今日は、私達を取り巻く食を「ハレ」と「ケ」に分けて考えてみたいと思います。
儀礼や祭、年中行事などの「非日常」をハレ、普段の生活である「日常」をケと呼びます。
両方大切ですね。
それでも「ケ」がおろそかになって「ハレ」ばっかりが派手、というのはやはり良くないと思います。
「ハレ」の日には、当然ごちそうを食べます。
逆に言えば「ケ」の日常は、特に豪華なものを食べたりせず、普通のものを食べるのだと思います。
しかし、中には年中ハレのような食生活をしている人もおられるでしょう。
所謂「美食家」でしょうか。
改めて辞書で「美食」という言葉の意味を参照してみましたところ、こんな説明が出てきました。
『ぜいたくでうまいものばかり食べること。また、その食事。』
こんな説明をつけられると、なんだか少し軽薄な行為のようにも感じます。
見方を少し変え、時代変化から「美食」を考えたいと思います。
例えば「グルメブーム」という言葉がありますが、それはいつ頃に始まったのでしょうか。
こんぶ土居も掲載していただいた、漫画「美味しんぼ」。
連載開始は1983年です。
「美味しんぼ」は決して軽薄なグルメブームを煽り立てたものではなく、むしろその逆だったとすら言えますが、当時は所謂グルメ漫画が乱立していました。
一般にバブル経済は、その3年後の1986年からという認識がされるようなので、経済的にもお金が余っていたような時代で、加速がついたのでしょう。
そして更にその3年後の1989年、元号が昭和から平成に代わります。
このように考えると、平成の時代に、グルメブームは広まっていったと考えて良いように思います。
その 日本に於ける大量消費型物質文明の末期だと考えられる平成が終わった今、新たな時代が動き始めているように思います。
これまでこんぶ土居では、おいしいものを提供するために、ものづくりを続けてきました。
「おいしいもの」をつくるには、たいてい高品質な素材が必要です。
それらは通常、高価です。
言ってみればこれは、こんぶ土居の「ハレ、美食的側面」だったと思います。
例えば、主たる原料として使用してきました「川汲浜の天然真昆布」。
古来より献上品に指定されてきた昆布の王様、まさに「美食」的なものです。
こんな素晴らしい昆布の天然物が、平成の時代には豊富に採れたのです。
そんな時代背景の中で、私共のような小さな昆布屋は、一般スーパーなどで買えるものでなく、特に高品質なものをご用意することが社会的な存在意義であると考えて営業してきました。
それは間違ってはいないとは思います
しかしその一方で、特に品質が高くない昆布はあったとしても、「まがいもの」の昆布はありません。
加工品でないなら、一般スーパーや量販店で売られているものであっても、本物の昆布です。
全てが海からの恵みです。
こんぶ土居のだし昆布製品、「天然真昆布一本撰」。
川汲浜の天然真昆布から、特に品質の良いものを選別してご用意しています。
この製品は、以前からブログに書いた通りの常態化した大不作を受け、本年値上げさせていただきました。
100ℊあたり2500円で量り売りしておりますので、大きな昆布になりますと、一枚で4000円ほどにもなります。
なんとも高価なものです。
それでも、その品質を評価して下さっている方が多いのでしょう、意外によく売れます。
「ごちそう」という言葉は「御馳走」と書きますが、食べてくれる人のことを想い、方々走り回って良い素材を集めて料理したことが語源だと聞きます。
そんな気持ちは非常に嬉しいですね。
しかし、自分のために品質の高いものをお金に糸目をつけず集めて食べることは、なんだか時代に合わなくなってきているようにも思います。
持続可能なタイプの食品であれば良いのですが、特に自然の恵みである天然の海産物の現状を見ていると、何か資源を採りつくしていっているような印象を受けます。
それは、果たして美しい行為でしょうか。
普段は「普通」でいいじゃないか、そんな風にも思います。
こんぶ土居でご用意している昆布の品質を高く評価して下さって、購入していただけるのは非常に嬉しいことです。
その一方で、日々の食事のだしを取る用途に、私共の昆布をお使いにならなくても良いのかも知れません。
上手に調理すれば、スーパーの昆布でも、それなりに美味しい料理はできます。
何かハレのときに、特別品質が高いものが御入り用であれば、買って下さると良いかと思います。。
時代と共に、あるべき姿は当然変わります。
やはり企業として絶対に必要なのは、その時代の「社会的意義」です。
「社会に貢献している」と胸を張って言える仕事でないと、続かないように思いますし、続くべきでもないでしょう。
現在のこんぶ土居の仕事の中で、「美食」の部分は、前述の高価なだし昆布を販売したり、加工品であっても逸品原料を手間暇かけてつくったもの、またミシュラン三ツ星を始め一流の料理店様へ昆布をお納めしたり、そんな仕事が該当するでしょう。
その一方で、「ケ」の部分。
「体を養う真正な食品が、安価でおいしい」、そんな製品をご用意できるなら素晴らしい仕事であることに疑いの余地はありません。
求めて下さる方がいる以上、「美食」に向けた高級で高品質な製品づくりも続けますが、令和の時代の意義としては美食より、特別な美味でない本物の日常的なおいしさの食品をつくる仕事に注力すべきであるように思っています。
ただ、一般的に広く市販される食品は、そのコストダウンの過程などで、真正な材料を使わず、まがいものに化けてしまうことが多々あります。
こんぶ土居では、これまで表明したものづくりの姿勢は、一切変えません。
今後も、一切の食品添加物やうまみ調味料を使用せず、本物の製品をつくります。
しかしその方法によって作り出したいものは、必ずしもハレの美食ばかりではないということです。
250円で販売している「しっとりふりかけ」を近所の子供さんが大喜びで買ってくれる。
そんなシーンが、こんぶ土居の最も美しい部分でしょう。
『体を養う正しい日常の食品が、安価でおいしい』
そんな難しいテーマを成し遂げられるよう、製品づくりに励みたいと思います。