こんぶ土居店主のブログ

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昆布の熟成効果のリミット

昆布を寝かせて熟成させることによって味が良くなるのは、今や多くの方が知るところとなりました。

私共のような昆布屋が見ている、その変化の過程を、一般の方が見る機会は無いと思いますが、本当に大きく品質が変わるのです。

不思議なものです。

私が初めて昆布の産地を訪問し、漁師さんのお手伝いを始めた平成16年。

浜で水揚げされ乾燥されたばかりの味を見たときには、本当に驚きました。

日々大阪で同じ昆布に触れているわけですが、味が全く違ったのです。

簡単に言えば、あまり味が無いように感じました。

これこそ熟成の効果であるわけです。

 

 

本日の投稿では、昆布の熟成について

①熟成と保管の違い

②熟成に必要な環境

③適切な期間

以上①~③に分けてご説明したいと思います。

 

 

『①熟成と保管の違い』

まず言葉の意味するところですが、「保管」は昆布の品質に問題が出ないように長く維持すること、としておきます。

それに対して「熟成」は、むしろ逆で、昆布の品質を良い方向に「変化」させることを意味しています。

つまり、この両者は、対照的な事柄であるわけです。

そうなれば、当然手段が変わってきます。

 

「保管」は、シンプルです。

外的な要因で昆布を変化させるものを取り除けば良いわけです。

具体的には、「温度」「湿度」「光線」などが代表的な要素でしょう。

つまり、低温で低湿度、光の入らない場所、更に言えば空気を遮断できれば尚良いでしょう。

こんな環境に置くことができれば、昆布の状態を変化させず長く維持させることができるはずです。

 

 

 

昔は、大阪のどこの昆布屋でも昆布の熟成効果を理解して対応してきたと思いますが、今やそんな状態でもなくなりました。

理由は「見た目」です。

昆布の熟成にはある程度の湿度が必要ですが、吸放湿する過程で、昆布の表面に少し白い粉が吹くのです。

この状態を消費者や販売店が嫌う構図は、今や普通のこととなりました。

それを避けるためには、前述の低温低湿度環境での「保管」をすれば良いわけです。

そうすることによって、外見的にも変化させずに保つことができます。

 

 

『②熟成に必要な環境』

 

前述の保管に適した「低温低湿度」、しかしこれは「熟成」に良い環境ではないわけです。

熟成によって昆布の味覚的な品質を上げようと思えば、特に重要なのは適切な「湿度」です。

次に「温度」でしょうか。

光線は熟成にも全く不要です。

これらの要素は、人為的に調整可能なはずです。

除湿器や加湿器を使って湿度をコントロールし、エアコンで温度を調整すれば良いわけです。

私共でも、過去にそんなことにトライした時期もありました。

 

しかし、そのような方法は「何か違う」と感じます。

それが何か明確には申し上げられませんが、悪くはないものの「望んだものズバリ」でもないように感じました。

これは、醸造関係の製品と似た構造なのではないかと思っています。

 

発酵が関係する食品は菌が活動するわけですから、その菌が最も好む温度湿度に調節することは可能です。

しかし、昔ながらの伝統製法で発酵食品をつくるメーカーは、たいてい四季の移ろいを経たものづくりをしています。

逆に大手メーカーは、短期間で製造することで得られるコストダウンのため、加温して、所謂「促醸」と呼ばれる方法を取ることが多いものです。

この両者を比較すれば、「促醸」は、菌の活動に良い環境を整えることによって早く製造できたわけですから、良いものができそうなものです。

しかし実際は、伝統的な製法の方が良い結果が出たりするのが面白いところです。

 

結論としては、昆布の熟成に、ある程度の湿度と温度が関係していることは間違いありませんが、その理想値を明確に示すことはできません。

経験則から申し上げれば、そんな理想を追求するより、昔ながらの原始的な方法が良いように感じています。

環境負荷の面から考えても、無駄に電気を使ってコントロールするよりも、自然な形で調節できる方が良いのは言うまでもありません。

 

例えば必要な湿度は梅雨時の気候が与えてくれます。

それが過剰になり過ぎないように倉庫内の空気の循環を抑えたり、高床状態にして過剰な吸湿を避けたり、場合によってムシロで覆って調節したり。

私共では、その時その時で気候と昆布の状態を観察しつつ、原始的な方法による調整を基本にしてきました。

今後も、それを続けたいと思います。

 

 

『③適切な期間(熟成効果のリミット)

まず、最初にイメージして頂きたいのは「押し花」です。

子供の頃に、四つ葉のクローバーなどを見つけて、本に挟んで押し花を作った経験のある方も多いかと思います。

不思議なもので、押し花にすると、長い間きれいな緑色の状態を維持できるようです。

それでも長くても一年ぐらいが限度のようで、徐々に退色していき、枯れ葉のような色合いになってきます。

昆布も同じです。

昆布も植物であり葉体ですから、漁獲直後の状態から、押し花と同じ経過を辿り、枯れ葉のような状態へと進んでいくことになります。

 

かなり古い昆布の味がどうなるか、実際に味見をして経験できれば良いのですが、一般の方はそんな機会はないでしょう。

しかし実際に経験せずとも、異常な長期間寝かせて枯れ葉状態になった昆布の味が、なんとなく想像つきませんでしょうか。

 

時の経過によってつくられる加工食品は多いですが、ピークがあるでしょう。

長ければ長いほど良い食品など、ほとんど無いように思います。

例えば、伝統製法の梅干しは塩分も高くPhも低いですから、決して腐ることのない食品です(減塩梅干しを除く)。

ですので、例えば100年前の梅干しなどが実際に現存し、販売されている事例などもあるようです。

しかし、それが美味しいかどうかは全くの別問題です。

簡単に言えば、梅干しでも昆布でも、あまりに長期間寝かせすぎると、その素材が持っている本来の味が消えていってしまうのです。

 

昆布に関してその適切なラインがどの程度かは、前述のように熟成環境にもよります。

こんぶ土居に於いては一年目には大きな品質変化が生まれます。

二年目の熟成でも、上積みがあるように思います。

しかし、二年寝かせた昆布と三年寝かせた昆布とを比較した際、明確に三年が良いと言えるかとなれば、よくわかりません。

たいして変わっていないと思います。

更にその先は、言わずもがなです。

 

現在私共で販売している製品の「天然真昆布一本撰」は平成27年産の昆布です。

年数で言えば「六年熟成」に該当するのでしょうか。

しかし、私共ではそこに付加価値をつけての販売は一切しておりません。

 

食の世界に限らず、「意味のない付加価値」がつけられた製品が横行しています。

正しい情報をつかみ、それに振り回されないようにしたいと思います。

昆布の熟成について多くの方が知って下さるのは嬉しいのですが、過度に評価されて正しい認識からずれることが無いように望みます。

 

(了)

 

(過去に同様のテーマで書いた記事もあります。本日の内容と重複する部分が多いですが、ご興味あればご一読下さい。)

konbudoi4th.hatenablog.com