こんぶ土居店主のブログ

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『うまみの相乗効果』に食傷気味

 私は職業柄、だしの話に多く触れるものです。

だしに関する本が出版されたりすると、買って読んでみることもあります。

しかし残念ながら。たいていはがっかりして本を閉じることになるのです。

理由は様々ですが、この手の本に必ずと言って良いほど取り上げられる「うまみの相乗効果」について多くのページが割かれていたりすると、特にそう思います。

 

御存知ない方のために、「うまみの相乗効果」のことを簡単にご説明しますと。

様々な素材でだしを取ったとき、その素材によって含有する所謂「うまみ成分」の主成分は異なります。

代表的な主成分は下記の通りです。

 

昆布:グルタミン酸

鰹節、煮干し等:イノシン酸

キノコ類(干椎茸等):グアニル酸

貝類:コハク酸

 

各うまみ成分が単独ではなく、他のうまみ成分と混合されることで、より強い味覚として感じられることを「うまみの相乗効果」と呼び、昆布と鰹節の合わせ出しが広く用いられてきたことの理由として説明されます。

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(「特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター 」ウェブサイトより引用)

 

 

これは何も間違ってはいません。

その通りなのだと思います。

 

しかし2021年の今、「一体いつまでこんな話を続けるんだ」とも思うのです。

最近発見されたわけでなく、大昔から分かっていることですから。

 分かりやすい応用事例は、市販される「うまみ調味料」でしょうか。

うまみ調味料メーカー各社から、さまざまな製品が発売されます。

代表的なところで言えば、「味の素」「ハイミー」「いの一番」などが、それに当たります。

これらの製品はどれも、「グルタミン酸ナトリウム」と「イノシン酸ナトリウム」と「グアニル酸ナトリウム」の混合物です。

イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムは、合わせて「5'-リボヌクレオチド二ナトリウム」と表示されます)

 つまり、大昔からうまみ調味料メーカーは、複数のうまみ成分を混合して相乗効果を利用した製品を作り続けているわけです。

そんな使い古された話を、今更だしの専門書籍内で語るのは、やはり感心しません。

少し触れるぐらいならともかく、各素材から出るうまみ成分の種類と量を分析して、相乗効果の観点から理想のだしの味を考察するようなものには閉口します。

 

 

そもそも、味を化学成分で語ること自体、ほどほどにしてもらいたいと思います。

昆布のおいしさを構成する要素としてグルタミン酸が大きな役割を果たしていることは間違いないとしても、グルタミン酸を抽出するためだけに昆布を使うと考えているのなら、大きな見当違いです。

それだけの目的なら、昆布でなく、最初からうま味調味料を使えば良いのです。

その方が手間もかからず価格も安いのですから。

 

 

昔から一流の料理人は、うまみ調味料に頼らず良い昆布や鰹節を揃えてだしをとってきたわけです。

安価なうま味調味料が簡単に手に入る現在でも変わりません。

それを考えれば、うまみ成分名でだしの味を語ることなど一側面を捉えたに過ぎないことが、ご理解いただけるのではないかと思います。

 

 

私は職業柄、具体例に触れていますから理解しやすいのかも知れません。

良い料理人は、品質の良い素材を集めてだしをとります。

私共は昆布屋ですから、それにお応えするよう、良い昆布をご準備します。

例えば、近年の天然真昆布の大凶作。

価格も高騰していますし、これまで天然昆布をお使いいただいていた料理店様へ、養殖昆布のご提案をすることなどもあります。

しかしその際の反応は、例外なく「やっぱり天然とは違いますね」なのです。

 

これは、うまみ成分の量の話ではありません。

そもそも、だしに含まれるグルタミン酸量を増やしたければ、ただ単純に昆布の使用量を増やせば良いのです。

それだけで濃度は上がります。

養殖昆布でも、グルタミン酸の含有量に大きな差はなく、仮にいくらか少ないとしても、使用量を増やせばその問題は解決できるはずです。

 そんな簡単なことで解決するのなら、今の天然昆布不作の問題で私共が頭を悩ませることもありません。

 

うま味成分は十分あるはずなのに、何かが違う。

それが何であるのか、研究が進んでない現状、明確に申し上げることはできませんが、味が違うのです。

 

 

 

昆布の品種で考えれば、グルタミン酸の含有量は羅臼昆布が最も多いのです。

グルタミン酸がそれほど大事なのであれば、だし昆布として迷うことなく羅臼を選ぶべきでしょう。

しかし実際には、昆布の中心地たる大阪では真昆布が重用されてきたわけで、事がそれほど単純でないことが分かるかと思います。

 

 

また、冒頭に触れた専門書籍などで、理想的な昆布だしの取り方が提示されることもあります。

その際、その方法が優れている根拠として、だしに溶けているグルタミン酸の分析値が提示されることが非常に多いものです。

これとて同じ話で、そんなにグルタミン酸ばかりが大切なのであれば、化学調味料を足してしまえばいかがでしょう。

昆布を厳選せずとも、調理に気をつかわなくても、一気に問題解決です。

 

 

 味覚の世界は、簡単に成分で表現できるほどシンプルではありません。

 簡単に問題解決に導いてくれそうな情報がもてはやされるのは、世の常でしょうか。

私が書くややこしい話より、た易く「なんとなく理解したような気になれる情報」の方が耳なじみが良く、好評なのかもしれません。

しかし、真の姿を正しく理解することを大切にしたいものです。

  

 

家庭で本物の味を求める人や、一流の料理人が、「うまみ調味料の混合物」を使わず時間も手間もコストもかけて「本物のだし」を使うことの理由を、今一度よく考えていただきたいと思います。

 浅薄な知識で知ったように語らずに、

『科学的な分析によって分かったことも多いが、分からないことは更に多い』と認識する謙虚さと、

『自然風土と先人の知恵によって形成された伝統食文化』に敬意を払うこと、

この二点を忘れないようにしたいものです。