こんぶ土居店主のブログ

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納豆、見事な微生物コントロール

納豆は日本人にとってありふれた食品ですが、先人の素晴らしい知恵が活きたとても面白い仕組みによってできています。

厳密に言えば、「先人の知恵が活きていた」に近いかも知れませんけれども。

 

 

納豆菌は、非常にありふれた菌で、いたるところにいるようです。

特に多いのが稲わらで、米を主食とする日本人には身近な菌です。

 

昔ながらの納豆の製法は、蒸した大豆を稲わらに包んで発酵させるわけですが、普通そんなことをすれば、発酵と言うより腐ってしまうのではないでしょうか。

ここに、納豆菌の性質を活かした素晴らしい仕組みが関係してきます。

 

細菌は、ふつう熱に弱いものです。

食品衛生のための殺菌方法でも、その主を為すのは加熱殺菌です。

例えば大腸菌なら、60℃で15分、サルモネラなら55℃で10分、黄色ブドウ球菌なら60℃で2.5分の加熱で、といった具合で、ほとんどの菌はある程度の高温で死滅します。

 

 

しかし、一部に熱に強い菌がいるのです。

それらを「芽胞菌」と総称します。

例えば、食中毒の原因となるボツリヌス菌は、芽胞を形成し、120℃の高温で加熱しないと死滅しません。

つまりグラグラ沸いている熱湯の中でも死なないのです。

そして、納豆菌も芽胞菌であり、同じ性質を持っています。

 

 

伝統的な納豆づくりの際には、蒸した大豆をそのまま稲わらに包むのでなく、一旦熱湯で茹でた稲わらを使います。

こうすることで、稲わらに付着するほとんどの種類の細菌は死滅しますが、熱に強い納豆菌が選択的に生き残り、他の雑菌の影響が少ない条件下で発酵することができるわけです。

昔の人は芽胞のことなど知らずとも、稲わらを熱処理すれば腐敗しないことを経験的に学んだのでしょう。

 

しかし、今では日本で製造される納豆のほとんどは、このようにして作っていません。

例えばスーパーやコンビニへ行って、売られている納豆の原材料表示を見て下さい。

「大豆、納豆菌」となっているはずです。

つまり、稲わら由来でなく、培養した納豆菌を菌メーカーから買ってきて添加しているわけです。

これは、伝統的な製法とは違いますが、決して悪いことではありません。

 

そもそも、いかに事前に稲わらを熱湯処理をしようとも、他の細菌の影響をゼロにすることはできないでしょうし、納豆菌と言っても種類があるようで、どの納豆菌が発酵に関わるかは未知数です。

それに比べて、販売用に培養した納豆菌は、言わば納豆づくりの理想に近い選抜された菌です。

安定して良いものができます。

安全性についても、品質安定についても、間違いなく稲わら由来の菌より培養菌が上です。

 

上である「ハズ」なんです。

しかし、そこは食品の奥深いところ。

おいしさの観点からは、理屈通りになるとは限りません。

 

次回の投稿では、納豆などの発酵食品を例に、食品のおいしさを形作るものの複雑さについて書く予定です。

食品の仕組みの理解が進み、味覚センサーなどの感知機械も進化していますが、まだまだ自然と人間の感覚の活躍する余地は残されているようです。

 

(次回投稿↓へ続く)

konbudoi4th.hatenablog.com