前々回投稿 【昆布だしの味 vol.1/3】味のキレって何? ダシと酒について
前回投稿 【昆布だしの味 vol.2/3】魯山人を鵜呑みにしないで(だしの取り方)
の続きです。
今回もなかなかマニアックな内容です。悪しからずご了承下さい。
まず、突然なのですが。
昆布って、とても甘いのです。
そう言われても、首をかしげる方もあるかも知れませんね。
しかし、あの塩辛い海水の中で育ったものだとは思えないほど、強い甘みを内部に蓄えています。
(その甘さを体験したい方は、本投稿末尾の(※2)をお試し下さい。)
改めて考えてみますと、昆布に限らず他の海産物でも同じです。
魚でも貝類でも甲殻類でもウニでも、良い品質のものは、総じて「甘い」でしょう。
何なら、陸上の作物でも同じです。
野菜でも果物でもお米でも、高級なものほど甘い傾向にありますね。
前回の投稿で、魯山人の著作「だしの取り方」のおかしな部分をたくさん指摘しました。
作中には「昆布の底の甘味が出て、決して気の利いただしはできない。」との一文がありましたが、これなら「昆布は甘くない方が良い」ということになりませんでしょうか。
個人のお好みは様々あるでしょうが、前述の内容と考えあわせますと、まずここに違和感を感じます。
さて、話は少し変わりまして。
昆布の色は、どんな色でしょうか。
たいていの方は、緑がかった黒い色などをイメージされるかと思います。
しかし、黒いのは「皮だけ」なのです。
これはちょうどリンゴをイメージしていただければ分かりやすいかと思います。
普通リンゴは赤いですが、それは皮の色ですね。
中身は白いわけです。
これは、昆布も全く同じ構造で、皮は黒くても中身は白っぽい色をしています。
昆布粉をイメージしていただければ分かりやすいでしょうか。
この昆布粉の色、使用する昆布の厚みによって少し変化します。
それは、皮と中心部の割合が変化するからです。
分厚い昆布と薄い昆布に分けて、断面の模式図を描いてみました。
(黒っぽい色で書いた部分が「皮」で、それに挟まれたクリーム色の部分が、昆布の中心部を表しています。)
Aの厚い昆布は、Bの薄い昆布に比べて、ちょうど厚みを二倍に描いています。
しかし、絵の黒い色の部分、つまり皮の部分はAもBも同じ厚みです。
つまり、分厚い昆布があったとすれば、「皮以外の白い部分が分厚い」ということです。
実際の昆布もこんな構造になっており、中心部の占める割合は物によって大きくバラつきます。
この絵では、Aの中心部の厚みをBの三倍で書いていますが、3倍以上の厚みになることも多々あります。
この構造を把握していただければ、厚みによって昆布の皮と中心部の構成割合が変化しますから、厚みが味の違いの原因となることがご理解いただけるかと思います。
もし昆布の皮の部分と芯の部分、それぞれの味を確認したければ、ご家庭でも可能な方法もあります。(投稿末尾※1に記載)
それぞれの味を、簡単に表現しますと
【皮の部分】
塩分が多い、ミネラル感が強い、甘みは少ない、雑味もあり
【芯の部分】
塩分はほとんど感じない、ミネラル感は少ない、甘く感じる、雑味は少ない
こんなところでしょうか。
上記を踏まえますと。
魯山人の言う「昆布の底の甘味が出て、決して気の利いただしはできない。」を真に受けるなら、昆布は薄い方が良いのです。
薄ければ薄いほど、皮の割合が多くなるわけですから。
しかし、普通に考えて、ぺらぺらに薄い昆布で取った「塩分が強くて甘味の少ない昆布だし」が良いなんて、おかしな話だと思われませんでしょうか。
先にも書きましたが、他の食材の事例を考え合わせても、「甘さ」は「おいしさ」の重要な一要素であることは間違いないでしょう。
人間の味覚の意義である栄養摂取の観点から見ても、それは言わば当然のことです。
その一方で、魯山人の話と共に、前々回(2021年4月10日)の投稿「味のキレって何? ダシと酒について」 でも書きましたように、甘さを否定しがちな不思議な味の評価が存在します。
何をおいしいと感じるかは個人差がありますし、それ自体は非常に結構です。
しかし、ベタベタした人工的で過剰な甘さならともかく、自然の素材が持つ「甘さ」が不要だなんて、そんなおかしな話は無いと思っています。
こんぶ土居でご用意しているだし昆布は、しっかりと厚みもあり、良い甘味を蓄えたものです。
今後も、そんな味を追求します。
その味が、多くの方にご理解いただけることを願っています。
(了)
【補足】
(※1 昆布の皮と芯の味の比較方法)
下記の方法をお試し下さい。
① 板状の昆布を用意して下さい
② その昆布を水に浸してください
③ 水からすぐに引き上げ、20分ほど放置して下さい。
④ 昆布の表面を濡らしていた水が、全て昆布に吸い込まれているはずです。
⑤ 昆布が柔らかくなっていますから、表面に包丁を当て、少しずつこそげ落としてください。それが昆布の「皮の部分」です。
⑥ 何回か包丁でこそげると、黒い皮の部分がなくなって、次に白い部分が削り出されてくるはずです。それが昆布の「芯の部分」です。
皮と芯、それぞれの味を比較することができます。
(※2 昆布の甘さ成分の体験方法)
上記の⑤の後には、皮がなくなった真っ白な昆布が出来上がると思います。
それを、急激に水分が飛んでしまわないように管理(ビニール袋に入れるなど)しながら一週間ほどおいておきますと、白い粉が浮いてきます。
その粉は、昆布に含まれる糖分そのものですから、舐めてみて下さい。
塩分の強い海水中で育ったものだとは思えないほどの強力な甘さを感じます。