こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

雑節の価値。こんぶ土居「白だし」の原材料構成。

 

日本の「だし」は世界から大注目ですが、その代表的な素材と言えば「昆布」「かつお節」や「煮干し」でしょう。

精進料理では、干椎茸も多用されてきましたでしょうか。

私の住む大阪は特にダシにうるさい土地柄だとして知られ、日常食としての「うどん」も象徴的な存在として紹介されることが少なくありません。

しかし、うどんだしの調整は意外と難しいのです。

これには、本日のテーマである「雑節」が関係しています。

一般の方には聞き慣れない言葉かも知れませんので簡単な説明と、その魅力、そして、こんぶ土居製品に雑節がどう活きるのか、またそれによって成し遂げたいことについて書き記します。

段落としては、こんな感じです。

 

【雑節の魅力】

【こんぶ土居「白だし」と、十倍出し】

【技術。バランス? 素材?】

【雑味、良くも悪くも】

【原料調達の今後、『馳走』をほどほどに】

【『本物』を多くの人の手に】

 

 

それではまず

【雑節の魅力】

多くの方は「だし」と言えば昆布とかつお節を思い浮かべますから、うどんだしでも同じ方法を取りがちですが、まずうまくいきません。

昆布とかつお節のだしは日本料理の花形で素晴らしいのですが、用途によっては「上品すぎる」のです。

事実、大阪のほとんどのうどん屋さんでは、雑節を主に使用するわけですが、これはカツオ以外の魚を使用した節の総称で、代表的なものでいえば「サバ、アジ、イワシ」などでしょうか。

「宗田かつお節」も名前に「かつお」と入っていますが、こちらも雑節に分類されます。

 

「雑」だなんて言葉の印象は悪いですが、かつお節に無い独自の魅力もありまして。

それは味わいの「力強さ」です。

華やかな香りの上品さでは鰹節に劣ったとしても、しっかりとした厚みを感じられる出しになるのは雑節ならでは。

それこそが、『さば節、うるめいわし節、宗田鰹節』といった雑節を多くのうどん店さんが主に使う理由です。

 

 

【こんぶ土居「白だし」と、十倍出し】

過去投稿にて、こんぶ土居の新たな製品について書いています。

それは「白だし」です。

konbudoi4th.hatenablog.com

何度か試作し、試作品は店頭販売したところ大好評を頂き、レギュラー製品化することとなりました。

実はこの製品、かつお節を使っていないのです。

原材料を使用割合順に列挙しますと

 

〇雑節の削り節(宗田鰹、うるめ鰯、さば節)

〇昆布

〇粗糖

〇食塩

〇煮干し

〇醤油

〇みりん

〇酢

 

以上です。

その一方、例えば姉妹品の『本格十倍出し』は原材料として使っているのは、昆布とかつお節と塩だけです。

konbudoi.shop-pro.jp

両者、全く原材料構成が異なりますね。

 

 

【技術。バランス? 素材?】

この『こんぶ土居店主のブログ』の過去投稿で開発の動機として書いたように、「こんぶ土居 白だし」は簡便さを重視した製品です。

料理が苦手な方でも使いやすいよう、この製品だけで味が決まる設計です。

そのために、醤油やみりんといった調味料を適切に配合しています。

その一方、『本格十倍出し』には、そういった調味料を使うことなく、保存のための少量の食塩を加えているだけです。

これだけでも、白だしの「味の構成要素の多さ」がご理解いただけるかと思います。

料理とは、シンプルになればなるほど、所謂「ごまかし」が効かず、素材の良さに依存します。

それに対し、要素が複雑な料理は「味のバランス」を上手に取ることが必要で、これは「調理技術」と言い換えても良いかと思います。

 

簡単にまとめますと

◆『本格十倍出し』=『シンプル』=『素材の良さに依存』

◆『白だし』=『複雑』=『バランスが大切』

ということです。

 

 

【雑味、良くも悪くも】

シンプルであるが故に、素材の良さに依存した「本格十倍出し」。

こちらに関しては、例えば使用する昆布の品質が低かったり、またはかつお節の品質が低かったりすれば、味の劣化に直結します。

具体的には、「味わいが弱くなってしまったり」「雑味が強かったり」するということです。

しかし、実は前者の解決は容易です。

味が弱いのであれば、単純に使用量を増やせば良いのです。

それだけで確実にエキス濃度は高まりますから。

しかし、実際にそれをすると「雑味」も同時に強くなって、結局あまり美味しくない、という結果になったりします。

このあたりが難しいところです。

 

一方、雑節の場合は、『雑節』『雑味』と言葉が近いことからも想像されるように、上品だとは言い難い少々気になる風味が含まれているのが普通です。

かつお節との最大の違いはこれであって、華やかに立ち上る上品な香りの鰹節と、少々雑味が含まれる雑節、ということです。

しかし、味わいの強さという意味では、雑節はかつお節に全く劣ることはありません。

つまり、「雑味」を上手に解決すれば、活きるのです。

 

さて、ここでご理解いただきたいのが『雑味も味のうち』ということです。

かつお節で考えますと、血合い抜きのかつお節がありますね。

血合いの部分は、どうしても血生臭い風味を含みますから、それを取り除いた方が明らかに上品になります。

値段も高くなりますから、高級品だと言えます。

しかし、どの料理にも血合い抜きの方が良い結果が出るかと言えば、そんなことはありませんで、血合い抜きかつお節では上品すぎると感じる料理も多々あるのです。

 

こういった『雑味の適切なコントロール』も、調理技術の大切な要素だと言えそうです。

『こんぶ土居 白だし』は、これが非常にうまくいきましたが、手法としてはシンプルで、「配合割合」と「調味料」です。

 

配合割合については、「雑節」とひとからげにされますが、宗田かつお、さば、うるめ鰯、ではそれぞれに大きく特徴が違いますから、お互いに問題を打ち消し合ったり良さを高めあったり、ということが良い配合によって可能です。

更に昆布と煮干しも全く同じ意味合いを見せますから、こうして良い意味の「雑味も味のうち」が実現することになります。

 

更に調味料。

醤油の存在は本当に偉大で、少量使用することで、魚介類の「クセ」をプラスに変える力さえ発揮するように感じています。

そして、伝統的なみりんも言葉では説明しづらいですが、同じような効果を発揮しています。

 

改めて、

◆『本格十倍出し』=『シンプル』=『素材の良さに依存』

◆『白だし』=『複雑』=『バランスが大切』

この構造、なんとなくご理解いただけましたでしょうか。

 

 

【原料調達の今後、『馳走』をほどほどに】

◆『本格十倍出し』=『シンプル』=『素材の良さに依存』

ですから、全くごまかしが効かず、昆布もかつお節も雑味の無い良い素材を厳選して使うことで、高い品質が実現しています。

そうなると原材料のコストも高いのです。

 

『ごちそう』という言葉は「ご馳走」と書きますが、これは、馳せ、走る、という意味ですね。

つまり、誰かに美味しいものを食べていただくために、手元で簡単に手に入るものでなく、方々を馳せ走って良い素材を集めて料理するような意味合いとのことです。

素晴らしいことだと思います。

 

しかし、今後の原材料調達を考えたとき、まず海の環境悪化により、素晴らしい海産物を得られにくい未来が来ます。

その代表的な顕れが、過去にこちらのブログでも何度も書いております、天然真昆布の状態化した大凶作です。

かつお節でも似たような状況で、品質の良い原料魚の確保に頭を悩ませる生産者は非常に多いです。

 

そして更に大きなインパクトを起す理由が、労働力不足です。

今、一次産業の現場から、どんどん人がいなくなってきて、今後も一気に減少していく見込みです。

手間の掛かった高級品は、つくり続けることが難しくなるかもしれません。

 

つまり、良い素材を厳選して使うことは素晴らしいのですが、今後はどんどん入手困難になって、コストも上がるのです。

そうなれば私共でも、それを製品価格に転嫁する必要が出ます。

しかし、日本の経済状態はご存じの通り。

こんな状況なら、本物のだしが『経済的に恵まれた一部の人に向けたもの』ということになっていきませんでしょうか。

そうならないよう、別の手立てが必要です。

 

 

【『本物』を多くの人の手に】

本日のメインテーマは雑節ですが、かつお節に比べて価格が安いのです。

一方、「本格十倍出し」であれば、使うのは日本近海で一本釣りされた原料魚を生産者さんも指定して仕上げられた『本枯節』です。

こんな素性の品は、全かつお節の中で間違いなく1%にも満たない、特殊な高級品。

値段が高いのはお察しいただけるかと思います。

しかし、日常の料理に必ずしもそういった素材が必要であるのかどうか。

 

 

先日、ある方がXに、こんなことを書いておられたのです。

『こんぶ土居で買っていたけど、~ (中略) ~ 時間的な余裕も無く、全てが値上がりの傾向で、続けるのは難しいとの判断。今は乾燥椎茸を使っている。』

 

この内容、重く受け止めなければならないと思います。

本物を提供している自負がある食品製造者は往々にして、『品質が高いんだから、値段も高いのは当たり前だ』と考えてしまいがちです。

構造的には全くその通りなのですが、これは少々危険な考え方。

値段がある水準を超えると、「良いのは分かっているけど、そんなに高いともう買えない」となる方が増えるのは当然のこと。

先ほどのXで書き込みされた方が、正にそれです。

これは日本の「だし文化」の裾野が狭まることであり、食文化の衰退とも無関係ではないでしょう。

一部のお金持ちに向けた仕事でなく、本物をできるだけ多くの方の手に届けることこそ、仕事として価値のあることではないかと考えるようになりました。

 

繰り返しになりますが、

◆『白だし』=『複雑』=『バランスが大切』

です。

しかし、一般の方には上手にバランスよく調合することが難しいのです。

そこで私共が、本物ではあるけれど鰹節より安価な素材を使い、お手頃で美味しい製品に仕上げる役割を果たせるなら素晴らしいと考えています。

 

 

『本物』と書きましたが、コストを下げるだけなら簡単なのです。

だし素材の使用量を減らし、うまみ調味料で代替すれば一気にコストは下がります。

調味料とて、私共で使用するものは伝統的な本物ばかりですが、それを「まがいもの調味料」に変えれば値段は下がります。

しかし、それは私共にとっての「本物」ではありません。

まがいものに手を染めることなく、それでいて、できるだけ安価で美味しいものを提供できるなら、それこそが私共の目指すべき方向性だと言えるのかも知れません。

 

今回は、雑節のことを主たるテーマとして書きましたが、製品コンセプトの背景をご理解いただけましたでしょうか。

もうなにしろ、本物の食を取り巻く環境は非常に厳しいのです。

未来の日本では、残念ながら食事情は貧しくなっていくだろうと私は考えていますが、なんとかそれに抗い、本物の食品を普通の所得の人が手にできる社会が続くことこそ大切。

その一助となる仕事ができればと思います。

私共のような食品製造者の在り方も、社会の変化につれて動きます。

常に時代の流れを掴み、その時々で果たすべき役割は何であるかを常に考え、それを具現化させた製品づくりに努めたいと思います。

 

(了)