前回の投稿「ヤイリギターとこんぶ土居 (前編)」の続きです。
ヤイリギターさんの社訓は
「高品質より我ら生きる道なし」
です。
こんぶ土居も同じように考えて、ものづくりを続けてきました。
今後も同じように続けます。
こんぶ土居が追求した高品質とは具体的に何であったかと言えば、
①おいしさの面で高品質(明確な基準で選択した良質な原材料を使用)
②安全性の面で高品質(食品添加物を一切使用しない)
この二点に集約されるかと思いますが、将来その「価値」が目減りしていくのではないかと心配しています。
①の「おいしさ」については、昔と比べて食品製造技術が進歩していますから、一般的な安価な製品でも「まずいもの」なんて、もはやありません。
特別おいしくなかったとしても「まずい」と断言できてしまうようなものはないと思います。
②の「安全性」についても、古い時代には、食品添加物や農薬などの薬品の害によって、大変な健康被害が出た事例も多々ありました。
しかしそれとて、「黎明期に十分な理解がなかったから」と考えることができるかも知れません。
実際に、過去には命に係わる重大な食品事故が頻発しましたが、最近はそんな話はほとんど聞きません。
つまり、理解が進んできたのでしょう。
共に素晴らしいことです。
人の理解と技術が進み、まずいものがなくなって、食品に含まれる薬品よって健康を害すリスクが軽減したのですから。
こんぶ土居が取り組んできた
「安全で良質な原料を使うことでの高品質」は、時が進んでも、価値を無くすとは考えていません。
しかし、無くなりはしなくても、価値が「目減り」するだろうと思うわけです。
こんぶ土居製品が、美味しさや安全性で優良であったとしても、平均的な製品の品質向上によって、差が縮まってくることが考えられます。
こんぶ土居が近い将来に確実に直面する主な脅威は、下記のようなものでしょうか。
①環境悪化による良質な原料昆布の不作、調達困難
③高齢化の影響で、こんぶ土居のものづくりを支えた良質な製造原料生産者が、今後急速に廃業や事業縮小の見込み
(昔ながらのものづくりを支えた団塊の世代、またはその少し後の世代は、人口ボリュームゾーンであり、今後10年ほどで大量に仕事を引退し一気に従事者が減少します)
これら以外にも、細かいものを挙げれば、ほんとうにたくさんあります。
ヤイリギターさんも、同じような構図ではないかと想像します。
例えば
〇環境の悪化や、林業従事者の減少によって、良質な木材の調達が困難になってきたり
〇良質な木材に引けを取らない音を奏でるギター用新素材が開発されて、特に木にこだわる必要性が薄れたり
〇AIやテクノロジーの進歩によって、熟練の職人の技術を越える精密な木材加工機械が生まれたり
産業革命以後は、「誰かの仕事が別の何かによって代替されてきた歴史」と考えることができるかと思います。
これは別の言い方をすれば「淘汰」です。
私たちの仕事も、常に淘汰圧に晒されています。
古い時代には、食品生産の仕事は例外なく小規模でした。
それが今ではたくさんの巨大食品企業が存在するわけですから、その裏で多くの作り手が淘汰されてきたことは間違いありません。
今後、その流れが元に戻っていくことは、普通に考えれば起きそうにありません。
その淘汰を過度に悲観するのでなく、新しい時代に対応した「新しい価値」を提供できないのなら、「そうなって当然だ」と捉えるべきでしょう。
先日、化粧品業界の専門誌「現代粧業界」のインタビュー取材を受けた際に、終わり際に色紙を渡され、自分の仕事について何か書くように頼まれました。
「座右の銘でもなんでも良いから書いて下さい」と言われ、悩んだ挙句、
「常に問う、社会的意義のありやなしや」
と書きました。
問うているわけですから、明確な答えが自分の中で出ていないわけです。
社会の変化によって、ある価値が目減りするなら、別の意義を加えるしかありません。
これまで通りの姿勢のものづくりは続けつつ、どんな新しい価値を提供可能か、しばらく考え続けることになりそうです。
(了)