こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

併用もアリ、鰹節と煮干しのだし

「合わせだし」という言葉があります。

単一の素材ではなく、傾向の違う素材を併用して取っただしのことですが、それが良い効果を生むことに、日本人は古くから気づいていました。

 

しかし、これは世界的に見れば、特殊なことかも知れません。

私は若い頃に、しばらくイタリアで暮らしたことがありますが、彼の地では、「肉のだし」「魚介のだし」「野菜のだし」といった分け方をしていました。

それを混ぜ合わせて使うということは、あまりなかったように思います。

中華料理では、チキンスープなどが一般的でしょうか。

 

日本での合わせだしの代表例は、料理店さんでは「昆布と鰹節」、家庭料理では「昆布と煮干し」、精進料理となれば「昆布と干椎茸」ですね。

 

合わせだしの効果を表現する際に、常に用いられるのが、うまみ成分の相乗効果の話です。

私は味を成分名で表現することが好きではありませんが、昆布に含まれるグルタミン酸と魚類に多いイノシン酸が合わされば、相乗効果が発揮されて単一の場合より遥かに効果的に満足感のある味が出ることは、多くの人の知るところです。

 

合わせ出しの組み合わせは様々ありますが、その軸になるのは常に昆布です。

ですので、前述のような組み合わせは普通に存在しますが、「鰹節と煮干し」「鰹節と干椎茸」「煮干しと干椎茸」といった合わせだしは、あまり聞きません。

 

特に鰹節と煮干しは、両方とも魚の素材ですので、合わせることに関してうまみの相乗効果はないはずです。

ですので、料理店さんの厨房でも、この併用の事例は非常に少ないです。

特に高級な日本料理店さんでは、煮干しだしを家庭料理の範疇と見なす場合が多く、鰹節を主に考えます。

 

しかし実際は、鰹節と煮干しの併用は、なかなか良い効果を生むのです。

 

鰹節でも煮干しでも、非常にに品質の良い素材を手に入れて昆布と共にだしを取れば、それだけでおいしいだしが用意できます。

しかし、そんなに特別な素材がありふれているわけでもありませんし、私たちの日常にいつも必要かと言われると、疑問もあります。

自然の産物なわけですから、少々難が出たりすることがあるのは当然です。

 

これは昆布とて同じですね。

特別に高級な昆布が美味しいのは当たり前。

しかし当然値段は高いですし、一部の経済的に余裕のある方を除き、そんな素材を常時使うことはできないでしょう。

 

ですから、日常の家庭料理には「特に高級でない『普通の品質の本物』の素材」でうまくだしが取ることが求められているように思うのです。

「本物」という言葉を使いましたが、対をなす「偽物」に該当するのは、酵母エキスなどの各種エキス類や化学調味料、その他のうまみ調味料の類ですね。

 

一級品でない鰹節や煮干しを使った場合、味に難が出たとして、両者の傾向はかなり違っています。

 

 

まず、鰹節のだしは、やはり味が少し薄っぺらいのです。

簡単に言えばコクが足りません。

それを補うのが昆布の役割であるのですが、削り節をたくさん使わないと少しものたりないだしになりがちです。

もう一つ、よくある問題が「酸味」です。

だしがすっぱくなるのです。

鰹節のだしに酸味が出る理由は、よく分かりません。

一説に、特に巻き網漁の原料魚が死ぬまでに暴れまわることによって、疲労物質の乳酸が溜まり、それが酸味として出るという話があります。

もちろんこの理由も無関係ではないかと思いますが、これはカツオに固有の話ではありませんので、他の理由もあるのではないかと考えています。

 

煮干しは、原料魚の鮮度にも関係しますが、だしが少し魚くさくなる場合があります。

また、内臓由来だと思いますが、苦みも出ます。

頭と内臓を取り除けばかなり解消されるのですが、それもまたひと手間ですね。

 

 

まとめると、両者の欠点は次のようになります。

【鰹節のだし】味に厚みがない、すっぱい

【煮干しのだし】苦い、魚くさい

(※超一級品の素材を使った場合、これらの欠点は非常に軽微です)

 

 

つまり、同じ魚の素材であるのにも関わらず、鰹節の味と煮干しの味の傾向が異なるのです。

 

この問題を解決してくれるのが、両方使うことです。

使用量を半分にして、両方使えば良いのです。

これによって、「味に厚みがない」「すっぱい」「苦い」「魚くさい」の四つの問題点が共存してしまうことにはなりますが、度合いが半分になっているので気にならないのです。

 

一般的に合わせだしは、うまみの相乗効果を狙ったものですが、鰹節と煮干しの組み合わせは意味が違い、好ましくない要素の低減です。

特に煮干しの魚くささなどは、鰹節の良い香りでマスキングされているようにも感じます。

逆に、かつおだしの「味に厚みがない」ところは、力強い煮干しの味が補ってくれます。

 

一度「昆布、鰹節、煮干し」の、三種の合わせ出しを取ってみて下さい。

私がご説明した内容に納得していただけるのではないかと思います。

量は三等分ずつで良いと思います。

 

 また日を改めて、だしの取り方についての基本の考え方をご説明します。

ご一読いただき、おいしいだしを味わって下さい。

 

 

良い昆布の色

前回のブログ投稿で、海苔のことを書きました。

「2021年1月8日投稿『海苔の酸処理について』」。

 

その中で、海苔の酸処理について、こんな一文を書いています。

『また、見かけは黒々と美しい海苔ができますが、本来の味と香りは損なわれがちです。』

やはり海苔も、黒いものがなんとなく高級に見えがちなようです。

実は、これは昆布でも似たようなことが言えます。

 

写真を見て頂きたいと思います。

 この2枚の天然真昆布、どちらが品質の良い昆布でしょう。

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右のものは黒く、左の昆布は茶色いですね。

 なんとなく右の黒いほうが高級そうに見えませんでしょうか。

しかし、昆布の状態として良いのは左の昆布です。

 

昆布の品種によっても微妙な違いがあるので、一概には言えませんが、良い状態の昆布は通常「飴色」をしています。

平たく言えば茶色っぽいのです。

しかし、例えばスーパーの棚に黒い昆布と飴色の昆布が並んでいたら、確実に黒い昆布のほうがよく売れます。

 

こんな背景があるので、昆布を黒く仕上げたいという販売業者の思惑が出ることがあります。

色を黒く仕上げるために、人為的にアプローチできる要素としては、乾燥の方法があります。

昔は、昆布も天日乾燥しかありませんでしたから、温度が上がってしまうことなどありませんでした。

しかし、今は乾燥機も使われる時代ですので、その温度を変えることができるわけです。

改めて天日乾燥と機械乾燥については投稿しますが、一概に機械が悪いと言うことでもありません。

しかし、本来の温度帯から離れた高温で乾燥されたり、そんなことがあれば品質に問題が起きるのは当然のことです。

 

この高温乾燥をすると、昆布は黒っぽく仕上がる傾向にあります。

そうなれば、漁師さんも高温で昆布が乾きやすいので仕事が早く終わる、販売する側は黒っぽい昆布で売れ行きが良い。

言ってみれば好ましい状況であるわけですが、美味しさの面では問題です。

皮肉なことですね。

 

消費者の方が見た目で昆布を選ばれるのは自然なことだと思いますし、無理もありませんが、少し認識を変えていただければ嬉しいです。

こんぶ土居で販売しているだし昆布は、黒くありません。

「昆布は飴色」、「黒すぎる昆布は本来でない」とご理解いただければと思います。

 

(余談)

下の画像のような、まだら模様になった昆布を、業界では「虎昆布」と呼びます。 f:id:konbudoi4th:20210109233940j:image

 虎の模様のようですね。

消費者の方からすれば、何らかの異常が起きているように見えることでしょう。

しかしこの虎昆布、何の問題もありません。

むしろ、良い昆布に限ってこんな色合いに乾くようにさえ感じます。

見た目で物を選ぶことは簡単ではないですね。

 

海苔の酸処理について

 私共は昆布屋ですが、昆布以外での人気商品もあります。

そのひとつが「無酸処理焼海苔」です。

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伊勢湾で酸処理をせずに育てられた海苔の一番摘みです。

非常に香り高く豊かなうまみを感じる良い海苔だと自負しています。

 

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海苔の養殖現場を見たことがある方は少ないのではないでしょうか。

YouTube上に、分かりやすい動画がありましたのでご紹介します。

https://youtu.be/zbIg4TS_Tvs

 

動画で分かるように、海苔の養殖には2つの方法があります。

「支柱式」と「浮き流し式」です。

その両方式のメリットデメリットと、酸処理の問題点について、製品パッケージ背面にてご説明しております。

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下記に転載致します。

ご一読いただけますと幸いです。

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【無酸処理焼のり】
本品は、一般的な海苔養殖に使われがちな酸処理剤を一切使用せずに育った初摘み海苔だけを使用した焼のりです。豊かな香りと強いうまみをお楽しみください。

【海苔の酸処理と海の環境】
 海苔の養殖は、遠浅で干満差の大きい海で行われてきました。海に支柱を立て、網を張り海苔を育てます。「支柱式」と呼ばれる方法で、潮が引くと海苔が海中から顔を出し日光や冷たい風に当たり乾燥します。これは、干出(かんしゅつ)と呼ばれます。干出により海苔網に付着した雑海藻が除かれ、乾燥に強い海苔だけが残ることで病気になりにくく、良い品質の海苔を育てることができます。海藻の環境適応の違いを利用した、先人の素晴らしい知恵です。
 しかし支柱式に必要な遠浅で健全な海は少なくなってしまいました。近代化に伴い、干潟や浅場が埋め立てられたり、過度の富栄養化が進んだためです。そこで、昭和40年代に深所でも海苔の育成ができる「浮き流し式」が考案されました。「浮き流し式」により沖合まで養殖域が広がりましたが、本来の生育環境でないため「干出」ができず、雑藻被害や病害が多くなります。その対策として「酸処理」が行われるようになりました。養殖中の海苔網を海から引き上げ、酸性の液にしばらく漬けてから海中に戻す方法が一般的で、現在ではほとんどの海苔養殖で取り入れられています。「酸処理」は行政の指導のもとで行われてはいますが、使用する処理剤の成分や使い方によっては食品としての安全性が懸念され、漁場環境の悪化につながります。また、見かけは黒々と美しい海苔ができますが、本来の味と香りは損なわれがちです。一方、支柱式では、干出中は成長しないため生産効率が落ちますが、海の環境に悪影響を及ぼすことはありませんし、何より海苔本来の美味しさを保つことができます。
 「無酸処理焼のり」をお届けできるのは、美しい海が守られてきたからこそです。これからも「森・川・海」の連環と、健全で持続可能な漁場利用が、将来の美しい環境と豊かな食生活につながることを願っています。(パッケージ表面の版画は、生態系を表現しています)

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 (以上、転載おわり)

 

 

この製品は、パッケージにも工夫をしました。

まず、おもてのデザインは、山と川と海の自然の連環を表現したものです。
(版画家の森ひろこさんに制作していただきました。)
裏面には、前述のように酸処理について書いています。


海苔に限らず、食品の品質を劣化させる要因として「光」と「酸素」は要注意です。
どちらも焼海苔の品質を低下させます。
こんぶ土居「無酸処理焼海苔」は、それを避けるため、パッケージ素材も良いものを選びました。

一般市販品では、中身が見えるように透明の袋に入れられている製品がほとんどですが、アルミ素材の袋に入れることで光線による劣化を避けています。

実は、アルミ袋には二種類あります。
ひとつは「アルミ箔」の層を含む袋、もうひとつは「アルミ蒸着」の袋です。

「アルミ箔の層」はイメージしやすいですが、薄いアルミホイルのようなものが袋素材に挟み込まれているものです。

「アルミ蒸着」は真空中でアルミニウムを加熱蒸発させ、フィルムの表面に凝結させて薄膜を得る方法です。
見た目は似ていても、食品を良い品質で保つ機能には大きな差があります。

違いを確認するために、袋の向こうから携帯電話のLEDライトを当ててみてください。
アルミ蒸着の袋なら、光が透過してきますが、アルミ箔では一切透過しません。

こんぶ土居「無酸処理焼海苔」の袋は、アルミ箔のものですので、光による劣化から海苔を守ります。
それと同時に、酸素の透過性も非常に低いので、長期に亘って海苔を良い状態で保ちます。

とても良い袋なので、海苔を使い切った後も、再利用して下さると嬉しいです。
市販のフリーザーバッグなどよりも、断然良い状態で食品を保管できます。
香りの強い食品などには、特におすすめです。
香味野菜やハーブ、コーヒー豆なんかには最適です。

「無酸処理焼海苔」のお求めは、こんぶ土居オンラインストアでどうぞ。

konbudoi.shop-pro.jp

 

 

年始に、2021

明けましておめでとうございます。

本年も、良い食品づくりに努めて参ります。

宜しくお願い申し上げます。

 

こんぶ土居では、毎年メッセージを込めた年賀状を書いています。 このブログにも載せておきたいと思います。

(住所をお伺いしていない方には届いていないかと思います。申し訳ありません。)

 

 

(テキストは下部に別記)

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昨年を振り返ってみますと、大変な世相の中で新しい試みに意欲的に取り組んだ一年であったように思います。新製品もたくさん生まれました。春には緊急事態宣言下の「巣ごもり」を背景に「たぶん日本一安心な のり弁当」を開発していたのを思い出します。弁当を販売するには飲食店営業許可が必要で、その取得、レシピ開発などを始めました。事情により販売には至りませんでしたが、こんぶ土居の考えを盛り込んだ製品を目指したものです。販売を開始した新製品としては「昆布豆」「えびしお昆布」、内容一新の「にしん昆布巻」、そして、北インドの古典民族楽器シタール演奏家の石濱匡雄さんのご協力で製品化した栄養スナック「ミネラルいりこんスパイシー」は大好評で受け入れられ、作っても作っても売り切れ、嬉しい悲鳴を上げることとなりました。

 お客様への情報提供の目的で始めた「公式インスタグラム」「こんぶ土居店主のブログ」、10月末から稼働した「こんぶ土居オンラインストア」等、新しい取り組みから私共が学ぶことも多い一年でした。

 コロナ禍で大変なご苦労された方も多いとお察し致しますが、私共への負の影響も小さくありません。同時に、常態化した原料昆布の不漁による調達困難と原料価格の高騰、よくこれだけ逆風が吹くものだと呆れますが、支持して下さる方々に支えられ営業できているだけでも有難いものです。

 天然真昆布の危機については、昨年は何度も北海道を訪問して多くの方の意見をお伺いし、問題解決の方向性を模索しましたが、やはり大きなうねりを作り出すことの必要性を感じます。2025年の大阪・関西万博のテーマは「SDGs」です。この年をひとつの着地点として見定め、大阪と北海道の力を合わせ、行政も学術界も漁業者も昆布業界も大きく巻き込んで、天然真昆布の資源回復を目指します。

 

 

 

やはり天然の魚を大切にしたい

 

 先日、調理法について、ひとつの検証する必要があり、鶏肉を焼いてみました。

近所のスーパーで普通の鶏肉を買ってきて、軽く塩コショウだけして焼いたのですが、鶏肉がおいしくありませんでした。

どうまずいのか表現しづらいですが、とにかく良くなかったのです。

 

所謂、ブロイラーでしょうか。

調味料で強く味をつけたのならあまり問題ないのかも知れませんが、非常にシンプルな調理にしたものですから、鶏の個性がそのまま出て気になりました。

こういった経験をしてしまうと、やはり安い鶏肉に対して気持ち悪い感覚が芽生えてしまうものです。

 どんな環境でどんなエサで育った鶏であるのか、私たちには知ることができません。

 

 

こんな構造は、豚肉でも牛肉でも同じです。

牛肉については機会を改めて、牧草肥育牛(グラスフェッドビーフ)について書きたいと思います。

 不自然な肉の味は、不自然な飼育に起因するのは言うまでもありません。

 家畜は人間が育てる以上、その飼育方法で品質が変わるのは当然で、中でも飼料が及ぼす影響は非常に大きいでしょう。

 

 

話を魚に移します。

世界人口が増え続ける中で、水産資源は枯渇傾向にあります。

1980年頃までは、天然魚の漁獲量は年々増えていたのですが、そこから横ばいです。

時期を同じくして、代わりに養殖魚が徐々に増え、現在では養殖魚の漁獲量の方が天然を上回っています。

こうなれば、もはや魚も家畜同然です。

 

養殖が悪いというわけでは決してありません。

むしろ今の時代には、必要性が増しているとさえ言えるでしょう。

しかし、人間が管理して人間がエサをやって育てる以上、品質は様々です。

つまり、良い養殖魚と良くない養殖魚が、あるのだと思います。

 

私共の製品の「十倍出し」。

だしを取った後の昆布や鰹節や煮干しは、「しっとりふりかけ」や「ミネラルいりこん」として再加工していますが、それでも全量使い切れず、実は業者さんに引き取っていただいているものもあるのです。

その引き取り先での用途は、飼料です。

十倍出しのダシガラは飼料として何も問題ないとは思うのですが、その一方で暑い季節にはダシガラが悪くなるのも早く、飼料として加工されるまでに雑菌が繁殖したりしないか、勝手に心配になったりもしています。

 

当たり前ですが、養殖魚のエサの素性を私たちが知ることはできませんし、品質が必ずしも良いものとは限りません。

質の低い飼料で育てると魚の健康に問題が出ますから、その対策として薬品が多用されることにもつながるかも知れません。

  

 

難しいのは、前述のブロイラーとて質の劣る養殖魚とて、表面的なとらえ方をすれば高く評価されてしまう可能性があることです。農産物も同じです。

 

例えば、

 

〇味が薄く変な風味があり身がブヨブヨのブロイラーがあったとしても、それは言い換えれば「やわらかくてジューシー」であり、

〇不自然なにおいのするメタボ的養殖魚があったとしても、「天然の魚より、あぶらが乗っている」と評されたり

〇本来備えている味や香りが弱く、力のない野菜だとしても「糖度が高い」ことが評価されたり

 

このような事例は多々あるものです。

ここが難しいところで、「やわらかさ」「水分量」「あぶら乗り」「糖度」といった幼稚な感覚しか持ち合わせていない場合は、問題に気づくことができません。

私たちは、ずっとこんな食品に囲まれて生活しているわけですから、それが当たり前になって問題に気づけなかったとしても、無理のない話です。

 

 

 

その一方、やはり天然の魚は素晴らしいと思います。

肉で言えばジビエですね。

私たちが日常にジビエを食べる機会など多くはないわけですが、魚であれば、自然の中で自然なエサで育った魚を食べることができるのです。

肉を食べても本来の食性と違ったおかしな肉、野菜を食べても農薬まみれ、その中で天然の魚は最後の砦だと言えるかもしれません。

ぜひ天然魚をいつまでも食べられる世の中であってほしいと思います。

 

 

昆布屋としての私共の仕事で魚について配慮すべきなのは、製造原料として使う鰹節でしょうか。

資源問題についての注目点は、漁獲方法です。

 

「混獲」という言葉がありますが、漁業の際に、対象の種とは別の種を意図せずに漁獲してしまう、もしくは同種間においても、意図していたよりも小さい個体や、幼体を捕獲してしまう状況のことを指しています。

鰹節の原料魚の漁獲方法は「一本釣り」と「巻き網」の二種類ですが、混獲が起きやすいのは巻き網です。

こうして、非常に小さな子供のカツオが鰹節に加工されてしまうこともあるようです。

鰹節があまりに小さく細くなるので、「ペンシル鰹」などと呼ばれることもあるようで、漁業資源を守る上で大きな問題です。

こんな鰹節が、大量に販売されるめんつゆやダシパック、顆粒調味料の原料として使われているかも知れません。

 

私共の製品「本格十倍出し」に使用する鰹節の原料魚は、100%日本近海での一本釣りです。

「標準十倍出し」も、よほどの悪条件にならない限り一本釣りの原料魚です。

もともとは、おいしさを求めて一本釣りを選んだわけですが、今となってはそれ以上に、資源保護の観点から過去の選択が間違っていなかったことを実感します。

 

日本では、少し取り組みが遅れているようですが、水産物の持続可能性に配慮した水産物の認証制度(水産エコラベル)なども、各国で始まっているようです。

普通のスーパーなどで見かけることはまだ稀ですが、もし見かけたら積極的に購入するなど、天然魚の持続的な利用のために是非ご支持をいただきたいと思います。

 

 

(ご紹介)

冒頭で鶏肉について書きましたが、良い生産者の方も当然たくさんおられます。

こんぶ土居のお客様でも、養鶏農家がおられ、素晴らしい飼育をされています。

実際に現場を見せていただきましたが、100%国産の安全な飼料で、飼育環境も良く元気に鶏が走り回っていたのが印象的でした。

たまごも鶏肉も販売されています。

ご興味あれば取り寄せてみてください。

たまごについては、黄身の色にご注目。

鶏肉については、スーパーで安く手に入る肉と、同じ調理をして味比べをしてみて下さい。

驚かれると思います。

特に親鳥がおすすめです(肉質は非常に硬いですが)。

 

【いまい農場】

imaifarm.jp

 

今井さんの鶏も、言ってみれば良い飼料と良い環境で育てられた「養殖鶏」です。

他の家畜でも魚でも、良い養殖ものがあるのなら積極的に選びたいです。

 もし良い生産者を御存知なら、コメント欄などで教えて頂けると嬉しいです。

 

 

 

名に恥じぬ「PFCミネラルいりこん」

 このブログでも度々触れている、私共の製品「ミネラルいりこん」と、今年から新たに販売を開始した「ミネラルいりこんスパイシー」。

現代人が不足しがちな栄養素を手軽に補給していただくための、大豆と煮干しと昆布を主原料とした健康スナックです。

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特にスパイシーの方は、レシピ監修をして下さった石濱匡雄さんの力もあって、大好評で受け入れられ、作っても作っても売り切れる異常事態となりました。f:id:konbudoi4th:20201218155735p:plain

美味しく召し上がっていただき、それが健康増進にもつながるのであれば、本当に嬉しいことです。

しかし、本当に健康に役立つミネラル分が豊富であるのかは、成分分析をしないと何とも言えません。

 

 

ある栄養成分を含むこと、または、それが豊富であることを食品パッケージに書く場合、それは「栄養強調表示」と呼ばれます。

栄養強調表示は、メーカーが恣意的に書いて良いものではなく、定められた量をクリアしている必要があるのです。

 

基準については、こちら↓の資料の6ページをご参照下さい。

消費者庁作成資料『栄養成分表示及び栄養強調表示とは』

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/business/pdf/food_labeling_cms206_20201001_01.pdf

 

この基準に従い、検査機関に依頼して得たいりこんスパイシーのミネラル含有量を、上記資料の基準値と比較してご紹介します。

 

 

 

(単位:ミリグラム)(100ℊあたり)

 

亜鉛

〇強調表示基準 (高い旨)2.64(含む旨)1.32

〇ミネラルいりこんスパイシーの含有量3.5

 

カルシウム

〇強調表示基準 (高い旨)204(含む旨)102

〇ミネラルいりこんスパイシーの含有量959

 

〇強調表示基準 (高い旨)2.04(含む旨)1.02

〇ミネラルいりこんスパイシーの含有量5.7

 

〇強調表示基準 (高い旨)0.27(含む旨)0.14

〇ミネラルいりこんスパイシーの含有量0.54

 

マグネシウム

〇強調表示基準 (高い旨)96(含む旨)48

〇ミネラルいりこんスパイシーの含有量224

 

 

 

いかがでしょう。

多くのミネラル成分において、ミネラルいりこんスパイシーの含有量は、消費者庁基準など遥かに突破しているのがご理解いただけるかと思います。

この結果を見て、本当に嬉しくなりました。

タイトルにも書きました通り、名に恥じぬ「ミネラルいりこん」です。

 

 

そして、もうひとつご紹介したいことがあります。

 

実は先日から、商品名の改名をしております。

「ミネラルいりこん」から「PFCミネラルいりこん」に変えました。

「PFCバランス」という言葉を御存知ない方があれば、是非覚えていただきたいと思います。

栄養素を過不足なく摂取するための基本中の基本です。

 

Pは、ProteinのP、たん白質。

Fは、FatのF、脂質。

Cは、CarbohydrateのC、炭水化物。

 

所謂、三大栄養素のバランスのことを指しています。

日本人の多くは、たん白質の摂取が足りず、代わりに脂質の摂取量が推奨値より多い傾向にあります。

厚生労働省がその理想として提示している割合としては、ざっと「P:F:C」が、「1:0.6:3」です。

 

ミネラルいりこんスパイシーの100gあたりの三大栄養素量の分析値は、「Pが42.3g、Fが15.7g、Cが30.3g」でした。

同じ観点で割合を出しますと、「1:0.37、0.72」です。

 

日本人が不足しがちなたん白質を大量に含み、それに比べれば、脂質や炭水化物は少ないという栄養成分値になっているかと思います。

たん白質が多いのは、煮干しと大豆が原料の多くを占めるので当然と言えば当然ですね。

 

 

また、前述の「栄養強調表示」は、たんぱく質についても基準値を設けています。

〇強調表示基準 (高い旨)16.2(含む旨)8.1

〇ミネラルいりこんスパイシーの含有量42.3

 

やはりミネラル同様、圧倒的に高い数値が出ています。

改名通り、三大栄養素の観点からも良いと言えるのではないでしょうか。

 

「ミネラルいりこんスパイシー」は、おいしさ故、一度袋を開けたら全て食べきってしまうとのお声が続出していますが、それが健康にもつながるのであれば、本当に素晴らしいことです。

 

例えばミネラル成分のカルシウム。

特に子供さんの健康な成長には欠かせないイメージがあるかと思います。

中でも、牛乳はカルシウム補給源の代表格のように扱われてきました。

昔は「完全栄養食」などと言われ、その特殊な効果を刷り込まれてきました。

その流れを引きずり、今でも学校給食ではカルシム摂取のためだと言って、牛乳が出続けています。

乳製品は素晴らしい食品ですが、その弊害も指摘されることが多くなった昨今、言わば嗜好品としてお考えになれば良いのではないでしょうか。

 

ミネラルいりこんがあれば、牛乳など飲まなくても、カルシウム欠乏状態にはなりません。

本来これは、「ミネラルいりこん」の価値と言うよりも、小魚や海藻を多用した日本の伝統食文化の優秀さを証明するものだと言えるかと思います。

 

ウニと昆布の困った関係

 

報道されることも多くはないので、あまり気づかれないかも知れませんが、日本を取り巻く海の状態は、大きく変化してきています。

磯焼けのような現象は、北海道から沖縄まで、非常に広範囲に進んでいます。

天然真昆布の危機的な状況については以前から書いている通りですが、これは「藻場」が衰退していることの一側面であると見るのが妥当でしょう。

 

本日は、海藻とウニの関係について記したいと思います。

ここ数十年間、昆布の漁獲量が大きく減っているのと同様に、ウニの漁獲量も減っているのです。

この30年で、3分の1ほどになってしまいました。

昆布の状況とそっくりです。

 

ご存じの方も多いと思いますが、北海道のウニは昆布を食べます。

おいしい昆布を食べて、おいしいウニが育つのです。

過去においては、この共存に何も問題ありませんでした。

北海道の昆布産地でも、昆布漁師さんが時期になれば、言わば副業のような形でウニも採っていました。

 

ところが、今はウニが非常に痩せていて、採って割ってみても、卵巣が未成熟で売り物にならないものばかりだそうです。

理由は簡単、エサとなる海藻が不足しているからです。

こうなると、漁師さんも採りません。

放置され、ウニの個体数は減りません。

 

これは、負の循環を生みます。

〇『海藻がない』⇒『ウニのエサが足りない』⇒『ウニの卵巣が成熟しない』⇒『漁師さんが採らない』⇒『個体数が減らない』⇒『多数のウニが少ないえさを取り合う』⇒『わずかに残った未成熟な海藻まで食べられる』⇒『磯焼け

 (この繰り返し)

 

 

この恐ろしいループ。

現在北海道の昆布産地で起きていることは、まさにこれです。

ウニは飢餓状態に非常に強いらしく、エサがなくても簡単には死にません。

そのため個体数が多い状態が保たれてしまうわけです。

 

私共の原料昆布の主な産地である道南地方では、平成26年までは豊富に昆布が採れました。

そのため、当時は現在のような危機意識がなく、行政が支援する大規模な補助事業として、ウニの増産対策が為されてきた経緯があります。

 

行政の取り組みとして一度動き出したものを簡単に止められないのか、実は現在でも稚ウニの放流は続けられているのです。

天然真昆布大減産の中、売り物にならない稚ウニを育てて放流する。

なんとも皮肉な話です。

函館市も昆布の現状に問題意識は持っているので、近いうちに改善される可能性は高いですが、現状はそんな感じです。

 

昆布の不作の原因は様々ですが、一因としてウニ問題があるのは間違いないようです。

このような背景で、私もどうにか対策が取れないかと思い、北海道大学水産学部でウニを専門に研究されている浦和寛教授にご相談に伺ったりしておりました(2020年7月18日にブログ投稿しました原彰彦北海道大学名誉教授のお口添えで話が非常にスムースでした)。

 

そんな活動が、ひとつの面白い動きにつながるかも知れません。

 

 

先日、浦和寛教授のご紹介で、ある方から私宛に、ご相談のメールが届きました。

愛媛大学の井戸篤史客員准教授からです。

ご相談の内容は、ウニの飼料についてでした。

 

井戸先生は、ウニを畜養して製品化するための研究をされているのですが、ウニを育てるためには、当然エサが必要になるわけです。

ウニのエサに海藻は不可欠ですが、現在はカナダから海藻の粉末を輸入して利用されているとのことでした。

ただ、やはり様々な意味で国産飼料が良いのは当然ですので、その道を模索しておられます。

 

昆布は、食品になる葉体と、岩盤に着生する付着器官で構成されています。

後者は昆布産地では「ガニアシ」と呼ばれています。

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このガニアシは、その形状故に夾雑物も多く食用にはなりませんが、ウニのエサとしては活用可能です。

しかし、ガニアシは固いため、そのままではウニが食べないらしく、乾燥粉末化してウニが好んで食べるようペレット加工する必要があるとのことです。

つまり井戸先生が必要とされているものは、「ガニアシ粉末」なのです。

 

原料のガニアシの調達や、乾燥粉砕加工ができる業者さんの選定についてのご相談のため、私共を訪問して下さいました。

こんぶ土居では三代目の頃から昆布産地との交流を続けていますが、それを知った井戸先生が私共に期待して下さったのでしょう。

 

ウニは、幼生の状態から育てる完全養殖ではなく、ある程度大きくなってきたウニを捕獲してきて太らせる畜養の方が、遥かにコストが少なくて済むようです。

 

私が目指すのは、井戸先生のお取組みが実を結び、昆布漁師さんによる畜養のためのウニ捕獲が盛んになることです。

その捕獲したウニにエサを与えて品質を向上させ出荷することができれば、現在昆布とウニの間で起きている負のスパイラルを断ち切ることができるかも知れないと考えているわけです。

 

井戸先生の事業の成功は、天然真昆布の再生にもプラスになります。

なかなか面白いテーマを与えられたものです。

 

暗中模索で始めた天然真昆布再生の取り組みですが、動き出すことで新たに見えてくるものが多々あるのを実感しています。

井戸先生の事業の成功のため、お役に立てるよう努めたいと思います。

 

 

(余談)

井戸先生に、私共のことを最初にどこで知って下さったのかお尋ねしました。

きっかけは、滋賀県で麹づくりをされているハッピー太郎醸造所の池島さんだとのことで、非常に驚きました。

池島さんのことは、またいつか機会があればこのブログでも書きたいと思います。