こんぶ土居店主のブログ

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エキスとだしの違い

加工食品の原材料表示欄に「~エキス」と表記されているものを見つけたことはないでしょうか。

「チキンエキス」「ポークエキス」「魚介エキス」、その他にも「酵母エキス」などなど。

様々なエキス類があります。

今日は、それらについてのお話です。

 

不思議なもので、加工食品の原材料表示欄には「~エキス」をよく見かけるのに、どこのスーパーへ行っても、どこのデパートに行っても、エキス類自体が市販されていることは、ほとんどありません。

つまりエキス類は、一般市販品としてではなく、加工食品の原材料として使われるのです。

 

 

 

例として、「鰹節のだし」と「かつおエキス」を比較してみましょう。

 

前者は、単純明快です。

鰹の削り節をお湯で煮だしたものです。

 

では、後者の「かつおエキス」はどうでしょうか。

注目すべきところは主に二点、

①抽出方法

②原材料

です。

 

まずは、「①抽出方法」から。  

「だし」は、水又は湯でに煮だしたものですね。

しかし「エキス」は、アルコール抽出や酵素反応など、様々な手法を用いて抽出される場合があります。

抽出後、精製や濃縮の工程を経てエキス製品となります。

だしをとるのとは全く違った人工的な方法であり、より強くうまみを呈するエキス分を抽出することができます。

 

食品としての安全性に懸念があるかどうかは、よく分かりません。

しかし、薬品や食品添加物を抽出や精製に使用されても、加工助剤として表示を免除され、判別できないところは少し気になります。

 

次は「②原材料」について。

例として、昨日のブログで取り上げた「ネリ節」を使ってかつおエキスを作ることを考えてみましょう。

昨日の記事をご覧になっていないと、今日のお話の理解がしづらいので、まだの方は是非お読みください。

 

2020年6月1日投稿「ネリ節って、なんだ?」

https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/06/02/100726

 

昨日ご説明した「ネリ節」は、「かつお加工品」であって、鰹節ではありません。

鰹以外のものが原料として使われる場合もあります。

そのため、ネリ節からエキスを抽出しても、それは「鰹節のだし」ではなく「かつおエキス」です。

 

ネリ節が、鰹以外の原材料に由来する成分を含んでいたとしても、それからエキスを抽出してしまえば「かつおエキス」と表示されるだけです。

食品添加物でないのなら、エキスにネリ節製造に使われた原材料の表示義務はありません。

例えば、酵母エキスが入っていようが、たんぱく加水分解物が入っていようが、酵素が入っていようが、何も表示義務はないのです。

理由については、2020年5月27日投稿の「表示を免除されるもの① 原材料の原材料」をお読みください。

https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/05/27/160912

 

ここが一つの大きな問題点だと思います。

エキスには主たる原料以外に様々な成分が含まれる可能性があるわけです。

ただ、多くの方は「鰹節のだし」と「かつおエキス」混同し、違いを明確には認識しない場合が多いと思います。

 

エキスとは、だしとうまみ調味料の中間的な存在だと言えるかも知れません。

 

強烈なうまみを呈する食品が多用されると、それに舌が慣らされ、伝統的なだしを物足りなく感じる可能性があります。

これは一種の依存症であり、大げさに言えば「味覚のマヒ」です。

特に、子供の頃から常食すると、それがないと物足りない舌になり、とかく濃い味のものを求めるようにます。

本物の料理人が作る料理や、特に、良い材料で作った家庭料理の良さが分からなくなるでしょう。

こうなれば、健康にも悪影響が出かねません。

甘さや油の味への依存性から、脂っこいものや甘いものを制御できずに食べ過ぎて健康を害する人がいるのは、多くの人が知るところです。

その構造とは少し異なりますが、本来体に摂取すべき自然な食べ物をおいしいと感じられなくなることがあれば、大きな問題だと思います。

 

エキス類の進化によって、加工食品メーカーは、まぁまぁ美味しい加工食品を安く簡単に作ることができるようになります。

消費者も、まぁ美味しい製品が安くに入手でき、喜ぶかも知れません。

しかしそのエキス席巻の裏で、価格競争や単純なうまみの強さでは太刀打ちできない伝統的なだしが、衰退することになるのです。

 

何を使うも消費者の自由です。

安いものは魅力的でしょう。

しかし、食文化も本来の味覚も、一旦失われると簡単には取り戻せません。

伝統的な食文化の一翼を担う昆布屋として、過去から受け継いだ本物の価値を理解して下さる方が多いことを願っています。

 

人工的で強いうまみを含む食品は、表面的にはおいしく感じても、真の満足感とは何か少し異質です。

それに気づいたとき、「だし」の真価を知るのでしょう。

それこそが正に「味淡有眞楽」なのではないかと思います。