「Think Globally, Act Locally」という言葉があるそうですね。
今や、世界中から本当に多くの方が日本へ来る時代になり、日本文化への理解も日に日に進んで来ているように思います。
しかし日本の伝統文化は衰退している分野ばかりです。
世界で評価される素晴らしいものが、そんな現状ですからなんとももったいないこと。
私の仕事を考えても、昆布文化は急速に衰退してきています。
足元にあるもののがありふれているが故に、その真の価値に気づかず軽視してしまう構図は、多くの国や地方が抱えている問題なのかも知れません。
それはつまり今は「世界を見て学ぶこと」が足りず、同時に「ローカルな何かを大切にする姿勢」が足りないということであって、「Think Globally, Act Locally」は、その問題意識を上手に表現した言葉なのでしょう。
【Act Locally】
まずローカルであるということは、言い換えれば「地域独自性」です。
更に言えば「地域文化」です。
それが、日本全体で衰えているわけですが、例えば、『衣食住』という言葉がありますが、和服を着て生活する人がほぼいない、日本の伝統建築に住む人が少数派、昆布ダシなど取ったことがない、といったことでしょう。
それぞれの地方に目を移せば、国道沿いを車で走って目にする景色は、どの地方でもほぼ同じ。
全国展開のチェーン店が並ぶ景色の違和感を感じた方も少なくないと思います。
食の世界でも、地域の素晴らしい独自食文化が衰退している事例が多いようですね。
ついでに申しますと、私は大阪人ですが、最近では大阪弁しゃべれない子供が増えているとか。いやはや。
【Think Globally】
【Act Locally】で書きました残念な日本の現状。
その原因を考えたとき、【Think Globally】つまり「外部からの視点」が足りないからではないかとも思います。
「灯台下暗し」と、先人はよく言ったもので、当たり前に存在している物の価値が軽視されるのは、仕方のないことなのかも知れません。
◇広い見分が足りないことで、外の世界の優れた点への理解が足りないと同時に、内部の劣った点への理解が足りず、改善の動きが弱い。
◇広い見分が足りないことで、内部に存在する特殊な価値に気づかず、軽視してしまう。
こういったことがあるとすれば、それは本当の意味で【Think Globally】ができていないということでしょう。
外部からの視点を以て初めて、ローカルの良さも悪さも理解できるのでしょう。
例えば、こんぶ土居がある大阪の「空堀」。
20年ほど前から、特殊な町おこしのムーブメントが起き、全国的にもモデルケースのように見られることも多い場所です。
戦争で一面が焼け野原になった大阪ですが、わずかに焼け残った地域があって、そのひとつである「空堀」。
それゆえに戦前からの街並みが残り、その魅力を察知した外部の方々が移り住んで特殊な雰囲気をつくりだしています。
しかし地元民である私には、子供の頃から慣れ親しんだ景色であり、ただの古臭い町にしか見えていませんでした。
これは正に、地元民である私の目が「灯台下暗し」であって、街並みを見る際に【Think Globally】ができていなかったということでしょう。
【こんぶ土居のローカル】
私共は昆布屋です。
零細な規模ではありますが、一事業体ですので、その価値を多くの方に知っていただき、たくさん製品を買っていただくことで存続できます。
その目的のために、例えば「支店を出したり」「取り扱いアイテムを増やしたり」「外部へ積極的に出て価値を伝える活動をしたり」。
そういった取り組みは、多くの企業が考えることでしょう。
①しかし、こんぶ土居では、今後もずっと一店舗だけで営業を続ける予定です。
支店は出しません。
商品の卸販売はしていますから、他の地方の販売店さんでもお求めいただける物もありますが、本当を言えばこれもやめた方が良いのかも、などと考えることもあります。
②取り扱いの昆布の種類についても、私共は言わば「品揃えの悪い昆布屋」です。
だし昆布として有名な羅臼昆布や利尻昆布を一切販売していないことが、それに当たります。
③私が様々な場所へ出向いて活動することに対しても、昔に比べて消極的になりました。
①については、買って下さる方の利便性を高めるのは大切なことですが、逆の作用として「どこでも手に入る」となってしまうのなら、それは【Act Locally】では無いように思います。
②も、それぞれの品種の昆布にはそれぞれ適した用途があるわけですし、幅広い銘柄の昆布を取り扱うことは、ご利用いただく方にとって良いことかもしれません。
しかし、それは言ってみれば「のっぺらぼう」であって、古くからの大阪の昆布文化を表現したものだとは言えないでしょう。
③は、「私が出ていくこと」よりも「来ていただくこと」の方が大切ではないかと思うようになったからです。
私が東京へ出向いて大阪の昆布文化をご説明するのと、こんぶ土居が運営する「大阪昆布ミュージアム」へ来て頂いて、大阪の空気感と共にご理解いただくのとを比較すれば、やはり前者は中途半端なものになりがちだと思います。
一般的な企業活動の中で求められがちな「拡大」の動きは、言ってみれば【Act Globally】であって、伝統文化を担うべきものにとっては適さない部分を多く含んでいるように思います。
その一方で、膠着した【Think Locally】になってしまうことなく、常に広い視野で物事を見て、自分の果たすべき役割をアップデートし続けることが求められるわけで、意外に難しいことかもしれません。
加えて申し上げると、天然真昆布の常態化した大不作に関しても、同じことが言えるように思います。
天然昆布の枯渇を受けて、多くの方はその原因を「地球温暖化」に見ます。
もちろんそれは無関係ではありません。
しかし、世界規模の問題である地球温暖化のせいにするのは、【浅い Think Globally】でしょう。
枯渇する天然真昆布の世界的な価値を知り、気温が上昇する中でもそれを持続させる方法が無いかを広い視野で考えることこそ【真の Think Globally】で、それを行動に移す【Act Locally】も同時に求められているわけです。
現状は、共に足りていないと思います。
私の仕事の意義をどこに設定するかを考えると、それはやはり「伝統文化を体現する者」としての役割が社会から求められるように思っています。
そういった「大阪のローカル」を突き詰めることが、私共のような零細業者の生きる道で、地元への貢献であるとも考えています。
【真の Think Globally】も【Act Locally】も、言うほど簡単なことではありませんが、そんな理想を体現できるように、考え方として自分の軸に設定しておきたいと思っています。
(了)