こんぶ土居は、1903年の創業以来117年目の営業になりますが、もともと現在の場所であったのではありません。
平成17年に移転してきたものです。
その際に、店舗内装の工事をしましたが、こんぶ土居の食品づくりと同様に、できるだけ自然素材で構成するようにしました。
当時三代目が、「建築について」と題して書いた文章がありますので下記にご紹介致します。
〇こ ん ぶ 土 居 通 信 №13 平成 17年8月発行【建築について】
蜆橋(現在の梅田新道)で昆布屋を営業していた当店の創業者 土居 音七は明治42年の北の大火で罹災し、空堀へ移転することになりました。
こんぶ土居では、それ以来当時の建物を改修しながら使ってきましたが、老朽化がひどく建て直しを考えていました。
健康な生活を送る上で最も大切なものは食べ物で、次は住居だと考えておりますので、かねてから住宅に関する本を読むなどして、情報を集めておりました。
新しい工法や、近年脚光を浴びる外断熱工法も検討致しましたが疑問点もあり、最終的には伝統工法が最良であるとの結論に達しました。
しかし、狭小地をいかに有効的に使うかに頭を悩ませておりましたところ、五軒となりの閉鎖された信用金庫の建物を使わせていただけることになりました。
築50年の鉄筋コンクリート造ですが、これまであたためてきた建築への理想を込めて、リフォームすることに致しました。
一般に広く使用されている建材は、食べ物と同じく、にせものやごまかしに満ちています。
洋室によく使用されるフローリング材などは、南洋材を薄く切ったものを何枚か接着剤で張り合わせ、表面だけごく薄いきれいな木目の板(フィルムと言ったほうが良いかもしれません)を貼り、ウレタン塗装等をしたものが大半です。
これらは最初は美しいのですが、時を経るにつれてだんだんと見苦しくなっていきます。
また、木材とはいえ内部は合成樹脂などが多く含まれていますから、本来の木の質感や、香り、吸放湿などの諸効果は全く望めません。
また、原料の木材もほとんどが輸入物ですので、このような建材を多用することは、日本の林業を衰退させ、また経済力に物を言わせて外国の資源を枯渇させることにもつながります。
和室に目を向けても、畳表のイグサはほとんどが中国産で、日本では許可されないような農薬が使われているかもしれません。
知人が、最近新しくした畳で皮膚がかぶれると言っていました。
また、畳の内部は伝統的には藁の床ですが、最近では発泡スチロールやベニヤ板で作られるようです。
その他、一見土壁に見えるビニールクロス、天井はプリント杉板など、このようなコピー建材では和室のくつろぎは望めません。
本物の建材を使えば、多少のコストアップにはなりますが、少し長い目で見ればどちらが得か明らかです。
住宅も本物をできるだけ長く使い、再利用も考えてできるだけ資源の有効利用に努めたいものです。
私共のリフォームにあたっては、当店の商品づくりと同じように、化学的なものをできるだけ排除し、自然素材の良さを活かし、人と環境への優しさを重要視しました。
有害な物質を含んだ建材や塗料を使用しない
床板や腰壁などの木材は国産の無垢材を使う
壁は上塗りであっても土壁にする
蛍光灯は極力使用しない
一部屋でも和室を作る小さくても庭を作る
これまで使ってきた家具や陳列什器をできるだけ再利用する
屋上を緑化し雨水を活用する、などを基本的な考えとしています。
具体的には、店舗床は厚さ3cm の国産松材、腰壁は国産の杉板、塗料は木の呼吸を妨げないよう柿渋とベンガラを墨で調色したもの、外壁は一般的な吹き付け塗装をしてあった上から本しっくい塗り(厚さ約1cm)、内壁はビニールクロスをはがして土佐しっくい塗り、天井も既存のものを撤去してしっくい塗り(京壁 佐藤左官様施工)、メインの照明は、目に優しくあたたかい光のコクヨ製船舶用耐震白熱電球(レストラン 豚玉様に教えていただきました)、陳列什器・看板・建具やエアコンまでも従来使っていたものを再利用、夜間金庫跡には旧店舗の石燈篭を使った坪庭、という具合です。
唯一あたらしく作ったものは、店舗外側に楠の丸太をくりぬいて、メダカが泳ぐ、植栽空間です(藤井植物園様の設計・施工)。
この植栽空間は当店の前を通行される方々の無料休憩所にもなっています。
この長い空堀商店街には、ちょっと腰を掛けられる場所が意外に少ないので、少しはお役に立てているのではないかと思っています。
来店されたお客様から「なんだか気持ちがいい」と言われると、食べ物も建築も自然が一番、伝統・国産を大切に、との思いがいっそう強くなります。