水産食品の関係者向けの専門紙に、「水産新聞」という新聞があります。
本年の1月に面白い記事が掲載されました。
タイトルは、『短時間で乾燥コンブ熟成 高湿度加工でだしの品質向上』です。
なかなか興味深い記事です。
北海道立工業技術センターさんが、条件を様々に変えて分析したようで、昆布の熟成に必要な環境条件についての実験レポートが出ています。
記事によりますと、「湿度」が最も大切で、次に「温度」も影響するとのことです。
データ分析により、分かりやすく説明されるのは面白いのですが、私個人的にはこれを別の感覚と共に読みました。
それは、非常に傲慢な話ですが、
『そんなこと、今更言われなくても大昔から知っている』
と言う感想です。
事実、私はこのブログの下記の過去2投稿で、今回の工業技術センターのレポートと同じようなことを書いているのです。
こういった内容を私が発信する際に、成分分析を元に申し上げているわけではありません。
「自分が感じたこと」を書いているだけです。
言ってみれば私の主観に過ぎず、客観的なデータに基づいていません。
その一方、今回の一件から私は改めて自分の「日々昆布を観察し続けた者の目」、についての自負を強めているところです。
データ分析などせずとも、ずっと長年注意深く観察し続ければ「分かる」のです。
この「見る目」は、一朝一夕に養われるわけではありません。
毎日毎日ひたすら昆布を観察してきた者のみが得られるものです。
逆に言えば、『見る目』を持たない人に向けては、説明することすら難しいのです。
端的に申し上げるなら、
「見る目があれば、データなど無くとも分かる。」
「見る目が無ければ、データに頼るしかない。」
ということです。
今回の工業技術センターさんの分析により裏付けが取れたことは、喜ばしいことですが、「データに頼る」ことの是非についても注意が必要だと感じました。
そして、今回の話には、「その先の領域」があるのです。
2021年の私の過去投稿から一部を抜粋しますと。
熟成によって昆布の味覚的な品質を上げようと思えば、特に重要なのは適切な「湿度」です。
次に「温度」でしょうか。
光線は熟成にも全く不要です。
これらの要素は、人為的に調整可能なはずです。
除湿器や加湿器を使って湿度をコントロールし、エアコンで温度を調整すれば良いわけです。
私共でも、過去にそんなことにトライした時期もありました。
しかし、そのような方法は「何か違う」と感じます。
それが何か明確には申し上げられませんが、悪くはないものの「望んだものズバリ」でもないように感じました。
これは、醸造関係の製品と似た構造なのではないかと思っています。
発酵が関係する食品は菌が活動するわけですから、その菌が最も好む温度湿度に調節することは可能です。
しかし、昔ながらの伝統製法で発酵食品をつくるメーカーは、たいてい四季の移ろいを経たものづくりをしています。
逆に大手メーカーは、短期間で製造することで得られるコストダウンのため、加温して、所謂「促醸」と呼ばれる方法を取ることが多いものです。
この両者を比較すれば、「促醸」は、菌の活動に良い環境を整えることによって早く製造できたわけですから、良いものができそうなものです。
しかし実際は、伝統的な製法の方が良い結果が出たりするのが面白いところです。
(以上、引用おわり)
この過去投稿で書いた通り、人工的に環境を整えて「促醸的」なアプローチをしたものと、長期間に亘って徐々に熟成を進ませたものには、当然違いがあるのです。
何事も、そう単純ではありません。
成分分析の手法とて、今回の工業技術センターのレポートは、グルタミン酸量に立脚しているだけです。
他の成分については一切考慮されていません。
過去から何度も書いている通り、グルタミン酸ばかりが大切であるなら、昆布など使わずともうまみ調味料を入れれば解決するのです。
大切なのは『昆布のおいしさ』であって、それを『グルタミン酸量』と同一視して表現することの問題も理解されて欲しいです。
『データや外部の情報に頼りがち』、これは現代人の悪いクセかも知れません。
「情報を集めて編集し活用する」、そんな作業こそ、将来的には真っ先にAIに代替されてしまうことでしょう。
自らの実体験から得られたものにこそ、他に代替されない価値があると思うのですが。
今後も『データ分析の手法では到達できない職人技術の境地』こそが自らの存在意義だと考えて、日々昆布と向き合い、『見る目』を養い続けたいと思います。
(了)