こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

だし昆布に切れ目入れる? よくあるご質問

 

たまにお尋ねいただくご質問の定番

「だしを取るとき、昆布に切れ目を入れた方が良いんでしょうか」。

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切れ目を入れた方が良い気がするのは、ハサミを入れた断面からだしが出るイメージによるものでしょう。

お気持ちはわからないでもありません。

しかし、昆布のだしは断面のみならず表面全体から出ますので、特に切れ目は必要ありません。

 

 

切れ目があるものと無いものの味の差を確かめるには、良い方法があります。

 仮に切断面からだしが出るのだとすれば、断面が多ければ多いほど有利だということになります。

それなら、ハサミで昆布に切れ目を入れる際、できるだけ細かくするとよいですね。

その細かさを極限まで突き詰めると、昆布は粉末状になるはずです。

つまり、切れ目を入れていない昆布と同重量の昆布粉末を用意し、それぞれのだしの味を比べればよいわけです。

 

実際に昆布の粉末を煮出し、沈殿している粉末を濾しとったものを見ると、少しドロドロした感じの見た目で、いかにも強い味が出ているように見えるかも知れません。

しかし切れ目なしの澄んだだしと比較して、特にうまみが強いようには感じません。

不思議なものです。

むしろ、おいしさに関わるもの以外の成分がたくさん出ているように思います。

ご興味あれば、実験してみて下さい。

 

 

つまり、「切れ目を入れなくても良い」ではなく、むしろ「切れ目は入れない方が良い」であるように思います。

事実、プロの料理人で、一生懸命切れ目を入れた昆布でだしを取っている方に、全くお目にかかったことがありません。

 

 

普通にだしを取ったとしても、水に溶けだす昆布のエキス分は非常に多いのです。

驚かれるかもしれませんが、水に溶け出すものが約4割だとお考えください。

6割がダシガラです。

だしは透明な液体ですから、ほとんどの成分がダシガラに残存しているように見えるかも知れませんが、半分近くのものが溶出しているわけです。

 

 

別の観点で、ダシガラに残る水溶性でない栄養成分があります。

ダシガラも上手に調理すれば美味しくいただくこともできますし、何より栄養豊富です。

そんなことについて書いた過去投稿もありますので、ご興味あればご一読下さい。

 

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【昆布だしの味 vol.3/3】昆布の厚みと「甘さ」の関係

前々回投稿 【昆布だしの味 vol.1/3】味のキレって何? ダシと酒について

前回投稿 【昆布だしの味 vol.2/3】魯山人を鵜呑みにしないで(だしの取り方)

の続きです。

今回もなかなかマニアックな内容です。悪しからずご了承下さい。

 

 

 まず、突然なのですが。

昆布って、とても甘いのです。

そう言われても、首をかしげる方もあるかも知れませんね。

しかし、あの塩辛い海水の中で育ったものだとは思えないほど、強い甘みを内部に蓄えています。

(その甘さを体験したい方は、本投稿末尾の(※2)をお試し下さい。)

改めて考えてみますと、昆布に限らず他の海産物でも同じです。

魚でも貝類でも甲殻類でもウニでも、良い品質のものは、総じて「甘い」でしょう。

何なら、陸上の作物でも同じです。

野菜でも果物でもお米でも、高級なものほど甘い傾向にありますね。

 

 

前回の投稿で、魯山人の著作「だしの取り方」のおかしな部分をたくさん指摘しました。

 

作中には「昆布の底の甘味が出て、決して気の利いただしはできない。」との一文がありましたが、これなら「昆布は甘くない方が良い」ということになりませんでしょうか。

個人のお好みは様々あるでしょうが、前述の内容と考えあわせますと、まずここに違和感を感じます。

 

 

 さて、話は少し変わりまして。

昆布の色は、どんな色でしょうか。

たいていの方は、緑がかった黒い色などをイメージされるかと思います。

しかし、黒いのは「皮だけ」なのです。

 

これはちょうどリンゴをイメージしていただければ分かりやすいかと思います。

普通リンゴは赤いですが、それは皮の色ですね。

中身は白いわけです。

これは、昆布も全く同じ構造で、皮は黒くても中身は白っぽい色をしています。

昆布粉をイメージしていただければ分かりやすいでしょうか。

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 この昆布粉の色、使用する昆布の厚みによって少し変化します。

それは、皮と中心部の割合が変化するからです。

分厚い昆布と薄い昆布に分けて、断面の模式図を描いてみました。

(黒っぽい色で書いた部分が「皮」で、それに挟まれたクリーム色の部分が、昆布の中心部を表しています。)

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Aの厚い昆布は、Bの薄い昆布に比べて、ちょうど厚みを二倍に描いています。

しかし、絵の黒い色の部分、つまり皮の部分はAもBも同じ厚みです。

つまり、分厚い昆布があったとすれば、「皮以外の白い部分が分厚い」ということです。

実際の昆布もこんな構造になっており、中心部の占める割合は物によって大きくバラつきます。

この絵では、Aの中心部の厚みをBの三倍で書いていますが、3倍以上の厚みになることも多々あります。

 

 

この構造を把握していただければ、厚みによって昆布の皮と中心部の構成割合が変化しますから、厚みが味の違いの原因となることがご理解いただけるかと思います。

もし昆布の皮の部分と芯の部分、それぞれの味を確認したければ、ご家庭でも可能な方法もあります。(投稿末尾※1に記載)

  

 

それぞれの味を、簡単に表現しますと

 【皮の部分】

塩分が多い、ミネラル感が強い、甘みは少ない、雑味もあり

【芯の部分】

塩分はほとんど感じない、ミネラル感は少ない、甘く感じる、雑味は少ない

 

こんなところでしょうか。

 

 

 上記を踏まえますと。

魯山人の言う「昆布の底の甘味が出て、決して気の利いただしはできない。」を真に受けるなら、昆布は薄い方が良いのです。

薄ければ薄いほど、皮の割合が多くなるわけですから。

 

しかし、普通に考えて、ぺらぺらに薄い昆布で取った「塩分が強くて甘味の少ない昆布だし」が良いなんて、おかしな話だと思われませんでしょうか。

 

 

 

先にも書きましたが、他の食材の事例を考え合わせても、「甘さ」は「おいしさ」の重要な一要素であることは間違いないでしょう。

 人間の味覚の意義である栄養摂取の観点から見ても、それは言わば当然のことです。

 

その一方で、魯山人の話と共に、前々回(2021年4月10日)の投稿「味のキレって何? ダシと酒について」 でも書きましたように、甘さを否定しがちな不思議な味の評価が存在します。

何をおいしいと感じるかは個人差がありますし、それ自体は非常に結構です。

しかし、ベタベタした人工的で過剰な甘さならともかく、自然の素材が持つ「甘さ」が不要だなんて、そんなおかしな話は無いと思っています。

 

 

こんぶ土居でご用意しているだし昆布は、しっかりと厚みもあり、良い甘味を蓄えたものです。

今後も、そんな味を追求します。

その味が、多くの方にご理解いただけることを願っています。

 

(了)

 

 

【補足】

(※1 昆布の皮と芯の味の比較方法)

下記の方法をお試し下さい。

① 板状の昆布を用意して下さい

② その昆布を水に浸してください

③ 水からすぐに引き上げ、20分ほど放置して下さい。

④ 昆布の表面を濡らしていた水が、全て昆布に吸い込まれているはずです。

⑤ 昆布が柔らかくなっていますから、表面に包丁を当て、少しずつこそげ落としてください。それが昆布の「皮の部分」です。

⑥ 何回か包丁でこそげると、黒い皮の部分がなくなって、次に白い部分が削り出されてくるはずです。それが昆布の「芯の部分」です。

皮と芯、それぞれの味を比較することができます。

 

(※2 昆布の甘さ成分の体験方法)

 上記の⑤の後には、皮がなくなった真っ白な昆布が出来上がると思います。

それを、急激に水分が飛んでしまわないように管理(ビニール袋に入れるなど)しながら一週間ほどおいておきますと、白い粉が浮いてきます。

その粉は、昆布に含まれる糖分そのものですから、舐めてみて下さい。

塩分の強い海水中で育ったものだとは思えないほどの強力な甘さを感じます。

【昆布だしの味 vol.2/3】魯山人を鵜呑みにしないで(だしの取り方)

 

前回投稿、【昆布だしの味 vol.1/3】味のキレって何? ダシと酒について

の続きです。

 

 

人のことを悪く言うのは慎むべきだと思いますが、真実を伝えるためにやむを得ない場合もあるでしょう。

 

今日の投稿は、北大路魯山人の著作について。

高名な芸術家ですし、素晴らしい功績が多いのだと思いますが、魯山人が「だしの取り方」というタイトルで書かれた文章には、疑問を呈さざるを得ません。

少しならまだしも、疑問点だらけです。

 

古い著作ですから、今は権利が消滅しているようで、誰でも自由に読むことができます。

決して長い文章ではありませんから、まずは下記からご一読下さい。

北大路魯山人 だしの取り方

 

 

簡単に言えば、魯山人の「だしの取り方」に書かれている内容は、間違いだらけなのです。残念ながら。

しかし、著者が高名であるが故に多くの人が信じてしまう。

そんなことが想定されるので、本日は注意喚起をさせていただきます。

子供の頃に聞いた歌のセリフに「偉きゃ黒でも白になる」と言うものがありましたが、影響力のある人物による過った情報は、なかなかやっかいなものです。

 

 

以下、正しくない部分を抜粋し、私の注釈を入れてご説明させていただきます。

よろしければご一読下さい。

 

 

  【魯山人「だしの取り方」、正しくない部分のまとめ】

 

〇本節と亀節ならば、亀節がよい。

(土居注釈: これは嘘です。本節が劣るということはありません。)

 

〇削ったかつおぶしがまるで雁皮紙のごとく薄く、ガラスのように光沢のあるものでなければならない。こういうのでないと、よいだしが出ない。削り下手なかつおぶしは、死んだだしが出る。

(土居注釈: まず、「死んだだし」という意味が分かりません。「薄く光沢のあるもの」と書かれていますが、切れ味の良いカンナで薄く削れば、光沢は出ます。逆にカンナの刃を出し気味に調整すれば、厚めに削り出され、同時に光沢は少なくなります。しかし、そのような削り節でだしを取っても、味が劣るかどうかは別問題です。)

 

 

〇だしをとる時は、グラグラッと湯のたぎるところへ、サッと入れた瞬間、充分にだしができている。それをいつまでも入れておいて、クタクタ煮るのではろくなだしは出ず、かえって味をそこなうばかりである。

(土居注釈: 鰹節が薄く削られているのなら、短時間でだしが出るのは間違いありませんが、「サッと入れた瞬間、充分にだしができている。」は言い過ぎです。

これを真に受けて、鰹節を鍋に投入してすぐ濾してしまう方が現れるかと思いますが、なんとももったいないことです。「グラグラッと湯のたぎるところ」という記述も、なぜ激しく沸騰している必要があるのか不明です。)

 

 

〇外国人はかつおを知らないし、従ってかつおぶしを知らない。

(土居注釈: カツオは、世界中の熱帯域を中心に、温帯域まで広く分布していますから、外国人が「かつおを知らない」などということはありません。モルディブスリランカでは「モルディブフィッシュ」という加工品を料理に使います。加工法は日本の鰹節の製造に比べれば荒いものですが、これは鰹節そのものです。)

 

 

〇味、栄養もいいし

(土居注釈: この文脈は、西洋料理との比較でかつおだしが語られていますが、外国のスープと比べて「栄養もいいし」の根拠が不明です。そもそも、鰹節の栄養素のほとんどはダシガラに残存し、それに比べれば、かつおだしの栄養価値は高くありません)

 

 

 

〇料理屋の真似をしてガラスで削るのは危険だし、たくさん削る場合は間に合わないから

(土居注釈: そんな心配をせずとも、家庭でだしを取るのに鰹節をガラスで削る人などいるでしょうか。そもそも、料理屋さんが厨房でガラスを使って鰹節を削ることがあるとすれば、それは料理のトッピング用の「糸削り」です。だしの用途ではありません。)

 

 

 

〇昆布をだしに使う方法は、古来京都で考えられた。周知のごとく、京都は千年も続いた都であったから、実際上の必要に迫られて、北海道で産出される昆布を、はるかな京都という山の中で、昆布だしを取るまでに発達させたのである。

(土居注釈: 昆布は、縄文時代から北海道縄文人によって使われてきた歴史があるようですから、「古来京都で考えられた」は嘘です。また特殊な用途(特権階級向けや、神物への供物として)の昆布の本州への流通は、少量ですが、平安遷都以前から存在しています。庶民にまで広く普及するようになったのは、江戸中期からの北前船による大量物流以後であり、その中心地は大阪です。「昆布だしを取るまでに発達させた」とありますが、昆布は水に漬けておくだけでだしが出ますから、「発達させた」と言うのが何を指しているのか不明です。)

 

 

〇昆布のだしを取るには、まず昆布を水でぬらしただけで一、二分ほど間をおき、表面がほとびた感じが出た時、水道の水でジャーッとやらずに、トロトロと出るくらいに昆布に受けながら、指先で器用にいたわって、だましだまし表面の砂やゴミを落とし、その昆布を熱湯の中へサッと通す。それでいいのだ。

(土居注釈: 一度この方法を実験してみてください。ほとんど味の無い白湯のようなものができあがります。)

 

 

〇こぶを湯にさっと通したきりで上げてしまうのは、なにか惜しいように考え、長くいつまでも煮るのは愚の骨頂、昆布の底の甘味が出て、決して気の利いただしはできない。

(土居注釈: 「昆布の底の甘味が出て」の部分は、前回投稿にも関係します。次回の投稿でも、改めて詳細にご説明します。)

 

 

〇京都辺では引出し昆布といって、鍋の一方から長い昆布を入れ、底をくぐらして一方から引き上げるというやり方もあるが、こういうきびしいやり方だと、どんなやかましい食通たちでも、文句のいいようがないということになっている。

(土居注釈:  こんなことを本当にやっている京都の料理人さんがおられるなら、お目にかかりたいものです。また、「文句のいいようがないということになっている」とのことですが、魯山人以外で同様のことを言っている人が、いくら探しても見つかりません。これについても、次回投稿を読んでいただければと思います。)

 

(了)

 

次回の投稿、【昆布だしの味 vol.3/3】昆布の厚みと「甘さ」の関係、に続きます。

 

【昆布だしの味 vol.1/3】味のキレって何? ダシと酒について

(今回の投稿から、3回ぐらいに分けて、昆布だしの味に関係する話を書きます)

 

 

味を表現する際に「キレが良い」などと言うことがあります。

そもそも「キレ」とは何でしょうか。

 

明確に定義することは難しいですが、「どれだけ後味が尾を引くか」を指し、つまり味が後を引かずスッと消えるようであれば「キレがある」と表現されるようです。

実は、だしの世界でも「キレ」という言葉が使われることがあります。

 

 

しかし後味の持続も、その性質によって良し悪しが変わってくるでしょう。

あまり好ましくない味であるなら、すぐに消えてくれた方が良いでしょうけれど、逆に良い後味であるなら、それは「余韻」として味わっていたいものですね。

 

 

「キレ」という言葉が最もよく使われる場面は、お酒の世界です。

「ビール」「日本酒」「ワイン」、この三つの酒について、「味のキレ」の観点から考えてみたいと思います。

 

 

【ビールの場合】

まず、ビールの本場として真っ先にイメージされるのはドイツでしょう。

ドイツには、本当に豊かな味わいのビールが多く、文化的な懐の深さを感じます。

それに倣い、日本でも多くのメーカーが醸造を始めた歴史かと思いますが、日本のビールは、言ってみれば「独自進化」してきたものだと言えるでしょう。

  

その代表的なものが、日本発祥の「ドライビール」です。

1987年に「アサヒスーパードライ」が発売され、他メーカーも続々とドライビールを発売し、それは「ドライ戦争」と呼ばれるような熾烈な販売合戦になりました。

アサヒスーパードライ」は、今でも定番ビールとして販売されていますね。

 

そもそもドライビールとは何かと言えば、明確な定義はありませんが、だいたい下記のような特徴を持つようです。

①原材料として、麦芽を少なくして、米やコーンスターチなど副材料を高めに配合。

②新開発した醸造法や酵母を用いてアルコール度数を高めにする。

③味わいとしては、「キレ」や「辛口」が特徴。

 

アサヒスーパードライ」も、別に何も悪いものではありませんし、ひとつのプロダクトとしては非常に良くできていると思いますが、私には何かビールというより、「アルコール入り清涼飲料」のようなイメージにも感じられます。

「味わう」というよりは、一気に流し込んで「喉で感じる」ような傾向もあるかと思います。

かつては平気で行われていた「一気飲み」などの、乱暴な飲み方に適したビールだったのかも知れません。

 

アサヒスーパードライ」のウェブサイトには、「さらりとした飲み口、キレ味さえる、いわば辛口の生ビールです」と書かれています。

どうやら「キレ」と「辛口」、この二つは遠くない価値観のようです。

 

また、ビールと発泡酒のカテゴリーの違いは麦芽の使用量によるものです。

つまり、ドライビールは麦芽割合を少なくしているので、発泡酒寄りだと言うこともできそうです。

 

 

【日本酒の場合】

アサヒスーパードライは「キレ」と「辛口」だということですが、「辛口」は、ビールよりも日本酒に用いられがちな言葉でしょう。

  

居酒屋さんなどで日本酒を選ぶ際、「辛口でお願いします」と言う方がいます。

辛口のお酒は「ツウ」であり、甘味のある酒は「初心者向け、子供っぽい」というような、不思議な認識を持つ方は今でも意外にいるものです。

言ってみれば、「辛口信仰」ですね。

  

これは、日本酒が辿った不幸な歴史も関係しています。

戦中戦後の米不足の時代、食べる米すら足りていない中で、ふんだんに米を使った酒など、作れるはずがありません。

そこで出てくるのが「三増酒」と呼ばれるようなまがいものです。

純米酒のもろみを薄めて酒をつくるわけですが、醸造アルコールに加え、様々な糖類や酸味料、うまみ調味料などを加えられます。

味としてはベタベタした甘さのものが多かったようで、その反動として後に、端麗辛口でキレのある酒が過度に評価された傾向があるように思います。

 

 

【ワインの場合】

ワインは外国のお酒ですから、当初は日本人に理解されなかったとしても不思議はありません。

特にワインに含まれる渋味や酸味などは、日本酒とかなり傾向の異なる味ですから、違和感を感じる日本人も多かったはずです。

そんな背景で、日本酒の三増酒のように、輸入したワインを水で薄めて醸造アルコールを加え、他の副原料を添加するタイプの「ワインもどき」が生まれます。

明治40年に発売されたサントリーの「赤玉ポートワイン」などは、その代表例でしょう。

ポルトガルで伝統的につくられたきた本物の「ポートワイン」とは全くの別物ですが、渋味や酸味がなく甘く味付けされた「赤玉ポートワイン」は大ヒット商品になりました。

そんな「甘口ワイン(もどき)」の時代から、徐々に辛口のワインも理解されるようになったことは良いのですが、それが行き過ぎて、伝統的な甘口ワインまで「キレが悪い、初心者向け、子供っぽい」と考える人も出てきたように思います。

 

 

 

三種のお酒について考えてみましたが、なんとなく似たような傾向があるように思われませんでしょうか。

味の評価も、世相を反映しているように思います。

特に外国の文化については、初期段階には理解が浅くなってしまうのも仕方のないところですね。

 

今では、豊かな味わいの日本のクラフトビールなどもたくさん作られるようになりました。

日本酒の辛口信仰がバカバカしいと考える人も増え、以前のように吟醸酒が過度にもてはやされることもなく、自然な甘味があるお酒の良さも理解されるようになりました。

過去に投稿しました「ヴィナイオータ」さんのナチュラルワインなどは、言わずもがなです。

実に豊かな広がりのある長い余韻を感じるワインが非常に多いです。

「キレ」「辛口」などと言った薄っぺらい価値観でなく、時代とともに、だんだん理解が進んできたのでしょう。

 

 

他の調味料などでも、実は似たような傾向を見せるものもあります。

甘味をつける用途で、特に清涼飲料水などには「ぶどう糖果糖液糖」が多用されますが、これは砂糖よりも「キレがよい」と評価されています。

人口甘味料とて同じです。

お酢を例に取ると、良い酢は豊かな丸い味わいですが、安価な大量生産品はただ酸っぱいだけで、しかし見方を変えればシャープでキレのある味わいと評価することもできるわけです。

 

こんな状況を、どのようにお考えになりますでしょうか。

 

 

私共は昆布屋ですので、だしの味を見るわけですが、構図は似ています。

大阪では古くから昆布の味わいとして、「辛口」や「キレ」でなく、うまみと甘味を兼ね備えたものが求められてきました。

その一方で、プロの料理人さんでも「だしの味のキレ」に言及される方もいます。

「夏には、清涼感を感じられるように、だしをキレのある味に」などと仰る方もありますが、それは冬場との比較の相対的なものでしょう。

強烈な力を発揮するうまみ調味料全盛のこの時代ですから、「ベタベタしたうまみ」、はそこらじゅうに溢れています。

その一方で、自然の素材だけで、相対でなく実質的に「暑苦しい味のダシ」など、存在するでしょうか。

 

 

こんぶ土居では今後も、「良い余韻に浸れるような豊かな厚みのある味わい」を追求します。

だしに「キレ」なんて本当に必要なのか、よく考えてみる必要があるように思います。

 

(次回、【昆布だしの味 vol.2/3】魯山人を鵜呑みにしないで(だしの取り方) に続きます)

 

 

劇的美味!昆布バター

 

これまで、あまりレシピのようなものはご紹介して来ませんでしたが、今回は面白い昆布の使い方と、それを知るに至った経緯についてのお話。

 

タイトルの通り「昆布バター」、使うのは昆布粉末です。

 

 

 

大阪の淀屋橋に「コホロエルマーズグリーンコーヒーカウンター 」というお店があります。

 

 

 

数年前に、そちらの店長さんが私共を訪問され、「業務用で昆布の粉末を購入できないか」とご相談下さったのです。

その際、「何にお使いですか」とお尋ねしたところ、バターと混ぜるとのこと。

そんな使い方をしたことがなかったので、とても驚きました。

後日、有難いことに、わざわざ昆布粉バターを使ったタマゴサンドを持って来て下さったのですが、味を見て本当に美味しくて驚きました。

不思議なほどの好相性です。

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ただ、自分でも迂闊だったと思うのは、過去に類似のものは経験していたのです。

私の友人の料理人が、フランスで仕事をしていたとき、帰国時にバターをお土産にくれていました。

なにしろフランスのバターの品質は素晴らしいです。

日本のものと何が違うのか分かりませんが、やはり本場はすごいのです。

そんなお国柄ですので、フレーバーバターも多く販売されています。

お土産で頂いたものの中には「海藻バター」もありました。

その海藻に昆布が含まれているかどうかは分かりませんが、その時に、昆布とバターの相性について気づくべきだったと思うので、悔しいものです。

 

 

 

前述の「コホロエルマーズグリーンコーヒーカウンター」さんでは、一昨年「だしの取り方教室」を開催させていただいたり、現在でも有難いお取引が続いています。

 

昆布粉バターは、柔らかくしたバターと昆布粉を混ぜるだけですので、とても簡単です。

「コホロエルマーズグリーンコーヒーカウンター」さんは、レシピを公開しておられます。

下記ご参照いただき、是非その不思議な美味しさを体験してみて下さい。

驚かれると思います。

 

(とは言え、乳製品の取りすぎにはお気をつけ下さい(特に女性)。 そんなお話は、また後日に投稿致します。)

 

info.envelope.co.jp

 

 

 

 

 

 

 

(学び)昆布の佃煮を炊いてみて下さい

 

 

こんぶ土居の店頭では、量り売りで3センチ角ほどの四角形に切った昆布を販売しています。(オンラインストアでは販売していません)

お客様から、「これは何に使うのですか」とお尋ねいただくことが、多々あります。

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大阪では古くから昆布の佃煮が名物でした。

昆布自体の産地は北海道なのに、「大阪名物」なのです。

今は下火になりましたが、特にご高齢の方には大阪土産の定番と認識されているのは間違いありません。

いかに昆布文化が大阪に深く根差したかが、分かる事例です。

こんな土地柄ですので、家庭で昆布の佃煮を炊く方も多かったのです。

つまり、前述の角切りの昆布は、ご自宅で昆布の佃煮を炊くための材料としてご用意しているものです。

 

 

家庭の鍋と熱源で、何の問題もなく炊くことができます。

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調味料の配合などは、お好みで変えていただければ良いのですが、家庭の鍋で作りやすい量でシンプルなものを載せておきます。

 

昆布 200g

濃口醤油 200cc

みりん 50cc

水 800cc

(醤油もみりんも、ぜひ伝統製法の本物をご用意ください。)

 

だいたい昆布の5倍量の調味液で炊くとお考えいただければ良いと思いますが、鍋のフタの密閉性や、火の強さで変わります。

 

炊き方は、とても簡単

①角切りの昆布をさっと洗ってざるにあげておく。

②水と調味料を全て鍋に入れて、沸騰させる。

③沸騰後、アクが出てきたら、取り除く。

④昆布を投入し、強火のまま再沸騰させる。

⑤火力を、なんとか沸騰を維持できる程度の極弱火に落として、蓋をして約二時間ほど加熱する。(たまに、底から混ぜて下さい。味見をして固ければ時間を延長して下さい)

⑥調味液のほとんどが昆布に吸い込まれたらできあがり。

 

これだけのことです。何も難しいことはありませんね。

 

タイトルに、「昆布の佃煮を炊いてみて下さい」と書きましたが、理由はかんたん。

本当に素晴らしくおいしいからです。

甘さに頼ることなく、ほとんど醤油だけで炊いているにも関わらず、しみじみと力強い美味しさを感じていただけるはずです。

改めて昆布は、すごい海藻です。

 

上記の分量でも、けっこうたくさんできますから、おすそ分けも良いと思いますし、冷蔵庫では長期間保存することができます。

あまり少ない量で炊くと、上手に仕上げるのが難しくなるかもしれません。

 

 

そして、ここから得られる「学び」がひとつ。

ご自分で最高の原料を揃えて炊いた自家製昆布佃煮と、市販品との味が、全く異質なことにお気づきになるはずです。

美味しいとかまずいとか、そういった話ではなく、『異質の味』なのです。

例えばデパートなどで、贈答品として高級そうに売られているものとて同じです。

 

これはつまり、市販品は「原材料の何かが違う」ということです。

原材料表示には抜け道がありますから、人工的なものが何も入っていないように見える製品があるかも知れません。

しかし、隠れている物の存在を、味の違いが示してくれます。

(原材料表示の抜け道に関しては過去投稿をご参照ください)

2020-05-27投稿 表示を免除されるもの① 原材料の原材料

2020-05-28投稿 表示を免除されるもの② キャリーオーバー

2020-05-29投稿 表示を免除されるもの③ 加工助剤

2020-05-30投稿 表示を免除されるもの④ 栄養強化目的

 

 

その一方で、もしよろしければ、こんぶ土居がつくる昆布の佃煮の味も見て下さい。

(昆布佃煮、ふりかけ等 - こんぶ土居オンラインストア)

家庭で上手に炊けたものと、同じ傾向の味がするはずです。

こうなる理由を、ぜひ想像して頂きたいところです。

 

 

やはり、自分で料理することは本物を知るために、とても大切です。

昆布の佃煮を炊いて体験することで、食品業界にありがちな裏側も、なんとなくご理解いただけるようになるかと思います。

 

 

 

だしの用途だけでなく、天然真昆布は、佃煮にしても最高です。

天然物と養殖物は、味だけでなく食感も大きく違うのです。

だしをとる際には、味の違いは感じても食感の違いはわかりませんね。

不作続きの天然真昆布。

本当においしい昆布の佃煮が食べられるのは、今のうちかも知れませんよ。

是非お試し下さい。

 

 

(余談)

昆布の佃煮は、大阪では「塩昆布」と呼ばれます。

しかし今は、細切りになって乾燥した状態のものを、そう呼ぶことが多いようです。

これは私共の認識では「塩ふき昆布」です。

つまり、濡れている状態の佃煮が「塩昆布」であり、乾燥して表面に粉が浮き上がっているものが「塩ふき昆布」です。

この本来の呼び方を続けたいですが、世間の認識が変わってきているので、少し悩みます。

 

しおふき昆布 - こんぶ土居オンラインストア

 

 

 

 

「KONBU」でなく「KOMBU」?

予防線を張るようですが、今日の投稿は、どうでも良いような話です。

 

前回のブログでご紹介しました、ローカルカルチャースクール.jpの「だし文化プロジェクト」。

https://localcultureschool.jp/products/movie02

 

動画には、海外の方にもご理解いただけるように、英語字幕がついていました。

その中で、昆布は「KOMBU」と表記されています。

個人的には、「こ・ん・ぶ」なのですから、「KO・N・BU」でないのかと思うのですが、NでなくMが使われています。

 

どうしてこうなるのか、少し理由を調べてみますと、ローマ字表記には「ヘボン式」と呼ばれる方法があり、その中で「撥音:B、M、Pの前の「ん」は、NではなくMで表記する」決まりがあるようです。

 

こうなる背景には、発音に関する話があるようで、色々と読んでみましたが、よく分かりません。

英語の単語では、必ずしも「撥音の前ではNでなくM」というわけではありません。

例えば、「INPUT」と「IMPORTANT」。

INPUTは、撥音である「P」の前に「N」が来ていますね。

 

ヘボン式の記載ルールはあるにしても

「こ・ん・ぶ」の「ん」は、ひらがな50音の「ん」

「KO・M・BU」になるのは

個人的には違和感があります。

 

こんぶ土居は、これからも「KONBU DOI」 です。