さて6月1日と2日に、大阪関西万博のプレイベントとして、大阪南港 ATCホールにて、「第19回食育推進全国大会」という催しがあります。
www.wakuwakuexpo-syokuiku-osaka.jp
ステージイベントとして様々な内容が用意されており、私にも登壇の要請を頂きましたので参上の予定です。
2日のお昼すぎからの「大阪だし文化セミナー(仮)」です。
話の内容としてはざっと以下のとおり。
〇大阪の食の歴史と昆布の関わり
〇大阪の食文化を支える昆布だし
〇地域などによる様々なだしの違い
〇だしの飲みくらべ(真昆布だしと顆粒だし)
〇昆布の栄養価(データの紹介)
〇大阪の食の未来へ向けて、こんぶ土居の思い
この各内容は、私が指定したものでなく、先方のご担当者様が考えて下さったものですが、非常に結構だと思います。
しかし、先日ご担当者様と打ち合わせをした際、少々苦々しく思うこともありました。
それは、上記の項目のひとつ
〇だしの飲みくらべ(真昆布だしと顆粒だし)
についてです。
この飲み比べの方法としては、私が現場でとったダシと、一般的な顆粒だしのもととの比較です。
この試飲体験の結果、誰もがその違いを理解し、天然だしの価値を知って下さるのであれば、とても嬉しいことです。
しかし残念ながら、既に現状はそんな段階ではありません。
間違いなく相当数の人が、顆粒だしの方を美味しいと言うでしょう。
これほど、もはや日本人の味覚は過去と変わってしまっているのです。
これについては、過去投稿をご参照ください。
そもそも、『味の好み』になど他人が口を挟むべきことではありません。
誰もが自分の好きなものを選んで食べれば良いのです。
しかし、今回のイベントは『食育推進全国大会』です。
食育となれば、それは個人個人の好みなどとはと違った公の目的があるわけで、「価値の違い」を伝える必要があるわけです。
その観点として大切なのは、「健康」と「食文化」です。
ここでまず、食育が目指しているものを確認する意味で、食育基本法の中から「健康」と「食文化」に関する部分を抜粋してご紹介します。
第二条(国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成)
食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨として、行われなければならない。
第七条(伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配意及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献)
食育は、我が国の伝統のある優れた食文化、地域の特性を生かした食生活、環境と調和のとれた食料の生産とその消費等に配意し、我が国の食料の需要及び供給の状況についての国民の理解を深めるとともに、食料の生産者と消費者との交流等を図ることにより、農山漁村の活性化と我が国の食料自給率の向上に資するよう、推進されなければならない。
第二十四条(食文化の継承のための活動への支援等)
国及び地方公共団体は、伝統的な行事や作法と結びついた食文化、地域の特色ある食文化等我が国の伝統のある優れた食文化の継承を推進するため、これらに関する啓発及び知識の普及その他の必要な施策を講ずるものとする。
以上の3つが関係しますでしょうか。
このように食育によって成し遂げられるべきテーマとして「健康面」と「食文化」は公的に定められているわけです。
本物のだしとうまみ調味料を主成分にしただしのもととを比較して、どのような健康価値の違いがあるか十分に理解している人など、ほとんどいないでしょう。
同様に、昆布のだし文化が今どんな惨状にあるか正しく理解している人も、ほとんどいないと思います。
だからこそ、食育の場で伝える必要があるわけです。
両観点については、下記の2つの過去投稿でご理解が深まると思いますので、ご紹介しておきます。
まず、健康価値についてはこちら。
「食文化」については、こちらを。
こんな現状ですから、イベント時に「単なる味比較」の試飲体験を提供するのでなく、その背景に存在する事柄を伝えることこそが「食育」でしょう。
ただの「味見」に食育的観点から、どんな意義がありますでしょうか。
冒頭に書きましたように、ご担当者さんとの打ち合わせの際に、この内容に少し難色を示されたような雰囲気がありました。
趣旨としては、『あまり顆粒だしのもと等を悪く言わないで欲しい』、といったことです。
そのように仰る理由と関係があるのかないのか。
改めてこのイベントのウェブサイトを見ますと、協賛企業の中に、うまみ調味料を製造する某巨大企業の名前がしっかりと出ています。
www.wakuwakuexpo-syokuiku-osaka.jp
スポンサー企業への配慮が、食育の本義より優先されることなど、絶対にあってはならないことだと思います。
繰り返しますが、何を食べるかということは、個々人が決めることで他人が口を挟むべきことではありません。
顆粒だしにも、価格が安かったり簡便であったり、それなりの価値もあるでしょう。
しかし、今回は『食育推進全国大会』であるわけです。
大きな軋轢が生まれないよう伝え方には配慮しますが、私は食育の精神である健康と文化の観点に於いては、本物のだしを『優』、顆粒だしを『劣』なるものとして伝えます。
私は、古くから大阪で仕事をしてきた昆布屋として、その伝統食文化を担うべき存在として、昆布の『健康と食文化の価値を伝える』ことを自らのミッションと課しています。
こういった正論が通るのか、それともスポンサー企業への忖度の前に封殺されてしまうのか、果たしてどちらでしょうか。
前者であると信じて、今後も活動を続けます。
世間的一般的にも、食育の名を語っていながら、中身は企業のPR活動であるような事例も少なくないものです。
是非お気をつけ下さい。
食育については、過去投稿でも一度触れています。
よろしければ、そちらもご一読下さい。
(了)