こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

ウニと昆布の困った関係

 

報道されることも多くはないので、あまり気づかれないかも知れませんが、日本を取り巻く海の状態は、大きく変化してきています。

磯焼けのような現象は、北海道から沖縄まで、非常に広範囲に進んでいます。

天然真昆布の危機的な状況については以前から書いている通りですが、これは「藻場」が衰退していることの一側面であると見るのが妥当でしょう。

 

本日は、海藻とウニの関係について記したいと思います。

ここ数十年間、昆布の漁獲量が大きく減っているのと同様に、ウニの漁獲量も減っているのです。

この30年で、3分の1ほどになってしまいました。

昆布の状況とそっくりです。

 

ご存じの方も多いと思いますが、北海道のウニは昆布を食べます。

おいしい昆布を食べて、おいしいウニが育つのです。

過去においては、この共存に何も問題ありませんでした。

北海道の昆布産地でも、昆布漁師さんが時期になれば、言わば副業のような形でウニも採っていました。

 

ところが、今はウニが非常に痩せていて、採って割ってみても、卵巣が未成熟で売り物にならないものばかりだそうです。

理由は簡単、エサとなる海藻が不足しているからです。

こうなると、漁師さんも採りません。

放置され、ウニの個体数は減りません。

 

これは、負の循環を生みます。

〇『海藻がない』⇒『ウニのエサが足りない』⇒『ウニの卵巣が成熟しない』⇒『漁師さんが採らない』⇒『個体数が減らない』⇒『多数のウニが少ないえさを取り合う』⇒『わずかに残った未成熟な海藻まで食べられる』⇒『磯焼け

 (この繰り返し)

 

 

この恐ろしいループ。

現在北海道の昆布産地で起きていることは、まさにこれです。

ウニは飢餓状態に非常に強いらしく、エサがなくても簡単には死にません。

そのため個体数が多い状態が保たれてしまうわけです。

 

私共の原料昆布の主な産地である道南地方では、平成26年までは豊富に昆布が採れました。

そのため、当時は現在のような危機意識がなく、行政が支援する大規模な補助事業として、ウニの増産対策が為されてきた経緯があります。

 

行政の取り組みとして一度動き出したものを簡単に止められないのか、実は現在でも稚ウニの放流は続けられているのです。

天然真昆布大減産の中、売り物にならない稚ウニを育てて放流する。

なんとも皮肉な話です。

函館市も昆布の現状に問題意識は持っているので、近いうちに改善される可能性は高いですが、現状はそんな感じです。

 

昆布の不作の原因は様々ですが、一因としてウニ問題があるのは間違いないようです。

このような背景で、私もどうにか対策が取れないかと思い、北海道大学水産学部でウニを専門に研究されている浦和寛教授にご相談に伺ったりしておりました(2020年7月18日にブログ投稿しました原彰彦北海道大学名誉教授のお口添えで話が非常にスムースでした)。

 

そんな活動が、ひとつの面白い動きにつながるかも知れません。

 

 

先日、浦和寛教授のご紹介で、ある方から私宛に、ご相談のメールが届きました。

愛媛大学の井戸篤史客員准教授からです。

ご相談の内容は、ウニの飼料についてでした。

 

井戸先生は、ウニを畜養して製品化するための研究をされているのですが、ウニを育てるためには、当然エサが必要になるわけです。

ウニのエサに海藻は不可欠ですが、現在はカナダから海藻の粉末を輸入して利用されているとのことでした。

ただ、やはり様々な意味で国産飼料が良いのは当然ですので、その道を模索しておられます。

 

昆布は、食品になる葉体と、岩盤に着生する付着器官で構成されています。

後者は昆布産地では「ガニアシ」と呼ばれています。

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このガニアシは、その形状故に夾雑物も多く食用にはなりませんが、ウニのエサとしては活用可能です。

しかし、ガニアシは固いため、そのままではウニが食べないらしく、乾燥粉末化してウニが好んで食べるようペレット加工する必要があるとのことです。

つまり井戸先生が必要とされているものは、「ガニアシ粉末」なのです。

 

原料のガニアシの調達や、乾燥粉砕加工ができる業者さんの選定についてのご相談のため、私共を訪問して下さいました。

こんぶ土居では三代目の頃から昆布産地との交流を続けていますが、それを知った井戸先生が私共に期待して下さったのでしょう。

 

ウニは、幼生の状態から育てる完全養殖ではなく、ある程度大きくなってきたウニを捕獲してきて太らせる畜養の方が、遥かにコストが少なくて済むようです。

 

私が目指すのは、井戸先生のお取組みが実を結び、昆布漁師さんによる畜養のためのウニ捕獲が盛んになることです。

その捕獲したウニにエサを与えて品質を向上させ出荷することができれば、現在昆布とウニの間で起きている負のスパイラルを断ち切ることができるかも知れないと考えているわけです。

 

井戸先生の事業の成功は、天然真昆布の再生にもプラスになります。

なかなか面白いテーマを与えられたものです。

 

暗中模索で始めた天然真昆布再生の取り組みですが、動き出すことで新たに見えてくるものが多々あるのを実感しています。

井戸先生の事業の成功のため、お役に立てるよう努めたいと思います。

 

 

(余談)

井戸先生に、私共のことを最初にどこで知って下さったのかお尋ねしました。

きっかけは、滋賀県で麹づくりをされているハッピー太郎醸造所の池島さんだとのことで、非常に驚きました。

池島さんのことは、またいつか機会があればこのブログでも書きたいと思います。