「天日乾燥」。
この言葉には、強い魅力がありますね。
乾物には乾燥の工程があるわけですが、昔の時代は機械乾燥など無いので、必然的に天日乾燥だったでしょう。
時代が進み、徐々に機械化されていったのは、昆布に関しても全く同じです。
本日は、昆布の乾燥について、天日と機械がどのように違うのか書きたいと思います。
切り口は主に4点です。
①乾燥状態の良し悪し、②昆布漁に及ぼす影響、③浜の現実、④環境面、
以上①~④に分けてご説明致します。
(以下のご説明は、道南の真昆布産地である南茅部地区での仕事をベースにしています。他地域では一部に異なる固有の要素があります。)
まず「①乾燥状態の良し悪し」
品質のために天日乾燥が良いと考えられる場合、機械乾燥と違う点は、やはり温度だと思います。
食品によっては高温で乾燥させた方が良いものもあるのかも知れませんが、昆布については、やはり天日乾燥のような低温乾燥が大切です。
機械で乾燥する場合でも、天日と同じような温度帯で乾燥すれば大きな遜色のない品質にはなりますが、高温で一気に乾燥させると全く違うものに仕上がります。
ただ、漁業現場での仕事の効率化のために、高温で乾燥されることが実際にあるので、改善されるべきポイントです。
私は、昆布を見ただけで、その昆布が高温で乾燥されたものか低温で乾燥されたものか見分けることができますが(自慢のようになって恐縮ですが、使用した乾燥機のメーカーも判別できます)、日々の昆布の選別作業で高温乾燥の昆布に遭遇すると、とても残念な気持ちになります。
当然このような昆布は、一級品として販売することなく、価格を下げて販売することになってしまいます。
根深い問題として存在するのは、高温で乾燥させた方が昆布が黒く仕上がり、それが、見た目として一般消費者から歓迎される傾向にあることです。
過去の投稿でも書きましたが、なんとなく黒い昆布は高品質そうに見えませんでしょうか。
今は昆布を専門店でお買いになる方は少なく、たいていスーパーや一般的な食料品店が利用されるでしょう。
その場合、販売に従事される方は昆布の専門家ではありませんので、深い理解がなく、黒い昆布の方が売れやすく歓迎する傾向があるようです。
低温で乾燥され、かつ良い生育状態の昆布は、真っ黒でなく「飴色」がかっているものです。
まとめますと、機械乾燥でも天日と大きな遜色のない品質の昆布をつくることはできますが、それは適切な温度での良い機械乾燥であることが条件になり、現在では必ずしもそれが保証されていない、ということでしょうか。
次に「②昆布漁に及ぼす影響」。
昆布漁は意外にデリケートなのです。
まず、天候が悪いと出漁できません。
例えば海が時化(しけ)ると操業の安全性に問題が出ますから、当然出漁できません。
特に天然昆布に関しては、晴天の日であっても、直前に雨が降っていれば海が濁って船上から海底の昆布が見えませんので、昆布を採ることはできません。
ある年は、大雨があった影響で川が増水し、濁流が流れ込んで海が濁り、長期間に亘って全く天然昆布漁ができませんでした。
また、天日乾燥を前提にするなら、雨なら出漁できませんし、曇りでも難しいです。
良い品質の肉厚の天然真昆布なら、晴天でも天日乾燥に二日かかり、雨にあたってしまうと品質に問題が出るからです。
このように天候に左右される昆布漁ですが、適切なタイミングで漁をすることは、とても大切です。
他の陸上の農作物と同じように、昆布の成長度合いにも理想的なピークがあります。
それ以前ですと、十分に成熟していない状態ですし、ピークを越えると胞子を出す段階に近づきますので、品質に問題が出ます。
天然昆布漁の解禁日は、こんな事情で土用の頃に設定されているわけですが、前述のような天候による悪条件時には、このスケジュールがずれ込むことになります。
そうなると昆布の品質に悪影響がありますので、適切なタイミングで水揚げしてしまうことは大切なのです。
機械乾燥を導入しても時化で漁に出られないのは同じですが、曇りの日や、少々の雨なら水揚げできることが機械乾燥のメリットのひとつでしょう。
このように、間接的な要因によって、機械乾燥が品質向上につながる可能性も想定できるわけです。
「③浜の現実」
私共で主たる原材料として使う真昆布の産地、北海道の南茅部地区は、海の背後にすぐ山が迫り、平地が広くはありません。
天日乾燥をしようとするなら「干場(かんば)」と呼ばれる場所を整備する必要があります。
玉砂利や砕石を敷き詰め、昆布の乾燥に良い環境を整えるのです。
このためには、十分なスペースが必要なわけですが、前述のように平地が広くない地域で、機械乾燥のない古い時代には、漁師さんも大変ご苦労されたようです。
例えば、「家の屋根の上にまで昆布を干した」という昔話を伺ったりすることもあります。
また、天日で昆布を干すのは大変な重労働であり、高齢化が進んで労働力の確保が大変な現在では、簡単でない部分もあります。
④環境面から
天日乾燥は、太陽と風が昆布を乾かしてくれます。
完全な自然エネルギーですね。
それに対して、機械乾燥は燃料を燃やして乾燥室の温度を上げますから、環境面から考えると天日乾燥が推進されるべきだと思います。
ただ、生産現場の諸々の事情によって、それがすぐに可能でない場合もあり、なかなか難しいところです。
実は、機械乾燥と天日乾燥のハイブリッドのような方法もあります。
実際に多くの漁師さんが取り入れていますが、「水切り」の工程を入れることです。
この写真のように昆布を吊り下げて、漁獲直後の水分を切り、いくらか乾燥させます。
その後に乾燥室に入れて完全に乾燥させる流れです。
この方法では、品質面でも天日乾燥に近くなりますし、何より燃料の節約にもなります。
ただ、昆布をたくさん吊るした竿は非常に重く、効率よく乾燥室に入れるためにはちょっとした設備やスペースも必要ですから、なかなか対応が難しい漁家もあるようです。
完全に天日乾燥で仕上げるのは難しいにしても、この「水切り」のような方法で、可能な範囲で積極的に自然エネルギーによる乾燥に取り組むべきだと思います。
まとめますと、天日乾燥は、乾燥の部分だけで言えば、非常に良い品質のものができ、環境面で最も良い方法だとは思います。
ただ同時に解決すべき課題もあり、機械乾燥はそれを補うもので、様々なメリットもありますので一概に否定はできません。
ただ、「天日で問題ないのなら天日乾燥を積極的に選択する」ということができれば良いとは思います。
今後の日本の労働環境を考えれば、できるだけ作業効率の良い方法が求められますし、同時に品質を良い状態で保つこと、環境負荷を少しでも減らすこと、様々な問題を同時に解決する手段が求められます。
当然、それは簡単では無いのですが、目指すべき方向性だけは決まっていますので、その実現に向けて、大阪からも昆布産地に引き続き働きかけたいと考えています。