専門店へ行ってもスーパーへ行っても、様々な品種の昆布が並べられています。
外見から昆布の良し悪しを見分けることは、一般の方には非常に難しいものですが、形状の違いについて疑問を感じる方があるかも知れません。
大まかに言えば2種類でしょうか。
それは、「平らな昆布」と「平らになっていない昆布」です。
( ↑ 平らに伸びた昆布の例)
両者、昆布の品質に直接的な意味合いはありません。
『シワを伸ばしたから美味しくなる』というようなことはありません。
ただ、ご理解いただきたい情報もありまして、本日は「昆布を平たく伸ばす」意味についての投稿です。
【昆布の仕立ての基礎知識】
昆布は、水揚げ後、乾燥さえしてしまえば立派な食品として通用しますが、商品として流通する以上、決められた規格に則って「仕立て」られます。
その「仕立て」の方法は、たくさん存在し、しわを伸ばしたり伸ばさなかったり、産出地域によっても、また同一地域内の仕事でも様々です。
本日は例として、道南地方にて「元揃昆布(こんぶを伸展して乾燥し、葉元を三日月形に整形したもの)」を製造する過程をご紹介します。
高級昆布ならではの、手間のかかる仕立ての方法です。
(「元揃」その他、昆布の規格について、詳しくお知りになりたい方は、下記の「北海道水産物検査協会」のウェブサイトに資料がございます。)
まず、昆布は水揚げされた直後は、こんな状態です。
次に、これを干すわけですが、天日乾燥の場合は、こんな感じですね。浜辺に並べます。
今は機械乾燥が主になっていますが、その場合は竿に吊るします。
機械乾燥の場合、この吊るした状態で乾燥室に入れるわけです。
浜辺に並べて干す天日乾燥でも、吊るして乾燥室に入れる機械乾燥でも、干し上りの姿は、こんな状態です。
つまり、平たく伸びておらず、不規則に丸まってシワが寄った状態です。
このまま裁断し流通する規格もあるのですが、シワを伸ばす製品ではまだまだ仕事が続くわけです。
このシワ、伸ばそうとしても、乾燥直後は昆布がカチカチですので伸びません。
無理に伸ばすと割れてしまいます。
そのため、少し柔らかくする必要があるのです。
昔は、日中に干した後に一旦取り入れた昆布を、夜露に当てるために再び浜辺に出し、湿度を与えて柔らかくしたそうです。
今はこの部分にも機械化が進み、スチームを当てて柔らかくしています。
その後、昆布を「巻き取る」のです。
以前、漁師さんの作業を撮影させていただいた短い動画がありますので、ご覧ください。
このように巻き取り機に吸い込まれていった昆布は、ドラム状に重なっていきます。
この巻き取り作業、昔は機械がありませんので、全て手作業でした。
漁師さん方が一枚一枚、手で昆布を巻いていくのです。
私も実際に作業をしたことがありますが、本当に大変な仕事でした。
昔の人の忍耐力は、改めてすごいものです。
次に巻き取られた昆布を一枚ずつ外し、揃えて並べ、板で押えて重しを掛けます。
しっかりと、昆布が伸びた状態にするためには、この重りを載せてじっくり待つことが大切です。
「庵蒸」と呼ばれる工程です。
この「庵蒸」によって、昆布の水分量も適切に調整され、良い状態に仕上がります。
最終的には、このような美しい姿に仕上がります。
以上が、昆布を平たく伸ばすまでの工程です。
高級昆布ならではの、手間がかかる仕立てではありますが、伸ばしたからと言って味がよくなるわけではありません。
しかし、意味がないわけではないのです。
その主な理由は「選別」です。
これは、北海道での漁師さんが行う選別も、私共が大阪で行う選別も、両方関係します。
①こんぶ土居の選別
私共では、昆布を厳しく選別して、販売用にご用意しています。
その理由は、同じ規格で届いた昆布でも、品質に大きなバラつきがあるからです。
その際、食品ですから、実際に味を見てみることもありますし、においを嗅ぐこともあります。
しかし、大量の昆布を選別するのに、全量を一枚ずつ味見していくなんて、不可能です。
そのため、視覚を動員します。
視覚と味が何の関係があるのかと思われるかも知れませんが、そこは職人の技術の問題です。
日々昆布の選別をし、それを延々と続けてくると養われる『職人の目』。
その目によって視覚的に、味覚上の昆布の良し悪しを判別するのです。
視覚によって主に昆布の「問題点」を見つけるわけですが、その際に昆布がシワシワに丸まった状態であれば、内側になった部分は特に状態を十分に観察することができず、問題を発見できないのです。
やはり、消費者の方に良い昆布をお届けするためには、厳しい選別が不可欠です。
そのために、やはり昆布は平たくなっていて欲しいのです。
②漁師さんの選別
本日の投稿の前半で、「元揃」と呼ばれる昆布の仕立て方法をご紹介しましたが、水揚げされた昆布の全量がその仕立てになるわけではないのです。
しわを伸ばさないまま出荷されるものもあります。
つまり乾燥が終わった昆布を漁師さんが、どちらの仕立てにするか簡易的に選別されます。
その選別時に、「良い昆布」をしわ伸ばしにする傾向があるのです。
例えば、ご紹介した「元揃」は、厳しい規格でコントロールされているので、手間がかかります。
その際、小さかったり薄かったりする昆布ほど、手間が余計にかかりますし、品質に問題が出やすいです。
少しでも問題が出ないように、少しでも省力化できるように、シワを伸ばす規格で出荷する昆布ほど、良い品質のものが選ばれている傾向があるのです。
【今後の展望】
なんとなく、シワを伸ばすことの意義が、ご理解いただけましたでしょうか。
しかし今、昔に比べてどんどん昆布はしわを伸ばさない状態で出荷することが増えているのです。
理由は、労働力の不足です。
漁師さんの作業は大変な手間がかかるわけですが、大家族が多かった昔は、人手が十分あったわけです。
しかし今では、漁村での人口減少と高齢化は著しいものがあります。
そんな背景で、少しでも手間をかけず出荷したいという生産地の意向が働きます。
この傾向は、今後も益々強くなってくると思われるので、私共もいずれ対応を迫られることになるかと思います。
ちなみに、だし昆布として販売される際、シワの伸びていない昆布の方が販売業者から歓迎されるという話も耳にします。
それは、
「袋にたくさん入っているように見えるから」!
だそうです。
本当に下らない理由です。
実際、シワが伸びていない昆布はカサが高いものですし、切断面を見るとなぜか不思議と厚みもあるように見えます。
こんぶ土居で販売しているだし昆布のシワが伸びている理由、ご理解いただけましたでしょうか。
実は、こんぶ土居の倉庫内での熟成過程でも、更に少しずつ平たくなっています。
それは、積み上げられたことにより、継続的に「押し」がかかっているような状態になるからです。
言ってみれば、漁師さんの「庵蒸」の延長戦をやっているようなものでしょうか。
この、大量に積み上げられた状態は、昆布の熟成保管に理想的です。
昆布の熟成については、過去投稿をご参照下さい。
しわの伸びていない昆布が悪いというわけでは決してないのですが、違いだけはご理解いただけると嬉しいです。
今後も、表面的なことでなく、本当に良い製品をお届けするよう努めて参ります。
(了)