先日、調理法について、ひとつの検証する必要があり、鶏肉を焼いてみました。
近所のスーパーで普通の鶏肉を買ってきて、軽く塩コショウだけして焼いたのですが、鶏肉がおいしくありませんでした。
どうまずいのか表現しづらいですが、とにかく良くなかったのです。
所謂、ブロイラーでしょうか。
調味料で強く味をつけたのならあまり問題ないのかも知れませんが、非常にシンプルな調理にしたものですから、鶏の個性がそのまま出て気になりました。
こういった経験をしてしまうと、やはり安い鶏肉に対して気持ち悪い感覚が芽生えてしまうものです。
どんな環境でどんなエサで育った鶏であるのか、私たちには知ることができません。
こんな構造は、豚肉でも牛肉でも同じです。
牛肉については機会を改めて、牧草肥育牛(グラスフェッドビーフ)について書きたいと思います。
不自然な肉の味は、不自然な飼育に起因するのは言うまでもありません。
家畜は人間が育てる以上、その飼育方法で品質が変わるのは当然で、中でも飼料が及ぼす影響は非常に大きいでしょう。
話を魚に移します。
世界人口が増え続ける中で、水産資源は枯渇傾向にあります。
1980年頃までは、天然魚の漁獲量は年々増えていたのですが、そこから横ばいです。
時期を同じくして、代わりに養殖魚が徐々に増え、現在では養殖魚の漁獲量の方が天然を上回っています。
こうなれば、もはや魚も家畜同然です。
養殖が悪いというわけでは決してありません。
むしろ今の時代には、必要性が増しているとさえ言えるでしょう。
しかし、人間が管理して人間がエサをやって育てる以上、品質は様々です。
つまり、良い養殖魚と良くない養殖魚が、あるのだと思います。
私共の製品の「十倍出し」。
だしを取った後の昆布や鰹節や煮干しは、「しっとりふりかけ」や「ミネラルいりこん」として再加工していますが、それでも全量使い切れず、実は業者さんに引き取っていただいているものもあるのです。
その引き取り先での用途は、飼料です。
十倍出しのダシガラは飼料として何も問題ないとは思うのですが、その一方で暑い季節にはダシガラが悪くなるのも早く、飼料として加工されるまでに雑菌が繁殖したりしないか、勝手に心配になったりもしています。
当たり前ですが、養殖魚のエサの素性を私たちが知ることはできませんし、品質が必ずしも良いものとは限りません。
質の低い飼料で育てると魚の健康に問題が出ますから、その対策として薬品が多用されることにもつながるかも知れません。
難しいのは、前述のブロイラーとて質の劣る養殖魚とて、表面的なとらえ方をすれば高く評価されてしまう可能性があることです。農産物も同じです。
例えば、
〇味が薄く変な風味があり身がブヨブヨのブロイラーがあったとしても、それは言い換えれば「やわらかくてジューシー」であり、
〇不自然なにおいのするメタボ的養殖魚があったとしても、「天然の魚より、あぶらが乗っている」と評されたり
〇本来備えている味や香りが弱く、力のない野菜だとしても「糖度が高い」ことが評価されたり
このような事例は多々あるものです。
ここが難しいところで、「やわらかさ」「水分量」「あぶら乗り」「糖度」といった幼稚な感覚しか持ち合わせていない場合は、問題に気づくことができません。
私たちは、ずっとこんな食品に囲まれて生活しているわけですから、それが当たり前になって問題に気づけなかったとしても、無理のない話です。
その一方、やはり天然の魚は素晴らしいと思います。
肉で言えばジビエですね。
私たちが日常にジビエを食べる機会など多くはないわけですが、魚であれば、自然の中で自然なエサで育った魚を食べることができるのです。
肉を食べても本来の食性と違ったおかしな肉、野菜を食べても農薬まみれ、その中で天然の魚は最後の砦だと言えるかもしれません。
ぜひ天然魚をいつまでも食べられる世の中であってほしいと思います。
昆布屋としての私共の仕事で魚について配慮すべきなのは、製造原料として使う鰹節でしょうか。
資源問題についての注目点は、漁獲方法です。
「混獲」という言葉がありますが、漁業の際に、対象の種とは別の種を意図せずに漁獲してしまう、もしくは同種間においても、意図していたよりも小さい個体や、幼体を捕獲してしまう状況のことを指しています。
鰹節の原料魚の漁獲方法は「一本釣り」と「巻き網」の二種類ですが、混獲が起きやすいのは巻き網です。
こうして、非常に小さな子供のカツオが鰹節に加工されてしまうこともあるようです。
鰹節があまりに小さく細くなるので、「ペンシル鰹」などと呼ばれることもあるようで、漁業資源を守る上で大きな問題です。
こんな鰹節が、大量に販売されるめんつゆやダシパック、顆粒調味料の原料として使われているかも知れません。
私共の製品「本格十倍出し」に使用する鰹節の原料魚は、100%日本近海での一本釣りです。
「標準十倍出し」も、よほどの悪条件にならない限り一本釣りの原料魚です。
もともとは、おいしさを求めて一本釣りを選んだわけですが、今となってはそれ以上に、資源保護の観点から過去の選択が間違っていなかったことを実感します。
日本では、少し取り組みが遅れているようですが、水産物の持続可能性に配慮した水産物の認証制度(水産エコラベル)なども、各国で始まっているようです。
普通のスーパーなどで見かけることはまだ稀ですが、もし見かけたら積極的に購入するなど、天然魚の持続的な利用のために是非ご支持をいただきたいと思います。
(ご紹介)
冒頭で鶏肉について書きましたが、良い生産者の方も当然たくさんおられます。
こんぶ土居のお客様でも、養鶏農家がおられ、素晴らしい飼育をされています。
実際に現場を見せていただきましたが、100%国産の安全な飼料で、飼育環境も良く元気に鶏が走り回っていたのが印象的でした。
たまごも鶏肉も販売されています。
ご興味あれば取り寄せてみてください。
たまごについては、黄身の色にご注目。
鶏肉については、スーパーで安く手に入る肉と、同じ調理をして味比べをしてみて下さい。
驚かれると思います。
特に親鳥がおすすめです(肉質は非常に硬いですが)。
【いまい農場】
今井さんの鶏も、言ってみれば良い飼料と良い環境で育てられた「養殖鶏」です。
他の家畜でも魚でも、良い養殖ものがあるのなら積極的に選びたいです。
もし良い生産者を御存知なら、コメント欄などで教えて頂けると嬉しいです。