こんぶ土居店主のブログ

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だしの「定義」がずれていく

家庭でだしを取る人の割合がどんどん少なくなる今、代わりに多く使われるようになったのが「だしパック」と呼ばれる製品です。

「だしパック」は顆粒だしと違い、自分でだしを取っている気になるのでしょう。

しかし、昔ながらのだしパックと違うタイプの製品がどんどん増えていることを、御存知でしょうか。

 

 

固有名詞を出して恐縮ですが、例えば、非常に人気で使っておられる方も多い「茅乃舎だし」。

人気だと言うことは、多くの方の支持を集めているということですから、何も問題は無いのです。

しかしながら、昔ながらのだしパックとは、違った分野の製品だと言えるかと思います。

 

 

例えば私共で製造しておりますだしパック製品の原材料は、「昆布、鰹節」の二つだけで構成されています。

ただ、私共の製品が特別だと言うわけでは決してなく、以前はどこのメーカーのものも、こんなタイプでした。

つまり、昆布、鰹節、煮干し、干椎茸、といった自然のだしの素材を不織布などに詰めたものこそが、「だしパック」であったわけです。

 

改めて「だし」とは何かということを再確認するために、辞書を参照してみたところ、こんな説明がなされていました。
【「出し汁」の略。かつおぶし・こんぶ等を煮出して、料理のうまさを増すのに使う汁。】

しかし、前述の茅乃舎だしの原材料は、下記の通りです。

 

風味原料[かつお節、煮干しエキスパウダー(いわし)、焼きあご、うるめいわし節、昆布]、でん粉分解物、酵母エキス、食塩、粉末醤油、発酵調味料

 

辞書の説明から逸脱するものが、ずいぶんたくさん含まれていますね。

これは、言ってみれば、だしパックでなく「スープのもと」的かと思います。

昔ながらのだしパックと違うところは、まず、うまみ調味料が入っていることです。

酵母エキスがそれに該当します。

気になるのは、パッケージおもて面に大きく「化学調味料、保存料、無添加」と書かれているところ。

酵母エキス使用に問題が無いとするのなら、化学調味料を問題視する理由が不明ですが、こういった製品は非常に多いものです。

また、粉末醤油などが入っていることも、やはり「だし」ではなく「スープのもと」的だと思う理由のひとつです。

煮干しエキスパウダーという原材料も使われているようですが、エキスとだしの違いについては過去投稿をご参照下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

改めて申し上げますが、こういった新しいタイプの製品も、多くの方の支持を集めて販売量を増やしているわけですから、特に何の問題があるというわけでもありません。

しかし、「スープのもと的だしパック」が多くなり利用者が増えると、それが徐々にだしパックのスタンダードになって来ているようにも思うのです。

 

私が気になるのは、その結果として昔ながらのだしの味が分からない人が増えているのではないかということです。

実際に、昆布と鰹節から取っただしの味を見て、「味があまり感じられない」との感想を持つ方が多いようです。

それも当然。

「スープのもと的だしパック」の味に慣れ親しんだ方には、酵母エキスなどのうまみ調味料も粉末醤油も入っていないものの味が弱く感じられることでしょう。

 

 

こういった製品は、言ってみれば、「顆粒だしのもと」と「昔ながらのだしパック」のハイブリッド的製品です。

顆粒だしと昔ながらのだしが違うことは、なんとなくであったとしても多くの方がご存じでしょう。

しかし、「スープのもと的だしパック」を使って料理する際、「だしを取っている」という認識でいる方も多いように思います。

この認識によって、昔ながらの素材と手法でだしを取ることと、スープのもと的だしパックを使うことが、同一視されていくように思います。

 

 

これが、タイトルにした、「だしとは何か」という「定義」に影響するのではないかと危惧する理由です。

つまり、意外に多くの方にとって「だし」とは既に、茅乃舎だし的な味のついたもののイメージなのかも知れません。

私共のような伝統的なだしを仕事にする者には、大きな逆風のひとつです。

 

製品の素性を見分けるためには、やはり最低限必要なことは、原材料表示を読むことです。

表示義務の有無で、それとて十分ではありませんが、多くの方が食品の「製法と原材料」に関心を持っていただき、違いを理解してお求めくださることを期待したいものです。

今後、私共の製品を「スープのもと的だしパック」と比較して「あまり味が無い」と感じられる方がどんどん増えてくるようにも思います。

しかし、そんな逆風に負けず、本来のだしの「定義」から逸脱しない製品づくりを粛々と続けます。

また、ご理解いただける方が一人でも多くなるよう、情報提供にも力を入れたいと思います。

konbudoi.shop-pro.jp

 

原材料表示の免除規定について書いた過去投稿も、ご一読下さい。

表示を免除されるもの① 原材料の原材料 - こんぶ土居店主のブログ

表示を免除されるもの②キャリーオーバー - こんぶ土居店主のブログ

表示を免除されるもの③加工助剤 - こんぶ土居店主のブログ

表示を免除されるもの④栄養強化目的 - こんぶ土居店主のブログ