こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

煮干しの頭は美味しいですよ

 

今日は、煮干しについての豆知識的な投稿です。

煮干しでダシを取るときに、やはり気になるのは、魚ならではの生臭さや内臓由来の苦み。

それ故、煮干しを敬遠する方も多く、とても残念に思います。

こんぶ土居では、煮干しの水出しをお勧めしていますが、それによって魚臭さや苦みが少ないだしが簡単にできます。

 

ポットなどに、冷水と昆布と煮干しを入れ、冷蔵庫で一晩放置して下さい。

加熱の必要はありません。

十分に時間が経過したら、底と表層で濃度の差ができていますので、底からかきまぜて下さい。

それだけで昆布と煮干しのだしの完成です。

(長く漬けすぎると良くないので、一晩経過したら昆布と煮干しは取りだして下さい。)

 

 

冷蔵庫で抽出するなら、頭やハラワタがついたままでも、生臭さなどはあまり気になりません。

急ぎでだしが必要な時は加熱するしかありませんが、時間があるのなら加熱するメリットはほとんど無いとお考え下さい。

 

 

更に上品なだしにしたい方は、一般に言われるように頭とハラワタを取り除くことになるでしょう。

しかしこれは、厳密に言えば少し違うのです。

臭いのは、「頭とハラワタ」ではなく「エラとハラワタ」です。

頭自体は、なかなかおいしいものです。

 

ですので、せっかくひと手間かけて「頭とハラワタ」を取り除こうと思う方は、そこから更に少し進んで「エラとハラワタ」を取り除いて、身と頭を活用することお試しいただければと思います。

 

【内臓の取り外し方】

これは簡単です。

①胴と頭を外す

②煮干しの背中に爪を立て、縦に半分に割る。

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③割った二つのどちらかの腹の部分に内臓がついているので取り除く。

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右の黒いのがハラワタです。

 

 

【エラの取り外し方】

頭の部分の内部にあるエラを取り除く。

下の写真の左のものがエラです。

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拡大すると、こんな感じです。エラは、血液に酸素を取り込むための器官ですから、やはり血生臭いようです。

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(煮干しの割り方などは、香川県の「いりこのやまくに」さんに教えていただきました。)

https://paripari-irico.jp/

 

 

 「頭と内臓」よりも、「エラと内臓」なら捨てる部分も少なくなり、より有効活用だと言えるのではないでしょうか。

 

その他、ダシを取る前に煮干しを煎ったり、更にクセを抑える方法もありますが、やはり簡単なのは冷水でゆっくり抽出することかと思います。

 

昆布と煮干しの水だし、間違いなく世界一簡単なダシでしょう。

是非お試し下さい。

(だしがらも、是非ご活用下さい。)

 

煮干しに関係する過去投稿も、併せてご一読下さい。

併用もアリ、鰹節と煮干しのだし - こんぶ土居店主のブログ

ミネラルいりこんの役割 - こんぶ土居店主のブログ

 

 

新しい昆布の可能性

 

昆布は日本独自の食文化ですが、今や世界に進出し、新しい世界が拓けてきています。

数年前、仕事でサンフランシスコを訪れた時は、一部の高級スーパーの海藻コーナーの充実ぶりに目を見張ったものです。

日本の普通のスーパーより海藻売場が広いようにすら感じました。

 

 

例えば、「あらめ」という海藻を、ご存じでしょうか。

 

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アメリカ西海岸では、こんな製品が普通に販売されていました。

 

多くの種類の海藻が売られていましたが、注目すべきは、そのパッケージの製品名です。

ご紹介した「あらめ」も「ARAME」と表記されていますし、「KONBU」「WAKAME」などと、ほとんどが日本語のアルファベット表記なのです。

昆布は英語では「KELP」という単語が当てられますが、「KONBU」として売られます。

これは、海藻食の世界では、日本がお手本であるということを示しているのではないでしょうか。

また、販売だけでなく、今や世界のたくさんの国で昆布類の養殖は始まっています。

当然ながら昆布の養殖は、日本で初めて実用化されたものです。

 

 

私の友人で台湾人がいるのですが、先日、あるスペインの海藻販売会社の情報を教えてくれました。

www.portomuinos.com

こちらの会社でも、本当に多様な海藻を販売されています。

この会社のサイトの興味深いところは、レシピが掲載されているところです。

スペインの会社ですので、当然日本料理のレシピではないのです。

海藻の特徴であるのですが、西洋料理にも全く問題なく利用可能です。

レシピを見ているだけで、新しい昆布の可能性を見るようで、楽しくなります。

 

私がサンフランシスコに行った際も、日本人とは全く違う昆布の利用法を見て、それがとても美味しかったのが印象的でした。

こんな実例を目にすると、まだまだ昆布には新しい可能性が秘められているように思います。

 

 

こんぶ土居製品でも、昨年、シタール奏者の石濱匡雄さんのご協力で製品化した「ミネラルいりこんスパイシー」。

「煮干し」と「大豆」と「昆布」をスパイスで味付けして合わせています。

その昆布には甘味を効かせてコリアンダーシードの香りを纏わせていますが、日本独自の使い方とは全く異質のものです。

しかし、伝統的な昆布の利用に軸足を置く私たちが食べても、本当に不思議と美味しいのです。

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日本人の悲しい傾向として、自国の素晴らしい文化の価値に気づかず、捨て去ってしまうことが多いように思います。

海藻食の世界の本場は、間違いなく日本です。

美味しさと共に、健康価値も強く評価されています。

その価値を世界が評価している今、日本人も、認識を新たにしていただきたいと思います。

 

 

こんぶ土居のウェブサイトのトップページには、下記のような一文を書いています。

「こんぶ土居では、伝統ある大阪の食文化を守り育て、本物を次代に伝えることが私どもの使命だと考えています。また、伝統を大切にしながら、時代に合った便利な製品の開発、お求め易い価格の新製品等、常にお客様の立場に立った食品づくりを心がけております。」

 

昆布の本場は日本ですが、狭い世界に留まることなく、新しい世界にも目を向けていきたいと思います。

 

 

 

煮汁など、無いのです (直火釜の煎り炊き)

 

来店されるお客様の中で、たまに「昆布の佃煮の煮汁は無いですか」とお尋ねになる方があります。

あいにく、こんぶ土居には煮汁はありません。

ただ、そういったものが販売されている事例があることは承知しています。

 

 

昆布を醤油や味醂などの調味料で煮込むのですから、煮汁があるはずだと思われるのも、よく分かります。

しかしこんぶ土居の煮汁は、最終的に全量が昆布に吸収されるのです。

炊いている途中の写真を見ていただければ、理解し易いかと思います。

 

まずは、炊き始めの状態は、こんな感じです。

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 最初はたっぷりの調味料の中で昆布は煮込まれていきます。

しかし煮込んでいけば、だんだん調味料は少なくなって。。。

 

最終的に、こんな状態になるのです。

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 昆布が完全に露出し、釜の底には僅かに調味液が残っているだけです。

 

 

大阪の伝統的な昆布佃煮のつくり方は基本的にこの方法で、業界では「煎り炊き」と呼ばれることがあります。

これとは別に、通称「浮かし炊き」と呼ばれる方法もあります。

これは文字通り、昆布が浮いたような状態で炊き上げる方法で、調味液にどっぷり浸して炊くので、最後に煮汁が残るわけです。

 

「浮かし炊き」が悪いと言うことはないのですが、昆布由来のおいしさが煮汁に残ってしまうということになります。

それを補うために、うまみ調味料が使われたり、といったことにもつながりやすいようにも思います。

 

メーカーが「浮かし炊き」を採用する理由は、作るのが簡単だからでしょう。

そもそも「煎り炊き」では、調理の終盤には調味液が少なくなりますから、焦げるリスクが出てきます。

「浮かし炊き」なら、最初から最後まで調味料がたくさんある状態ですので、焦げたりはしないかと思います。

また、「煎り炊き」では、火の通り具合や味の入り方を均一にするため、調理中の「天地返し」が必要になってきますが、「浮かし炊き」ではそれも必要ありません。

 

 

似たような構図を見せるものに、調理に使う釜があります。

釜に直接ガス火が当たる「直火釜」と、高温の蒸気を釜全体に当てて加熱する「蒸気釜」です。

「直火釜」であれば、焦げないよう微妙な火力の調整が必要ですが、蒸気釜なら誰が作っても失敗のリスクは一切ありません。

また、大量調理に適しているのは蒸気釜で、直火はあまり大規模にはできません。

 

 

「煎り炊き」「浮かし炊き」「直火釜」「蒸気釜」、どれでも特に問題は無いのですが、最も美味しいものができるのは、昔ながらの「直火釜で煎り炊き」ではないかと思っています。

このような事情ですので、こんぶ土居では煮汁は一切販売していません。

 

 「昔ながらの秘伝の製法で炊き上げました!!」などと特に謳っていませんが、今後も粛々と大阪の伝統製法を継承したいと思います。

 

地域性と独自性を考える ~ らくだ坂納豆工房 ~

 

前回投稿↓の続きです。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

前回の投稿で、日本の伝統食品である納豆ができる仕組みについて書きました。

ご紹介した通り、市販されている納豆は、稲わら由来の菌でなく培養された菌が使用されているものがほとんどです。

 納豆製造会社さんが使う納豆菌は、選抜され培養された納豆菌ですから、優秀なのです。

何も問題ないと思います。

ただ、「菌のテロワール(※)」なんてことも最近よく聞かれるようになってきました。

 

ひとことで納豆菌と言っても、非常に多くの種類があり、まだ発見されていない納豆菌も無数にあります。

しかし、一般的に納豆メーカーが使う菌は、主に「宮城野菌」「成瀬菌」「高橋菌」の三種だと言うことです。

(※テロワール(Terroir)とは、「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉である。 もともとはワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指すフランス語である。 同じ地域の農地は土壌、気候、地形、農業技術が共通するため、作物にその土地特有の性格を与える。)出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 

これでは、どこのメーカーの納豆を食べても、似たような味になるのは致し方のないところでしょう。

それが悪いというわけではないのですが、多様性はないですね。

 

 

 

そんな中、こんぶ土居のすぐご近所で、面白いものづくりがスタートしています。

歩いても10分くらいの距離に「味酒かむなび」という飲食店があります。

ミシュランの星も獲得しておられる、素晴らしいお店です。

そのかむなびさんの新しいお仕事として、なんと納豆の製造業を始められました。

その名も「らくだ坂納豆工房」の「谷町納豆」です。

https://www.facebook.com/rakudazakanattou/

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こちらの納豆の特徴は、なんといっても、稲わら由来の納豆菌だけで発酵していること。

このように、容器の中には、大豆と共に藁が数本入っています。

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この納豆が、とても美味しいのです。

使っている大豆の良さもあるかとは思いますが、稲わら由来の納豆菌だけで発酵させていることも、大きく関係しているでしょう。

かむなびさんはお店で日本酒を提供されますから、醸造蔵とのお付き合いもあって、日本酒の原料として使うお米の、良い藁を手に入れられるそうです(大阪の能勢の「秋鹿」の酒米も作る有機農業「原田ふぁーむ」さんのワラ)。

であるならば、この「谷町納豆」は、その酒米テロワールが活きた納豆と言えるのかも知れません。

それは、純粋培養菌では出せない良さでしょう。

ひょっとしたら培養納豆菌は、「おいしい納豆ができる菌」ではなく、「製造しやすい菌」なだけなのかも知れません。

可能であれば、是非この谷町納豆を食べて、一般的な納豆との違いを感じてみて下さい。

 

 

納豆以外の発酵食品でも、同じような動きが徐々に盛んになってきているように思います。

最近では、自家培養酵母(一般に言われるところの天然酵母)でパンを焼く方は、プロアマ問わず、たくさんおられますね。

日本酒の蔵元などでも、協会酵母を使わずに醸すことをトライする方なども現れてきたようです。

私の知り合いですが、北海道の七飯町で山羊を飼う山田農場さんは、無殺菌乳で自生乳酸菌を使ってのチーズづくりを続けておられます。

少し調べてみますと、エシレバターのウェブサイトにも、「発酵を促す乳酸菌も昔から受け継がれています。エシレバターは、テロワール(土壌)の賜物なのです。」との一文がありました。

純粋培養された菌が悪いというわけでは決してないのですが、それと別の価値観である「独自性・地域性」のようなものがあるなら、それは小規模な食品生産者の生きる道なのかも知れません。

 

 

 以前にもご紹介したイタリアのナチュラルワインのインポーターの「ヴィナイオータ」さんのウェブサイトには、下記のような表現がありました。

 

自然に対して畏怖の念を抱いているのなら、自然環境に最大限の敬意を払った農業を心がけるでしょうし、ヴィンテージやテロワールなど、その年、その場所、その土壌の“自然”が余すことなく反映されたワインを理想とするのなら、醸造時に過剰な介入はしないでしょう。

不思議なことに、このように造り手が“我”を捨てて、その時、その瞬間の良心に従ってできたプロダクトには、唯一無二の個性が付与されます。

年の個性、土地の個性、品種の個性、そしてヒトの個性…

 

 

特に安全性に関わる事は、人間が厳しくコントロールすべきでしょう。

しかし、ヴィナイオータさんの言うように、過度な介入をせずとも問題ない製品ができる場合には、「できるだけ自然に」つくった方が魅力的なものになるようにも思います。

そこから生まれる変化を「製品の品質が安定しない」とネガティブに捉えるか、「個性のうち」と捉えるのか。

どちらでも良いとは思いますが、ガチガチにコントロールしようとするのは、少し難があるのかもしれません。

 

 

私共の昆布屋としての仕事とて同じでしょう。

安全性は最優先事項ですし、できるだけ品質も安定させたいです。

それでも、それが「過度」でないように注意しながら、こんぶ土居の個性、大阪の伝統食の個性が感じられる、ヴィナイオータさんの言う「その時、その瞬間の良心に従ってできたプロダクト」をお届けしていきたいと思っています。

 

納豆、見事な微生物コントロール

納豆は日本人にとってありふれた食品ですが、先人の素晴らしい知恵が活きたとても面白い仕組みによってできています。

厳密に言えば、「先人の知恵が活きていた」に近いかも知れませんけれども。

 

 

納豆菌は、非常にありふれた菌で、いたるところにいるようです。

特に多いのが稲わらで、米を主食とする日本人には身近な菌です。

 

昔ながらの納豆の製法は、蒸した大豆を稲わらに包んで発酵させるわけですが、普通そんなことをすれば、発酵と言うより腐ってしまうのではないでしょうか。

ここに、納豆菌の性質を活かした素晴らしい仕組みが関係してきます。

 

細菌は、ふつう熱に弱いものです。

食品衛生のための殺菌方法でも、その主を為すのは加熱殺菌です。

例えば大腸菌なら、60℃で15分、サルモネラなら55℃で10分、黄色ブドウ球菌なら60℃で2.5分の加熱で、といった具合で、ほとんどの菌はある程度の高温で死滅します。

 

 

しかし、一部に熱に強い菌がいるのです。

それらを「芽胞菌」と総称します。

例えば、食中毒の原因となるボツリヌス菌は、芽胞を形成し、120℃の高温で加熱しないと死滅しません。

つまりグラグラ沸いている熱湯の中でも死なないのです。

そして、納豆菌も芽胞菌であり、同じ性質を持っています。

 

 

伝統的な納豆づくりの際には、蒸した大豆をそのまま稲わらに包むのでなく、一旦熱湯で茹でた稲わらを使います。

こうすることで、稲わらに付着するほとんどの種類の細菌は死滅しますが、熱に強い納豆菌が選択的に生き残り、他の雑菌の影響が少ない条件下で発酵することができるわけです。

昔の人は芽胞のことなど知らずとも、稲わらを熱処理すれば腐敗しないことを経験的に学んだのでしょう。

 

しかし、今では日本で製造される納豆のほとんどは、このようにして作っていません。

例えばスーパーやコンビニへ行って、売られている納豆の原材料表示を見て下さい。

「大豆、納豆菌」となっているはずです。

つまり、稲わら由来でなく、培養した納豆菌を菌メーカーから買ってきて添加しているわけです。

これは、伝統的な製法とは違いますが、決して悪いことではありません。

 

そもそも、いかに事前に稲わらを熱湯処理をしようとも、他の細菌の影響をゼロにすることはできないでしょうし、納豆菌と言っても種類があるようで、どの納豆菌が発酵に関わるかは未知数です。

それに比べて、販売用に培養した納豆菌は、言わば納豆づくりの理想に近い選抜された菌です。

安定して良いものができます。

安全性についても、品質安定についても、間違いなく稲わら由来の菌より培養菌が上です。

 

上である「ハズ」なんです。

しかし、そこは食品の奥深いところ。

おいしさの観点からは、理屈通りになるとは限りません。

 

次回の投稿では、納豆などの発酵食品を例に、食品のおいしさを形作るものの複雑さについて書く予定です。

食品の仕組みの理解が進み、味覚センサーなどの感知機械も進化していますが、まだまだ自然と人間の感覚の活躍する余地は残されているようです。

 

(次回投稿↓へ続く)

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

ヤイリギターとこんぶ土居(後編) ~「品質は最高なんだ‼」一辺倒からの脱却 ~

前回の投稿「ヤイリギターとこんぶ土居 (前編)」の続きです。

 

ヤイリギターさんの社訓は

「高品質より我ら生きる道なし」

です。

 

こんぶ土居も同じように考えて、ものづくりを続けてきました。

今後も同じように続けます。

 

こんぶ土居が追求した高品質とは具体的に何であったかと言えば、

①おいしさの面で高品質(明確な基準で選択した良質な原材料を使用)

②安全性の面で高品質(食品添加物を一切使用しない)

この二点に集約されるかと思いますが、将来その「価値」が目減りしていくのではないかと心配しています。

 

 

①の「おいしさ」については、昔と比べて食品製造技術が進歩していますから、一般的な安価な製品でも「まずいもの」なんて、もはやありません。

特別おいしくなかったとしても「まずい」と断言できてしまうようなものはないと思います。

 

②の「安全性」についても、古い時代には、食品添加物や農薬などの薬品の害によって、大変な健康被害が出た事例も多々ありました。

しかしそれとて、「黎明期に十分な理解がなかったから」と考えることができるかも知れません。

実際に、過去には命に係わる重大な食品事故が頻発しましたが、最近はそんな話はほとんど聞きません。

つまり、理解が進んできたのでしょう。

 

 

共に素晴らしいことです。

人の理解と技術が進み、まずいものがなくなって、食品に含まれる薬品よって健康を害すリスクが軽減したのですから。

 

 

こんぶ土居が取り組んできた

「安全で良質な原料を使うことでの高品質」は、時が進んでも、価値を無くすとは考えていません。

しかし、無くなりはしなくても、価値が「目減り」するだろうと思うわけです。

こんぶ土居製品が、美味しさや安全性で優良であったとしても、平均的な製品の品質向上によって、差が縮まってくることが考えられます。

 

 

 こんぶ土居が近い将来に確実に直面する主な脅威は、下記のようなものでしょうか。

①環境悪化による良質な原料昆布の不作、調達困難

②食品テクノロジーの進化による、安価な大量生産品の品質向上

③高齢化の影響で、こんぶ土居のものづくりを支えた良質な製造原料生産者が、今後急速に廃業や事業縮小の見込み

(昔ながらのものづくりを支えた団塊の世代、またはその少し後の世代は、人口ボリュームゾーンであり、今後10年ほどで大量に仕事を引退し一気に従事者が減少します)

 

これら以外にも、細かいものを挙げれば、ほんとうにたくさんあります。

 

 

ヤイリギターさんも、同じような構図ではないかと想像します。

例えば

〇環境の悪化や、林業従事者の減少によって、良質な木材の調達が困難になってきたり

〇良質な木材に引けを取らない音を奏でるギター用新素材が開発されて、特に木にこだわる必要性が薄れたり

〇AIやテクノロジーの進歩によって、熟練の職人の技術を越える精密な木材加工機械が生まれたり

 

 

 

産業革命以後は、「誰かの仕事が別の何かによって代替されてきた歴史」と考えることができるかと思います。

これは別の言い方をすれば「淘汰」です。

私たちの仕事も、常に淘汰圧に晒されています。

古い時代には、食品生産の仕事は例外なく小規模でした。

それが今ではたくさんの巨大食品企業が存在するわけですから、その裏で多くの作り手が淘汰されてきたことは間違いありません。

今後、その流れが元に戻っていくことは、普通に考えれば起きそうにありません。

その淘汰を過度に悲観するのでなく、新しい時代に対応した「新しい価値」を提供できないのなら、「そうなって当然だ」と捉えるべきでしょう。

 

 

先日、化粧品業界の専門誌「現代粧業界」のインタビュー取材を受けた際に、終わり際に色紙を渡され、自分の仕事について何か書くように頼まれました。

座右の銘でもなんでも良いから書いて下さい」と言われ、悩んだ挙句、

「常に問う、社会的意義のありやなしや」

と書きました。

 

問うているわけですから、明確な答えが自分の中で出ていないわけです。

社会の変化によって、ある価値が目減りするなら、別の意義を加えるしかありません。

これまで通りの姿勢のものづくりは続けつつ、どんな新しい価値を提供可能か、しばらく考え続けることになりそうです。 

 

(了)

ヤイリギターとこんぶ土居 (前編) ~ 勝手に抱く親近感 ~

 

下手の横好きですが、少しギターを弾きます。

若かりし頃に初めて買ったアコースティックギターをずっと愛用しているのですが、岐阜県可児市で手工ギターをつくる「ヤイリギター」というブランドのものです。

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このヤイリギターさん。

ものづくりの姿勢が、こんぶ土居と似ている気がして、勝手に親近感を感じています。

 

 

例えば。

良いギターづくりは、良い木材探しから始まるのです。

木材は乾燥するにつれ歪みが生まれますから、十分に乾燥していることが精度の高いものづくりに欠かせません。

そのため、ヤイリギターでは5年以上の歳月をかけ自社倉庫で十分に自然乾燥させた木材を使うそうです。

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これは、昆布に求められることとそっくりです。

 

近年の状態化した大不作によって、幻の高級品となった白口浜の天然真昆布。

にも関わらず、こんぶ土居の店頭では、現在でも平気な顔で販売しています。

これは、こんぶ土居が十分な在庫を持って営業をしてきた証左であり、安定供給の目的と共に、熟成による品質向上の意味でもありました。

 

 

『良いギターづくりのために、十分な木材を自社で保管し、自然乾燥させるヤイリギター』

『良い昆布をお届けするために、十分な原料昆布を自社で保管し、熟成させて使用するこんぶ土居』

このそっくりな構図が、私がヤイリギターに親近感を感じる理由です。

 (※ギター木材の「自然乾燥」とは、機械乾燥でないという意味です。乾燥の方法が品質を左右するのは、昆布も同じです。また機会があれば、別投稿でご説明します。)

 

 

ヤイリギターの掲げる社訓は、『高品質より我ら生きる道なし』です。

こんぶ土居も、言わば同じ考えで営業してきました。

良い製品をつくるには、良い原料を使い、正しい手をかけることです。

 今後も、これまでと「同じ考え方」でものづくりを続けますが、その一方で、「同じ考え方のみ」では早晩行き詰まりが生まれるようにも考えています。

その理由や、こんぶ土居が進むべき道について現在考えていることを、次回の投稿で書きたいと思います。

 

 

私のギターの腕前は正にズブの素人ですし、品質に関して十分理解しているとは言い難いと思いますが、初めて買ったヤイリギターをとても気に入って長く使っています。

ご興味あれば、ヤイリギターのものづくりの精神が書かれたウェブサイトもご参照下さい。

www.yairi.co.jp