こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

『うまみの相乗効果』に食傷気味

 私は職業柄、だしの話に多く触れるものです。

だしに関する本が出版されたりすると、買って読んでみることもあります。

しかし残念ながら。たいていはがっかりして本を閉じることになるのです。

理由は様々ですが、この手の本に必ずと言って良いほど取り上げられる「うまみの相乗効果」について多くのページが割かれていたりすると、特にそう思います。

 

御存知ない方のために、「うまみの相乗効果」のことを簡単にご説明しますと。

様々な素材でだしを取ったとき、その素材によって含有する所謂「うまみ成分」の主成分は異なります。

代表的な主成分は下記の通りです。

 

昆布:グルタミン酸

鰹節、煮干し等:イノシン酸

キノコ類(干椎茸等):グアニル酸

貝類:コハク酸

 

各うまみ成分が単独ではなく、他のうまみ成分と混合されることで、より強い味覚として感じられることを「うまみの相乗効果」と呼び、昆布と鰹節の合わせ出しが広く用いられてきたことの理由として説明されます。

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(「特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター 」ウェブサイトより引用)

 

 

これは何も間違ってはいません。

その通りなのだと思います。

 

しかし2021年の今、「一体いつまでこんな話を続けるんだ」とも思うのです。

最近発見されたわけでなく、大昔から分かっていることですから。

 分かりやすい応用事例は、市販される「うまみ調味料」でしょうか。

うまみ調味料メーカー各社から、さまざまな製品が発売されます。

代表的なところで言えば、「味の素」「ハイミー」「いの一番」などが、それに当たります。

これらの製品はどれも、「グルタミン酸ナトリウム」と「イノシン酸ナトリウム」と「グアニル酸ナトリウム」の混合物です。

イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムは、合わせて「5'-リボヌクレオチド二ナトリウム」と表示されます)

 つまり、大昔からうまみ調味料メーカーは、複数のうまみ成分を混合して相乗効果を利用した製品を作り続けているわけです。

そんな使い古された話を、今更だしの専門書籍内で語るのは、やはり感心しません。

少し触れるぐらいならともかく、各素材から出るうまみ成分の種類と量を分析して、相乗効果の観点から理想のだしの味を考察するようなものには閉口します。

 

 

そもそも、味を化学成分で語ること自体、ほどほどにしてもらいたいと思います。

昆布のおいしさを構成する要素としてグルタミン酸が大きな役割を果たしていることは間違いないとしても、グルタミン酸を抽出するためだけに昆布を使うと考えているのなら、大きな見当違いです。

それだけの目的なら、昆布でなく、最初からうま味調味料を使えば良いのです。

その方が手間もかからず価格も安いのですから。

 

 

昔から一流の料理人は、うまみ調味料に頼らず良い昆布や鰹節を揃えてだしをとってきたわけです。

安価なうま味調味料が簡単に手に入る現在でも変わりません。

それを考えれば、うまみ成分名でだしの味を語ることなど一側面を捉えたに過ぎないことが、ご理解いただけるのではないかと思います。

 

 

私は職業柄、具体例に触れていますから理解しやすいのかも知れません。

良い料理人は、品質の良い素材を集めてだしをとります。

私共は昆布屋ですから、それにお応えするよう、良い昆布をご準備します。

例えば、近年の天然真昆布の大凶作。

価格も高騰していますし、これまで天然昆布をお使いいただいていた料理店様へ、養殖昆布のご提案をすることなどもあります。

しかしその際の反応は、例外なく「やっぱり天然とは違いますね」なのです。

 

これは、うまみ成分の量の話ではありません。

そもそも、だしに含まれるグルタミン酸量を増やしたければ、ただ単純に昆布の使用量を増やせば良いのです。

それだけで濃度は上がります。

養殖昆布でも、グルタミン酸の含有量に大きな差はなく、仮にいくらか少ないとしても、使用量を増やせばその問題は解決できるはずです。

 そんな簡単なことで解決するのなら、今の天然昆布不作の問題で私共が頭を悩ませることもありません。

 

うま味成分は十分あるはずなのに、何かが違う。

それが何であるのか、研究が進んでない現状、明確に申し上げることはできませんが、味が違うのです。

 

 

 

昆布の品種で考えれば、グルタミン酸の含有量は羅臼昆布が最も多いのです。

グルタミン酸がそれほど大事なのであれば、だし昆布として迷うことなく羅臼を選ぶべきでしょう。

しかし実際には、昆布の中心地たる大阪では真昆布が重用されてきたわけで、事がそれほど単純でないことが分かるかと思います。

 

 

また、冒頭に触れた専門書籍などで、理想的な昆布だしの取り方が提示されることもあります。

その際、その方法が優れている根拠として、だしに溶けているグルタミン酸の分析値が提示されることが非常に多いものです。

これとて同じ話で、そんなにグルタミン酸ばかりが大切なのであれば、化学調味料を足してしまえばいかがでしょう。

昆布を厳選せずとも、調理に気をつかわなくても、一気に問題解決です。

 

 

 味覚の世界は、簡単に成分で表現できるほどシンプルではありません。

 簡単に問題解決に導いてくれそうな情報がもてはやされるのは、世の常でしょうか。

私が書くややこしい話より、た易く「なんとなく理解したような気になれる情報」の方が耳なじみが良く、好評なのかもしれません。

しかし、真の姿を正しく理解することを大切にしたいものです。

  

 

家庭で本物の味を求める人や、一流の料理人が、「うまみ調味料の混合物」を使わず時間も手間もコストもかけて「本物のだし」を使うことの理由を、今一度よく考えていただきたいと思います。

 浅薄な知識で知ったように語らずに、

『科学的な分析によって分かったことも多いが、分からないことは更に多い』と認識する謙虚さと、

『自然風土と先人の知恵によって形成された伝統食文化』に敬意を払うこと、

この二点を忘れないようにしたいものです。

 

MILANO EXPO 2015 回顧録

 前回の投稿で、2025年の大阪・関西万博に向けた話を書きました。

 

万博と言えば6年前、2015年の開催地はイタリアのミラノでしたが、大阪市から依頼を受け私が現地で昆布のお話をさせていただきました。

少し個人的な内容も含みますが、当時の思い出話を書きたいと思います。

 

 

事の発端は、こんぶ土居でイタリア人の学生を受け入れたことでした。

 

イタリアのピエモンテ州に「食科学大学(Università degli Studi di Scienze Gastronomiche)」という大学があります。

食科学大学では、学生の海外研修を頻繁に実施しているようですが、研修先として日本も含まれています。

その受け入れには、京都の立命館大学が窓口になっていました。

その際、立命館大学の井澤裕司教授が「イタリア人の学生に日本の食文化としての昆布の説明をしてほしい」と私共に依頼して下さったのです。

食を専門に学ぶ海外の学生に、日本の伝統食文化を理解していただくのは、意義のあることだと思い、ご協力させていただいた経緯がございます。

 

 

そんなご縁もあり、後日、在大阪イタリア総領事館で開催されたイタリア共和国記念日を祝うレセプションにお招きいただいたのです。

ご参加された方々とお話する中で、大阪市の担当者からミラノ万博の事を軽く打診されました。

行政でも、外部に発信すべき大阪の食文化が昆布であることをご理解いただけているのは、とても嬉しいことです。

その後、大阪市より「大阪ミラノ姉妹都市交流親善大使」として正式な依頼を受け、現地へ出向くこととなりました。

 

 

ミラノ万博にはパビリオンとしての「日本館」があり、来場者に日本の文化を伝える役割を果たしていました。

この日本館は、ミラノ万博の全パビリオン内で圧倒的な一番人気で、入館に長い行列ができて、なんと最長で6時間待ちになっていたほどです。

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日本館にはステージが常設されており、週替わりで日本全国の市町村が、地域の文化を紹介していました。

私に与えられた役割は、「大阪ウィーク」にてイタリア人に、大阪の昆布の文化を伝えることです。

 

 

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 (大阪ウィーク開催の記念式典の様子)

 

 

 

実は私は若い頃に、しばらくイタリアで暮らした経験があり、簡単なイタリア語が話せます。

ミラノ万博でも、拙いイタリア語で通訳なしでプレゼンしたのですが、これが本当に効きました。 

冒頭に、「イタリアが好きでイタリア語を勉強しました。決して流暢ではないが、今日は通訳なしでやります。」と言うと、もうその段階で拍手喝采なのです。

そういったことを喜びがちなイタリア人気質もありますが、ダイレクトに伝えることの大切さを改めて感じました。

 

 

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実際にステージ上でだしを取って味を見ていただいたり、様々なことをご説明しました。

それを大阪ウィーク中、何回も繰り返したわけですが、若いころに自分がイタリアから多くのことを学んだお返しができたようで、とても嬉しい経験でした。

 

 

私がイタリアにいた頃のイタリア人は、良い意味で保守的で、海外の文化への関心が薄い印象がありました。

それこそがイタリアの伝統文化が良い形で続いた原動力であるわけですが、逆に言えば日本の昆布文化に関心を示してもらえないのではないかという心配がありました。

しかし、現場でそれは見事に裏切られます。

時代が進んだのもあるでしょうが、昆布を知っているイタリア人も多く、だしの味も非常に好意的に受け入れられたことが印象的でした。

 

過去にも様々な経験から得た結論ですが、昆布の良さを理解するのは日本人ばかりではないのです。

今や、その価値は世界的に認められています。

 

 

 

帰国後には大阪市役所へお招きいただき、橋下徹市長(当時)から感謝状を頂きました。

少しでも大阪に貢献できたのであれば、本望です。

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新聞でも、ご紹介いただきました。

取材を受けていましたので、掲載されることは事前に知っていましたが、一面で大きな記事でしたので驚きました。

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この新聞記事を改めて見ると、当時から「国内産 供給は減少傾向」というタイトルが見えますね。

ちょうどこの年から、天然真昆布は大減産の期間に突入していきます。

 

今後も大阪の伝統食文化としての昆布を国内外へ発信していきたいと考えていますが、それは北海道で良い昆布が生産されてこそ意味を持ちます。

過去の取り組みが未来に続くように、北海道の昆布生産に良い結果を導きたいと思います。

  

 

「2025大阪・関西万博」で、昆布のことを

 

2025年に、大阪で万博が開催されます。

地元大阪のパビリオンも出展されるわけですが、展示内容のアイデアを公募していたので応募してみました。

もちろん昆布について。

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万博の展示に、食文化は当然含まれてくるはずです。

紋切型の「たこ焼き」「お好み焼き」で終わってしまうことのないよう、大阪食文化の核となる昆布の話が来場者に伝わるようであって欲しいと思います。

応募は、800文字以内で案を書いて提出するのですが、下記の内容で出しています。

さて、採択されるのでしょうか。

 

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【提案内容(800文字以内)】

古くから「食の都」「食い倒れ」と評されてきた大阪。名物として語られることが多い「たこやき」「お好み焼き」「串カツ」だけでなく、品格と伝統を伴った食文化のアピールは、都市のブランド力を向上させます。その核となるのが、「だし文化」です。料理にだしを用いることは世界共通ですが、大阪だし文化を他地域と分けさせたものは、昆布に他なりません。江戸の昔より、北前船の最終目的地であった大阪に北海道の産物は集められ、昆布文化の中心地となりました。中でも道南地方で採取される真昆布は大阪の味を決める基礎として、なくてはならないものとして利用されてきました。しかし天然真昆布の漁獲量は、近年の環境変化により激減し、大きな窮地に陥っています。大阪の食を構成する要素に、昆布以上の独自性はありません。万博を機に多くの来場者に大阪食文化を再認識していただき、天然真昆布の危機的状況の認知を広め、未来に継続させる取り組みが必要だと考えています。地元大阪パビリオン内にて、伝統の昆布文化と、その危機を伝える展示のご提案を致します。来場者に、食体験と併せて、大阪食文化の歴史や海洋資源の保護の大切さ、海藻食の健康面での価値などを理解していただけるような展示ができないでしょうか。2015年のミラノ万博では、私がミラノまで出向き、「大阪ウィーク」にてだし文化をイタリアの地でご説明した経緯もございます。海外での昆布への注目度も年々高まっている今、地元での万博開催にその要素は不可欠です。次世代に昆布文化を残すことは、テーマに掲げられた「SDGs」の趣旨(特に、14海の豊かさを守ろう)にも合致します。世界的な問題である水産資源の保護と、他国に例のない伝統食文化を関連させて展示できる好機で、万博の展示としてふさわしい内容であると考えています。

 

 

 

 

 

海底湧水と水産資源の関り

度々テーマにしております天然真昆布の不作。

不作の理由は、ひとつではなく、様々な要因が複合的に作用しています。

簡単に言ってしまえば「環境問題」であるわけですが、その環境問題を構成する要素は、多岐に渡ります。

温暖化のようなグローバルな要因は、私が何らかの後押しができるような小さな話ではありませんが、ローカルな問題については、やれることがあるはずだと考えて活動してきました。

 

私が昆布の浜に通うようになって16年になりますが、そんな短い期間でも、公共工事が進み景観は大きく変わりました。

簡単に言えば、どこもかしこもコンクリートで固められていっているのです。

それは、治水や地域の方々や漁業者の利便性を高めるためであり、その目的では貢献しているのですが、見方を変えれば環境破壊に他ならないわけです。

それが海の環境に、どのような悪影響をもたらすのかについては、朧げなイメージは持てていても、明確に指摘することは難しい状態でした。

 

先日、ある方とお話させていただく機会がありました。

このご時世ですので、実際にお会いしたのでなくzoomミーティングですが、新井章吾さんと仰る海藻の研究者です。

様々なことをお伺いしましたが、海底から湧き出る水についてのお話が、非常に興味深いものがありました。

新井さんのお書きになったレポートは、海底湧水の仕組みと、それが漁業資源にどのように関係するのか、また開発によって湧水にどのような影響があるのか、非常に分かりやすく書かれていました。

もしご興味あれば、下記のレポートをご一読いただければと思います。

 

https://www.ows-npo.org/member/backno/tokushu48forWeb.pdf

 

 

併用もアリ、鰹節と煮干しのだし

「合わせだし」という言葉があります。

単一の素材ではなく、傾向の違う素材を併用して取っただしのことですが、それが良い効果を生むことに、日本人は古くから気づいていました。

 

しかし、これは世界的に見れば、特殊なことかも知れません。

私は若い頃に、しばらくイタリアで暮らしたことがありますが、彼の地では、「肉のだし」「魚介のだし」「野菜のだし」といった分け方をしていました。

それを混ぜ合わせて使うということは、あまりなかったように思います。

中華料理では、チキンスープなどが一般的でしょうか。

 

日本での合わせだしの代表例は、料理店さんでは「昆布と鰹節」、家庭料理では「昆布と煮干し」、精進料理となれば「昆布と干椎茸」ですね。

 

合わせだしの効果を表現する際に、常に用いられるのが、うまみ成分の相乗効果の話です。

私は味を成分名で表現することが好きではありませんが、昆布に含まれるグルタミン酸と魚類に多いイノシン酸が合わされば、相乗効果が発揮されて単一の場合より遥かに効果的に満足感のある味が出ることは、多くの人の知るところです。

 

合わせ出しの組み合わせは様々ありますが、その軸になるのは常に昆布です。

ですので、前述のような組み合わせは普通に存在しますが、「鰹節と煮干し」「鰹節と干椎茸」「煮干しと干椎茸」といった合わせだしは、あまり聞きません。

 

特に鰹節と煮干しは、両方とも魚の素材ですので、合わせることに関してうまみの相乗効果はないはずです。

ですので、料理店さんの厨房でも、この併用の事例は非常に少ないです。

特に高級な日本料理店さんでは、煮干しだしを家庭料理の範疇と見なす場合が多く、鰹節を主に考えます。

 

しかし実際は、鰹節と煮干しの併用は、なかなか良い効果を生むのです。

 

鰹節でも煮干しでも、非常にに品質の良い素材を手に入れて昆布と共にだしを取れば、それだけでおいしいだしが用意できます。

しかし、そんなに特別な素材がありふれているわけでもありませんし、私たちの日常にいつも必要かと言われると、疑問もあります。

自然の産物なわけですから、少々難が出たりすることがあるのは当然です。

 

これは昆布とて同じですね。

特別に高級な昆布が美味しいのは当たり前。

しかし当然値段は高いですし、一部の経済的に余裕のある方を除き、そんな素材を常時使うことはできないでしょう。

 

ですから、日常の家庭料理には「特に高級でない『普通の品質の本物』の素材」でうまくだしが取ることが求められているように思うのです。

「本物」という言葉を使いましたが、対をなす「偽物」に該当するのは、酵母エキスなどの各種エキス類や化学調味料、その他のうまみ調味料の類ですね。

 

一級品でない鰹節や煮干しを使った場合、味に難が出たとして、両者の傾向はかなり違っています。

 

 

まず、鰹節のだしは、やはり味が少し薄っぺらいのです。

簡単に言えばコクが足りません。

それを補うのが昆布の役割であるのですが、削り節をたくさん使わないと少しものたりないだしになりがちです。

もう一つ、よくある問題が「酸味」です。

だしがすっぱくなるのです。

鰹節のだしに酸味が出る理由は、よく分かりません。

一説に、特に巻き網漁の原料魚が死ぬまでに暴れまわることによって、疲労物質の乳酸が溜まり、それが酸味として出るという話があります。

もちろんこの理由も無関係ではないかと思いますが、これはカツオに固有の話ではありませんので、他の理由もあるのではないかと考えています。

 

煮干しは、原料魚の鮮度にも関係しますが、だしが少し魚くさくなる場合があります。

また、内臓由来だと思いますが、苦みも出ます。

頭と内臓を取り除けばかなり解消されるのですが、それもまたひと手間ですね。

 

 

まとめると、両者の欠点は次のようになります。

【鰹節のだし】味に厚みがない、すっぱい

【煮干しのだし】苦い、魚くさい

(※超一級品の素材を使った場合、これらの欠点は非常に軽微です)

 

 

つまり、同じ魚の素材であるのにも関わらず、鰹節の味と煮干しの味の傾向が異なるのです。

 

この問題を解決してくれるのが、両方使うことです。

使用量を半分にして、両方使えば良いのです。

これによって、「味に厚みがない」「すっぱい」「苦い」「魚くさい」の四つの問題点が共存してしまうことにはなりますが、度合いが半分になっているので気にならないのです。

 

一般的に合わせだしは、うまみの相乗効果を狙ったものですが、鰹節と煮干しの組み合わせは意味が違い、好ましくない要素の低減です。

特に煮干しの魚くささなどは、鰹節の良い香りでマスキングされているようにも感じます。

逆に、かつおだしの「味に厚みがない」ところは、力強い煮干しの味が補ってくれます。

 

一度「昆布、鰹節、煮干し」の、三種の合わせ出しを取ってみて下さい。

私がご説明した内容に納得していただけるのではないかと思います。

量は三等分ずつで良いと思います。

 

 また日を改めて、だしの取り方についての基本の考え方をご説明します。

ご一読いただき、おいしいだしを味わって下さい。

 

 

良い昆布の色

前回のブログ投稿で、海苔のことを書きました。

「2021年1月8日投稿『海苔の酸処理について』」。

 

その中で、海苔の酸処理について、こんな一文を書いています。

『また、見かけは黒々と美しい海苔ができますが、本来の味と香りは損なわれがちです。』

やはり海苔も、黒いものがなんとなく高級に見えがちなようです。

実は、これは昆布でも似たようなことが言えます。

 

写真を見て頂きたいと思います。

 この2枚の天然真昆布、どちらが品質の良い昆布でしょう。

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右のものは黒く、左の昆布は茶色いですね。

 なんとなく右の黒いほうが高級そうに見えませんでしょうか。

しかし、昆布の状態として良いのは左の昆布です。

 

昆布の品種によっても微妙な違いがあるので、一概には言えませんが、良い状態の昆布は通常「飴色」をしています。

平たく言えば茶色っぽいのです。

しかし、例えばスーパーの棚に黒い昆布と飴色の昆布が並んでいたら、確実に黒い昆布のほうがよく売れます。

 

こんな背景があるので、昆布を黒く仕上げたいという販売業者の思惑が出ることがあります。

色を黒く仕上げるために、人為的にアプローチできる要素としては、乾燥の方法があります。

昔は、昆布も天日乾燥しかありませんでしたから、温度が上がってしまうことなどありませんでした。

しかし、今は乾燥機も使われる時代ですので、その温度を変えることができるわけです。

改めて天日乾燥と機械乾燥については投稿しますが、一概に機械が悪いと言うことでもありません。

しかし、本来の温度帯から離れた高温で乾燥されたり、そんなことがあれば品質に問題が起きるのは当然のことです。

 

この高温乾燥をすると、昆布は黒っぽく仕上がる傾向にあります。

そうなれば、漁師さんも高温で昆布が乾きやすいので仕事が早く終わる、販売する側は黒っぽい昆布で売れ行きが良い。

言ってみれば好ましい状況であるわけですが、美味しさの面では問題です。

皮肉なことですね。

 

消費者の方が見た目で昆布を選ばれるのは自然なことだと思いますし、無理もありませんが、少し認識を変えていただければ嬉しいです。

こんぶ土居で販売しているだし昆布は、黒くありません。

「昆布は飴色」、「黒すぎる昆布は本来でない」とご理解いただければと思います。

 

(余談)

下の画像のような、まだら模様になった昆布を、業界では「虎昆布」と呼びます。 f:id:konbudoi4th:20210109233940j:image

 虎の模様のようですね。

消費者の方からすれば、何らかの異常が起きているように見えることでしょう。

しかしこの虎昆布、何の問題もありません。

むしろ、良い昆布に限ってこんな色合いに乾くようにさえ感じます。

見た目で物を選ぶことは簡単ではないですね。

 

海苔の酸処理について

 私共は昆布屋ですが、昆布以外での人気商品もあります。

そのひとつが「無酸処理焼海苔」です。

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伊勢湾で酸処理をせずに育てられた海苔の一番摘みです。

非常に香り高く豊かなうまみを感じる良い海苔だと自負しています。

 

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海苔の養殖現場を見たことがある方は少ないのではないでしょうか。

YouTube上に、分かりやすい動画がありましたのでご紹介します。

https://youtu.be/zbIg4TS_Tvs

 

動画で分かるように、海苔の養殖には2つの方法があります。

「支柱式」と「浮き流し式」です。

その両方式のメリットデメリットと、酸処理の問題点について、製品パッケージ背面にてご説明しております。

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下記に転載致します。

ご一読いただけますと幸いです。

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【無酸処理焼のり】
本品は、一般的な海苔養殖に使われがちな酸処理剤を一切使用せずに育った初摘み海苔だけを使用した焼のりです。豊かな香りと強いうまみをお楽しみください。

【海苔の酸処理と海の環境】
 海苔の養殖は、遠浅で干満差の大きい海で行われてきました。海に支柱を立て、網を張り海苔を育てます。「支柱式」と呼ばれる方法で、潮が引くと海苔が海中から顔を出し日光や冷たい風に当たり乾燥します。これは、干出(かんしゅつ)と呼ばれます。干出により海苔網に付着した雑海藻が除かれ、乾燥に強い海苔だけが残ることで病気になりにくく、良い品質の海苔を育てることができます。海藻の環境適応の違いを利用した、先人の素晴らしい知恵です。
 しかし支柱式に必要な遠浅で健全な海は少なくなってしまいました。近代化に伴い、干潟や浅場が埋め立てられたり、過度の富栄養化が進んだためです。そこで、昭和40年代に深所でも海苔の育成ができる「浮き流し式」が考案されました。「浮き流し式」により沖合まで養殖域が広がりましたが、本来の生育環境でないため「干出」ができず、雑藻被害や病害が多くなります。その対策として「酸処理」が行われるようになりました。養殖中の海苔網を海から引き上げ、酸性の液にしばらく漬けてから海中に戻す方法が一般的で、現在ではほとんどの海苔養殖で取り入れられています。「酸処理」は行政の指導のもとで行われてはいますが、使用する処理剤の成分や使い方によっては食品としての安全性が懸念され、漁場環境の悪化につながります。また、見かけは黒々と美しい海苔ができますが、本来の味と香りは損なわれがちです。一方、支柱式では、干出中は成長しないため生産効率が落ちますが、海の環境に悪影響を及ぼすことはありませんし、何より海苔本来の美味しさを保つことができます。
 「無酸処理焼のり」をお届けできるのは、美しい海が守られてきたからこそです。これからも「森・川・海」の連環と、健全で持続可能な漁場利用が、将来の美しい環境と豊かな食生活につながることを願っています。(パッケージ表面の版画は、生態系を表現しています)

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 (以上、転載おわり)

 

 

この製品は、パッケージにも工夫をしました。

まず、おもてのデザインは、山と川と海の自然の連環を表現したものです。
(版画家の森ひろこさんに制作していただきました。)
裏面には、前述のように酸処理について書いています。


海苔に限らず、食品の品質を劣化させる要因として「光」と「酸素」は要注意です。
どちらも焼海苔の品質を低下させます。
こんぶ土居「無酸処理焼海苔」は、それを避けるため、パッケージ素材も良いものを選びました。

一般市販品では、中身が見えるように透明の袋に入れられている製品がほとんどですが、アルミ素材の袋に入れることで光線による劣化を避けています。

実は、アルミ袋には二種類あります。
ひとつは「アルミ箔」の層を含む袋、もうひとつは「アルミ蒸着」の袋です。

「アルミ箔の層」はイメージしやすいですが、薄いアルミホイルのようなものが袋素材に挟み込まれているものです。

「アルミ蒸着」は真空中でアルミニウムを加熱蒸発させ、フィルムの表面に凝結させて薄膜を得る方法です。
見た目は似ていても、食品を良い品質で保つ機能には大きな差があります。

違いを確認するために、袋の向こうから携帯電話のLEDライトを当ててみてください。
アルミ蒸着の袋なら、光が透過してきますが、アルミ箔では一切透過しません。

こんぶ土居「無酸処理焼海苔」の袋は、アルミ箔のものですので、光による劣化から海苔を守ります。
それと同時に、酸素の透過性も非常に低いので、長期に亘って海苔を良い状態で保ちます。

とても良い袋なので、海苔を使い切った後も、再利用して下さると嬉しいです。
市販のフリーザーバッグなどよりも、断然良い状態で食品を保管できます。
香りの強い食品などには、特におすすめです。
香味野菜やハーブ、コーヒー豆なんかには最適です。

「無酸処理焼海苔」のお求めは、こんぶ土居オンラインストアでどうぞ。

konbudoi.shop-pro.jp