こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

『天然、二年養殖、一年養殖』昆布の環境ダメージの違い

 

この『こんぶ土居店主のブログ』でも度々書いてきましたが、私共で主に取り扱って参りました道南地方の真昆布は、大変な危機的状況にあります。

天然昆布は、多くの地域で既に『壊滅的』という状況になり、二年養殖昆布もほとんど栽培されなくなりました。

つまり今は、真昆布と言えばほとんどが一年養殖(促成)の昆布になっているわけです。

こんな形になった背景は、それぞれが受ける環境ダメージの違いが関係しています。

本日の投稿では、これについてご説明します。

 

【前提のおさらい】

まず天然昆布ですが、これは言わば野生です。

人間が栽培したものでなく、自然に生えたものを収穫しています。

 

その一方、養殖昆布は人間が栽培しているもので、海面で行う農業のようなものです。

陸上の施設で種苗を生産し、それを海に移して育成します。

二年養殖昆布は新年が明けた頃に海での栽培が始まり、翌年の夏場に収穫されますから、約二年弱の栽培期間ということになります。

一方、一年養殖昆布(促成昆布)は、秋に種苗を海に出し、同じく翌年の夏に水揚げされるので、約一年弱の栽培期間ということになります。

 

【環境要因①~③】

天然真昆布の常態化した不作の原因となっているものとして、主に以下の①~③が挙げられるかと思います。

①ウニ等による食害

②高い海水温

③海の栄養不足

この各要素、天然昆布であれば全ての影響を受けるのですが、養殖昆布では様相が異なります。

 

【天然、二年養殖、一年養殖、受けるダメージの違い】

前述のように、天然昆布は要因①~③の全ての影響を受けています。

 

一方、養殖昆布は「①ウニ等による食害」を受けることはありません。

それは、海底に着生する天然昆布と、海中に張ったロープに着生させて育てる養殖昆布の、生育の場の違いによるものです。

海底を這うウニが、海底から離脱している養殖昆布を食べることができないのは、ご理解いただけるかと思います。

 

次に。

②高い海水温、こちらの影響を強く受けているのは天然昆布と二年養殖でありまして、一年養殖への影響は比較的軽度です。

その理由は、先に書いた栽培スケジュールによるものです。

一年養殖は言わば『スリーシーズン』の栽培期間だと言えるかと思います。

栽培の開始が秋からですし、生育途中で特に水温が高い状況を避けられるのです。

その点、天然昆布と二年養殖昆布の栽培スケジュールでは、栽培の途中で必ず真夏の時期も含みますし、高水温の影響を強く受けていることになります。

もちろん促成栽培であっても、高水温が昆布に厳しい環境であるのは間違いないのですが、例えば私共の地元の大阪湾などでも僅かに昆布養殖がされているところを見ても、天然昆布や二年養殖昆布より遥かに影響が軽度であると言えるかと思います。

 

まとめますと、①ウニ等による食害、②高い海水温、③海の栄養不足、以上につきまして。

天然昆布は①~③の影響を全て受け、二年養殖は②と③の影響を受け、一年養殖は③の影響を強く受けているということです。

 

整理しますと、以下のような感じです。

  • 天然:①食害 + ②高水温 + ③栄養不足(全ダメージ=大打撃)

  • 二年養殖:②高水温 + ③栄養不足(夏を越すため大打撃)

  • 一年養殖:③栄養不足が主(秋〜翌夏で真夏のピークを回避=安定)

 

実際に、順番として、まず天然真昆布が減って、次に二年養殖の栽培の失敗が多発するようになり、そして今は一年養殖がほとんどになって、こちらは安定した水揚げが続いているという状況です。

こう考えると、促成養殖昆布は、現代の環境変化に適応した持続可能な優れた技術であり、だからこそ安定水揚げができていると見ることもできます。

しかし一方で、昔ながらの高品質な天然昆布や二年養殖昆布が大打撃を受けている今の状況を改善したいと強く願っています。

 

こちらについては、下記の過去投稿で天然昆布の意義についても書いています。

合わせてご一読下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

昆布が減少して困っているという報道等も多く見かけるようになりましたが、原因への正しい理解が広がると良いと思い、書かせていただきました。

 

 

 

天然真昆布再生への策、母藻確保の実験

2015年頃から始まった道南地方の天然真昆布の常態化した不作。

その再生を誰もが望んでいるわけですが、現実はむしろ逆で、年々悪化しているとすら言えそうな状況です。

本日の投稿では、改めて天然昆布が枯渇する原因、そして解決への可能性について書きたいと思います。段落としては、以下の通り。

 

【枯渇の原因】、【ウニ対策の現在地】、【母藻をどうする】、【実験中の方法】、【まとめ】

 

 

 

【枯渇の原因】

大まかに申し上げれば、理由は3つ挙げられます。
「水温」「栄養」「天敵」です。

 

1. 水温の上昇

昆布は主に北海道で採れることからも分かる通り、冷たい海で生息する海藻です。地球温暖化等によって水温が上がれば、生育環境として厳しくなるのは当然の仕組みです。 しかし、天然真昆布の分布域は意外に広く、南は東北地方南部あたりまで見ることができます。また、今より温暖であったとされる縄文時代にも昆布が存在していたと考えられていることから、現在の水温は「厳しい環境ではあるが、生育が不可能というわけではない」といったところかと思います。 そして注目すべきは、水温の問題は基本的に局所的な対策が不可能である点です。地球規模の気候変動に対し、ローカルなアクションだけで直接的な結果を導くのは現実的ではありません。

 

2. 海の栄養不足

次に海の栄養についてですが、ベテランの漁師さん方にお聞きすると、やはり昔に比べれば海の透明度が上がっているとおっしゃいます。 海が透明なのは見た目には美しく映りますが、それは海水に溶け込んでいる栄養分が少ないことを示しており、豊かな海の恵みを育む環境とは異なります。まさに先人が『水清ければ魚棲まず』と言った通りです。 そしてこちらの要因も、水温と同様に対策が非常に困難です。策が全くないわけではありませんが、少なくとも数年スパンの短期的な取り組みで結果を出すのは極めて難しいと言えます。

 

3. 天敵(ウニ)による食害

そして、最後の理由が『天敵』です。これは主に、大量に発生したウニによる食害(磯焼け)を指します。

 

 

【ウニ対策の現在地】

前段で3つの原因を挙げましたが、残念ながら短期的に改善の結果を生み出せそうなのは、この「天敵であるウニの対策」くらいなものです。他の2つの要因は、「事実上対策が不可能なもの」と「不可能ではないが極めて困難なもの」と言わざるを得ません。

これまでも、天然昆布を食い荒らすウニの対策は現場で実施されてきました。例えば、ダイバーさんに潜ってもらってウニを手作業で駆除するような方法です。
しかし、広大な海底にはすでに膨大な数のウニが存在しています。それをダイバーの力だけで駆除していくには、莫大な労力とコストがかかります。局所的な保全ならまだしも、大規模に展開するのは現実的ではありません。

そんな中、新たなウニ駆除の方法が出始めています。
北海道大学水産学部の秋田晋吾先生が研究を進めておられる手法ですが、コストを大幅に抑えられる可能性があり、私には非常に画期的なアプローチに思えます。
まだ検証すべき点が残り、ここで詳細をお伝えすることや実装の可否を断定することはできませんが、現在も実験が進められており、大いに期待を寄せています。

ただ、仮にこのウニ食害の問題がクリアできたとしても、もうひとつ絶対に越えなければならない壁があります。
それが「母藻(ぼそう)の確保」です。

 

 

【母藻をどうする】

今のように天然真昆布が枯渇する以前から、現場の漁師さん方は増産対策として様々な工夫を重ねてこられました。その代表的な取り組みが『雑海藻駆除と母藻散布』です。

海底の岩盤には昆布だけが生えているわけではなく、多種多様な海藻が生い茂っています。他の海藻が増えすぎると昆布が根付くスペースがなくなるため、まずは「雑海藻駆除」を行って岩盤を露出させ、そこに胞子を持った母藻を沈めるのです。

昆布は種子ではなく胞子で繁殖します。漁期が終わる秋口になると昆布は成熟し、胞子を放出する段階に入ります。そうして熟した天然昆布を採取し、岩盤清掃をした海域に沈める工夫が長年続けられてきました。

しかし、現在はその天然昆布自体が枯渇しています。 つまり、散布に使うための「天然の母藻」そのものが手に入らないのです。

仮にウニの食害問題を解決できたとしても、胞子を出す親昆布が存在しなければ、資源の自然回復は期待できません。こうなると、人間の手で母藻を用意するほかないのです。

 

 

【実験中の方法】

天然の母藻が得られないのであれば、別の手段を構築するしかありません。

天然真昆布の減少に加え、2年かけて育てる「二年養殖真昆布」も環境変化によるリスクが高く、現在はほとんど作られなくなってしまいました。

その一方で、約1年弱の栽培期間で水揚げできる「促成真昆布(一年養殖)」の生産は比較的安定しています。

 秋口に種苗を海へ出し、翌年6月頃から収穫を開始して、8月にはすべての水揚げを終えるというスケジュールです。

8月で水揚げが全て終わるということは、9月以降にその昆布が海中でどう変化していくのか、漁師さん自身もあまり見る機会がなかったのではないかと思います。

現在、ある漁師さんのご協力のもと、この「9月以降の促成真昆布の経過観察」という実験を行っています。

全てを収穫してしまわずに、一部を沖の養殖設備につけたまま残して、観察して頂いているわけです。

もし仮に、9月・10月と時期が進むにつれて促成真昆布が成熟し、十分な胞子を放出することが確認できれば、それを天然昆布増産のための「母藻」として活用できるはずです。

 

 

【まとめ】

現在の昆布生産現場では過疎化や高齢化が進み、漁師さんの数も減り続けています。 かつて多くの漁師さんがおられた時代には、沖合の養殖設備も限られた海面をみんなで分け合うような形でした。しかし今後は、地域の人口減少に伴い、海面の利用にゆとりが生まれてくる状況が予想されます。

作業労力の限界がある以上、一人の漁師さんが栽培規模を無制限に拡大できるわけではありません。 であれば、その生まれた海面の余裕を活用して、天然昆布を復活させるための「母藻栽培」を行えないか——というのが、今回の取り組みの趣旨です。

この構想を実装するには、解決すべきハードルがまだいくつもあり、決して簡単ではありません。しかしまずは、「一年養殖の昆布が、天然昆布再生のための母藻として有効に機能するかどうか」という確かな知見を得ることが第一歩だと考えています。

 

母藻の問題へのアプローチは、多くの研究者の方々の手で他の方法も様々に模索されています。

しかし大切なのは、大きなコストがかからず現場の漁師さんだけの手でできる対策です。

そうでないと、広く実施することができないのです。

今回の方法が実現するなら、母藻の生産から散布まで、現場の漁師さん方の力だけで完結できる可能性が優れていると自負しています。

 

さて、どのような結果が出ますでしょうか。 進展や成果が得られましたら、改めて後日談としてご報告させていただきます。

 

別件にはなりますが、過去にも天然真昆布の復活を目指し、ある取り組みをしたことがありました。(下記の過去投稿をご参照下さい。)

協力して下さった漁師さんの存在が、非常に有難いのですが、こちらはそのままの形では難しい結果となりました。

新たな方法を考えたいと思います。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

(了)

 

STOP! UMAMIMAMIRE 書籍化計画

現在、一冊の書籍にして発行すべく、原稿を書き進めています。

仮のタイトルは

 

『うまみの外側で起きていること』
〜科学の内側からこぼれ落ちた価値〜

 

です。

 

書き始めたばかりで、まだまだ時間はかかりますが、だいたいの章立てだけは組んでみました。

第一部から第四部に分かれ、以下のような章を構成するつもりです。

 

第一部『うまみの内側』

⚫️うまみの歴史

⚫️人間がうまみを求める理由

⚫️アミノ酸と核酸

⚫️伝統食の中のうまみ

⚫️まずいものなど無い時代へ

 

第二部 『うまみの外側』

⚫️味覚は単純

⚫️相乗効果の核心

⚫️鰹節は特殊

⚫️昆布も特殊

⚫️だしの相乗効果の実際

⚫️味覚完了錯誤

⚫️捨てないレシピ

⚫️シグナル化と文化の関係

⚫️うま味で減塩?

 

第三部 『うまみと昆布』

⚫️今さらながら自己紹介

⚫️うま味と昆布文化の衰退

⚫️昆布加工品とうま味

⚫️顆粒だし、昆布使用量の推定

⚫️昆布だし神話

⚫️昆布の栄養価値

⚫️沖縄の昆布文化の特殊性

 

第四部 食文化の行方

⚫️同音異義語

⚫️それでも昆布は風味絶佳

⚫️「正しい昆布だしの取り方」の問題点

⚫️食科学が生んだもの

⚫️純粋化の果てに

⚫️進化する、うまみ調味料

⚫️ジャンク化する味覚

⚫️人がつくるのだ

⚫️STOP!  UMAMIMAMIRE

 

このブログのタイトルとして書いた『STOP!  UMAMIMAMIRE』は、本の最後の章のタイトルでもあるのです。

 

やはり今は、うま味にまみれた時代。

その問題点について理解していただける内容にしたいと考えています。

 

(了)

 

『本格十倍出し』卸し販売終了の理由

こんぶ土居で、三代目の時代から製造しております「十倍出し」。

もう販売を開始して40年ほどになるかと思います。

特に、1999年に人気美食漫画『美味しんぼ』で取り上げられてからは、多くの方が知って下さるようになりました。

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この製品は、大阪の私共の店舗での販売と、少し卸販売もさせていただいていますので、他の販売店様にて目にされることもあるかと思います。

ただ、受注を来月に終了させていただくことになりました。

製造自体は継続するのですが、4月以後も継続してお求めいただけるのは、こんぶ土居の店舗と「こんぶ土居オンラインストア」のみとなります。

ご不便をおかけしまして、誠に申し訳ございません。

本日の投稿は、その背景についてご説明するものです。

 

 

【本格十倍出しと標準十倍出しの違い】

良い製品づくりには良い原材料が必要で、私共の製品の味わいの最大の核となるのは、昆布の品質の高さです。

しかし、このブログでも何度も繰り返し書いておりますように、古来より大阪の食文化を支えた北海道の真昆布の天然物が常態化した大凶作に陥り、十分な量を仕入れることができません。

養殖の真昆布とて、天然に比較的品質の近い二年かけて栽培する昆布がほとんどなくなり、世に流通する真昆布はほとんどが一年養殖(促成)という悲しい状況です。

 

十倍出しのうち、「本格十倍出し」は卸販売を終了する一方、「標準十倍出し」は今後も継続致します。

これは、本格十倍出しと標準十倍出しの、使用する昆布への考え方が少々異なるからです。

「本格十倍出し」は、昔からの文化を体現する意味でも、引き続き品質の良い真昆布を100%使用します。

対しまして「標準十倍出し」はブレンドのイメージ。

ウイスキーやコーヒー等で、「シングルオリジン」と「ブレンド」があるかと思いますが、そちらをイメージしていただけますと分かりやすいでしょうか。

これについては、過去の投稿でも詳しく書いておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

このブレンドという観点でみますと、日本の合わせだしこそが「ブレンドだし」なのです。

昆布だけでも鰹節だけでも片手落ち、それを併用することで、欠点を補い合おうということです。

標準十倍出しでは、ここに煮干しも加わりますから、更に昆布単体への依存度は下がることとなります。

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このような性格の違いがありますので、現在の原材料調達の状況では、希少な昆布の品質に依存する本格十倍出しを量産できないのです。

生産量を絞るしかありません。

これが、今回の本格十倍出し卸販売終了の理由です。

 

先に書きました通り、自然環境の悪化や、一次産業の衰退により、今後は良い品質の原材料を調達することが益々難しくなることが予想されます。

おいしい食品を用意するために、素材を厳選することは素晴らしいことです。

それが潤沢に手に入った時代は良かったわけですが、今後は違うアプローチも必要なのではと考えております。

そんな趣旨で書いた過去投稿も、ご紹介させていただきます。

こちらは、新製品「白だし」を軸に書いた文章ですが、この製品ほど「ブレンド」の良さが活きたものはありません。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

以上このような事情でございます。

何卒ご理解いただけますと幸いです。

本格十倍出しは少々お求めにくくなりますが、是非「標準十倍出し」もお試し下さい。

本格十倍出しより安いですし、日常のお料理に何ら遜色なくお使いいただけるかと思います。

 

(了)

雑節の価値。こんぶ土居「白だし」の原材料構成。

 

日本の「だし」は世界から大注目ですが、その代表的な素材と言えば「昆布」「かつお節」や「煮干し」でしょう。

精進料理では、干椎茸も多用されてきましたでしょうか。

私の住む大阪は特にダシにうるさい土地柄だとして知られ、日常食としての「うどん」も象徴的な存在として紹介されることが少なくありません。

しかし、うどんだしの調整は意外と難しいのです。

これには、本日のテーマである「雑節」が関係しています。

一般の方には聞き慣れない言葉かも知れませんので簡単な説明と、その魅力、そして、こんぶ土居製品に雑節がどう活きるのか、またそれによって成し遂げたいことについて書き記します。

段落としては、こんな感じです。

 

【雑節の魅力】

【こんぶ土居「白だし」と、十倍出し】

【技術。バランス? 素材?】

【雑味、良くも悪くも】

【原料調達の今後、『馳走』をほどほどに】

【『本物』を多くの人の手に】

 

 

それではまず

【雑節の魅力】

多くの方は「だし」と言えば昆布とかつお節を思い浮かべますから、うどんだしでも同じ方法を取りがちですが、まずうまくいきません。

昆布とかつお節のだしは日本料理の花形で素晴らしいのですが、用途によっては「上品すぎる」のです。

事実、大阪のほとんどのうどん屋さんでは、雑節を主に使用するわけですが、これはカツオ以外の魚を使用した節の総称で、代表的なものでいえば「サバ、アジ、イワシ」などでしょうか。

「宗田かつお節」も名前に「かつお」と入っていますが、こちらも雑節に分類されます。

 

「雑」だなんて言葉の印象は悪いですが、かつお節に無い独自の魅力もありまして。

それは味わいの「力強さ」です。

華やかな香りの上品さでは鰹節に劣ったとしても、しっかりとした厚みを感じられる出しになるのは雑節ならでは。

それこそが、『さば節、うるめいわし節、宗田鰹節』といった雑節を多くのうどん店さんが主に使う理由です。

 

 

【こんぶ土居「白だし」と、十倍出し】

過去投稿にて、こんぶ土居の新たな製品について書いています。

それは「白だし」です。

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何度か試作し、試作品は店頭販売したところ大好評を頂き、レギュラー製品化することとなりました。

実はこの製品、かつお節を使っていないのです。

原材料を使用割合順に列挙しますと

 

〇雑節の削り節(宗田鰹、うるめ鰯、さば節)

〇昆布

〇粗糖

〇食塩

〇煮干し

〇醤油

〇みりん

〇酢

 

以上です。

その一方、例えば姉妹品の『本格十倍出し』は原材料として使っているのは、昆布とかつお節と塩だけです。

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両者、全く原材料構成が異なりますね。

 

 

【技術。バランス? 素材?】

この『こんぶ土居店主のブログ』の過去投稿で開発の動機として書いたように、「こんぶ土居 白だし」は簡便さを重視した製品です。

料理が苦手な方でも使いやすいよう、この製品だけで味が決まる設計です。

そのために、醤油やみりんといった調味料を適切に配合しています。

その一方、『本格十倍出し』には、そういった調味料を使うことなく、保存のための少量の食塩を加えているだけです。

これだけでも、白だしの「味の構成要素の多さ」がご理解いただけるかと思います。

料理とは、シンプルになればなるほど、所謂「ごまかし」が効かず、素材の良さに依存します。

それに対し、要素が複雑な料理は「味のバランス」を上手に取ることが必要で、これは「調理技術」と言い換えても良いかと思います。

 

簡単にまとめますと

◆『本格十倍出し』=『シンプル』=『素材の良さに依存』

◆『白だし』=『複雑』=『バランスが大切』

ということです。

 

 

【雑味、良くも悪くも】

シンプルであるが故に、素材の良さに依存した「本格十倍出し」。

こちらに関しては、例えば使用する昆布の品質が低かったり、またはかつお節の品質が低かったりすれば、味の劣化に直結します。

具体的には、「味わいが弱くなってしまったり」「雑味が強かったり」するということです。

しかし、実は前者の解決は容易です。

味が弱いのであれば、単純に使用量を増やせば良いのです。

それだけで確実にエキス濃度は高まりますから。

しかし、実際にそれをすると「雑味」も同時に強くなって、結局あまり美味しくない、という結果になったりします。

このあたりが難しいところです。

 

一方、雑節の場合は、『雑節』『雑味』と言葉が近いことからも想像されるように、上品だとは言い難い少々気になる風味が含まれているのが普通です。

かつお節との最大の違いはこれであって、華やかに立ち上る上品な香りの鰹節と、少々雑味が含まれる雑節、ということです。

しかし、味わいの強さという意味では、雑節はかつお節に全く劣ることはありません。

つまり、「雑味」を上手に解決すれば、活きるのです。

 

さて、ここでご理解いただきたいのが『雑味も味のうち』ということです。

かつお節で考えますと、血合い抜きのかつお節がありますね。

血合いの部分は、どうしても血生臭い風味を含みますから、それを取り除いた方が明らかに上品になります。

値段も高くなりますから、高級品だと言えます。

しかし、どの料理にも血合い抜きの方が良い結果が出るかと言えば、そんなことはありませんで、血合い抜きかつお節では上品すぎると感じる料理も多々あるのです。

 

こういった『雑味の適切なコントロール』も、調理技術の大切な要素だと言えそうです。

『こんぶ土居 白だし』は、これが非常にうまくいきましたが、手法としてはシンプルで、「配合割合」と「調味料」です。

 

配合割合については、「雑節」とひとからげにされますが、宗田かつお、さば、うるめ鰯、ではそれぞれに大きく特徴が違いますから、お互いに問題を打ち消し合ったり良さを高めあったり、ということが良い配合によって可能です。

更に昆布と煮干しも全く同じ意味合いを見せますから、こうして良い意味の「雑味も味のうち」が実現することになります。

 

更に調味料。

醤油の存在は本当に偉大で、少量使用することで、魚介類の「クセ」をプラスに変える力さえ発揮するように感じています。

そして、伝統的なみりんも言葉では説明しづらいですが、同じような効果を発揮しています。

 

改めて、

◆『本格十倍出し』=『シンプル』=『素材の良さに依存』

◆『白だし』=『複雑』=『バランスが大切』

この構造、なんとなくご理解いただけましたでしょうか。

 

 

【原料調達の今後、『馳走』をほどほどに】

◆『本格十倍出し』=『シンプル』=『素材の良さに依存』

ですから、全くごまかしが効かず、昆布もかつお節も雑味の無い良い素材を厳選して使うことで、高い品質が実現しています。

そうなると原材料のコストも高いのです。

 

『ごちそう』という言葉は「ご馳走」と書きますが、これは、馳せ、走る、という意味ですね。

つまり、誰かに美味しいものを食べていただくために、手元で簡単に手に入るものでなく、方々を馳せ走って良い素材を集めて料理するような意味合いとのことです。

素晴らしいことだと思います。

 

しかし、今後の原材料調達を考えたとき、まず海の環境悪化により、素晴らしい海産物を得られにくい未来が来ます。

その代表的な顕れが、過去にこちらのブログでも何度も書いております、天然真昆布の状態化した大凶作です。

かつお節でも似たような状況で、品質の良い原料魚の確保に頭を悩ませる生産者は非常に多いです。

 

そして更に大きなインパクトを起す理由が、労働力不足です。

今、一次産業の現場から、どんどん人がいなくなってきて、今後も一気に減少していく見込みです。

手間の掛かった高級品は、つくり続けることが難しくなるかもしれません。

 

つまり、良い素材を厳選して使うことは素晴らしいのですが、今後はどんどん入手困難になって、コストも上がるのです。

そうなれば私共でも、それを製品価格に転嫁する必要が出ます。

しかし、日本の経済状態はご存じの通り。

こんな状況なら、本物のだしが『経済的に恵まれた一部の人に向けたもの』ということになっていきませんでしょうか。

そうならないよう、別の手立てが必要です。

 

 

【『本物』を多くの人の手に】

本日のメインテーマは雑節ですが、かつお節に比べて価格が安いのです。

一方、「本格十倍出し」であれば、使うのは日本近海で一本釣りされた原料魚を生産者さんも指定して仕上げられた『本枯節』です。

こんな素性の品は、全かつお節の中で間違いなく1%にも満たない、特殊な高級品。

値段が高いのはお察しいただけるかと思います。

しかし、日常の料理に必ずしもそういった素材が必要であるのかどうか。

 

 

先日、ある方がXに、こんなことを書いておられたのです。

『こんぶ土居で買っていたけど、~ (中略) ~ 時間的な余裕も無く、全てが値上がりの傾向で、続けるのは難しいとの判断。今は乾燥椎茸を使っている。』

 

この内容、重く受け止めなければならないと思います。

本物を提供している自負がある食品製造者は往々にして、『品質が高いんだから、値段も高いのは当たり前だ』と考えてしまいがちです。

構造的には全くその通りなのですが、これは少々危険な考え方。

値段がある水準を超えると、「良いのは分かっているけど、そんなに高いともう買えない」となる方が増えるのは当然のこと。

先ほどのXで書き込みされた方が、正にそれです。

これは日本の「だし文化」の裾野が狭まることであり、食文化の衰退とも無関係ではないでしょう。

一部のお金持ちに向けた仕事でなく、本物をできるだけ多くの方の手に届けることこそ、仕事として価値のあることではないかと考えるようになりました。

 

繰り返しになりますが、

◆『白だし』=『複雑』=『バランスが大切』

です。

しかし、一般の方には上手にバランスよく調合することが難しいのです。

そこで私共が、本物ではあるけれど鰹節より安価な素材を使い、お手頃で美味しい製品に仕上げる役割を果たせるなら素晴らしいと考えています。

 

 

『本物』と書きましたが、コストを下げるだけなら簡単なのです。

だし素材の使用量を減らし、うまみ調味料で代替すれば一気にコストは下がります。

調味料とて、私共で使用するものは伝統的な本物ばかりですが、それを「まがいもの調味料」に変えれば値段は下がります。

しかし、それは私共にとっての「本物」ではありません。

まがいものに手を染めることなく、それでいて、できるだけ安価で美味しいものを提供できるなら、それこそが私共の目指すべき方向性だと言えるのかも知れません。

 

今回は、雑節のことを主たるテーマとして書きましたが、製品コンセプトの背景をご理解いただけましたでしょうか。

もうなにしろ、本物の食を取り巻く環境は非常に厳しいのです。

未来の日本では、残念ながら食事情は貧しくなっていくだろうと私は考えていますが、なんとかそれに抗い、本物の食品を普通の所得の人が手にできる社会が続くことこそ大切。

その一助となる仕事ができればと思います。

私共のような食品製造者の在り方も、社会の変化につれて動きます。

常に時代の流れを掴み、その時々で果たすべき役割は何であるかを常に考え、それを具現化させた製品づくりに努めたいと思います。

 

(了)

 

問われる、昆布屋のブレンダー能力

古来より大阪の食を支えた北海道の真昆布ですが、その天然物が常態化した大凶作にあることは、過去から何度も書いている通りです。

それは今も全く解決していません。

養殖昆布の生産は比較的安定しているのですが、それも一年養殖昆布(促成)ばかりで、二年養殖真昆布も大変な貴重品になってしまいました。

こういった現状については、過去投稿で詳しくご説明しております。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

当然のことですが、良い昆布製品を製造するためには品質の良い原料昆布が必要であるわけで、私共は大変な困難に直面しています。

例えば、約40年に亘って製造を続けて参りました濃縮だし製品「十倍出し」。

高級版の「本格十倍出し」と廉価版の「標準十倍出し」の二種類をご用意していますが、天然真昆布が不作になる前は、原材料として使用する昆布は両製品共に天然真昆布100%で、原材料表示としては「天然真昆布(北海道函館市川汲町産)」となっていました。

しかし今は天然昆布だけでの製造を継続できず、原材料表示も「真昆布(北海道函館市産)」との表記に変わっています。

つまり天然昆布だけではなく養殖昆布も併用しているということです。

こんな原料事情で、製品の味覚的品質を落とさない方法について、ずっと頭を悩ませてきました。

 

来年から、ひとつの対策を施す予定です。

それが、本日のブログのタイトル「昆布の適切なブレンド」です。

それに伴い、「標準十倍出し」の原材料表示が、いずれ以下のように変わる予定です。

 

【標準十倍出し原材料表示】

(従来):真昆布(北海道函館市産)

(変更予定):昆布(北海道産)

konbudoi.shop-pro.jp

 

複数の産地の昆布をブレンドする以上、こういった表記になってしまうわけですが、味覚的品質を今よりむしろ向上させることすらできると考えています。

 

古来より最上品位に位置づけられた天然真昆布をふんだんに使えた頃は、良い時代でした。

素晴らしい品質の昆布を使えば、何も考えずに当たり前に品質の高い昆布製品がつくれたわけです。

それができない今になりましたから、問われるのは「技術」であって、それを最大限に駆使することで良い製品の提供を続けることができると考えています。

 

北海道で採れる多種の昆布には、それぞれの特性があり、その特性を見極め適切なブレンドで使用することで、ご満足いただける味わいがつくり出せると考えています。

試作も繰り返しておりますが、良いものができております。

 

このような変更を予定しているのは、廉価版の「標準十倍出し」であって、今のところ「本格十倍出し」には変更予定がありません。

理由として、「本格十倍出し」は高級版製品ですから私共が使う真昆布の中でも高品質な昆布を選択的に使用することで、これまで通りの品質が維持できると考えているからです。

また、古来よりの大阪の文化を残したいという意味合いもございます。

 

こういった変更を、どのタイミングからスタートさせるかは具体的な日程は未定ですが、2026年から始めて参ります。

今回のブログ投稿でお伝えしたかったことは、標準十倍出しの原材料表示がいずれは、『昆布(北海道産)』という素性が特定されない書き方になる理由と、製品の品質を保つ方法についてご説明したかったからです。

 

素晴らしい品質の自然の恵みがたくさん得られた時代は良かったわけですが、残念ながら、今後は状況は悪化していくように思います。

そんな中でも、食品の真正を保ち、なにより「おいしい」と消費者の方々に思っていただける製品づくりを続けるのには、工夫が必要です。

 

以上、製品づくりの方向性のご説明のような投稿になりましたが、何卒ご理解いただけますと幸いです。

 

(了)

ガニアシ母藻計画、その後の経過①

さて、8月にある投稿をしました。

下の内容です。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

本日の内容は、この実験の途中経過を書き記すものです。

8月に書いた通り、ガニアシを母藻にすることができれば、画期的だと思います。

 

実験に協力して下さった漁師さんからは、たまに経過を伺っていたのですが、現段階までにガニアシから胞子が出てくる様子は無いようです。

ガニアシを何個か海中で保存していただいているわけですが、持つと崩れてしまう個体もあるようで、弱ってきているのかも知れませんね。

 

ですので、現段階では全く成功しているとは言えません。

むしろ、失敗の見込みが高いと言わざるを得ないかと。

しかし、何事もそう簡単に成功しないのは世の常。

あきらめてはいけません。

 

私は10月の20日から24日まで北海道の真昆布産地へ再び出張していたのですが、引き続き、このプランの実現可能性について聞き取り調査をしました。

中でも、非常に嬉しい情報を下さったのが函館市役所です。

水産に関する部署の課長さんに会いに函館市役所へ参上したのですが、「ガニアシからも胞子が出ると、誰かがだいぶ前に言っていたのを聞いたことがある」と仰るわけです。

なんと!耳寄りな情報。

私が書いた8月のブログも読んでいただいたのですが、当時の投稿でも書きました通り、実験には促成真昆布のガニアシを使っています。

この課長のご意見では、促成からも胞子は出るには出るが、天然昆布や二年養殖昆布に比べると「胞子が出にくい」のではないかとも仰っていました。

 

更に、翌日にお会いした、ある昆布漁師さんからも全く同じ内容を聞きました。

であれば、現在の実験に加えて、天然昆布と二年養殖昆布での実験を追加すべきかと思います。

もう今年の漁期は終わっていますから、2026年の実験になりますが。

 

【天然真昆布の実験方法】

こちらについては、現在の常態化した大凶作ですから、2026年も真昆布を生産する地域の多くでは、出漁日数が限られることでしょう。

ですから、漁協に実験の意図を説明して許可を得て、漁期の後に私が海に潜ってガニアシ付きの真昆布を採取したいと考えています。

そちらで実験です。

又は、海が時化た日に、抜けて海岸へ寄ってくる個体もありますので、それを利用する手もあります。

 

この実験は、あくまで知識を得るためのもの。

なにしろ、現在は天然真昆布自体が枯渇しているわけですから、そのガニアシを相当量海中に入れることなど、現実的ではありませんから。

 

 

【二年養殖真昆布での実験】

二年養殖の昆布とて、道南の真昆布産地では、本当に微々たる量しか栽培されていません。

ですから、こちらは来年7月の漁期に、二年養殖真昆布の栽培に成功した漁師さんに協力を願うことになります。

二年養殖真昆布を水揚げ後、昆布を切り取った後に残るガニアシを、養成綱ごと一本譲り受け、実験をしたいと考えています。

 

仮にこの実験がうまくいったなら、二年養殖真昆布の栽培を漁師さん方に奨励する理由にもなります。

なにしろ、近年の二年養殖真昆布の栽培は失敗続き。

漁師さんにしてみれば、手間も経費もかけて栽培しているのに、途中で枯れてしまうわけです。

そんなものから手を引きたくなるのは当たり前。

こんな背景で、今は二年養殖真昆布がほとんど栽培されず、促成昆布(一年養殖)ばかりになっている現状です。

二年養殖真昆布については、栽培中の失敗を防ぐある手立てを考えておりまして、そちらも合わせて実験することになります。

 

さて、どうなるのでしょうか。

うまくいくのかいかないのか、それは神のみぞ知る。

引き続きトライしたいと考えています。

新たに何か発見があれば、こちらのブログにて紹介させていただきます。

 

(了)