前回の投稿で、「無添加」という言葉が食品パッケージなどに書かれる際、特に取り決めがないので問題が発生していることを書きました。
これは、栄養成分に関しても同じです。
消費者へ誤った伝わり方にならないよう、制度に決められた方法で表記する必要があります。
例えば、特定の栄養成分について「◇◇含有」とか「〇〇たっぷり」等といった表現を書く場合、これは「栄養強調表示」と呼ばれます。
こういった文言を表記する場合には、消費者庁の取り決めが存在しています。
東京都福祉保健局のウェブサイトが分かりやすかったので、ご紹介しておきます。
www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp
栄養成分を強調する場合、以下の三つのカテゴリーに分けて取り決めが存在します。
〇高い旨(例: 高○○ △△豊富 □□たっぷり )
〇含む旨(例: ○○含有 △△源 □□入り)
〇強化された旨(例: ○○30%アップ △△2倍)
例えば、ある飲料水のパッケージに「ミネラル豊富」と書くなら、上記の「高い旨」に相当し、下記のミネラル全てが、次の基準値を超えて含有している必要があります。
(100gあたり)
亜鉛 1.32mg、カリウム 420mg、カルシウム 102mg、鉄 1.02mg、銅 0.14mg、マグネシウム 48mg
(下記のサイトが引用元です。)
以上のことを踏まえまして。
ひとつ事例をご紹介します。
これは、サントリーの「やさしい麦茶」という製品のパッケージの一部です。
ご覧の通り、大きな文字で「ミネラル」と書かれています。
これを見れば、普通の消費者は、この製品にはたくさんのミネラルが含まれ、健康に良い効果を及ぼしてくれることを期待するのではないでしょうか。
「ミネラル」の文字の横には「650!」と同じフォント、同じ文字色で書かれていますから、この数字がミネラル含有量と何か関係があるのではないかと考える方があるかも知れません。
しかし実際には、この製品には必要なミネラルなど皆無と言って良いのです。
それは、この製品の栄養成分表示を参照すれば分かります。
前述のミネラル6種類のうち、製品ラベルに表記されているものはカリウム、カルシウム、マグネシウム、の三種でした。
この3成分の製品100g中の含有量を、前述の基準値(高い旨の場合)と併記します。
カリウム 製品含有量1~10mg 基準値420mg
カルシウム 製品含有量0~1.0mg 基準値102mg
マグネシウム 製品含有量0~1.0mg 基準値48mg
ご覧の通り、全く基準値に達していません。
達していないどころか、ほとんど皆無と言って良い含有量です。
しかし、これは法に違反しているわけではないのです。
それには、次のようなカラクリがあります。
前述のように、栄養強調表示では、
〇高い旨(例: 高○○ △△豊富 □□たっぷり )
〇含む旨(例: ○○含有 △△源 □□入り)
〇強化された旨(例: ○○30%アップ △△2倍)
の三種が規定されていました。
逆に言えば、上記のような表現例を用いない場合、規制の対象外なのです。
ご紹介した、サントリーの「やさしい麦茶」は、「ミネラル」と書いているだけですから、「高い旨」にも、「含む旨」にも、「強化された旨」にも該当しないということになります。
「ミネラル豊富」と書けば規制の対象です。
しかし「ミネラル」と書いているだけですから、規制の対象外なのです。
パッケージに「ミネラル」と大きく書かれていれば、普通の消費者はその製品がミネラル豊富だと考えてしまうのでは無いでしょうか。
実は、この部分についても、消費者庁から注意喚起はされているのです。
下記の資料の2ページ目の最下部に「ポイント」として次のような説明があります。
『高い、低いに言及せずに栄養成分名のみを目立たせて表示するものについては、栄養強調表示の基準は適用されないものであるが、消費者に誤認を与えないような表示をすること。』
「消費者に誤認を与えないような表示をすること」と記載されていますが、私には麦茶のパッケージが、むしろ「誤認」を誘っているようにしか見えません。
消費者庁が資料に、わざわざ「ポイント」として書くぐらいですから、何か取り決めなどがあるのかと思い、電話で問い合わせたのですが、特に何も無いそうです。
言ってみれば、食品事業者の自由です。
これを、どのようにお考えになりますでしょうか。
制度の網の目を通り抜けて、合法な範囲で消費者を騙している事例と考えられませんでしょうか。
日本中でこの製品をミネラルが多いものと認識して購入している消費者がたくさんいることでしょう。
実際にネット上で、この製品がミネラル補給に役立つとの趣旨で書かれたものを多数見かけます。
やはり消費者は、正しい情報を見抜く力が必要です。
また、製造メーカーも、このようなことはすべきでないと思います。
繰り返しますが、合法です。
何の規制にも抵触しません。
しかし、これは真っ当な食品企業のあるべき姿勢だと言えるでしょうか。
本日の投稿では、栄養強調表示について書きましたが、それ以外の要素についても隠れた問題点はたくさんあります。
消費者の方々には、是非「なんとなく」で商品を選ばず、その製造メーカーの「ものづくりの姿勢」のようなものを感じ取っていただき、商品選びに活かしていただければと思います。
手前味噌ですが、ミネラルに関して書いた下記投稿も、ご興味あればご一読下さい。