【前置き】
今回の投稿は、世間に流れる「うまみが減塩につながる」という説が正しくないと主張するものです。
その根拠を、事例を挙げてクドクドと説明するだけの内容です。
面白い話も新たな発見も乏しい、言ってみればツマラナイ内容です。
ただ、「うまみは減塩につながる」とは言えない、これだけは理解していただきたいと思います。
(以下、本文)
さて、以前から書いておりますように、伝統昆布文化を守るべき立場に居る私は「うまみ調味料」を好ましく捉えておりません。
それが伝統的なだし文化を駆逐していく可能性を危惧しているからです。
詳しい内容は、過去投稿をご参照下さい。
しかし立場が代われば主張が代わるわけで、当然うま味調味料業界は、それを良いものとしてアピールします。
例えば、「日本うま味調味料協会」という組織がありまして。
このサイト内では、「うまみ」の価値のアピールのために、様々な情報が用意されています。
その中で本日注目しますのは、下記のページ「おいしく減塩」です。
タイトル部分を抜粋すれば、なんとなくの内容が想像できると思いますのでご紹介しますと。
●おいしく減塩できる
●日本人は塩分をとりすぎ?? 1日の摂取目標は6.5g〜7.5g未満
●おいしく減塩するには、うま味調味料が効果的
●「うま味調味料」の活用で約30%の減塩が可能
●「うま味調味料」から摂るナトリウムはごくわずか
とのことです。
この手の話は、非常にに多く目にします。
別団体になりますが、「うまみインフォメーションセンター」というNPO団体が発信する下のYouTube動画内(20分25秒あたり)でも「うまみで減塩」について語られています。
こちらも、「うま味インフォメーションセンター」が発信する動画ですが、タイトルが「うま味を活用したおいしい減塩」とのことです。
この動画内で、「日本うまみ調味料協会」の事も紹介されていますから、「うま味インフォメーションセンター」と「日本うまみ調味料協会」は、近い関係にあるようです。
この「うまみで減塩」という説を、私は「本当なのか?」と疑っているわけです。
本日の投稿では、その推定の根拠を示したいと思います。
手法としては、同カテゴリーに属する食品の、「うまみ調味料不使用」の製品と「うまみ調味料入り」の品を比較します。
本当に、うまみ調味料に減塩効果があるのであれば、うまみが少ないはずの前者の方が塩分量が多くなってしまうことでしょう。
幸いにして、今はすべての加工食品に栄養成分表示が義務付けられ、含有塩分量が公開されていますから比較が可能です。
サンプルの選定については、下記サイトで味の素株式会社が「レトルト食品やスナック菓子ではおいしさを妥協せずナトリウムを半分にできる可能性が示されています。」と記載していますので、レトルト食品の例として「レトルトカレー」を、スナック菓子の例として「ポテトチップス」を選びました。
【例その1 レトルトカレー】
世間を見回しても、うまみ調味料不使用のレトルトカレーは少ないですが、実は私共でも過去に販売していた製品があります。
ご近所の飲食店「たこりき」さんがプロデュースされていた「たこりきのだしチキンカレー」です。
残念ながら終売してしまいましたが、原材料にこんぶ土居製品を使って下さっていました。
原材料には、一切のうまみ調味料が含まれていません。
こちらの製品の食塩含有量は、一食分220gあたり1.7gでした。
他には、こちらも私共の取引先ですが、関西を中心に「パントリー」「ラッキー」という店舗名で良い食品を取り扱うスーパーマーケットがあります。
そちらでも、自社商品としてレトルトカレーを販売しておられ、うまみ調味料が含まれていません。
食塩量は、下記の通り。
ビーフカレー 2.0g(一食200gあたり)
チキンカレー 2.0g(一食190gあたり)
野菜カレー 1.7g(一食200gあたり)
これらに対しまして、どこのスーパーでも売られている大手メーカーのレトルトカレーを見ます。
当然、全製品うまみ調味料入りです。
「甘口、中辛、辛口」、などありますので、中間を取って「中辛」の数字です。
明治「銀座カリー 」 2.6g(一食180gあたり)
大塚食品「ボンカレーゴールド」2.3g(一食180gあたり)
ハウス「咖喱屋カレー」2.5g(一食180gあたり)
グリコ「カレー職人」2.2g(一食170gあたり)
S&B 「カレー曜日」2.5g(一食230gあたり)
再度うまみ調味料が入っていない分を登場させますと。
たこりき「だしチキンカレー」1.7g(一食220gあたり)
パントリー&ラッキー「ビーフカレー」2.0g(一食200gあたり)
パントリー&ラッキー「チキンカレー」2.0g(一食190gあたり)
パントリー&ラッキー「野菜カレー」1.7g(一食200gあたり)
ひとつの例外もなく、うまみ調味料ナシの方が塩分含有量が少ない結果となりました。
「うまみ調味料で減塩」の説を疑うに十分な結果ではないでしょうか。
続きまして、、
【例その2 ポテトチップス】
まず、表示上で、「調味料(アミノ酸等)」と表示される所謂化学調味料の含まれないポテトチップスは無いものかと、ネット上で探してみましたら、下記のような製品が見つかりました。
ノースカラーズという会社が販売している「純国産 ポテトチップス」という製品で、原材料は下記の通りです。
【じゃがいも、塩、こめ油】
うまみ調味料は含まれていませんね。
そして、この製品に含有する食塩相当量は、製品60gあたり0.5グラムだとのことです。
別に、深川油脂工業という会社の「化学調味料無添加ポテトチップスうす塩味 60g」という製品も見つかりましたが、こちらも同じ数字、0.5グラムでした。
他にも、海外ブランドですが「Lay's」という製品があり、輸入食材店などではよく見かけます。
こちらの原材料は「じゃがいも、植物油、食塩」となっており、うまみ調味料は含まれれていません。
食塩量は、100gあたり0.7gとなっていましたから、他の2製品と同様に60gで換算すると0.42gということになります。
対しまして、どこでも手に入るポテトチップスと言えばこちら。
「カルビーポテトチップス」です。
原材料は、
【じゃがいも(遺伝子組換えでない)、植物油、食塩、デキストリン、こんぶエキスパウダー、でん粉、調味料(アミノ酸等)】
となっているので、うまみ調味料が含まれています。
こちらに含まれる食塩量は、製品60gあたり0.5グラムだと表示されています。
もうひとつ、コイケヤのポテトチップスを参照しました。
原材料:馬鈴薯(日本:遺伝子組換えでない)、植物油、食塩、デキストリン/調味料(アミノ酸等)
食塩含有量:0.7g
整理します。(製品60g中の食塩含有量)
【うまみ調味料なし】
ノースカラーズ「純国産 ポテトチップス」 0.5g
深川油脂工業「化学調味料無添加ポテトチップスうす塩味」 0.5g
レイズ 「クラシック ポテトチップス」 0.42g
【うまみ調味料あり】
全く同カテゴリーではないので、並行して比較することはできないかも知れませんが、表面に大量にうまみ調味料の粉「ハッピーパウダー」がまぶされた「ハッピーターン」というスナック菓子がありますが、そちらは同じ60gで換算しますと、なんと約0.9グラムもの塩分が含まれています。
以上の結果を見て、うまみ調味料が減塩に効いていると言えそうでしょうか。
むしろ、逆の傾向を見せているように思うのですが。
【例その3 たまご豆腐】
今回の、栄養成分表示を用いての比較の手法。
実は、私が考えたものではないのです。
香川県で良い豆腐づくりをされている、久保食品の久保隆則社長に教えて頂いた方法です。
ついでですので、豆腐製品についても見てみましょう。
とは言え、一般製品でも豆腐にはうまみ調味料は含まれませんから、「たまご豆腐」を取り上げます。
久保食品さんのたまご豆腐。
その原材料表示は下記の通りですが、「濃縮だし」は、私共でご用意させていただいています。
原材料名:水57%、鶏卵36%、濃縮だし(昆布・かつお節・食塩)4.8%、淡口醤油(大豆・小麦・米・食塩)1.1%、濃口醤油(大豆・小麦・食塩)0.4%、食塩0.3%、本格みりん(もち米・米麹・米焼酎)0.2%、純米料理酒(米・米麹)0.2%
上記の通り、うまみ調味料は一切含まれていません。
製品100g中の食塩含有量は864mg(0.864g)とのことです。
これに対しまして、こんぶ土居の近隣のスーパー3店舗を巡りますと、たまご豆腐製品が5つ見つかりました。それらのすべてに「調味料(アミノ酸等)」と原材料の記載がありますから、うまみ調味料入りであることが分かります。
各製品の食塩含有量を100gあたりで計算しますと、「1.14g」、「1.17g」、「1.25g」、「1.02g」、「1.11g」、となり全てが前述の久保食品の0.864gより塩分が多いことがわかります。
【まとめ】
以上、「レトルトカレー」「ポテトチップス」「たまご豆腐」の3カテゴリーをご紹介しましたが、いかがでしょうか。
少なくとも、「日本うま味調味料協会」や「味の素株式会社」が言うところの
●おいしく減塩するには、うま味調味料が効果的
●「うま味調味料」の活用で約30%の減塩が可能
●レトルト食品やスナック菓子ではおいしさを妥協せずナトリウムを半分にできる可能性。
は無理があると思われませんでしょうか。
うまみ調味料の効果として確実に存在するのは、「塩カド(塩の刺激)」を和らげることです。
これは、実験により体感していただくことが可能です。
塩味は、やはり刺激が強いものですし、適切な塩分量を越えた食品は、私たちは味覚的に忌避するようにできています。
例えば食塩水。
ある程度の濃度を超えると、塩水など飲めたものではありません。
しかし、そんな濃度の塩水に「味の素」を加えると、なんとなく飲めそうな味になります。
うまみ調味料の代表格「味の素」の主成分はグルタミン酸ナトリウムですから、ナトリウムを含んでいます。
つまり、塩水にうまみ調味料を加えれば、塩分量は増すのです。
それなのに、まろやかにカドを取る効果によって塩の刺激が和らげられるのです。
これは、「うまみで減塩」の真逆の方向性でしょう。
事例を示して参りましたが、私は、うまみ調味料業界が謳う「うまみ調味料で減塩」は欺瞞だと考えています。
ただ、一昆布屋に過ぎない私と、「日本うま味調味料協会」や「うま味インフォメーションセンター」。
発信力の違いは歴然たるものでしょう。
都合の良い研究論文(御用学者?)を引っ張り出して、真偽の怪しい情報を世に広める。
なんとも罪深いことだと思います。
是非、お気をつけ下さい。
大手メーカーによる欺瞞の例は、過去にも投稿しています。
(了)