前回の投稿で、昆布の熟成の年数の長さを、付加価値として謳うことの問題点について書きました。
だしの世界では昆布の相棒である鰹節にも、似た構造が存在しますので、本日は、そんな内容です。
鰹節の製造工程は、簡単に申し上げれば
①生の魚をさばいて
②お湯で煮て
③煙でいぶして乾燥させて
以上①~③で出来上がりです。
この段階では「荒節」と呼ばれる鰹節ですが、その後「かびつけ」の工程が加わると「枯節」と名前が変わります。
この工程で、カビの作用で更に水分を抜き、香りも良くなるので、枯節は高級品だと言えます。
作業としては、カビの水溶液を鰹節に噴霧し、増殖に適した「むろ」に入れるのですが、それによって鰹節の表面はビッシリとカビで覆われます(「自然カビ」と呼ばれるカビ水溶液の噴霧をしないものもあるにはあるようですが、非常にまれです)。
その後、数日かけて日干して一番カビを落とした後、再びむろに入れて二回目のかびつけに進むのです。
最初につけたかびを「一番カビ」、以後「二番カビ」「三番カビ」と呼ばれていきます。
市販されている枯節の中には、このかびつけ回数の多さを付加価値として謳う製品があるのです。
例えば、下記のサイトは、「本場の本物」と銘打った地域食品ブランドの表示基準ですが、こちらでは「四番カビ」を明記しています。
つまり、三番カビでは、こちらの言う「本場の本物」でないということになってしまいます。
「山川」とは、鹿児島県指宿市の鰹節産地のことですが、私共で「本格十倍出し」の製造原料として鰹節生産者さんに作っていただいているものは、正に上記の「山川の鰹節」です。
近海一本釣りの原料魚を指定し、こんぶ土居仕様に作っていただいています。
ただこの鰹節、「三番カビ」までしかつけていません。
つまり、上の「本場の本物」の基準に合致しないのです。
ですから、私共で使用しているものは「本場の本物でない」と認識されてしまうのでしょうか。
ただ、カビつけと、その後の日干しを十分にすれば、二番や三番のかびつけでも、鰹節の内部の水分は非常に少なくなるようです。
であるならば、その後の四番カビをつけることに、大きな意味があるのでしょうか。
むろの温度や湿度をコントロールすれば、何度でもカビを乗せることは可能でしょうけれども、回数を重要視しすぎることがあるならば、それは鰹節の品質を高めるためでなく、その行為自体が目的化してしまっているようにも思います。
そんなことよりも。
例えば、美味しい鰹節に原料魚の品質はとても大切な要素ですが、「一本釣り漁」と「巻き網漁」では、魚の品質が変わります。
また、魚には資源問題がありますから、本当に持続可能な鰹節の良い未来を考えるなら、できる限り一本釣りを選ぶべきでしょう。
しかし、前述の「本場の本物」では、そのあたりのことについては一切言及されていません。
今年の春には、人気のテレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で、鰹節職人さんが取り上げられたりしていました。
一般の方には素晴らしいもののように映るのかも知れませんが、私にはそこでも何か大切なことが見落とされているように感じました。
鰹節以外の食品でも、どうでも良いようなことに付加価値をつけられ、本当に大切なことが放置されている事例が多いように思います。
今後もこんぶ土居では、常に「本当に大切なことは何か」を考えて、営業を続けたいと思います。
鰹節については、過去に何回か投稿しています。
宜しければ、そちらも併せてご一読下さい。