こんぶ土居店主のブログ

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化学調味料は、健康に悪いのか

 

「あまり健康に良くないもの」とのイメージを持っておられる方も多い、味の素を代表格とする「化学調味料」。

グルタミン酸ナトリウムを主成分とする、うまみ調味料の一種です。

 

本日の投稿は、化学調味料が健康に悪いのかどうか。

また、悪いとするならば、どのような仕組みによるものかを考える試みです。

 

【本日の投稿の自己評価】 読みやすさ(★☆☆☆☆)、意義(★★★★★)、楽しさ(★☆☆☆☆)

 

以下の①~⑤の項目に分けて書いてみたいと思います。

 

①直接的な悪影響

②栄養摂取の機会を奪う

たんぱく質摂取に関する懸念

④味覚の麻痺

⑤食文化の衰退と健康の関係

 

①は「恐らく大丈夫、問題ないでしょう」と言う内容ですが、②~⑤は、やはり健康への悪影響を含んでいることをご説明するものです。

ではまず、

 

①直接的な影響

結論としては、WHO等の世界の保健機関は、グルタミン酸ナトリウムの安全性に問題が無いとしていますから、よほどの大量摂取で無いなら恐らく大丈夫だと思います。

しかし、海外でも「no MSG」「MSG Free」(MSGとは、(MonoSodium Glutamate)。グルタミン酸ナトリウムのこと)と書かれた製品は非常に多いものです。

中華圏の製品では「不含味精」と書かれているのをよく見ますが、同じ意味です。

このように、日本のみならず世界中で化学調味料を危険視してきたわけですし、その背景を、あまり軽視すべきで無いようにも思います。

実際に、「化学調味料入りの食品で体調が悪くなる」と言う方に、私は複数名お会いしたことがあります。

これは言わば、「体質差」ですね。

「火のないところに煙は立たぬ」と言うように、少し警戒心を持って見ても良いかとは思います。

それでも、大多数の方には、あまり大きな問題は無いでしょう。

 

 

②栄養摂取の機会を奪う

私は昆布屋ですから昆布を軸に話を進めますが、伝統の日本のだしを代替する形で、化学調味料を主成分とした顆粒だしのもと等が市販され、大きなシェアを獲得しています。

こんな背景で、ご自分でだしを取る人は、もはや少数派になってしまいました。

実際、この30年ほどで、昆布の消費量は4割ほどに急減しています。

 

 

 

自分で昆布や鰹節を使ってだしを取ったものと、顆粒だしを薄めたもの、栄養成分的に全く違うのです。

データ分析には、文部科学省が提供する、食品成分データベースが活用できます。

fooddb.mext.go.jp

 

このサイト内で、「顆粒和風だし」という項目がありますので、そちらを参照します。

不足しがちで有用なミネラル成分を抜粋し、数値をご紹介します。(100g中)


カリウム 180mg、カルシウム 42mg、マグネシウム 20mg

(※参考 ナトリウム 16000mg)

 

これに対しまして、「かつお・昆布だし」の成分は下記の通り。(上記サイトの顆粒だしの説明に、「通常、約150倍希釈したものが和風だしとして利用される」とあるので、顆粒100gの150倍、「かつお・昆布だし」15000gの成分です)

カリウム 9500mg、カルシウム 450mg、マグネシウム 600mg

(※参考 ナトリウム 5100mg)

 

両者を比較すれば、カリウムは約53倍、カルシウムは約11倍、マグネシウムは30倍と全く違った栄養成分になります。

逆に、塩分量については、顆粒だしの方が約3倍量含まれているところにも要注意です。

 

この結果は、顆粒だしが、自然の素材を僅かしか使わずに化学調味料を主成分にした製品であるからこそです。

伝統的なだし文化を捨て去って、化学調味料が主成分の顆粒だしで代替することが「②栄養摂取の機会を奪う」に繋がっていることがご理解いただけたかと思います。(顆粒だしに原料として使われる天然素材がいかに少ないかは、下記の過去投稿でご説明しています)

konbudoi4th.hatenablog.com

 

化学調味料に直接的な害が無いと仮定しても、その見方だけでは不十分です。

間接的にもたらされる結果を含めて、違いを是非ご理解頂きたいと思います。

手前味噌ですが、私共の製品であれば、うまみ調味料を一切含んでいませんから、栄養面で一切の遜色がありません。

konbudoi.shop-pro.jp

 

 

たんぱく質摂取に関する懸念

そもそも、人間がグルタミン酸等の「アミノ酸類の味」を呈する食品を欲する仕組みは、アミノ酸がタンパク質の構成要素であるからです。

タンパク質自体には味がなくとも、その分解物であるアミノ酸の味を呈する食品には、タンパク質の存在が予想されるわけです。

たんぱく質アミノ酸の関係については、下記のサイトが分かりやすく詳しいので、理解を深めたい方はご参照下さい。)

www.kamaboko.com

 

昔から日本人は様々な方法で「うまみ」を得ていました。

例えば、魚介類を干したものが強いうまみを発揮することは、多くの方が体験的に知っていると思います。

だしの素材として使われることも多い、「煮干し」「干し貝柱」「干しエビ」等でも、非常に強いうまみを感じますね。

このときの「うまみ」とは、含有するアミノ酸類の味や核酸系の味を、人間の舌が感知しているものです。

 

アミノ酸スコア」という言葉を御存知でしょうか。

食品に含まれるたんぱく質を構成する「必須アミノ酸」の含有バランスを評価する指標で、アミノ酸スコアが100に近いほど体内でたんぱく質が有効利用されます。

 

注目すべきは、化学調味料の主成分であるグルタミン酸ナトリウムの「グルタミン酸」は、「非必須アミノ酸」である点です。

食品から摂取しなくても、体内で合成できる成分です。

つまり、仮にグルタミン酸が体内で良い働きをしていたとしても、それを食品から取り入れることに大きな意味は無いのです。

グルタミン酸が欠乏状態にある人の話など、聞いたことがありません。

強いて言うなら、単独でのアミノ酸スコアはゼロです。

 

これに比して、先に例示した海産物であれば必須アミノ酸をバランス良く含み、アミノ酸スコアは100に近いものばかりです。

つまり、自然の海産物からうまみを感じたとすれば、それが私たちの体内でタンパク質合成の原料として活用できるわけですが、グルタミン酸ばかりを摂取しても効果が得られないわけです。

これは、うまみを呈する伝統調味料とて同じです。

魚醤のうまみは魚のタンパク質が熟成過程で分解されたものですし、醤油や味噌も、大豆のタンパク質が発酵によって分解され、様々なアミノ酸が生まれることにより美味しいわけです。

そして、そのアミノ酸類は、私たちの体内でタンパク質を合成するための原料として活きます。

 

「うまみ成分」がタンパク質の分解物である可能性が高いから人間が求めるという仕組み。

この「タンパク質の存在予想」を裏切り、アミノ酸スコアがゼロの化学調味料を多用して表面的に味覚を騙す行為は、とても危険です。

自然の食品から得られる「うまみ」の栄養価値と、化学調味料の「うまみ」との違いを、ぜひ理解していただきたいと思います。

日本人のたん白質摂取量は減少傾向とも言え、要注意です。

 

 

④味覚の麻痺

まず過去投稿をご紹介しますので、ご一読下さい。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

この時の投稿では、「甘さ」を求める人間の味覚の欲求を、人口甘味料で満たしてしまうことの危険性について書きました。

特に、ダイエットで糖質制限をする方には、大問題を引き起こしかねません。

血糖値が下がりきったような状態になったとして、それが理由で強く甘さを欲したとして、その味覚的欲求が人口甘味料で満たされても栄養的充足に全くつながっていないわけです。

充足されない栄養状態を背景に、更なる甘さを欲して、際限なく人口甘味料を摂取することになってしまう可能性があります。

 

同様の仕組みが「うまみ」についても言えるように思うのです。

たんぱく質が必要だから「うまみ」を求めたとして、その味覚的欲求がアミノ酸スコアゼロの化学調味料で満たされてしまうことは、人口甘味料摂取と似た構造だと言えませんでしょうか。

これは、本来リンクしているはずの「栄養摂取と味覚的欲求」の関係性を断ち切って、身体の仕組みを騙している行為だと言えるかと思います。

 

また、別の観点として、私共は「味淡有真楽」を製品づくりの指標に掲げていますが、化学調味料の人工的で強烈なうまみが氾濫することによって、自然の味を薄く感じる人が多くなり、それが益々健康問題を悪化させることを危惧しています。

項目タイトルにした「味覚の麻痺」という言葉が適切かどうかは分かりませんが、うまみ調味料に慣らされて「自然のうまみ」を理解できない人が増えているようで、残念に思っています。

 

 

⑤食文化の衰退と健康の関係

古くから、自然の素材を利用して「うまみ」を得ていた日本人。

昆布は、その代表的素材ですし、発酵食品も同様です。

しかし、1908年には味の素が販売されて以後、自然素材や伝統食品に頼らずとも、化学調味料によって、どのようにでもうまみを付与できる時代になりました。

それが、『伝統食文化の衰退』をもたらします。

 

冒頭にも書いたように、昆布でだしを取る人が圧倒的少数派になった現状は、それを端的に示す事例です。

『伝統食文化の衰退』が健康悪化につながることを暗示するデータが、沖縄に存在しています。

沖縄の伝統食文化に昆布の果たした役割は大きく、昭和から平成初期までは、全国でもトップの消費量でした。


だしに使うことは意外に少ないですが、昆布自体を食べる料理が多いです。
クーブイリチーなどが代表的でしょうか。
「クーブ」とは「昆布」の沖縄訛りだと思われますが、細切りにした昆布を他の具材と共に炒め煮にしたものです。
結んだ昆布の煮物なども、よく食卓に上ります。

 

かつて沖縄は、世界でも有数の長寿地域として知られていました。
その長寿を支えた理由として必ず挙げられるのが、沖縄の伝統食です。
しかし、戦後のアメリカ占領時代から食の西洋化がいち早く進んだ結果でしょうか、あっという間にその名声は過去のものとなりました。
特に男性は、今では都道府県別ランキングを下から数えた方がよほど早い状態です。
沖縄の伝統食に昆布は欠かせませんが、1980年代までは昆布の購入量日本一でした。
ちょうどその頃まで、沖縄は長寿県だったのです。
その後、状況が一変するのですが、沖縄県民の昆布購入量と平均寿命順位は足並みを揃えるように低下していきます。

(データ:沖縄県統計資料WEBサイト、総務庁統計局「家計調査年報」、厚生労働省都道府県別生命表」より)

 

ここで注目すべきは「昆布の健康効果」ではありません。

「沖縄の伝統食文化の衰退」の一側面として見て頂くのが適切だと思います。


日本の伝統食文化の健康価値は世界でも高く評価され、疑いようがありません。

その一方で、日本全国的な伝統食の急速な衰退は、ご説明するまでも無いでしょう。

その衰退に、化学調味料が無関係であると言えるでしょうか。

うまみ調味料の発達が伝統食文化を衰退させ、それが人の健康を悪化させる、このような関係性だと思います。

 

海外でも、化学調味料に押されて伝統食文化が衰退している事例は多く、似たことが起きているのではないかと心配しています。

 

 

まとめ

どんなものにも功罪はありますし、化学調味料を絶対的な悪だと断じるつもりはありません。

しかし、うまみ調味料業界を筆頭に、問題点を覆い隠し、むしろ健康効果をアピールするような事例が非常に多いものです。

例えば、「うまみ調味料は減塩につながる」と言ったものも、その一つで、注意が必要です。(本投稿末尾の、過去投稿ご参照下さい)

下記のような行政機関のFAQでも「うま味調味料は体によくないのですか?」との問いに対して、「通常の使用であれば、健康への影響を心配する必要はありません。」と答えてしまうわけですが、これは本日の内容で言えば①を見ているだけです。

②〜⑤の間接的な視点が欠けています。また、これらの間接的な悪影響は『直ちに』結果が出ないところも、軽視されがち理由だと思います。

www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp

 

うまみ調味料を使うも避けるも自由であるわけですが、なんとなくで流されず、正しい理解の元に良い判断がされることを期待したいと思います。

(了)

konbudoi4th.hatenablog.com

 

(了)