来店されるお客様の中で、たまに「昆布の佃煮の煮汁は無いですか」とお尋ねになる方があります。
あいにく、こんぶ土居には煮汁はありません。
ただ、そういったものが販売されている事例があることは承知しています。
昆布を醤油や味醂などの調味料で煮込むのですから、煮汁があるはずだと思われるのも、よく分かります。
しかしこんぶ土居の煮汁は、最終的に全量が昆布に吸収されるのです。
炊いている途中の写真を見ていただければ、理解し易いかと思います。
まずは、炊き始めの状態は、こんな感じです。
最初はたっぷりの調味料の中で昆布は煮込まれていきます。
しかし煮込んでいけば、だんだん調味料は少なくなって。。。
最終的に、こんな状態になるのです。
昆布が完全に露出し、釜の底には僅かに調味液が残っているだけです。
大阪の伝統的な昆布佃煮のつくり方は基本的にこの方法で、業界では「煎り炊き」と呼ばれることがあります。
これとは別に、通称「浮かし炊き」と呼ばれる方法もあります。
これは文字通り、昆布が浮いたような状態で炊き上げる方法で、調味液にどっぷり浸して炊くので、最後に煮汁が残るわけです。
「浮かし炊き」が悪いと言うことはないのですが、昆布由来のおいしさが煮汁に残ってしまうということになります。
それを補うために、うまみ調味料が使われたり、といったことにもつながりやすいようにも思います。
メーカーが「浮かし炊き」を採用する理由は、作るのが簡単だからでしょう。
そもそも「煎り炊き」では、調理の終盤には調味液が少なくなりますから、焦げるリスクが出てきます。
「浮かし炊き」なら、最初から最後まで調味料がたくさんある状態ですので、焦げたりはしないかと思います。
また、「煎り炊き」では、火の通り具合や味の入り方を均一にするため、調理中の「天地返し」が必要になってきますが、「浮かし炊き」ではそれも必要ありません。
似たような構図を見せるものに、調理に使う釜があります。
釜に直接ガス火が当たる「直火釜」と、高温の蒸気を釜全体に当てて加熱する「蒸気釜」です。
「直火釜」であれば、焦げないよう微妙な火力の調整が必要ですが、蒸気釜なら誰が作っても失敗のリスクは一切ありません。
また、大量調理に適しているのは蒸気釜で、直火はあまり大規模にはできません。
「煎り炊き」「浮かし炊き」「直火釜」「蒸気釜」、どれでも特に問題は無いのですが、最も美味しいものができるのは、昔ながらの「直火釜で煎り炊き」ではないかと思っています。
このような事情ですので、こんぶ土居では煮汁は一切販売していません。
「昔ながらの秘伝の製法で炊き上げました!!」などと特に謳っていませんが、今後も粛々と大阪の伝統製法を継承したいと思います。