『昆布』が英語で表記される際、「KOMBU」となることが多いようです。
例えば、英語版のWikipediaでも、以下の通りです。
しかし私は、少々これは不適切なのではないかと考えています。
「こ・ん・ぶ」の真ん中の音がなぜMなのか。
普通に考えればNです。
ですから私は、「KOMBU」でなく「KONBU」と書くべきだと思うのですが、本日の投稿では、それについてより詳しくご説明するものです。
段落として、以下のように進めたいと思います。
【KOMBUと書かれる理由】
【ヘボン式の機能不全】
【修正ヘボン式、日本語に誇りを!】
【理解者、ナンシーさん】
ではまず、
【KOMBUと書かれる理由】
これはもう、シンプルな話なのです。
ローマ字表記の方法として最も一般的な「ヘボン式」の取り決めが理由です。
ヘボン式ローマ字は、日本語表記をラテン文字表記に転写する際の規則、いわゆるローマ字の複数ある表記法のうち、日本国内および国外で最も広く利用されている方式である。 (出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
とのことです。
ヘボン式で昆布をどのようにローマ字表記するか。
熊本県のウェブサイトが分かりやすく説明していますから、引用します。
https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/70/2903.html
関係箇所を抜粋しますと。
「ん」は「N」と綴ります。
ただし、「B」「M」「P」の前の撥音については「M」と綴ります。
とのことです。
このような取り決めがあるからこそ、「KOんBU」の「ん」はBの前ですからMに化けて「KOMBU」となってしまうわけです。
しかし私はやはり「KONBU」と書くべきだと考えています。
その理由を、次の段落でご説明します。
【ヘボン式の機能不全】
まずそもそも、日本語をローマ字表記する際に機能として必要なことは「発音の再現性」でしょう。
日本人が日本語を話す際の「音」を、ローマ字表記を読んで正しく発音できるか、ということです。
ヘボン式が、「B」「M」「P」の前で特殊な取り決めをする理由を考えると、一つには英語にはそういった事例が多いからでしょう。
その代表例が、英語の「COM」と「CON」です。
これらは両方、(一緒に、共に〜)の意味合いを含む接頭辞で、同じ意味です。
具体的な単語をご紹介しますと、
【グループA】
Conceal (~を隠す)
Conceive (思いつく)
Consent (同意する)
Concentrate (集中する)
Concern (~に関係する)
Confuse (~を混乱させる)
Conflict (~と衝突する)
Constant (不変の)
Contract (~と契約する)
Confront (~に立ち向かう)
このように、基本的には「CON」と書くのです。
しかし、b、p、mが続けば、
【グループB】
Compromise (妥協する)
Compare (~と比較する)
Compensate (~を補償する)
Compliment (賛辞、~を褒める)
Compatible (~と互換性のある)
Combine (~と結合する)
Compassion (同情)
Complete (完璧な)
Complex (複合の)
Compose (~を構成する)
というように「COM」に化けてしまいます。
これは、言ってみれば「英語のクセ」でしょう。
そして、ここで注意すべきことは
「con」と「com」は発音が違う
ということです。
Concealの発音記号は【kənsíːl】であって、Compromiseの発音記号は【kɑ'mprəmàiz】ですから、nとmの発音は違うわけです。
b、p、mの前ではMがNに化けてしまうことを「英語のクセ」だと書きましたが、それはあくまで「クセ」であって、Nの発音ができないわけではありません。
『INPUT』などは、Pの前でも『M』に化けることなく『N』のままであり、当然Nの発音をするわけですから、あくまで「傾向」ということです。
ここで日本語に戻ってみましょう。
『ん』の音が、ヘボン式でどのように表記されるのか見ますと。
【グループA】
混同(こんどう) KONDO
昏倒(こんとう) KONTO
根底(こんてい) KONTEI
【グループB】
昆布(こんぶ) KOMBU
棍棒 (こんぼう) KOMBO
梱包 (こんぽう) KOMPO
混迷(こんめい) KOMMEI
ここまでの内容で注意していただきたいことは、
英語であれば「COM」と「CON」の音が違い、
日本語は「KON」と「KOM」が同じ音、である点です。
違う発音表現に違う表記を用いるのは当たり前です。
しかし、同じ発音を表現するのに違った表記をするのは、「日本語の発音を正しくアルファベットを用いて再現する」という本来の目的に照らして、おかしいと思われませんでしょうか。
まさか、『混同 KONDO』と『昆布 KOMBU』の『こん』の音が違うと考える方はいないでしょう。
参考までに、なぜヘボン式でこんな特別な規定がされてしまったかを考えますと、恐らく理由は、「M」と「N」の唇の動きの違いです。
「M」が表す「ま行」「まみむめも」は、発音時に必ず一旦唇が閉じます。
一方、「N」が表す「な行」「なにぬねの」では唇が閉じないことがお分かりいただけると思います。
また「B、M、P」も必ず一旦唇が閉じるので、言わばその「親和性」とでも言いましょうか、引きずられるような形になっているのだと思います。
これは、先に「CON」と「COM」の例でご説明したように、「英語のクセ」でしょう。
繰り返しますが、「CON」と「COM」は発音が違うのですから、違う表記をしても問題ありませんが、日本語の場合、全く同じ『ん』という発音をするのに、それが時にNになったりMになったりしてしまうのは不適切だと思われませんでしょうか。
これが、「日本語を表音文字であるアルファベットを用いて正しく再現する」という本義に照らして私が考える「ヘボン式の機能不全」です。
【修正ヘボン式、日本語に誇りを!】
私と同じ考えに立って下さったのか、実は「修正ヘボン式」という表記も存在しているのです。
この方法では、後ろに「b, m, p」が続いたとしても「ん」は常に「N」と表記することになっています。
それでも、私たちの名前がアルファベット表記される場合、代表的なのはパスポートへの記載ですが、その場合もヘボン式が引き続き利用されています。
しかし、これこそ変でしょう。
「明石家さんま」の音を正しく表しているのは、「Akashiya Sanma」でしょうか。それとも「Akashiya Samma」でしょうか。
誰に聞いても答えは前者でしょう。
私たちは日本人として、「日本語の正しい発音」に、もう少し誇りを持つべきだと思うのですが、いかがお考えでしょう。
嬉しいことに英語版のWikipediaには、以下の通りに書かれています。
【理解者ナンシーさん】
本日私が書いてきた内容を、過去に多くの方にお伝えしてきたわけではありません。
しかし、外国の方へのアルファベット表記ですから、外国人にどのように受け取られるか確認したく、知人にお話したことがありました。
それが、日本の食文化に精通し、海外でも広く発信して下さっているアメリカ人「ナンシー八須シングルトン」さんです。
日米両国で、日本食文化に関するご著書も発行されていますが、ナンシーさんは昆布については常に「KONBU」と書いて下さっています。
以前に、私が「KOMBU」に違和感を持っていることをお伝えすると、大賛成して下さいました。
今回の私のご説明を応援して下さる、とても嬉しい理解者です。
以上です。
私たちは日本人であって、特に日本の文化を伝えるときには、その言葉にも誇りを持って臨むべきだと思うのです。
であれば、「KOMBU」と発音する外国人がいたとすれば、それを正すぐらいの姿勢が必要でしょう。
日本人自らが「KOMBU」などと書いてしまうことは、是非避けたいものです。
こんぶ土居は、これまでもこれからも「KONBU DOI」 です。
(了)