚いたのも記憶に新しいところです。

  

〇社長、平田さん

こんな敏腕女社長、さぞかし男勝りのイケイケ経営者かと思いきや、平田さんはなんとも柔らかい雰囲気の女性らしい素敵な方です。 

訪問した日は見事な秋晴れ、新店舗『問(とう)』の前の芝生の広場で、お茶を入れてくれました。

忙しい人ですのに、有難いことです。

実際、その日は結構長い時間一緒にいたのですが、仕事の話は結局ほぼ何もしなかったのです。

嬉しそうに茶器の話などをしている平田さんを、まぁなんとも面白い人だなぁ、と眺めていました。

 恐らくわざわざさんの顧客層は、相当な割合で平田はる香ファンが占めているような気がします。

 

 

だいたいこんなところです。

なんだか褒めちぎった変なブログ投稿になってしまいましたが、こんぶ土居としても学ぶべきところがたくさん見つかった訪問でした。

簡単にまねできないことばかりですが、少なくとも核である製品づくりだけは、隙の無いものを続けていきたいと思います。

 

もしご興味あれば、『わざわざ』にわざわざ訪れてみてはいかがでしょう。

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(芝生の上でお茶をいれてくれた平田さん) 

 

 

燃えるワインインポーター『ヴィナイオータ』

今日は、ワインのお話です。

 

ワインの世界に「ナチュラルワイン」と呼ばれるタイプのものがあります。

ビオワイン」「自然派ワイン」「ヴァンナチュール」など様々に呼ばれますが、どれも似た意味合いのようです。

 

特徴としては

①農薬を使用しない

②培養酵母を添加しない

酸化防止剤を添加しない

といったところが主でしょうか。

 

逆に言えば、一般的なワインは上記①~③でないということです。

 

①については、やはり農薬は使用しないでぶどう栽培ができるのであれば、それがベストだと思います。

農薬の使用は、害虫や雑草の駆除に役立つと同時に、ぶどう自体にもダメージを与えることがあります。

また、②の培養酵母の添加の有無にも関係してきます。(後述)

 

 ②は、酵母がぶどう果汁をアルコール発酵させるので、培養された酵母を添加する場合が多いようです。

しかし、古い時代には培養酵母が販売されていたわけではないので、ワインは本来、酵母を添加せずとも醸造することが可能です。

発酵に必要な酵母は、ぶどうにもともと付着しているのです。

またワイナリーに棲みつく菌も関係しているかも知れません。

これに①の農薬の有無も大きく関係してくるのは、農薬によって良い酵母がなくなる場合があるからです。

そうなれば、良い発酵ができませんので、人為的に酵母を足さざるを得ません。

菌にも風土が関係しています。

その土地ならではの自然の酵母が働く、その土地ならではのワインができるのなら、魅力的ですね。

 

③はワインの酸化を防止する薬品のことです。

酸化を防ぐので良い状態で保つことはできるのですが、やはり亜硫酸という薬品ですので、使用しない選択にも価値はあると思います。

農薬の使用や、機械での収穫、腐敗したぶどうや未熟な果実の選別除去が不十分であると、ワインの酸化が進みやすくなるようです。

このため、本当に良い醸造方法を採れば、酸化防止剤は使用しない、また使用するとしても少なくて済む傾向にあるようです。

添加せずとも醸造過程で自然発生する亜硫酸もあります。

そうであっても、添加によってその濃度が高められることは、好ましいことでは無いように思います。

 

ざっとこんなところでしょうか。

①~③の要素のうち、③の酸化防止剤については、ワインのボトルに使用の有無が表記されている場合もあります。

ただ①の農薬の情報などは通常分かりませんし、②の培養酵母についてもボトルのどこを見ても情報は出てきません。

それどころか、「補糖」「補酸」という目的で、醸造中に砂糖や酸味料などを添加するワインも多いものですが、それらも表示されることはありません。

つまり、ワインには私たちの知らない要素が含まれていることがあるのです。

 

①~③、どれも言うのは簡単ですが、ナチュラルワインを良い状態で作るのは、やはり技術も求められますし大変なことであるようです。

安定した品質で醸すことが難しく、醸造家は苦労します。

 

タイトルにしました「ヴィナイオータ」とは、茨城県つくば市にあるイタリアのナチュラルワインのインポーターです。

先日、訪問してきました。

ヴィナイオータの太田社長は、もう数十年に亘りイタリアのナチュラルワインを取り扱っておられます。

 

ワインは、ある種、権威の世界です。

醸造家から評論家、ソムリエ、末端のユーザーまで含め、ひとつの体系を構成しています。

ワインの味わいについても、その権威の世界が良いとするものを基準に動いてきたようです。

そこから逸脱するものは、なかなか認められません。

 

今でこそ、ナチュラルワインの世界は認知が拡大し、それを評価する人も増えてきていますが、黎明期に於いてはヴィナイオータさんのお取組みは、理解されないことも多く大変な苦労をなさったのではないかと推察します。

ご本人は、そんなことはおっしゃいませんが、異端児扱いされ様々な抵抗も受けたことでしょう(ご本人は、異端どころかご自身の取り組みこそが本道だと考えておられます。土居同意)。

 

そのような向かい風の中を、自らの信念によってひたすら前進し続けて現在の形にまで持ってこられたのだと思うので、その歴史を考えると感服するばかりです。

 

 

ヴィナイオータさんでは今年から「だだ商店」というワイン以外の物販スペースも設けられました。

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そちらで、私共の製品の販売を希望して下さって、現在お取引いただいています。

訪問時にも、こんぶ土居製品をたくさん販売して下さっていました。

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ヴィナイオータさんに私共の製品を評価していただいていることを非常に嬉しく思いますし、そのご期待に沿うものづくりを今後も続けていかなければならないと強く思います。

 

訪問時に太田社長のお話を伺っていると、そこに明確な哲学があり、理由があります。

私共も昆布屋として同じスタンスが必要です。

製品づくり以外の部分についても、「なぜそうしないといけないのか」という理由を明確にイメージして取り組む必要性を改めて感じます。

 

ワインだけでなく、お酒以外のイタリア食品も驚くべきクオリティのものを輸入販売されています。

私はつくばのお店へ車で参りましたが、最寄り駅は東京からも電車で45分ほど、そこからタクシーに乗っても1000円ぐらいの距離だそうです。

訪れてみてはいかがでしょう。

下記ヴィナイオータのサイトも、是非ご覧ください。

 

vinaiota.com

 

(※ワインの基礎知識については、こんぶ土居からすぐ近くのワインバー「Vin Voyage」の森田幸浩さんに教えて頂いています。森田さん、ありがとうございました。)

 

「ミネラルいりこんスパイシー」満を持して登場

本日の投稿をお読みいただく前に、過去の投稿で先に読んでいただきたいものが二つあります。

2020年6月23日投稿の「ミネラルいりこんの役割」と10月2日投稿「シタール奏者、石濱匡雄」です。

〇ミネラルいりこんの役割

https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/06/23/091125

シタール奏者、石濱匡雄

https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/10/02/183229

 

 

このような経緯によって、「ミネラルいりこんスパイシー」の開発は始まりました。

何回も何回も試作を重ね、ようやく今週から販売を開始しています。

カリカリおいしい、スパイスの香り豊かな健康スナックです。

昆布、いりこ、大豆、それぞれ別々の味つけにして混ぜ合わせています。

 

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健康のためにも、煮干しや昆布のダシガラを美味しく食べてもらうことは、こんぶ土居の願いのひとつです。

その解決策のひとつとして、前述の石濱さんがレシピ監修をしてくれたことは非常に有難いことでした。

スパイスを知り尽くしたアドバイザーによって、ありそうでない風味に仕上がっていると思います。

ラベルデザインも、石濱さんです。

 

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子供さんのおやつとして、大人の方にはお酒のおつまみとしてもご好評を頂いています。 

「ミネラルいりこん」と「ミネラルいりこんスパイシー」が、ミネラル不足な日本人の健康増進に役立つなら、非常に嬉しいです。

 

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【ミネラルいりこんスパイシー】

原材料名: 鰯煮干し(国内製造)、煎り大豆(大阪府製造)、てん菜糖(北海道製造)、真昆布(北海道産)、香辛料(マンゴー、コリアンダー、クミン、ガラムマサラ、チリ)(インド産)、圧搾ごま油(大阪府製造)、食塩
内容量:50g

価格:税込290円

(2020年10月現在)

 

最後に、石濱さんが描いてくれたデザインの、素晴らしい原画を載せておきます。

 

カタクチイワシ

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コンブ

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大豆

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枠の模様

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地模様

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