前回の投稿で、私共でずっと使用してきた川汲浜の天然真昆布が、不作によって2021年の漁が無いことを書きました。
昆布屋としての営業に、大きな影を落とす出来事です。
誤解があってはいけませんので改めて書いておきますと、北海道の他の地域では、天然昆布が引き続き採れている場所もあります。
また、前述の川汲でも養殖真昆布の生産は比較的安定しています。
この構図をどう見るかがとても大事なポイントになるかと思いますので、今日の投稿は、それについてのお話です。
お人によっては、「天然真昆布にこだわらなくても、養殖の真昆布でもいいじゃないか」とお考えになるかも知れません。
狭い見方をすればその通りですが、もう少し深い理解がされることを期待します。
品質面で申し上げれば、天然真昆布と養殖真昆布の味が違うのは言うまでもありません。
しかし、むしろ本当に大切なことは、そんな話ではないのです。
環境が大きく変わり、北海道だけでなく全国的に、更には世界的に、海藻の状態がおかしくなっていることこそ、注目すべきポイントでしょう。
海藻が死滅して岩盤が露出し、そこにウニばかりが目立つ事例は海外でも非常に多くなっています。
本来の日本の豊かな沿岸環境は、海藻が生えているものです。
北海道の昆布産地でも、海中に昆布ばかりが生えているわけでは当然ありませんで、多種多様の海藻が生息しています。
これらの多様な海藻の群落は「海中林」と呼ばれることもあり、陸上に多種多様の植物が生息しているのと同じ形です。
つまり、海藻が消滅していくということは、陸上の森の木がどんどん枯れていくのと同じようなことだと言えるかと思います。
想像してみて下さい。
原因が分からないまま、日本の山林からどんどん木々が枯れて消滅することを。
誰もがそれを、とても恐ろしいことだと感じるはずですが、同じようなことが実際に海中で起きているのです。
山の木々が人間の住む環境に大きな役割を果たしているのと、海中林が果たしている役割は同じでしょう。
例えば、陸上の植物が光合成によって炭素を固定し、同時に酸素を吐き出していることは、誰もが知るところです。
海藻も光合成をしていますから、海水の組成やPHにも大きな影響を及ぼしています。
それが消滅していくことが沿岸環境にどれほど大きなダメージをもたらすか、想像に難くないでしょう。
養殖昆布は、言わずもがな人間が栽培したものです。
しかも、岩盤に根を下ろす天然昆布と違い、沖合に設置したロープに着生する形で生育するので、植物としては同じであっても生え方が違うのです。
他の海藻が生えず岩盤が丸裸になって、養殖昆布栽培ばかりが盛んな海は、山で言えば、人間が植林した針葉樹ばかりが生えて他の樹木が消滅しているようなものです。
そうなれば大変なことですし、その先には、針葉樹までもがだめになる図が想像できませんでしょうか。
私共は昆布屋ですから、当初は原料調達の問題として天然真昆布の不作を捉えていました。
又は、過去から受け継がれてきた伝統ある昆布文化の危機として見てきたところがあります。
しかしこの問題は、もはやそんなレベルを超えているのではないかと考えています。
天然真昆布の大凶作は、「警鐘」だと捉えるべきでしょう。
おいしい昆布がどうとか、食文化がどうとか、それはもちろん大切なのですが、背後には、もっともっと重大な危機が潜んでいるように思えてなりません。
しかし、前述のように養殖昆布の生産は安定していることもあって、天然真昆布の危機的状況の報道を、ほとんど見かけません。
それ故に、多くの方がこの問題をご存知ないままに見過ごされ、更に悪化していくことを危惧しています。
常態化した天然真昆布の不作に見舞われ、私はそれを復活させたいと考えて微力ながら活動してきましたが、もう自分の中でのテーマは変わっています。
すべきことは「藻場の再生」です。
その結果としての「天然真昆布の復活」だとの認識になっています。
今日も、スーパー等の食料品店に行けば、昆布全体としては品不足になっているわけでもありません。
それを見ると、大きな問題ないように感じてしまいがちですが、「養殖昆布があるんだから、それでいいじゃないか」との認識に潜む問題が、ご理解いただけましたでしょうか。
繰り返しになりますが、天然真昆布の連年の大不作を、更に大きな問題の『警鐘』だと認識して下さる方が一人でも多くなることを願っています。
実は日本でも、過去に藻場の再生の成功事例があります。
宜しければ、下記の過去投稿もご参照下さい。