今回の投稿も、なかなかに暗い話で恐縮ながら。
また、過去に書いた内容との重複を多分に含みますが、是非知って頂きたい昆布の現状についてです。
まずひとつ、データをご覧ください。
上のグラフは総務省の家計調査、昆布の消費量です。
市販されている昆布の主な用途としては、やはり「昆布だし」かと思いますが、データが示すとおり、消費量は、1990年(平成2年)と比較すればなんと3割程に落ち込んでいるのです。
日本の食文化の中で、衰退傾向を見せる分野は少なくないかと思いますが、これほど急激に落ち込んでいる食品もあまり無いかと思います。
その一方、下のグラフ。
こちらは、「昆布つくだ煮」の消費量です。
同じく減少傾向ではあるものの、4割減ぐらいですので、昆布そのものと比べれば遥かに減少スピードが緩やかだと言えます。
この両者の傾向。
実は、過去の私は逆の予想をしていました。
それは、日本のだし文化が脚光を浴びていたからです。
2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、その一大要素として「だし」のことが海外に広く発信されました。
その素材としての昆布も同様です。
これは、文化的な価値と共に、健康面も評価されてのことでした。
その一方、日本人はどんどん米の飯を食べなくなってきています。
昆布の佃煮はご飯のお供ですから、それに連れて消費量が減少するだろうと考えていたのです。
元々は保存食として始まった食品ですし、塩分量の関係もあって、減塩志向の強い今では尚のことでしょう。
しかし、先にご紹介したデータは、逆のことを示しています。
佃煮類の需要は、意外に底硬いのです。
ここから見えることは、以下のような事だと考えています。
〇日本人は料理をしなくなってきている
〇代用品の有無、イミテーション化の可否
まず前者
〇日本人は料理をしなくなってきている
につきまして。
忙しい現代人ですから、日々手作りの料理が提供される家庭も、徐々に少なくなってきているように思います。
外食産業も充実、スーパー等ではお惣菜売場の面積は広がるばかり、コロナ禍では宅配料理も一気に普及したようです。
家庭で料理をしないのであれば、「だし」など不要であるのは当然です。
こんな背景で、「昆布」の需要が減少しているのだと思います。
一方、「昆布つくだ煮」の類であれば、ごはんさえあれば、そのお供として使われます。
何の調理も必要ありません。
これが「昆布つくだ煮」の減少スピードが比較的緩やかな理由であろうと思います。
実は、これは私共の製品の売行き動向を見ても感じるところで、昆布と削り節の「ふりかけ」や、細切のしおふき昆布等は意外によく売れます。
「調理の手間がかからない」ということが共通要素です。
しかし、「料理をしない」ということは、大きな問題を抱えていると思いますし、個人的に非常に残念に感じています。
こちらにつきましては、過去投稿をご参照下さい。
次に
〇代用品の有無、イミテーション化の可否
につきまして。
これはシンプルな話で、「昆布だし」の代用品が広まっていることです。
所謂「化学調味料」(表示上で、調味料(アミノ酸等))や、酵母エキス、たん白加水分解物、各種エキス類等の、うまみ調味料です。
「うまみ」を得るのに、昆布や発酵食品が必須であったのは遠い過去の話で、今は「代用品が豊富」な時代です。
一方、佃煮の原材料として使う昆布を、何か別のもので代替することなど不可能ですね。
つまり、「代用品」が有るか無いか、このあたりが消費動向に大きく関係しているのは間違いないかと思います。
「代用品原料」で構成される一般的なだしのもとに、如何に昆布が少ししか使われていないかは下記の過去投稿をご参照下さい。
これは、『文化と健康の喪失』そのものですから、非常に残念です。
私は昆布屋ですので、昆布文化を守るべき立場にいるわけですが、残念ながら業界が同じ意志の元に進んでいるようにも見えません。
冒頭にご紹介したデータは、『平成』という32年間の一時代の変遷を表したものです。
いつの間にか年を取りましたが、それでも遥か昔のことだとは思いません。
本当に残念なことに、昆布文化は平成の時代に一気に衰退しました。
では今後、令和の時代はどうでしょう。
私は、更に加速度的に状況は悪くなると考えています。
平成の時代には無かった新たな問題として「海洋環境の悪化」と「漁業者人口の急激な減少」が存在しているからです。
「価値が無いものであれば、淘汰もやむ無し」だと思います。
しかし、世界的にも日本の昆布文化は脚光を浴び、素晴らしい価値のあるものと認知されています。
それが、本場である日本でこんな現状ですから、本当に残念なことです。
昆布だけでなく、「正しい食」に十分な注意が払われなかった結果でしょう。
最後に申し添えますと、日本の昆布消費量が急激に減少する中で、私共「こんぶ土居」は売上が落ちていません。
これは、代用品とは一線を画す「本物」を追求すれば、それを支持して下さる方も必ずいるという事です。
「健康と文化の喪失」が進む悲しい未来を少しでも遠ざけるため、本物と「代用品」の違いについて、正しい理解をして下さる方が増えることを望むばかりです。
その一助となる「こんぶ土居店主のブログ」でありたいと考えています。
(了)