こんぶ土居店主のブログ

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今更に『日本昆布協会』に入会の理由

私の曽祖父が1903年に始めた昆布屋も、今年で122年目です。

歴史ある昆布業界の中でも新しい方では無く、どちらかと言えば少しは古参の部類でしょうか。

しかしこれまで、所謂「業界団体」には深く関わってきませんでした。

例えば、日本の昆布業者が集まる全国組織「日本昆布協会」。

kombu.or.jp

この日本昆布協会にも入っていなかったわけですが、本年2025年、今更ながら入会させていただくことになりました。

本日の投稿では、その理由についてご説明するものです。

 

結論から申し上げますと、現在様々な問題を抱える「北海道の昆布生産現場の再生のため」ということになるのですが。

北海道の昆布生産の再生と業界団体への入会が、どのように関係しているのか、それを以下に具体的に記します。

段落としましては、

 

【これまでの私の取り組みと経過】

【連携不足の現状】

【私の自負、それでもまだまだ】

【業界団体の今】

【組織、地域を超えた大きな連携を】

 

といった感じで書いて参ります。

ではまず最初の段落から。

 

 

【これまでの私の取り組みと経過】

このブログでも何度も何度も書いてきておりますように、天然真昆布は10年来常態化した大凶作が続き、過去にない危機的状況にあります。

他の品種の昆布については、そこまででは無いものの、徐々に悪化してきている傾向は同じです。

こういった状況を何とか改善できないかと、私はずっと活動してきました。

 

多くの方に会って現状を分析し、天然真昆布復活の道を模索してきたわけです。

とは言え私は産地である北海道から遠く離れた大阪の昆布屋。

実際に問題解決の取り組みをして下さるのは現場の方々です。

まずは最前線におられる昆布漁師さんと、その集まりである漁業協同組合。

そして、問題を科学的に分析するために研究者の活躍も大切ですが、そちらは函館にある北海道大学水産学部の先生方や、水産試験場の研究員の方々など。

そして、それらをバックアップするのは行政の仕事ですが、函館市役所の水産課が強く関係しています。

 

これらの関係各所とも何度も顔を合わせて相談し、問題解決を模索してきました。

しかし、この道が険しいのです。

現在のところ、『復活の未来』まで明確に道筋が描けているかと言えばそんなことはありませんで、残念ながら「たいした成果は挙がっていない」という現状です。

様々な障壁によって行き詰ることが多いのですが、それには通底する理由があります。

 

 

 

【連携不足の現状】

先に挙げた「現場」「研究者」「行政」。

どちらも問題意識は共通で、頑張って取り組んでくださっています。

しかし私がこれまで見てきた中で足りないものがあるとするならば、それは「連携」でしょうか。

 

昆布生産の過去を振り返ると、違った立場の方々が連携して物事を進めていく必要性が、特に強くなかったのだと感じています。

それは「問題なく回っていたから」に他なりません。

天然真昆布もたくさん生えている、漁業者も多い、そんな時代は恵まれたもので、新しい動きをしなくても継続できたわけです。

つまり、「現場の漁師さん方が、研究者に期待することも特にない」、「行政との連携もさほど必要としていない」、というような状況であったかと。

そんな状態が昔から長らく続いてきたのだとすれば、立場を超えた「連携」の素地が無いのも当然でしょう。

 

私は過去投稿で、ある漁師さんについて触れ、昭和40年代に日本で初めて昆布養殖が実現した背景について書いています。

konbudoi4th.hatenablog.com

この日本初の偉業も、北海道区水産研究所で昆布の研究をしておられた長谷川由雄さんが基礎研究を担い、川汲浜の昆布漁師であった吉村捨良さんが現場実装への道筋をつくる、役割分担の協業によって成し得たものでした。

互いの敬意と信頼を元に「連携」して進め、成果を挙げたことは、注目するべきモデルケースです。

 

 

連携の不足は、立場の違いだけでなく、空間的な意味でも同じです。

所謂「磯焼け問題」は、日本中、いや世界中で同じ悩みを抱えているわけです。

しかし様々な取り組みは、行政単位、漁協単位で行われることが多く、横の情報共有も少ないように見えます。

例えば、古来より最上級だとされてきた白口浜真昆布であれば、函館市に近い「大船」「臼尻」「安浦」「川汲」「尾札部」「木直」の6浜は「南かやべ漁業協同組合」の管轄です。

しかし、その北西に隣接する「鹿部浜」は、「鹿部漁業協同組合」となり別組織で、独立した運営を行っています。

これは行政区域としても同じで、前者は函館市、後者は鹿部町であり、分かれているわけです。

同じ問題を抱え、同じ目的に向かって進むのに、協業が不十分であるとすれば本当にもったいないことです。

 

 

 

【私の自負、それでもまだまだ】

昆布の生産の最前線にいるのは漁師さん方であるわけですから、「漁師さん方から頼りにされる研究者」、「漁師さん方から信頼され、頼りにされる行政」であれば素晴らしいわけで、「協業」が生まれやすいでしょう。

その信頼の基礎になるのは、「深く現場を理解する」ことではないでしょうか。

例えば、前段で書いた日本初の養殖真昆布の礎となった長谷川由雄さん。

研究者でありながら常に海に出て、現場で漁師さんと共に考える方であったようです。

パートナーとなった昆布漁師の吉村捨良さんも、そういった研究者だからこそ信頼して進められたのではないかと想像しています。

 

現場の漁師さん方とお話していて感じることとして、当然ですが「机上の空論」を嫌うのです。

ちょっと苦言になってしまいますが、水産の研究者であれば、研究室での仕事と共に、できるだけ多く現場に出て欲しいと思っています。

しかし海藻の研究者であっても、船舶免許もダイビングのライセンスも所持していなかったり。

研究室での成果によって学問的に大成される方は素晴らしいのですが、やはり「天然昆布の復活」といったテーマには、「現場主義」も同時に大切だと思うのです。

これは行政関係者でも全く同じことです。

 

 

「現場主義」について、手前味噌で誠に恐縮ながら自分の事を書きますと。

私は平成16年から昆布漁師さんの舟に同乗し仕事を手伝ってきましたから、現場の理解が無いわけではありません。

個人的に海が好きだということもあり、一級船舶免許やダイビングのライセンス(Advanced Open Water Diver)も持っています。

過去には漁協の協力の元、自ら海に素潜りで入って大阪昆布ミュージアムに展示するための岩に着生した天然昆布サンプルを採ったりしました。

また、漁場環境の改善のために、三代目の時代から20年以上に亘って、産地の小学校で食育授業を続けるなど、次世代の育成にも関わってきました。

 

そして同時に、問題解決のために動き続けてきた中で、行政や研究者の方々とのパイプも太くなりました。

つまり私の自負としては、北海道の「現場」「行政」「研究」の、どの分野にも関わってきたことです。

 

そして本業である大阪の昆布屋の仕事では、流通、加工、小売りという場を担っています。

日々、昆布を自分の目で見続けて選別、良し悪しを見極め、加工の現場にも入って作業します。

店頭に出て接客していることもありますから、エンドユーザーとも直接に触れています。

こんなブログを書いたりして、情報発信にも努めています。

つまり、最も上流の昆布生産の現場から消費の現場まで全てを見ているわけですが、こういったタイプの人間はあまり多くないのかも知れません。

 

そしていつからか私は、昆布屋として大阪を拠点にしながら北海道の生産現場へ貢献できることがあるとすれば、様々な現場に触れているからこそできる「連携」のお手伝いではないかと考えるようになりました。



youtu.be

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【業界団体の今】

これまで失礼ながら、私共にとっての昆布の業界団体は、「果たすべき役割もあまり無い」、「入っていてもメリットもあまり無い」という感じでありました。

これは日本昆布協会に限ったことでないのですが、業界団体は一般的に、同業者間の「親睦の会」的になりがちです。

もちろん、問題解決への動きも無くはないのですが、昔からの会のルーティーンをこなすことが主になってきたり。

言葉を選ばずに言えば、未来に向けた建設的な議論が少ないと感じてきました。

これが、私が業界活動に消極的だった理由です。

 

この背景を考えると、「全体として、特に大きな問題を抱えていない時代が長かった」ということも無関係ではないでしょう。

前段で生産現場の関係各所の連携が薄いことを書きましたが、これは本州の加工流通業者とて同じでした。

業界団体は存在しても、立場は会員それぞれで違い、取り組むべき課題もそれぞれ。

それ故に一丸となって何かの問題に取り組むことが希薄だったのだと思います。

 

しかし、今は根本的に状況が変わってしまいました。

環境悪化によって天然昆布の資源が枯渇し、一次生産者人口の減少によって労働力も足りず、昆布の生産量は減少の一途です。

当たり前のことですが、昆布業者が営業を続けるためには、昆布漁業が存在していることが絶対条件です。

今は「すべて」の昆布関連業者が、産地の漁業不振という「同一の」大問題に困っているわけですから、この逆境の改善に今ほど業界一丸となって挑めるタイミングは無いように思うのです。

 

そして実は今、日本昆布協会の財源は、過去に比べて恵まれた状態にありまして。

これは、昆布の生産量が激減したことによって需要が満たせず、それを理由に海外から大量に輸入したこと関係しています。

昆布漁業の不振でこういったことになる場合もあるので、皮肉なものです。

ここで大切なのは、「そのお金を、日本の昆布漁業の未来ために適切に活用する」ということです。

私が日本昆布協会に入会してやりたいことは、正にこれです。

使えるお金がまだある今、業界一丸となって『産地を応援するような取り組み』ができないものか、ということです。

 

 

 

【組織、地域を超えた大きな連携を】

以上が、「日本昆布協会」に入会させていただいた動機です。

私が天然真昆布の大凶作を受けて「これは只事では無い!」と活動し始めた頃には、まだまだ問題の深刻さがさほど認識されていない時代でした。

今では多くの方々が理解して下さるようになりましたが、活動する中で痛感するのは、当たり前ですが「少しでも輪を広げる必要がある」ということです。

昆布漁業の不振の理由を考えると、それは環境破壊であったり、一次産業の産業構造の問題であったり、つまりこれは社会の縮図なのです。

 

昆布を復活させることは意義としても非常に大きく、温暖化対策としてのブルーカーボン観点であったり、「食」のジャンルに留まらない世界からの関心が海藻へ注がれる未来が必ず来ます。

つまりもうこれは、「オールジャパン」で挑むべき事柄なのです。

であれば当然に、真っ先に北海道の昆布によって事業を続けてきた昆布業界が、産地振興のために立ち上がるべきでしょう。

日本昆布協会も既に動き出してくださっているのですが、私が貢献できることも必ずあると思うので、追い風を吹かせたいです。

業界を大きく巻き込んで産地を支援する計画、さてさてスムーズに進むのでしょうか。

だいたい3年から5年で何か成果が見えてくれば嬉しいと思いますが、どうなりますか。

後日談は、またいつかこのブログで書かせて頂ければと考えています。

 

(了)