近年の昆布の不作については、以前から書かせていただいている通りです。
今では多くの方が知るところとなりましたが、海の環境と、その背後の山の環境には大きな関係性があります。
北海道の昆布漁師さん達も、そのことは当たり前に知っておられます。
ただ知ってはいても、対策が十分にされているかは、また別問題です。
この件について、本日は過去の成功事例をご紹介したいと思います。
北海道の日高地方の突端、襟裳岬は、陸地の荒廃による昆布の不漁、そしてそこからの復活の実績のある、数少ない場所です。
明治の北海道開拓時代以前の襟裳岬には、広葉樹の原生林が広がっていたようです。
しかし入植者が多くなると、木が伐採され住居や燃料のために利用されます。
一旦樹木が無くなると、ひんぱんに強風が吹く土地柄(風速10m以上の日が年間270日)も関係し、一気に植物が無くなり砂地になっていきました。
それは、「襟裳砂漠」と呼ばれるほどであったそうです。
その結果、大量の砂が海へ流れ込み、魚と昆布の漁業に深刻なダメージを与えます。
漁業不振の原因は明らかで、地元の漁師さん達が緑の復活に立ち上がるわけですが、それはなんと、終戦からまだ数年の昭和28年のことでした。
しかし、復活は簡単なことではありません。
新たに植物の種や苗を植えたところで、砂漠化した土地と強風によって飛ばされてしまいます。
様々な試行錯誤と血のにじむような努力で、襟裳の漁師さん達は緑化事業を続け、なんとか少しずつ緑が戻ってきました。
そしてその緑化事業は、70年近く経った現在でも継続中なのです。
つまり、それだけの期間をかけても、まだ完全に元には戻らないということです。
漁師さん方の、本当に粘り強い取り組みに頭が下がります。
襟裳岬で採れる昆布の品種はミツイシコンブ(通称名、日高昆布)です。
だし昆布としても使えないことはありませんが、むしろ日高昆布がその真価を発揮するのは、昆布巻きやおでんの具など、野菜感覚で昆布を調理する場面です。
こんぶ土居でも、製品の「にしん昆布巻」の原料として使用し、別に「日高産煮昆布」という製品も販売しています。
その日高昆布の産地にも、品質上の格付けである所謂「浜格差」があります。
襟裳は、特に高品質な昆布が採れる場所というわけでもなく、言ってみれば中級の日高昆布です。
しかし、その格付けは、漁師さんの努力によって少しずつ向上しています。
こんぶ土居では、血のにじむような努力によって昆布を復活させた襟裳の漁師さん達に敬意を表し、日高昆布についてはこの襟裳のものを専ら取り扱っています。
海の環境を守るための山の保全については、宮城県で牡蠣の養殖をしておられた畠山重篤氏の事例をよく耳にします。
畠山さんは「森は海の恋人」というキャッチーな言葉で一躍有名人になりましたが、そんな事例より遥かに前から問題に取り組み、成果を挙げた人達がいたことを、是非知っていただければと思います。
襟裳の方々の取り組みは、ネット記事などでも見ることができます。
また2001年には、NHKが番組「プロジェクトX」にて「挑戦者たち えりも岬に春を呼べ ~砂漠を森に・北の家族の半世紀~」として放送しています。
探せばどこかに動画をアップしているサイトがあるかも知れません。
ご覧いただけますと非常に嬉しいです。