さて、私共が40年来つくり続けてきた、濃縮だし製品「十倍出し」。
三代目が、「便利な本物」というキーワードの元に開発したものです。
改良を続けながら、高級版の「本格十倍出し」、廉価版の「標準十倍出し」に加え、昨年からは鰹節等の動物性原料を一切使用しない「純植物性十倍出し」も加わりました。
「十倍出し」を初めて見るお客様の中には、「白だしのようなものですか?」と仰る方が少なくありません。
この言葉を聞く度に、私は少し複雑な気持ちになります。
そもそも、私が子供の頃には「白だし」と呼ばれる製品は、無かったと記憶しています。
めんつゆは普通に売られていましたし、顆粒の「だしのもと」もありました。
しかし「白だし」と呼ばれる製品カテゴリーは、いつの頃からか一気に市場に普及し出したように感じています。
言い換えれば、「現代人の支持を得ている」ということでしょう。
こんぶ土居の「十倍出し」と、所謂「白だし」は、コンセプトが違うのです。
「十倍出し」は、ご家庭での「だしを取る作業」を肩代わりしたような製品であって、言ってみれば「ただの濃いダシ」です。
少し塩分を加えていますが、これは味付けのためでなく保存性を高めるためであって、最小限です。
「十倍出し」のみで料理の味付けが完結するわけでなく、料理に合わせて調味料を加えて仕上げていただく必要があるわけです。
店頭に来られるお客様の中にも、「使い方」を尋ねられる方が昔より増えたような気がします。
ただの「だし」なわけで、お好きなように使って頂ければ良いのですが。
そんな声への解決策として、使用例レシピ動画をYouTubeで公開し、リンクのQRコードを製品ラベルに印刷しています。
一般的な「白だし」製品にも、必ず製品ラベルにレシピのような使用例が記載され、それのみで料理が完結する方向で作られているようにお見受けします。
実は「十倍出し」は、過去と比べて販売数量が少し落ちているのです。
品質面では常に日本一であると自負しています。
コンセプトの近い他社製品を発見する度に買ってみて、自社製品との比較もしてみるのですが、過去も今も常にナンバーワンの品質であると感じています。
しかしそれでも、製品ヘの支持が拡大しているとも言えないのが現状です。
この理由を考えたとき、今が「白だし時代」であるからではないかと思うようになりました。
つまり、自分で工夫して味見をしながら、調味料を調合して仕上げることが敬遠され、「味付け、これだけでOK!」といった、とにかく簡単なものを求める人が多いということでしょう。
食材や調味料などを組み合わせて調製する「料理の本義」から、徐々に遠ざかってきているようにも思えて残念ですが。
この問題については、過去投稿でも書きました。
この過去投稿を書いたときには、市販の「なべのもと」を買って、それを鍋に注いで具材を煮ることを、果たして料理と呼べるのかと疑問を呈しました。
これと「白だし」の多用は、似た構造だと思うのです。
なかなか困った時代です。
しかし、今が「白だし時代」であって、それを求める方が多いのなら、私共でも「白だし製品」を作ってみようかと考えています。
当然ですが、うまみ調味料には頼らない本物です。
不本意に感じないでも無いのですが、消費者ニーズに合わせるということでしょうか。
消費者を3つのグループに分けて考えますと。
グループ①『本当に食に関心が強く、自分で料理するのが好きな方』
には、昆布を買っていただいて、だしをとるところから始めていただくのが最善でしょう。
グループ②『いちいちだしを取るのは面倒だけど、料理は好きで、調味が苦手で無い方』
には、十倍出しを利用して、他の調味料と合わせて料理を仕上げていただくのが良いかと思います。
そして、検討するこんぶ土居の「白だし」の想定ユーザー層は、
グループ③『本物の食品についての理解があってそれを求めているが、同時に簡便さを求めていたり、又は料理が苦手な方』
でしょうか。
製品実現への道は、実はとてもシンプル。
「白だし」に含まれて、「十倍出し」にないもの、それは「甘味と醤油味」ですから、それを足すだけです。
簡単なことです。
こう考えると、「めんつゆ」と遠からずですが、最大の違いは「色味」です。
「めんつゆ」は、こいくち醤油由来の黒めの色合い、それに対して「白だし」は、文字通り色を淡く仕上げます。
そのためには、うすくち醤油と塩の出番です。
実は、この特徴、私共の従来品の「うどんそばだし」と重複する部分が多いのです。
しかし「うどんそばだし」を製造する理由は、うどんだしの調合が意外に難しいからであって、「白だし」の製品コンセプトとは少し異なります。
適当にダシ素材と調味料を合わせて用意しても、なかなか求める味にはならないのが「うどんだし」でして。
ですので、良い「白だし」製品が完成し、用途を補完するものになれば、うどんそばだしは廃盤にするかも知れません。
現段階では、なんとも言えませんが。
製品づくりも、なかなか難しいものです。
こんぶ土居の公式サイトのトップページには、以下のように書きました。
こんぶ土居では、伝統ある大阪の食文化を守り育て、本物を次代に伝えることが私どもの使命だと考えています。また、伝統を大切にしながら、時代に合った便利な製品の開発、お求め易い価格の新製品等、常にお客様の立場に立った食品づくりを心がけております。
このコンセプトを体現する製品とは、どのようなものであるのか。
頭を悩ませます。
さてさて、多くの方に支持していただけるものになりますでしょうか。
試作品で終わるのか、レギュラー製品化できるのかは、現段階では何とも言えません。
(了)