こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

『うま味』『UMAMI』とは、新しい『造語』である。

 

こんぶ土居では今後、昆布や自社製品を表現する際に、「うまみ」という言葉の使用を避けます。

商品のラベルやオンラインストアでの説明文、公式ウェブサイトを含め、この言葉を使わない方向で進めます。

現在では一部に表記が残っていますが、順次、文言の変更を進めていきます。

こんな私共の対応を不思議に感じる方があるかも知れません。

ある意味、昆布と「うまみ」という言葉は切っても切れない関係にあるわけですから。

本日の投稿は、その理由についてご説明するものです。

 

そもそも、この「うまみ」という言葉、あまり美しい表現ではありません。

「うまみ」は、「うまい」の名詞形ですが、「おいしい」と「うまい」を比較するならば、後者は粗野な印象を受ける言葉です。

他には、仕事や商売などで利益やもうけが多いということを表現して「うまみのある話だ」などと言ったりしますね。

どちらの意味でも、あまり品の良い言葉ではなさそうです。

 

本投稿では主に、【言葉の変遷の歴史】を

 「時代① 1908年以前」、「時代② 1908年から昭和」、「時代③ 平成以後」

以上、三つの時代に分けてご説明したいと思います。

 

 

【言葉の変遷の歴史】

まず、前置きをさせて下さい。

意味の混同をさけるために、「うまみ」の表記方法を2つに分けます。

「旨み」と「うま味」です。

前者「旨み」は、食べ物が美味しいことを意味する言葉として。(「うまい」の名詞形)

対する「うま味」は、「甘味、苦味、酸味、塩味といった基本の味を指す言葉、(UMAMI)」としますが、これは『特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター』による説明です。

うま味インフォメーションセンターによりますと、「旨み」と「うま味」は、同音異義語だとのことで。

私はこの「同音異義語説」に賛同しているわけではありませんが、混同を避ける目的での使い分けには有用だと思いますので、本投稿では「旨み」と「うま味」を、表記方法として使い分けます。

どちらの意味も含ませたい場合は「うまみ」と書きます。

www.umamiinfo.jp

 

 

では最初の時代区分から

時代① 1908年以前

日本人は古くから、与えられた自然の恵みからおいしさを得ていたわけです。

本日のテーマである「うまみ」を考えれば、昆布の味わいも、その代表的なものでしょう。

その利用の歴史は古く、産地である北海道や北東北では、縄文時代から利用されていたと考えられているようです。

産地以外では流通が必要なわけですが、ごく少量かも知れませんが奈良時代の書物に昆布の記載があったりします。

つまり、古くから日本人は「昆布の美味しさ」を知り、それを活用してきたということです。

しかし昔の日本人が「うま味」という言葉を使っていたかと言えば、そんなことは一切ありません。

昆布だしを飲んで「おいしいなぁ」と思ったとしても、それを誰も「うま味」だなどと表現しなかったわけです。

それは、この言葉が生まれたのが1908年であるからです。

「日本うま味調味料協会」のウェブサイトでは以下のように説明されています。

 

東京帝国大学・池田菊苗博士は、昆布だしの味の正体を明らかにする研究を始めました。そして1908年、昆布からグルタミン酸を取り出すことに成功。グルタミン酸が昆布だしの主成分であることを見出し、その味を「うま味」と名づけました。』

www.umamikyo.gr.jp

 

つまり、名づけ親の人物も、そのタイミングも、明らかになっているわけです。

逆に言えば、1908年以前は「うま味」という言葉は存在しなかったことになります。

そして、この命名者である池田菊苗氏こそ、当時は「化学調味料」と呼ばれていた「うま味調味料」の考案者であり、「味の素」の誕生に繋がることになります。

 

時代②1908年から昭和

前段でご紹介した通り、「うま味」という言葉が生まれたのは1908年です。

しかし、今は「うまみ調味料」と呼ばれる製品も、ずっと「化学調味料」と呼ばれてきましたし、この「時代②1908年から昭和」には、「うま味」という言葉は、ほぼ認知されていなかったと言って良いと思います。

そう申し上げる根拠のひとつは、国語辞典の説明内容です。

 

古い辞書の写真ですが、この「三省堂国語辞典」は、私が小学生の頃に使っていたものです。

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発行年度としては、「第三版 1982年2月1日第一刷発行」とあります。f:id:konbudoi4th:20241221110209j:image

 

 

この辞書での「うまみ」の項目の説明文を、そのまま引用しますと。

 

うまみ[《旨味](名)①うまいと思う感じ。②じょうずだと思う感じ。③〔商売上の〕おもしろみ。「のある商売」

 

以上です。これだけしか書かれていません。

この表記が、後の時代に変化するのです。

 

 

時代③平成以後

前段でご紹介しました「三省堂国語辞典」は版を重ね、現在でも発行されています。

現在発行中の「三省堂国語辞典 第八版 2022年1月10日第一刷発行」より引用しますと、「うまみ」の説明文の中に以下のような内容が追加されていました。

 

「(コンブ・シイタケ・かつおぶしなど)和食のだしなどの味。第五の味覚。グルタミン酸イノシン酸。」

 

前段でご紹介した通り、1982年発行の第三版には、こんな意味は書かれていません。

ついでに申し添えますと、2022年の第八刷には「うまみ」の説明に続く形で「うま味調味料」という言葉の説明が続くのですが、1982年の第三版には「うまみ調味料」の項目もありませんでした。

これは、当時は「化学調味料」という呼称が一般的であったことが理由でしょう。

 

昭和も終わりに近づく1982年には表記が無く、2022年版には表記されているわけです。

こう考えると、うま味インフォメーションセンターが説明する、

「うま味」(甘味、苦味、酸味、塩味といった基本の味を指す言葉、UMAMI)

は、昔から日本人が使ってきた言葉ではなく、平成以後に広く通用するようになった新しい語法であることは間違いないでしょう。

 

また、「(コンブ・シイタケ・かつおぶしなど)和食のだしなどの味。第五の味覚。グルタミン酸イノシン酸。」

という説明と

うま味調味料

という新項目の併記が共に進んできたことを考え合わせると、「うま味」は、「化学調味料」を「うまみ調味料」と言い換える過程で広く認知されてきた言葉なのかも知れません。

 

 

【まとめ】

長々と歴史をご説明してきましたが、ご理解いただけましたでしょうか。

本日の投稿のタイトル、『うま味』『UMAMI』とは、新しい『造語』である

繰り返しになりますが、造語の命名者は池田菊苗氏、命名時期は1908年です。

ある特定の個人が、新しい語法を考え出し、それが広まること自体は否定しませんが、先に書きました通り、池田菊苗氏は味の素の産みの親であるわけです。

であれば、造語「うま味」の起こりは、「うまみ調味料の起こり」とセットであるわけです。

決して古い時代から日本人が使ってきた言葉ではありません。

 

昆布だしが美味しいと思ったのならば、それは「昆布のおいしさ」です。

「うま味」が無関係だとは言いませんが、「昆布のうま味」と表現されるならば、それは昆布の価値を矮小化しています。

であるからこそ、正しい使い分けが必要だと思うのです。

言い換えれば「混同が起きないように配慮する」ということでしょうか。

逆に、うま味調味料の業界は、昆布の自然の美味しさ(旨み)と、グルタミン酸ナトリウムに代表される「"うま味"調味料」のイメージの混同が起きた方が、それこそ『うまみのあるハナシ』なのかも知れませんが。

これが、今後こんぶ土居が「うまみ」という表現を撤廃したいと考える理由です。

 

私は、昆布文化を未来に伝える役割であると自認しているわけですが、うまみ調味料の多用によって、昆布文化はどんどん衰退してきているわけです。

以下の過去投稿でご説明している通りです。

konbudoi4th.hatenablog.com

konbudoi4th.hatenablog.com

 

また、それは同時に健康悪化にもつながります。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

 

過去から何度も繰り返していますが、うまみ調味料を使おうが避けようが、そんなことは個人の自由です。

しかし、その多用の過程で失われるのは「文化」と「健康」であるのは間違いありません。

少なくとも、昆布屋としての私の役割を考えれば、両者の混同を避ける情報発信をすることは、言わば社会的責務だと考えています。

昆布業界としても、一丸となってこんな趣旨の発信ができれば良いのですが、現状は程遠いです。

それどころか「うま味」「UMAMI」を喜々として発信していることがほとんどですから、嘆かわしいことです。

 

良くも悪くも、もはや世界の共通語として通用するようになった言葉「UMAMI」。

海外に人も含めて、「うま味」と「昆布のおいしさ、旨み」の違い、そして日本食文化と日本人の健康に与える影響について、正しく認識してもらう方法は無いものかと頭を悩ませます。

 

(了)