こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

昆布が海の中でダシが出ないのなんでだろう〜

 

タイトルのような漫才のネタがありましたが、これは昆布に関する疑問の定番でしょう。

川田一輝さんと仰るラジオのDJさんが、かわいらしいイラストつきで説明されたものがあり、非常に分かりやすいです。

海の中でコンブから出汁がでないのはなぜ? | 知って得する!川田一輝のお魚あれこれ No.88 | p1 | WEBマガジン HEAT

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この川田さんが説明されている通り、大切なポイントは、細胞壁や細胞膜が破壊されているかどうかです。

海の中で生えている時には、膜構造が十分に機能して中のエキス分が溶出しづらいのは、イメージしやすいかと思います。

 

膜構造の破壊につながる代表的な要因は「加熱」と「乾燥」です。

だしを十分に抽出するためには、このどちらかが必要条件であるとお考えいただいて良いかと思います。

 

例えば、干し椎茸。

干したものなら水に浸すだけでダシが出るのに、生の椎茸を水に浸しても、ほとんどダシにはなりません。

これは、「乾燥」によって膜構造が破壊され、干椎茸のエキスが溶出している事例だと捉えることができます。

 

例えば、丸鶏スープ。

チキン一羽を寸胴で煮込めば、おいしい丸鶏スープがとれるでしょう。

しかし、丸鶏を冷水にいくら浸していても、エキスはほとんど出てきません。

これは、煮込む際の『加熱』によって、鶏肉の膜構造が破壊されたからだと考えられると思います。

野菜のダシなども同じです。

生の野菜をいくら水に浸してもダシにはなりませんが、それを煮るだけで美味しいべジブロスになりますね。

 

冒頭の疑問「昆布が海の中でダシが出ないのなんでだろう〜」も、海中では加熱も乾燥もされていない状態なので、ダシが出ないとお考えいただければと思います。

 

これは、だしを取る方法についてのお話しにもつながります。

販売されている昆布は乾物ですので、乾燥によって既に膜構造が破壊されているわけです。

であれば、加熱は必要条件ではありません。

つまり、十分に時間さえかければ『水出し』が可能なのです。

 

他の日本の伝統的なだしの素材を考えてみますと、

昆布と干し椎茸は「乾燥」が、煮干しと鰹節は製造過程で「加熱」もされています。

つまり、これらの素材は全て、水に漬けておくだけで一応ダシがでます。

 

『一応』と書きましたのは、鰹節の『香り』については、少し別の観点があるからです。

香りの成分は、温度が上がれば多く出る傾向がありますので、それを活かすには、煮だす方が良いと思います。

鰹節の水出しをしてしまうと、少し生臭く感じられるかも知れませんが、これは良い香りによるマスキング効果が出ていないからでしょう。

 

その一方、昆布は香りを楽しむというよりは、うまみの底支えをするのが主な役割ですから、水出しでも全く問題ないかと思います。

煮干しについては、やはり魚臭さがどうしても存在しますから、加熱によって臭いの成分が出るのを抑えるため、水出しの方が良いでしょう。

 

このように、味と香りを分けて考えると、それぞれの素材へのアプローチが整理されて、ご理解いただき易いかと思います。

 

 

昆布だしについては、10年ほど前から、「60℃で一時間煮出すのがベスト」などと言われることが多くなりました。

これは、悪い方法だということは決してないのですが、それを丸ごと鵜呑みにしてしまう事の問題点について、次回の投稿で書く予定です。(↓こちらです)

konbudoi4th.hatenablog.com

 

(了)

昆布と酢

 

昆布は、強い主張のない食品なので、他の食材と喧嘩することは少ないですが、調味料の中で特に良い相性を見せるのが酢です。

酢こんぶは昆布加工品の定番ですし、何よりとろろ昆布類は昆布をお酢に浸して柔らかくして削るものです。

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また、昆布でだしをとる際にでるダシガラにも、お酢は良い働きをします。

グスグスした食感があまり心地よくはないダシガラ昆布ですが、お酢につけると食感が変わるのです。

シャッキリと気持ちの良い歯ごたえに変わります。

不思議なものです。

 

 

昆布の佃煮類をつくる際にも、酢が使用される場合があります。

こんぶ土居製品の佃煮類では使用しませんが、市販品の昆布佃煮の原材料表示に酢が書かれている場合も非常に多いものです。

これは、味のために加えているのではなく、酢を入れると昆布が早く柔らかく煮えるからです。

ただ、酢を使わずとも時間さえかければ柔らかくなりますし、そもそも昆布の佃煮に酸味は不要でしょう。

また、酢の作用による柔らかさは昆布佃煮の本来の食感とは少し違ったものになるので私共では使用しませんが、そんな効果もあるわけです。

 

 

日本の場合は米酢が多いと思いますが、品質は様々です。

昔ながらの本物の酢と呼べそうなものは、残念ながら少なくなっています。

こんぶ土居ウェブサイトには、使用する原材料についての考え方をまとめたページがあり、「酢」については、以下のように記しました。
 
【米酢】 酢は、酒のアルコール分が発酵により酢酸に変化したものですから、考え方は基本的には酒と同じです。伝統的な酢づくりは静置発酵と呼ばれ、仕込み桶の上面のみで酢酸発酵が進みます。これに対し、好気性菌である酢酸菌を活発にするため、強制的に空気を吹き込んで短期間で醸造するものもありますが、時間をかけて醸すものの良さは出ないように思います。自然な甘さを加えるために甘酒が使用されることもあります。酒粕を使用したものも、その質がよければよいのですが、酒粕の品質もさまざまですので注意が必要です。増量のために醸造用アルコールを使用したものは本来の酢とはいえません。
 
端的に表現しますと、「静置発酵の純米酢」ということになるでしょうか。
こんぶ土居製品に使用しているお酢は、良い酢と言えば真っ先に名前が挙がる宮津の飯尾醸造さんの「富士酢」です。
酸度を高くした無濾過の酢を、言わば別注品としてご用意していただいています。
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何しろ有名な富士酢ですからご存じの方も多いと思いますが、農薬を使わず育てられた米を、「米酢」と表示できる量の5倍も使用して静置発酵でつくられています。
 
 
こんぶ土居製品の手加工のおぼろ昆布やとろろ昆布を製造する際には、まず昆布をお酢に浸すのですが、昆布と富士酢が合わさって素晴らしい芳香が製造場に立ち込めます。
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当たり前と言えば当たり前ですが、この香りは使う酢によって大きく変わり、味を見るまでもなくこの段階で素晴らしい品質の酢であることが感じられます。
 
 

一方、様々なメーカーの中で、なんだかアヤシイ製品が見受けられるのも、お酢業界の特徴です。

少し気になるのは、消費者サイドからの「すっぱくないまろやかな酢」といった評価軸が存在することです。

酢なのですから「すっぱくない」は、そもそも変ですね。

ただ言わんとしていることを一応理解できますのは、あまり良くない酢の代表格として、所謂ホワイトビネガー等と呼ばれる薄めた氷酢酸のような製品も存在し、こういったものは本当にただ酸っぱいだけで、刺激が強くとげとげしいものです。

それに比べて伝統的な本物の酢は、より複雑な味で、それこそ「すっぱくないまろやかな酢」とも言えそうですが、実は酸味の柔らかさ自体は容易に作り出すことができるのです。

 

例えば甘さです。

お酢に砂糖を入れて味を試してください。

酸度が下がったわけでもなんでもないはずなのに、不思議と刺激が少なくなります。

同様のことが、うまみ調味料でも起こります。

実験的に、安売りの大量生産品の酢に味の素を入れて味をご覧になって下さい。

一気に酢の刺激が柔らかくなることに驚かれると思います。

お酢醸造工程で、うまみ調味料を加えていたとしても、法の網の目をくぐれば原材料表示を免れることすら可能です(下記、過去投稿でご説明しています)。

表示はなくとも、酢に含まれるうまみ成分の組成を分析にかけた結果、不自然にグルタミン酸量ばかりが多く検出されるような製品が存在しているようですから、嘆かわしいものです。

 

こんな背景もありますので、甘さやうま味調味料で調整できるような分かりやすい話でなく、もう少し深い理解がされることを期待します。

本物が理解されず、ごまかしの製品が高く評価されたりする事例は、良いものづくりをしている作り手さんにしてみれば悲しいものですから。

 

 

最後に、本日の内容に関係する過去投稿を下記にご紹介しておきます。

「表示免除」について書いたもの、過去に酢について書いたもの、無濾過について書いたもの、の3投稿です。

そちらも是非ご一読下さい。

 

 

 

konbudoi4th.hatenablog.com

 

Real Basic Food(新木工房とヴィナイオータだだ食堂)

 

自然環境も社会の状況も、どうやら持続可能でないものが多く見えてきましたから、新しい時代の在り方について、よく考えるようになりました。

 

本ブログでは、ちょうど一年ぐらい前に、こんな投稿をしています。

konbudoi4th.hatenablog.com

タイトルは、「美食に代わる言葉を探す」であったわけですが、昨年書いたこの内容から、一年経った今も考えに変化はほとんどありません。

(上記投稿が未読でしたら、もしよろしければご一読いただけると嬉しいです。)

 

 

私の知り合いに、椅子を中心とした家具を作っておられる作家さんがおられます。

新木さんという方で、本当に素晴らしい技術を持った方です。

realbasic-design.com

先日も、新たに制作していただきたいものがあって訪問してきたのですが、なぜか作っていただきたい椅子と関係ない話ばかり3時間ほどして帰ってきました。

その中で、冒頭のような話もしていたのです。

 

そこで、改めて新木さんのブランド名「Real Basic Design」。

なんとも良い名前だなぁ、と思います。

 

先のブログのタイトルは「美食に代わる言葉を探す」であった訳ですが、当てはまる言葉は、英語で良ければ正にこれかと思います。

「Real Basic Food」です。

 

「グルメ」「美食」とは違って、華美でないベーシックなものでありながら、それが「Real」でなければならない。

「Real」を言い換えるなら、「本物」でしょうか。

「本物」の定義は簡単ではないかもしれませんが、食品に限らず、企業が利益を増やすために、本来あるべきものから外れたものづくりをする事例は多々あるように思います。

 

特別に高級な美食的食品も、もちろんあって良いと思います。

私共の仕事も、その傾向を大いに含んでいます。

しかし、それだけではなく同時に、充実した「Real Basic Food」をご提供できる昆布屋でありたいと思います。

 

 

こんぶ土居と関わって下さっている方々でも、そんなお考えで仕事をしておられるのだろうと思われる事例があります。

例えば、以前のブログでも書いた、イタリアワインのインポーター「ヴィナイオータ」。

konbudoi4th.hatenablog.com

ワインを販売する自社運営店舗では、飲食部門も併設されているのですが、そちらの店舗名は「だだ食堂」です。

dada2020.com

イタリアワインの有名なインポーターが運営する飲食店ですが、提供される料理が、一切派手な要素がなく、本当にベーシックなものばかりなのです。

そう言えば、私がヴィナイオータさんを訪問した際、社長の太田さんがお土産に下さったのは、ご自分で栽培してご自分で干した「切り干し大根」でした。

なんとも印象深い出来事でしたが、こんなところにも、お考えが現れているように思います。

 

このブログを書くにあたり、改めてだだ食堂さんのウェブサイトを訪れたところ、やはりそのようなことが書かれていました。

とても素晴らしい文章だと思うので、以下に引用して載せておきます。

日常に小さなスペシャルを

願いが叶うことであったり、目標を達成すること、はたまた何かしらの祝いごとなど、
人生を彩る喜ばしい瞬間は、もちろん特別なものなわけですが、
大過なく過ぎていく何気ない日常”というのも、実はものすごく特別なことだった…。

そんなことに気付かされちゃった今、僕も含め多くの人が、
「これからは“日常”をもっと丁寧に積み重ねていこう」と考えるようになったのではないでしょうか。
「日常に小さなスペシャルを」をモットーに、2013年にオープンしたダ ダダですが、この度だだ商店 だだ食堂と名前を一新し、母体であるヴィナイオータ本社のとなりへと場所を移しまして再オープンします!

食べることは生きること。
つまり、食を大切にすることは、生を大切にすること。
食、そして生を大切にできたのなら、海であれ、畑であれ、蔵であれ、食が生み出されるありとあらゆる
場所、そして実際に我々の糧となる命あるもの、そしてその場所や命に携わるヒトの存在を意識し、
それらに対して敬意を払うようになる。そして、それらの持続ないし存続を実現するために、
自分たちが何をすべきかに想いを馳せるようになるはず…。

だだ商店 だだ食堂は、そんなことを考えるきっかけやヒントになるようなモノやコトをそこかしこにちりばめ、皆さんの日常がもっと愛おしいものとなるようなお手伝いができるようなお店を目指しております!!

 

ヴィナイオータ 太田 久人

(以上、引用終わり)

これだけ時代の変化が激しいと、私たちが果たすべき社会的意義も変わり、それに素早く対応していかなければなりません。

素晴らしいお取組みをされている方々の仕事も参考にしながら、少しずつでも良い形を目指したいと思います。

 

(了)

 

 

 

史上初?かつおぶし削り器「オカカ」電動化の方法(メーカー非推奨)

(前回投稿の続きです。まずは、こちら↓からご一読ください)

konbudoi4th.hatenablog.com

 

自分で申し上げるのも何ですが、本日の投稿内容は、鰹節を楽に削ることについての「コロンブスの卵」で、なかなか画期的ではないかと自負しています。

(道具の改造を伴います。メーカー非推奨だと思うので、自己責任でお試し下さい。)

 

 

昔から、家庭で鰹節を削るのなら、こういった伝統的な鰹節削り器を使うものでした。

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しかし、これは少しハードルが高いのです。

削ること自体にも技術がいりますし、何より道具のメンテナンスを適切にする必要があります。

そんなハードルを下げてくれる製品が、愛工業という会社が販売している手動の鰹節削り器「オカカ」です。

ハンドルを回して削ります。

 

まずは、この道具の使い方を公式YouTube動画でご覧ください。


www.youtube.com

 

 

この製品は非常に便利で、私も愛用しております。

とても便利なのですが、たくさんの量を削るとなれば、やはりハンドルを回すのに疲れます。

電動の「オカカ」があればいいのにな、と思っていましたが、どうやら過去には存在していたようです。

しかし、今は残念ながら廃番になり販売されていません。

であれば、市販の道具を組み合わせて、自分で「電動オカカ」を作ってしまいましょう。(改造の一種だと思いますので、当然オカカの製造元は推奨しないでしょう。保証もなくなることが予想されるので、自己責任でお試し下さい。)

 

まずは、自作の電動オカカで削っている様子を動画でご覧ください。

youtu.be

このように、ラクラク簡単に大量の鰹節を削ることができます。

大人数用に出しを取る際など、たくさん必要でも全く問題ありません。

 

この「オカカ電動化」に必要な道具は、オカカ本体以外に下記①~③です。

①電動ドリル(機種選びがとても大切です。本投稿末尾で解説しますので、是非チェックを!)

②六角軸ソケットビット

③高ナット(M6サイズ)

以上3つだけ。おそらく4000円ぐらいで揃えられるはずです。

 

 

組み立て手順をご説明します。

 

まず、オカカのハンドルを取り外してください。

引き出しを抜き取り、手を入れ、回転盤を下から押さえて固定し、ハンドルを回せば外れるはずです。

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次に、外したハンドルの代わりに、高ナット(M6サイズ)をつけてください。

高ナットとは、単に長いナットのことです。

工具を使わず、手で回せる範囲で問題ありません。

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普通のナットでも使えないこともないのですが、安定した作業のために高ナットをお勧めします。

こんな状態になりますね。

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次に、電動ドリルの先端に、ソケットビットを取り付けます。

ソケットビットとは、こんな部品です。

電動ドリルやインパクトドライバで、六角ナットを回せるようにするための部品です。

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M6のナットの対辺距離は、たいてい10ミリですので、10ミリのソケットを使用していますが、ナットのサイズに合わせて大きさは選択してください。

 

電動ドリルに取り付けると、こんな状態になります。

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これで出来上がりです!

簡単でしょ?

部品も、全てホームセンターで普通に手に入るものばかりです。

ドリルを高ナットに差し込んで回せば、大量削りもラクラクの、素晴らしく便利な電動オカカライフの始まりです。

 

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前回投稿でも書きましたが、鰹節を自分で削ることは、素晴らしい美味しさにつながるだけでなく、無駄な包材を省いたり、賞味期限切れなどによる食品ロス低減にもつながる、社会的意義のある事だと思います。

伝統的なカンナの鰹節削り器は道具としての美しさもありますし素晴らしいのですが、少しでもハードルを下げて挫折せずに済むよう電動オカカを考えました。

一般の方だけでなく、料理人さんにも強くお勧め致します。

是非お試し下さい。

(了)

 

(それでは最後に、電動ドリルの機種選びについて記載しておきます。)

 

【重要】電動ドリルの機種選定!

条件は、下記の4つでしょうか。

〇十分なパワー

〇スムーズな回転

〇できるだけ軽量コンパクトであること

〇低い回転数

 

多くのメーカーから電動ドリルやインパクトドライバーは販売されていますが、ほとんどの機種が上記のどれかに当てはまらず、使うことができません。

例えば、インパクトドライバーは、基本的に使えません。

打撃を与えて回転力を得るものなので「スムーズな回転」でなく支障が出るのです。

 

回転数も非常に大切で、一般的な電動ドリルの回転数では速すぎます。毎分500回転ほどの低回転型のドリルが必要になるわけですが、選択肢は多くありません。

 

一通り探してみましたが、信頼できるメーカーの品で最も安価に手に入るのはリョービのドライバードリル「 FDD-1000」でしょう。

3000円台で入手可能です。

この機種を使用する場合は、ドライバーモードではパワーが不足しますので、必ずドリルモードでお使い下さい。

 

他社製品にも、いくつかは使用可能だと思われる製品(マキタ MDF001など)もあるのですが、最も安価に調達できるのが、「 FDD-1000」だと思うのでお勧め致します。

 

#オカカ

#電動

 

ゼロウェイストと鰹節

 

環境問題が深刻化する中で、新たな取り組みをされる方々が増えているようです。

私共は昆布屋ですので、海に関わる仕事で、海洋マイクロプラスチックの話も最近よく耳にするようになりましたから関心事のひとつです。

一方、自社の製品を考えてみますと、たいていはプラスチックの袋の入っているわけです。

こういった状況で、なんとか少しでも「脱プラスチック」を進めていくべきだと考え、方法を模索しております。

 

 

タイトルにも書きました「ゼロウェイスト」という言葉。

直訳すれば「ムダなし」になるかと思いますが、できるだけ環境負荷をかけずに、包材などを省いていく取り組みに使われることも多い言葉です。

食品の販売形態で言えば「量り売り」が、それに近いかと思います。

 

 

そんな「量り売りの食料品店」が各地でちらほら現れてきていますので、私共も非常に参考になります。

中でも、「斗々屋」というお店のお取組みは、先進的で非常に面白いものがあります。

数年前に東京でゼロウェイストのお店を始められたのですが、今年、京都にスーパーマーケットに近い品ぞろえで新店舗を開店されました。

ヤフーニュースの記事を貼っておきます。

news.yahoo.co.jp

 

 

実はこの斗々屋さんでは、こんぶ土居製品もお取り扱い頂いています。

その際の納品方法も、非常に興味深いのです。

ゼロウェイストの精神は、販売時だけでなく仕入れ時にも及んでおり、「納品時に昆布製品をプラの袋に入れないで欲しい」と要望いただいています。

洗って繰り返し使えるシリコン製の容器をお預かりしており、それに入れて納品するのです。

また、配送時に使用する段ボールも、新品でないものをご指定になります。

筋金入り、ですね。

 

斗々屋さんのお取組みは、新しい時代に求められる販売形態として、とても参考になりますので、遠方でなければ訪問してみてはいかがでしょう。

 

 

このような量り売り、食品によって、適したものと難しいものがあります。

昆布は比較的取り組み易い方でしょうか。

空気に触れても簡単に劣化することもありませんし、大きな問題は起きにくいものです。

しかし難しいのが、ダシの世界で昆布の相棒である鰹節です。

量り売りということは、容器に入った食品を必要量だけ取り出して販売するわけですから、当然その際に容器内に空気中の酸素が入ります。

こういった状況は、酸化に弱い食品には厳しいのですが、鰹削り節はその代表格でしょう。

どんなに品質の良い鰹節であっても、削った後に酸素に触れてしまうのであれば、急速に品質は劣化していきます。

難しいものです。

 

そうなれば、ゼロウェイストと品質を両立させたければ、結局のところ自分で削るしかないのです。

鰹節は、削ることによって断面積が増え、酸化の悪影響が顕著になりますが、削る前の状態であれば簡単には劣化しませんので。

 

ただ、昔は日本人の日常であった、家庭での鰹節削り。

なかなか今は定着しません。

私共の店舗でも、節も削り器も販売しています。

一念発起して自分で削ることを始められる方も多いのですが、そのうちの相当数の方が途中で挫折してしまうのを見て、心苦しいところです。

 

しかしこれは、ある意味無理もないところです。

やはり一般のご家庭では少しハードルが高いでしょう。

理由のひとつとしては、道具のメンテナンスです。

そもそも、カンナの刃の出具合を適切に調整する必要がありますし、刃物ですから使っているうちに切れ味が鈍り、研ぎ直しが必要になります。

現代では、普通の包丁でも自分で研げない方が多いのに、カンナの研ぎ直しは、やはり大変だと感じる方が多いのでしょう。

 

ですので、なんとかハードルを下げて、可能な限り簡便な方法で自宅での鰹節を削っていただく方法が無いかと考えてきました。

そんな中で、ちょっとしたアイディアを考え付きました。

 

次回の投稿(下部のリンクです)では、その内容をご紹介したいと思います。

ご興味あれば、ご一読ください。

なんとか多くの方が、鰹節の自家削りの社会的意義と、その味覚的な素晴らしさに気づき、生活に取り入れて下さることを願っています。

 

konbudoi4th.hatenablog.com

「大阪昆布ミュージアム」開設予定のお知らせ

来年のことになりますが、大阪の昆布文化をご理解いただける施設「大阪昆布ミュージアム」を始める予定です。

大阪は昆布の街ですから、そんな施設があっても良さそうですが、意外に無いようでしたので作ることにしました。

産経新聞の北村博子記者が、要点をまとめて記事に書いて下さいましたので、リンクを貼っておきます。

是非ご一読下さい。

www.sankei.com

鰹枯節の「四番カビ」は本当に必要なのか

 

前回の投稿で、昆布の熟成の年数の長さを、付加価値として謳うことの問題点について書きました。

 

 

だしの世界では昆布の相棒である鰹節にも、似た構造が存在しますので、本日は、そんな内容です。

 

 

鰹節の製造工程は、簡単に申し上げれば

①生の魚をさばいて

②お湯で煮て

③煙でいぶして乾燥させて

以上①~③で出来上がりです。

この段階では「荒節」と呼ばれる鰹節ですが、その後「かびつけ」の工程が加わると「枯節」と名前が変わります。

この工程で、カビの作用で更に水分を抜き、香りも良くなるので、枯節は高級品だと言えます。

 

作業としては、カビの水溶液を鰹節に噴霧し、増殖に適した「むろ」に入れるのですが、それによって鰹節の表面はビッシリとカビで覆われます(「自然カビ」と呼ばれるカビ水溶液の噴霧をしないものもあるにはあるようですが、非常にまれです)。

その後、数日かけて日干して一番カビを落とした後、再びむろに入れて二回目のかびつけに進むのです。

最初につけたかびを「一番カビ」、以後「二番カビ」「三番カビ」と呼ばれていきます。

 

市販されている枯節の中には、このかびつけ回数の多さを付加価値として謳う製品があるのです。

例えば、下記のサイトは、「本場の本物」と銘打った地域食品ブランドの表示基準ですが、こちらでは「四番カビ」を明記しています。

つまり、三番カビでは、こちらの言う「本場の本物」でないということになってしまいます。


「山川」とは、鹿児島県指宿市の鰹節産地のことですが、私共で「本格十倍出し」の製造原料として鰹節生産者さんに作っていただいているものは、正に上記の「山川の鰹節」です。

近海一本釣りの原料魚を指定し、こんぶ土居仕様に作っていただいています。

ただこの鰹節、「三番カビ」までしかつけていません。

つまり、上の「本場の本物」の基準に合致しないのです。

ですから、私共で使用しているものは「本場の本物でない」と認識されてしまうのでしょうか。

 

ただ、カビつけと、その後の日干しを十分にすれば、二番や三番のかびつけでも、鰹節の内部の水分は非常に少なくなるようです。

であるならば、その後の四番カビをつけることに、大きな意味があるのでしょうか。

むろの温度や湿度をコントロールすれば、何度でもカビを乗せることは可能でしょうけれども、回数を重要視しすぎることがあるならば、それは鰹節の品質を高めるためでなく、その行為自体が目的化してしまっているようにも思います。

 

そんなことよりも。

例えば、美味しい鰹節に原料魚の品質はとても大切な要素ですが、「一本釣り漁」と「巻き網漁」では、魚の品質が変わります。

また、魚には資源問題がありますから、本当に持続可能な鰹節の良い未来を考えるなら、できる限り一本釣りを選ぶべきでしょう。

しかし、前述の「本場の本物」では、そのあたりのことについては一切言及されていません。

 

今年の春には、人気のテレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で、鰹節職人さんが取り上げられたりしていました。

一般の方には素晴らしいもののように映るのかも知れませんが、私にはそこでも何か大切なことが見落とされているように感じました。

鰹節以外の食品でも、どうでも良いようなことに付加価値をつけられ、本当に大切なことが放置されている事例が多いように思います。

 

今後もこんぶ土居では、常に「本当に大切なことは何か」を考えて、営業を続けたいと思います。

鰹節については、過去に何回か投稿しています。

宜しければ、そちらも併せてご一読下さい。

 

konbudoi4th.hatenablog.com