「梅雨が明ける」。
これは昆布屋にとって、大きな意味を持っています。
昔から大阪では、どこの昆布屋でも「昆布は梅雨を越えてから」と言ったようです。
これは、昆布の熟成による味の向上についての話です。
漁期である7月~8月に北海道で水揚げされた昆布が、ちょうど一年ほど経過したタイミングで、より美味しくなっていることを表現したものです。
熟成により味がよくなる仕組みについては、よく分かりません。
たくさんの人が研究したようですが、これといった結論は見当たらないようです。
ただ、本当に熟成によって昆布の味は大きく変わるのです。
私が熟成の効果を明確に感じたのは、初めて昆布漁の手伝いに浜を訪問した平成16年です。
この年のことは、前回の投稿に書いています。
https://konbudoi4th.hatenablog.com/entry/2020/06/27/092818
昆布漁に参加し、海から上がったばかりの昆布を干して、食べてみたのです。
すると、普段大阪で取り扱っているものと別物と言って良い差がありました。
同じものだとは俄かに信じられなかったほどです。
多くの業界の先人も似た経験をし、熟成に関する認識ができたのだと思います。
こんぶ土居でも、熟成と安定供給のために十分な備蓄に努めてきました。
しかし私共では、それを商品に表記して強調して販売はしていません。
その理由は、次のようなところでしょうか。
まず、昆布の熟成にも、ピークがあります。
長ければ長いほど良いというものでは決してありません。
分かりやすい情報を強調し消費者の関心を引く手法は、よくある構図です。
例えば鰹節の枯節でも「~番カビ」等とカビつけの回数の多いことを謳って付加価値をつけて販売されることも多いですが、鰹節のカビつけの回数と品質は、正比例の関係にあるわけではありません。
こういった状況を、「優良誤認」と表現することもあります。
昆布を熟成させるにしても、その保管状況が大切で、それは昆布屋としてのノウハウです。
時間ばかり長ければ良いというものでは決してありません。
実は熟成の効果は、適切な環境下であれば、概ね一年で十分に発揮されます。
それが、冒頭の「梅雨を越える」であるわけです。
梅雨時に何が起きているのかと言えば、昆布が「高温と高湿度」にさらされているのです。
この、ある程度の高温高湿度こそが、昆布の品質を向上させる条件です。
冬場には昆布は乾燥しきってバリバリですが、梅雨時には湿気を吸ってベロベロに柔らかくなります。
梅雨を越えると、少し湿度が下がるので、昆布に含まれていた湿り気もいくらか放出されます。
このタイミングで、一年の熟成サイクルが終了です。
同じサイクルをもう一年繰り返すと、更に変化はしますが、その幅はさほど大きくありません。
更にその翌年の効果となれば、もうかなり限定的です。
この熟成の効果は、四季の移り変わりに合わせた自然な温度湿度の変化を受けた場合の話であって、空調を入れた倉庫に保管していると、同じような熟成の効果は得られません。
同じ理由によって、大阪で保管した場合と、昆布産地である北海道で保管した場合では、気候条件の違い(北海道には梅雨がない)によって大阪での方が良い結果を生みます。
ただ、湿度の高い時期などは、保管環境が悪いとカビが生えたりするリスクもありますので、そうならないように適切な対策をするのも昆布屋の技術です。
昆布の熟成の効果は、今や多くの方が知るところとなりました。
北陸地方の某昆布屋さんが「蔵囲(くらがこい)昆布」という言葉を多用した影響が大きいでしょうか。
高級感を感じる非常に上手に表現された言葉ですが、この言葉に登録商標を取っておられます。
つまり、他社はこの言葉を使用できないわけです。
現在販売中のこんぶ土居製品「天然真昆布一本撰」は、平成27年産の昆布です。
五年前ですね。
「五年蔵囲昆布」等と付加価値をつけて販売してもよさそうなものですが、こんぶ土居では、熟成期間を強調しての販売は一切していません。
私共だけでなく大阪のどこの昆布屋も同じで、熟成に付加価値をつけて販売するようなことは、あまり前例がありませんでした。
美味しさと不作時の安定供給のために十分な量の昆布を備蓄するように努め、それが結果的に効果を得ていたというだけのことなのです。
昆布の熟成のお話をすると、ご自身で長期熟成をやってみようとされる方が、たまにおられます。
それはお勧め致しません。
昆布の熟成にも適切な環境を整えるノウハウがあります。
ご家庭では、熟成ではなく劣化してしまうように思います。
これからもこんぶ土居では、本来の昆布の力を十分に引き出し、ご満足いただけるものを提供できるよう努力致します。
(倉庫で出番を待つ昆布)