昆布は、強い主張のない食品なので、他の食材と喧嘩することは少ないですが、調味料の中で特に良い相性を見せるのが酢です。
酢こんぶは昆布加工品の定番ですし、何よりとろろ昆布類は昆布をお酢に浸して柔らかくして削るものです。
また、昆布でだしをとる際にでるダシガラにも、お酢は良い働きをします。
グスグスした食感があまり心地よくはないダシガラ昆布ですが、お酢につけると食感が変わるのです。
シャッキリと気持ちの良い歯ごたえに変わります。
不思議なものです。
昆布の佃煮類をつくる際にも、酢が使用される場合があります。
こんぶ土居製品の佃煮類では使用しませんが、市販品の昆布佃煮の原材料表示に酢が書かれている場合も非常に多いものです。
これは、味のために加えているのではなく、酢を入れると昆布が早く柔らかく煮えるからです。
ただ、酢を使わずとも時間さえかければ柔らかくなりますし、そもそも昆布の佃煮に酸味は不要でしょう。
また、酢の作用による柔らかさは昆布佃煮の本来の食感とは少し違ったものになるので私共では使用しませんが、そんな効果もあるわけです。
日本の場合は米酢が多いと思いますが、品質は様々です。
昔ながらの本物の酢と呼べそうなものは、残念ながら少なくなっています。
一方、様々なメーカーの中で、なんだかアヤシイ製品が見受けられるのも、お酢業界の特徴です。
少し気になるのは、消費者サイドからの「すっぱくないまろやかな酢」といった評価軸が存在することです。
酢なのですから「すっぱくない」は、そもそも変ですね。
ただ言わんとしていることを一応理解できますのは、あまり良くない酢の代表格として、所謂ホワイトビネガー等と呼ばれる薄めた氷酢酸のような製品も存在し、こういったものは本当にただ酸っぱいだけで、刺激が強くとげとげしいものです。
それに比べて伝統的な本物の酢は、より複雑な味で、それこそ「すっぱくないまろやかな酢」とも言えそうですが、実は酸味の柔らかさ自体は容易に作り出すことができるのです。
例えば甘さです。
お酢に砂糖を入れて味を試してください。
酸度が下がったわけでもなんでもないはずなのに、不思議と刺激が少なくなります。
同様のことが、うまみ調味料でも起こります。
実験的に、安売りの大量生産品の酢に味の素を入れて味をご覧になって下さい。
一気に酢の刺激が柔らかくなることに驚かれると思います。
お酢の醸造工程で、うまみ調味料を加えていたとしても、法の網の目をくぐれば原材料表示を免れることすら可能です(下記、過去投稿でご説明しています)。
表示はなくとも、酢に含まれるうまみ成分の組成を分析にかけた結果、不自然にグルタミン酸量ばかりが多く検出されるような製品が存在しているようですから、嘆かわしいものです。
こんな背景もありますので、甘さやうま味調味料で調整できるような分かりやすい話でなく、もう少し深い理解がされることを期待します。
本物が理解されず、ごまかしの製品が高く評価されたりする事例は、良いものづくりをしている作り手さんにしてみれば悲しいものですから。
最後に、本日の内容に関係する過去投稿を下記にご紹介しておきます。
「表示免除」について書いたもの、過去に酢について書いたもの、無濾過について書いたもの、の3投稿です。
そちらも是非ご一読下さい。