冒頭から問題発言で恐縮ですが、私は高級和牛が嫌いです。
「松阪牛」とか「神戸ビーフ」とか、A5ランクがどうとか、全て好きではありません。
特に、キレイにサシの入った「霜降り肉」は、値段も高いのだと思いますが、食べたくないです。
お好きな方には申し訳ありませんが、私には特有の嫌な臭気を感じるのです。
それに引き換え、牧草肥育牛なら好きです。
「グラスフェッドビーフ」ですね。
国産のグラスフェッドはあまり手に入りませんが、輸入肉であれば通販で簡単に入手できます。
ご興味あれば取り寄せて食べてみて下さい。
そもそも牛は、草食動物でしょう。
そうであれば、草を食べてもらいたいものですが、日本では「濃厚飼料」と呼ばれる、穀物を主体とした給餌がされるわけです。
過去の悲しい出来事としてのBSE問題がありましたが、その原因のひとつが「肉骨粉」を飼料として与えていたことです。
草食動物である牛に、「肉と骨の粉」を食べさせる正気とは思えない所業、こんなことをしていては問題が起きて当然でしょう。
やはり、動物の本来の食性にできるだけ沿った酪農が望ましいと思います。
これは牛乳についても同じで、濃厚飼料で育った普通の牛乳が嫌いです。
小学生の頃は、学校給食で毎日牛乳が出ましたから、非常に辛かったのを覚えています。
理由は、こちらからもまた、特有のイヤなにおいを感じるのです。
しかし、そんな私にも、飲める牛乳があります。
もうお分かりかも知れませんが、牧草で育てた牛の牛乳です。
牛肉と、構造は全く同じなんですね。
これらは、私の個人的な好みの話だと言われればそれまでですが、動物の本来の食性から離れた酪農が不自然なのは間違いないはずで、そんな風に育てられた家畜は、不健康なのではないでしょうか。
そもそも酪農の本質は、人間が食べられないものを家畜が食べてくれて、人間の食べるものに変わることでしょう。
『牛や羊が牧草を食べて肉や乳になる』、『ニワトリがミミズや青草をついばんで、鶏肉や卵になる』。
なんと素晴らしいことでしょう!
そう考えると尚更、「ビールを飲ませて松阪牛を育てる」なんて、バカバカしいことのように思えるのです。
味の好みだけでなく、こんな意味合いもあって、私はグラスフェッドビーフが好きなのですが、残念ながら日本には広大な牧草地なんて少ないですね。
つまり牧草肥育に適していない国土ですから、濃厚飼料で育てる他ないのは理解できますが。
そうであっても、食糧問題が深刻化する未来に、「人間が食べられるもの」を大量に与えて不健全な家畜を育てることなど、推奨されるべきことではないように思います。
さて海に目を向けまして、魚です。
世界の天然の魚の漁獲量は、近年ずっと横ばいで増えていません。
それに対し、養殖魚の量は増え続けています。
世界人口が急増する中で、資源問題に悩まされる海産物ですから、今後は益々養殖魚の重要性が増すでしょう。
しかし、ここで問題になってくるのは、養殖魚のエサです。
通常、養殖用の配合飼料の主たる原材料は、魚粉なのです。
例えば、養殖する魚を1㎏太らせるために、10㎏ものエサの魚が必要なこともあるそうです。
その10㎏のエサの魚を人間が直接食べることと比べると、社会的に正しい行為なのか、特に持続可能性の観点からは大いに疑問が残ります。
その一方で、一部に草食の魚がいます。
草食魚であれば、陸上で廃棄野菜などをエサに育てることも可能で、魚の資源問題に悪影響がありませんから、今後注目されてくるかも知れません。
そんな取り組みを実際にされているのが、大阪の料理人さんが集まって結成された「RelationFish株式会社 いただきますを考える会」です。
「アイゴ」という草食魚を通して、未来の食を考えておられます。
社長の島村さんは、優秀な料理人であると同時に、社会問題に挑む活動家のような方です。
ミシュランガイドでも星を取っておられますが、持続可能なガストロノミーに対し積極的に活動しているレストランに授けられる「ミシュラングリーンスター」も獲得されています。
先日、「いただきますを考える会」のことを大阪のテレビ局が取り上げていましたが、動画がアップされているのでご覧ください。
このように、アイゴは一般の魚と違って草食魚であるからこそ、魚粉に頼らない養殖が可能なわけです。
まだまだ研究段階ですので、社会問題の具体的な解決策と成り得るかは分かりませんが、引き続き注目したいと思っています。
本日の投稿のタイトルは、「グラスフェッドビーフとアイゴの養殖」ですから、両者に何の関係があるのかと思われるかも知れませんが、人の食用になる動物を飼育する際のエサの観点で、共通の見方ができるように思うのです。
魚粉エサの持続可能性以外に、実はこのアイゴ、もうひとつ別の問題にも関係しています。
それは、昆布屋として私が最も注目する「磯焼け問題」です。
北海道の天然真昆布が慢性的に不作であることは、このブログでも何度となく書かせていただいているところです。
昆布だけでなく他の海藻類も減少していますから、起きていることは「磯焼け」そのものです。
前述のように草食魚ですから、天然のアイゴは海藻を食べます。
加えて、天然アイゴは、これまで商品価値があまり認められず、積極的に漁獲し利用されることがほとんどありませんでした。
こんな背景で個体数が減らず、たくさんのアイゴが海藻を食い荒らして藻場が無くなることにつながるのです。
磯焼け問題には、天然アイゴが関係しているわけですから、養殖のアイゴを育てても、直接的には何の解決にもなりません。
しかし、それによってアイゴという魚自体への関心や理解が進んで、天然のアイゴも漁獲されて利用される未来があるのだとすれば、海藻を守るべき立場の昆布屋としては、何よりの喜びです。
このような期待を私が抱くのは、アイゴを食べた経験からです。
先日、「いただきますを考える会」がイベントを開催され、試食もあったのです。
そこで天然と養殖のアイゴを食べましたが、両方とてもおいしかったです。
また、知り合いの釣り好きの方にも尋ねたところ、「普通に美味しいですよ」と言われました。
アイゴは背びれなどにトゲがあり、少し扱いにくい魚ですから、そんなこともあって評価されてこなかっただけなのかも知れません。
さてさて、今後どんな流れになっていくのでしょうか。
とても楽しみです。
ちなみに、昆布の産地である北海道にはアイゴはいません。
昆布の最大の敵となっているのは、目下のところウニです。
このあたりのことも、いつかブログで書きたいと思います。
(了)