こんぶ土居店主のブログ

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映画『タネは誰のもの』の感想

つい先日12月2日の参院本会議で、品種改良によって生まれた農作物の種や苗木の海外への流出を防ぐ仕組みを強化した、「改正種苗法」が可決されました。

近年では、海外へ日本の独自品種が無許可で流出する事例が多いようで、その防止策として「育成者権」を保護するためものです。

 

まず、農作物の種には「一般品種」と「登録品種」があります。

登録品種とは、簡単に言えば個人や団体が開発した独自品種です。

農林水産省に申請して、認可されれば登録品種となります。

今回の改正種苗法は、登録品種に向けたものであり、一般品種には及びません。

 

この登録品種は、言ってみれば誰かの著作物のようなものですから、それが「コピー」されていくようなことがあっては、育成者の権利が侵害されていると見ることもできるわけです。

 

コピーとは「種を取る」ことです。

育成者から種や苗が農家に有償で販売されたとして、それを育てて種を採取するのなら、言ってみれば農家で増殖させることが可能だと言うことでしょう。

そうなれば、もう農家は再び種や苗を買うことはないはずで、場合によっては、それを他者に分け与えることも可能だと思います。

こうなると、その種を育成した人へは利益が入らず、困ったことになりますね。

 

改正種苗法は、農家が独自に登録品種の種を取ることを禁じた法律で、その延長線上に、日本独自の登録品種の海外流出を阻止しようという狙いがあります。

 

繰り返しますが、農作物には「登録品種」と「一般品種」があり、改正種苗法は登録品種についてのものです。

ですから、今後も一般品種から種を取ることは全く制限されません。

登録品種は、全品種の中で一割ほどに過ぎず、一般品種がほとんどを占めます。

であるならば、やはり育成者権保護の観点から、改正種苗法は良い方向だと見ることもできそうです。

実際に、農家に種を自由に増殖されては、新品種の開発者としては、たまったものではないでしょう。

 

理屈の上で言えば、改正種苗法は正しい方向かと思います。

私自身、そのように考えていました。

以前から、ネット上の情報や、SNSで流れてくるもの、マスコミの報じるものであっても『種苗法で農家さんが種を取れなくなったら大変なんだ!!みんなで阻止しよう!!』といった、ある種の正義感を振りかざしたような情報が非常に多かったのです。

こういった場合、「登録品種に関して」の部分が表現されず、いたずらに危機感を煽り立てるようなものをたくさん見かけました。

そんな情報に触れるたびに、何やら嫌な気分になっていたものです。

 

 

先日、タイトルに書いた「タネは誰のもの」という種苗法に関する映画を見る機会がありました。

それを見て、少し考えが変わった部分がありますので、今日の投稿は、そのお話です。

 

 

結論として、「個人の権利の保護」と「国全体の未来の利益」という大きな話に関係しているように思いました。

前述のように、登録品種の育成者の権利は、当然保護されないといけませんね。

海外流出を防ぐことも大切でしょう。

その一方で登録品種を栽培する農家は種や苗を買い続ける必要が生まれ、コストが増すことになります。

 

つまりこれは、「農家」と「育成権者」の利害が対立しているということです。

ですから、どちらかを立てれば、もう一方が泣くことになります。

 

つまり焦点は、「どちらを泣かせるべきか」ということなのでしょう。

正しいとか正しくないとか、そんな話とも少し違うように思います。

たとえ理屈の上では正しいとは言えないとしても、より大きなものを守るために為すべき事もあるでしょう。

「今後の日本の食糧生産を、どうするか」という視点で考え、その方向性に合致する方を選ぶべきなのだと思います。

 

①農家を保護して農業を活発にする(育成権者が泣く)

②育成権者を保護する(農家が泣く)

このそれぞれについて考えます。

 

①については、現在の日本の食糧自給率と農業従事者の減少を抜きには語れません。

自給率が非常に低い日本、目下急速に農業人口が減少する中で、自給率は今後更に低下していくのでしょう。

個人的には、やはりこれはあまり好ましいことではないと思います。

日本の経済の先行きが非常に怪しい中で、『食べるものはお金を出して外国から買う』というスタンスは、やはり無理があるかと思います。

そうなれば、農家に有利な策を講じて、農業従事者の数を増やす必要があるのでしょう。

 

②については、育成者権は最大限保障されるべきだとは思うのですが、①の意義と比べてどちらが大事かと言えば、未来の日本を考えた場合個人的には①がより大切なのではないかと思います。

仮に理屈としては②の方が正しくても、それによって日本の未来に問題が発生するのであれば、育成者を泣かせる①の選択をすべきなのかも知れません。

 

 

映画を見て印象的だったのは、沖縄のサトウキビ農家の話です。

前述のように、全体で見れば登録品種は一割に過ぎません。

しかし、サトウキビに限って言えば、9割が登録品種だということです。

当然これまでは、沖縄のサトウキビ農家は、その登録品種を自家増殖しているのです。

今後は、それができなくなるのでしょうか。

 

私共でも昆布加工製品を製造するのに、種子島の粗糖と波照間島の黒糖も使用します。

共に原料は、地元のサトウキビです。

日本のサトウキビ農家が減って、伝統的な日本の砂糖が入手困難になると困ります。

代わりに何を使えば良いのでしょうか。

 

ひょっとすると、砂糖の需要は昔より減っているのかも知れません。

加工食品の原材料表示に「ぶどう糖果糖液糖」などと表示されているのをご覧になったことは無いでしょうか。

酵素やアルカリ処理によって果糖の割合を増した「果糖ぶどう糖液糖(異性化糖)」は砂糖と同等の甘さを持ち、清涼飲料水などにも多用されます。

これは、英語では「high fructose corn syrup」と呼ばれています。

corn syrupですから、原料はトウモロコシです。

そのトウモロコシは国産品であろうはずがありませんし、遺伝子組み換え作物の可能性も高いでしょう。

 

そんな新しい甘味料以外でも、例えば水あめを作るとしても同じことが言えます。

 こんぶ土居でも製品に甘味をつけるため水あめも使用することがありますが、その原料は国産のサツマイモの澱粉と国産の大麦麦芽です。

しかし、一般の安価な水あめや還元水あめと表示されるものの原料は、おそらく輸入のコーンスターチだろうと思います。

何しろ、こういった甘味料はコストが安く、私たちの周りの加工食品に、砂糖の代わりに使われることがどんどん増えているように思います。

アメリカでは加工原料のトウモロコシの収穫が多く、余ってきているという話も聞きます。

そんな事情とも関係あるかもしれません。

 

映画の中で表現されていて興味深かったのは、サトウキビが多く栽培される南西諸島には、産業と言えるものは砂糖ぐらいしかないということです。

つまり、サトウキビ栽培が廃れるのであれば、南の島から急速に人がいなくなるのでしょう。

場所によっては無人島化するかも知れません。

それは国防上の問題にもつながる可能性があります。

海外の一部の国にとっては、とても都合が良いのかも知れませんが。。

 

今回の種苗法は、2018年4月に廃止された「種子法」という法律とも密接に関わっています。

以前は、種は言わば国民の共有財として守られてきました。

新しい品種を開発するにしても、それは農業試験場などの公的機関に予算が与えられる形で進み、良質な種苗を農家に提供してきた経緯があるようです。

その背景になっていたのが種子法であったわけですが、それが廃止され、新しい種の開発が民間に移っていくことになります。

また過去からの公的な知見を、民間の育成者に無償で開示する方向になっているようです。

どちらかと言えば、この種子法の問題が、より大きいのかも知れません。

 

 

現場を知り、大きく長期的な視点で利益を考えることの大切さに改めて気づかされた映画でした。

何事も、頭の中の理屈だけで考えていてはいけませんね。

 

もしご興味あれば「タネは誰のもの」、ご覧になってもよろしいかと思います。

DVD化はされていないようですが、たまに小規模で上映会が開催されていたり、オンライン上映会などもやっていることがあるようです。

一時間ほどの短い映画ですが、なかなか面白い内容でした。