こんぶ土居店主のブログ

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『健康と食文化を守る意志のありやなしや』 by 八巻元子氏

私共は、創業以来120年、大阪の地で昆布屋を続けてきました。

「昆布屋」ですので、私は大阪伝統の昆布文化を守り育てるべき役割に居るわけです。

しかし、残念ながら昆布文化は衰退の一途です。

その衰退の一因だと言えると思いますが、「うまみ」の観点から昆布の代替品として存在感を増し続ける「うまみ調味料」を、私は好ましく捉えておりません。

 

しかし一般の消費者が、うまみ調味料を使おうが避けようが、それは当然個人の自由です。

 

タイトルに書きました「どちらを選ぶも自由ですが、健康と食文化を守る意志のあるやなしやを問われていることは自明の理」とは、正統派料理雑誌「四季の味」(現在は休刊中)の編集長であった八巻元子さんの言葉です。

私共の製品「十倍出し」と、うまみ調味料入りの「一般的なだしの素」の比較について、このように表現して下さいました。

 

実はこの言葉、私の中で何度も頭を巡ります。

全てを集約したような表現で、結局はこれに尽きるのです。

ただ、「食文化」と「健康」という二つの言葉の意味を改めて咀嚼し、初めて真の理解に繋がると思います。

本日は、私なりに八巻さんの言葉から、昆布に関係する「食文化」と「健康」について書きたいと思います。

 

『文化を守る、とは』

冒頭にも書きましたように、私は、大阪の伝統昆布文化を守るべき立場に居ると自認しているわけですが、文化も時と共に移ります。

過去からのものを、そのまま続けることばかりが文化では無いでしょう。

しかし行政も教育機関も含め、「食育」やら、「食文化を守る」やらとお題目だけは唱えますから、やはり伝統食文化は社会的に大切なものだと認知されているのだと思います。

実際に、「だし」の価値を説く団体も、公的機関を含め、大小問わず無数にあります。

 

しかし、組織が大きく発信力の強い団体になればなるほど、そのバックには必ずと言っていいほど、うまみ調味料メーカーが関わっているのです。

役員名簿等を見ると名前が出ていますから、これは間違いありません。

そのくせに「伝統食文化」を語るわけです。

これは、矛盾していませんでしょうか。

うまみ調味料メーカーから、資金協力を得ている団体が、忖度なしに物を言えますでしょうか。

 

当然、うまみ調味料メーカー自体も、「だし文化」を含む食文化を強くアピールします。

私には、「うまみ」というキーワードを軸に、昆布とうまみ調味料のイメージの混同を誘導しているように見えます。

そういった団体と私では、発信力の違いは歴然で、非常に苦戦しますが、今後も「うま味調味料を使うも使わないも自由だが、伝統だし文化が衰退する要因になっている」ことだけは、強く訴え続けていきたいと思います。

 

八巻さんの言葉、「どちらを選ぶも自由ですが、食文化を守る意志のあるやなしやを問われていることは自明の理」とは、そういう意味だとご理解下さい。

逆に言えば、うまみ調味料を多用するのなら、だし文化を守る意志ナシ、ということでしょうか。

一般の方に、その意志があろうが無かろうが自由ですが、だし文化をアピールしている側にも該当する人が多いので、それはやはり困ったものです。

「本当に食文化を守っている人」と「守っているフリをしている人」、両者の違いに目を向けていただけると嬉しいです。

 

「UMAMI」の問題点については下記の過去投稿でご理解いただけるかと思います。是非ご一読を。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

続きまして、

『健康を守る、とは』

これとて、うまみ調味料を使うことと健康に、どのような因果関係があるのか、正確に理解している方は、ほとんどおられないと思います。

様々な事例を挙げてご説明したいので、これについては後日、別投稿として出します。

 

本日は、昆布を含む伝統食文化の衰退が、健康に大きな問題を引き起こしていることを推測させる事例を、お知らせしたいと思います。

 

昨年発行した拙著「捨てないレシピ だしがらから考える食の未来」の58ページのタイトルは「沖縄の伝統食文化から見えること」です。

かつては一人当たりの昆布消費量が最多であり、かつ、日本一の長寿県として知られた沖縄県

しかし伝統の沖縄食文化の衰退スピードが早く、昆布の消費量順位はあっというまに下降し、それと歩調を合わせるように平均寿命順位も急降下しました。

(本投稿の末尾に、書籍とほぼ同じ内容を載せますので、ご一読下さい。)

 

これは、伝統食文化が失われることで健康も失ってしまう、良い事例です。

これこそが、八巻さんの言葉、「どちらを選ぶも自由ですが、健康と食文化を守る意志のあるやなしやを問われていることは自明の理」の意味だと思います。

 

読み流してしまいそうな言葉の背後に、非常に大切なメッセージが込められています。

今後の私の役割のひとつは、そういったことを多くの方に分かりやすくお伝えすることではないかと、最近は考えています。

それによって、「健康と食文化を守る意志」を持つ方が増えるのであれば、何よりの本望です。

前述の通り、うまみ調味料が、より直接的に健康悪化につながる仕組みについては、改めて投稿致します。

今後も何卒お付き合いください。

 

(了)

(以下、拙著の抜粋)

 

 

  • 沖縄の伝統食文化から見えること

江戸時代の中頃に北前船の西廻り航路が開拓されると、以後「天下の台所」大阪が昆布の集散地としての役割を果たすようになりました。

北海道から日本海側を進み、関門海峡から瀬戸内海を進む「西廻り航路」は、昆布ロードと呼ばれることもあります。

この昆布ロードは、一部が枝分かれする形で更に西へ進み、鹿児島を経由して沖縄、そして台湾、更には中国(清)へも昆布が運ばれていました。

沖縄の伝統食文化に昆布の果たした役割は大きく、昭和から平成初期までは、全国でもトップレベルの消費量でした。

沖縄の昆布文化は少し独特で、あまりだしに使わないのです。

例えば沖縄そばも、削り節や豚骨が主です。

では、どう使うかと言えば、海の野菜のような感覚で、それ自体を食べるのです。

クーブイリチーという沖縄伝承料理があります。

「クーブ」とは「昆布」の沖縄訛りだと思われますが、細切りにした昆布を他の具材と共に炒め煮にしたものです。

結んだ昆布の煮物なども、よく食卓に上ります。

こういった食文化ですので、市場へ行くと乾物でなく生の昆布が売られているのを見かけることがあります。

これは、北海道から生のまま運ばれてきたというわけでなく、水で戻して販売されているのです。

水で戻す際には戻し汁が出て、それは昆布だしそのものですから、言ってみればだしがらを売っているようなものです。

しかし、これが沖縄の伝統料理には、とても適しています。

かつて沖縄は、世界でも有数の長寿地域として知られていました。

その長寿を支えた理由として必ず挙げられるのが、沖縄の伝統食です。

しかし、戦後のアメリカ占領時代から食の西洋化がいち早く進んだ結果でしょうか、あっという間にその名声は過去のものとなりました。

特に男性は、今では都道府県別ランキングを下から数えた方がよほど早い状態です。

沖縄の伝統食に昆布は欠かせませんが、1980年代までは昆布の購入量日本一でした。

ちょうどその頃まで、沖縄は長寿県だったのです。

その後、状況が一変するのですが、沖縄県民の昆布購入量と平均寿命順位は足並みを揃えるように低下していきます。

(データ:沖縄県統計資料WEBサイト、総務庁統計局「家計調査年報」、厚生労働省都道府県別生命表」より)

こんな歴史に、昆布ばかりが関係していると言うつもりはありませんが、とても面白い関係性だと思います。

 

(以上、抜粋おわり)