こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

地域性と独自性を考える ~ らくだ坂納豆工房 ~

 

前回投稿↓の続きです。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

前回の投稿で、日本の伝統食品である納豆ができる仕組みについて書きました。

ご紹介した通り、市販されている納豆は、稲わら由来の菌でなく培養された菌が使用されているものがほとんどです。

 納豆製造会社さんが使う納豆菌は、選抜され培養された納豆菌ですから、優秀なのです。

何も問題ないと思います。

ただ、「菌のテロワール(※)」なんてことも最近よく聞かれるようになってきました。

 

ひとことで納豆菌と言っても、非常に多くの種類があり、まだ発見されていない納豆菌も無数にあります。

しかし、一般的に納豆メーカーが使う菌は、主に「宮城野菌」「成瀬菌」「高橋菌」の三種だと言うことです。

(※テロワール(Terroir)とは、「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉である。 もともとはワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指すフランス語である。 同じ地域の農地は土壌、気候、地形、農業技術が共通するため、作物にその土地特有の性格を与える。)出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 

これでは、どこのメーカーの納豆を食べても、似たような味になるのは致し方のないところでしょう。

それが悪いというわけではないのですが、多様性はないですね。

 

 

 

そんな中、こんぶ土居のすぐご近所で、面白いものづくりがスタートしています。

歩いても10分くらいの距離に「味酒かむなび」という飲食店があります。

ミシュランの星も獲得しておられる、素晴らしいお店です。

そのかむなびさんの新しいお仕事として、なんと納豆の製造業を始められました。

その名も「らくだ坂納豆工房」の「谷町納豆」です。

https://www.facebook.com/rakudazakanattou/

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こちらの納豆の特徴は、なんといっても、稲わら由来の納豆菌だけで発酵していること。

このように、容器の中には、大豆と共に藁が数本入っています。

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この納豆が、とても美味しいのです。

使っている大豆の良さもあるかとは思いますが、稲わら由来の納豆菌だけで発酵させていることも、大きく関係しているでしょう。

かむなびさんはお店で日本酒を提供されますから、醸造蔵とのお付き合いもあって、日本酒の原料として使うお米の、良い藁を手に入れられるそうです(大阪の能勢の「秋鹿」の酒米も作る有機農業「原田ふぁーむ」さんのワラ)。

であるならば、この「谷町納豆」は、その酒米テロワールが活きた納豆と言えるのかも知れません。

それは、純粋培養菌では出せない良さでしょう。

ひょっとしたら培養納豆菌は、「おいしい納豆ができる菌」ではなく、「製造しやすい菌」なだけなのかも知れません。

可能であれば、是非この谷町納豆を食べて、一般的な納豆との違いを感じてみて下さい。

 

 

納豆以外の発酵食品でも、同じような動きが徐々に盛んになってきているように思います。

最近では、自家培養酵母(一般に言われるところの天然酵母)でパンを焼く方は、プロアマ問わず、たくさんおられますね。

日本酒の蔵元などでも、協会酵母を使わずに醸すことをトライする方なども現れてきたようです。

私の知り合いですが、北海道の七飯町で山羊を飼う山田農場さんは、無殺菌乳で自生乳酸菌を使ってのチーズづくりを続けておられます。

少し調べてみますと、エシレバターのウェブサイトにも、「発酵を促す乳酸菌も昔から受け継がれています。エシレバターは、テロワール(土壌)の賜物なのです。」との一文がありました。

純粋培養された菌が悪いというわけでは決してないのですが、それと別の価値観である「独自性・地域性」のようなものがあるなら、それは小規模な食品生産者の生きる道なのかも知れません。

 

 

 以前にもご紹介したイタリアのナチュラルワインのインポーターの「ヴィナイオータ」さんのウェブサイトには、下記のような表現がありました。

 

自然に対して畏怖の念を抱いているのなら、自然環境に最大限の敬意を払った農業を心がけるでしょうし、ヴィンテージやテロワールなど、その年、その場所、その土壌の“自然”が余すことなく反映されたワインを理想とするのなら、醸造時に過剰な介入はしないでしょう。

不思議なことに、このように造り手が“我”を捨てて、その時、その瞬間の良心に従ってできたプロダクトには、唯一無二の個性が付与されます。

年の個性、土地の個性、品種の個性、そしてヒトの個性…

 

 

特に安全性に関わる事は、人間が厳しくコントロールすべきでしょう。

しかし、ヴィナイオータさんの言うように、過度な介入をせずとも問題ない製品ができる場合には、「できるだけ自然に」つくった方が魅力的なものになるようにも思います。

そこから生まれる変化を「製品の品質が安定しない」とネガティブに捉えるか、「個性のうち」と捉えるのか。

どちらでも良いとは思いますが、ガチガチにコントロールしようとするのは、少し難があるのかもしれません。

 

 

私共の昆布屋としての仕事とて同じでしょう。

安全性は最優先事項ですし、できるだけ品質も安定させたいです。

それでも、それが「過度」でないように注意しながら、こんぶ土居の個性、大阪の伝統食の個性が感じられる、ヴィナイオータさんの言う「その時、その瞬間の良心に従ってできたプロダクト」をお届けしていきたいと思っています。