こんぶ土居店主のブログ

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【大豆 vol.3/3】「 だし」とプラントベースの関り

さて、前回の続きです。

大豆の話を書いていて、それが「だし」と何の関係があるのだと感じる方もあるかと思いますが、意外に関連性があるようです。

例えば、「だし」や「スープ」のようなものを用意する際、日本では伝統的に昆布や鰹節、煮干しなどが利用されてきました。

その中には所謂「うまみ成分」と呼ばれるものが含まれるわけですが、アミノ酸の味が大きく関わっています。

 

基礎知識をおさらいしておきますと、人間の生命を維持する上で最も大切な栄養素、所謂「三大栄養素」のひとつに、たん白質があります。

たん白質には、味があまりありません。

それに対して、たん白質が分解されてできる「アミノ酸」は、強いうまみを呈することが多いです。

 

味噌や醤油も、その一例です。

これらの伝統調味料は、大豆に多く含まれているたん白質を発酵の力を利用してアミノ酸に変えて豊かな味を生んでいる、と捉えることもできます。

 

ただ味噌や醤油は、その独特の風味が料理によっては求められていない場合もあるでしょう。

たん白質を分解してアミノ酸を取り出す別の方法として、塩酸や酵素による分解が挙げられます。

これは言ってみれば、うまみ調味料のひとつである「たんぱく加水分解物」に近いものです。

うまみ調味料の技術革新は目覚ましいものがありますので、動物性の素材を使わずとも、大豆たん白質の分解物を利用して、ある程度のレベルのものを作りだすことができる技術が培われているようです。

 

 

 事例をご紹介します。

 全国的に店舗を持つ「一風堂」というとんこつラーメン屋さんがあります。

私は、昔は結構ラーメンが好きだったものの、今ではなぜかあまり惹かれず全く食べなくなりましたが、先日、勉強のために食べに行ってきました。

何の勉強かと申しますと、純植物性ラーメンを体験しに行ったのです。

とんこつラーメンのお店なので、本来は豚が大切な材料であるわけですが、一切の動物性原料を使用せず、とんこつラーメン的なものを作ったというニュースを目にしたのです。

「プラントベース赤丸」と名付けられていました。

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 麺には卵なし、スープにも豚を使わず、チャーシューのように見えるものも大豆ミート、そんなラーメンです。

見た目は、とんこつラーメンとは少し違うでしょうか。

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味も、トンコツそっくりというわけではありませんでした。

 しかし、大切なのは、そこではないのです。

当日私は、ノーマルの「赤丸」と呼ばれるとんこつラーメンと、この「プラントベース赤丸」を一杯ずつ、計二杯食べました。

 

比較して分かるのは、「プラントベース赤丸」は、とんこつラーメンとは異質のものであったとしても、一杯のラーメンとして考えたときの満足感に大差がないということです。

とんこつラーメンだと思って食べてしまうと、「こんなのはとんこつラーメンではない!」という反応になってしまうかと思いますが、「とんこつラーメンと共通要素を持つ、新しいジャンルのラーメン」と捉えてしまえば、特に不満のないものでありました。

明確な製法はよくわかりませんので、その部分は少し警戒心を持って見るべき部分であるかと思います。

それでも、多くの人に普通の満足感を与えるであろうラーメンが、トンコツどころか、動物性の素材を一切使わずに作ることができるのは、大きな驚きでした。

宗教上の理由によって豚肉が食べられない人もいますし、ヴィーガンの方々向けであったり、一風堂が「プラントベース」のラーメンを作ったことは、こんな背景もあるようです。

 

 

それはそれとして。

今後もこれまで通り、日本の伝統的な食材でだしを取れれば良いのですが、それに逆風が吹き始めています。

例えば、日本のだしに大切な役割を果たす鰹節が直面している課題は、下記のようなものでしょうか。

 

① 原料魚の資源が乱獲等によって枯渇傾向にあること

② 昔ながらの家内工業的に小規模で製造されることが多く、労働生産性が低く製造コストがかかること

③ 加工業者の高齢化に伴い、作り手が少なくなっていること

④ 魚類の加工品として、世界的に通用する高度な衛生基準をクリアするのが簡単でない

 

これら①~④について、大豆を加工してうまみ調味料的なものを製造する場合は

① 大豆は大量に栽培することができるので、安定供給が可能

②③ 大規模な工場生産が可能なので労働生産性が高く、安く大量の製造に問題なし。

④ 植物性なので、求められる衛生管理基準が漁獲物よりも低い

 

このように、鰹節が抱える問題を、簡単にクリアしてしまいます。

一方で懸念事項としては、安全性に関するものと、文化の無い味の画一化でしょうか。

 また前回のブログで書いたように、時代とともに肉食忌避の方やヴィーガンの方々が増えていることも、煮干しや鰹節のだしの衰退につながるように思います。

 

このように考えますと、大豆を使った新しいタイプのスープには、大きな未来が開けているように思います。

特に普通の加工食品には、こういった成分が頻繁に使われることになるでしょう。

それに対し、日本の伝統的なだし文化の衰退傾向は、しばらく止められないような気がします。

昆布は動物性食品ではありませんが、生産に関する背景は同じです。

 

 

衣食住で考えた際、「食」以外の、「衣」と「住」についてもそうですね。

私たちは日本人であるのに和服をほとんど着ませんし、伝統的な日本家屋に住んでいる日本人の割合は決して多くはないはずです。

こう考えると、日本の伝統食文化も、私たちの生活の基本というよりは、「食の一分野」になっていくようにも思います。

 

それでも、私は是非、日本の伝統のだしの良さを知ってもらいたいです。

日々の生活に、どれぐらいの頻度で、どれぐらいの深さで取り入れるのかは、個人個人で決めれば良いことですが、なにしろ日本のだし文化は世界中で評価されている素晴らしいものです。

自分が生まれ育った土地の、非常に優秀な食文化を十分知らないまま、というのは如何にも悲しい話ですね。

逆風ばかりで見通しは明るくありませんが、日本のだしの美味しさと価値を多くの方がご理解下さることを願っています。

 

良い昆布でも良い鰹節でも、今なら普通に手に入ります。

その状況は、果たして数十年後に、どうなっているのでしょうか。

長く世代を越えて受け継がれていくよう、豊かな自然を守ることを大切にしたいと思います。