こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

昆布関係者は「UMAMI」を賛美せず、むしろ敵視せよ!

 

昆布や出しの文化が賛美されることがあります。

とても嬉しいことなのですが、実はその中で、嬉しいような悲しいような気持になる言葉があるのです。

時に、私に嘆かわしい気持ちを抱かせる言葉、それは「うまみ」です。

 

こんぶ土居では、この言葉をできるだけ使わないようにしています。

他に同じ意味を持つ言葉がないので、一切不使用というわけではないのですが、可能な限り避けています。

 

こんなことを聞いて、不思議に思う方が多いのかもしれません。

そもそも「うまみ」という言葉は、昆布のおいしさの分析の中で生まれてきた言葉ですし、海外でも、国際語「UMAMI」として強く賛美される傾向にあるのですから。

 

私がこう考える理由は、ただひとつ。

昆布の味とうま味調味料が、混同して考えられてしまうからです。

そもそも「うまみ」という言葉の歴史は、1907年に池田菊苗氏によって昆布の成分からグルタミン酸が分離されたことから始まるのですが、それが翌年には昆布を使わない製法が完成し、うまみ調味料の「味の素」として販売されることになりました。

その後も、うまみ調味料の技術は日進月歩で進化しています。

 

つまり、1908年までは、私たちは自然の産物から「うまみ」を得るしかなかったわけです。

その代表格が昆布です。

しかし、今は昆布になど頼らずとも、様々なうまみ調味料によって「うまみ」は安価に簡便に食品に付与できます。

しかも、昆布でだしを取る場合、グルタミン酸だけでなく昆布特有の風味なども同時に抽出されてくるわけですが、うま味調味料であればそういったことはありませんので、味の設計に自由度が生まれます。

こんな背景で「うまみ」のために昆布が必須だと言えるでしょうか。

 

日本の伝統昆布文化は衰退し続けているのです。

実際、この30年ほどで、日本人の昆布消費量は半分以下になってしまいました。

私が昆布屋として世に発信すべき内容は、「うまみの賛美」ではなく、むしろ「うまみ調味料と昆布の味の違い」であるわけです。

うまみ調味料に代替されない昆布の価値は、そこにこそ存在しているからです。

 

一般の方が、ご自身の日々の食事にうまみ調味料を使おうが避けようが、それは当然に自由です。

ただ私は昆布屋ですから、昆布の価値を発信するべき役割に居るわけで、昆布とうまみ調味料の違いを伝えます。

伝統昆布文化の障壁になりかねないうまみ調味料を、良い物だとして扱いません。

 

しかし世の昆布業界を見回してみると、どうでしょう。

「うまみ」「UMAMI」を賛美する論調しか聞こえてきません。

本当に嘆かわしいことだと思います。

 

「うまみ」の捉え方について、端的に表れるのは加工食品です。

昆布屋で言えば、昆布の佃煮や、だしのもとなどでしょうか。

当然、こんぶ土居では全商品について一切うまみ調味料を使用しませんが、世に流通する昆布の佃煮の中で、うまみ調味料(アミノ酸等と表示される所謂化学調味料や、酵母エキス、蛋白加水分解物、各種エキス等)の含まれない製品がどれだけ少ない事か。

そんな製品を作っているのが、世に昆布の価値を伝えるべき「昆布業者」であるわけです。

料理人さんの世界でも似た現状です。

海外に向けて、熱心に日本の伝統だし文化をアピールしている料理人さんが、自社ブランドで発売する加工食品にうまみ調味料を使用している現状を見るに、言っていることとやっていることのギャップに悲しくなります。

 

背景にあるのは、やはりコストダウンでしょう。

例えば私共の製品「十倍出し」も、うまみ調味料を併用すれば、ほとんどコストを変えず「二十倍出し」に変身させることが可能です。

今後もこういった誘惑に負けず「文化の伝承」に注力しますが、金銭的なものばかりに目を向けるなら、違った考え方になるのでしょう。

品質の劣る原材料を使っても、なんとか「まずくないレベル」にまで引き上げるために、うまみ調味料は絶大な効果を発揮しますから、社会的な存在意義が全く無いと言うつもりはありませんが、少なくとも違いは理解されることを望みます。

 

私共が昆布屋のテーマとして「味淡有真楽」を掲げていますが、いくらでも人工的に安く付与できる強烈なうまみが氾濫することにより、自然で淡い味が理解されづらくなる。

そんな弊害についても理解が進むことを期待します。

 

 

今回の投稿内容は、「うまみ」より「甘さ」の世界の方がイメージしやすいでしょうか。

砂糖屋さんであれば、世に伝えるべき事は「砂糖のおいしさ」なのです。

「甘さ」ではないのです。

甘さであれば、人工甘味料があるのですから、そちらに代替されてしまいます。

 

深く考えずに「UMAMI」という言葉を嬉々として使う軽薄な世相に、少しでも変化が生まれることを期待したいです。

「見せかけの人」、「見せかけの商品」、には要注意です。

化学調味料無添加!!」と大きく謳いながら、原材料表示を読めば酵母エキスが使われている製品、これらはその代表的な事例でしょう。

製品のごまかしの手段については、過去投稿でも書いておりますので、ご一読下さい。

 

表示を免除されるもの① 原材料の原材料 - こんぶ土居店主のブログ

 

表示を免除されるもの②キャリーオーバー - こんぶ土居店主のブログ

 

表示を免除されるもの③加工助剤 - こんぶ土居店主のブログ

 

表示を免除されるもの④栄養強化目的 - こんぶ土居店主のブログ

 

(了)