こんぶ土居店主のブログ

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昆布が海の中でダシが出ないのなんでだろう〜

 

タイトルのような漫才のネタがありましたが、これは昆布に関する疑問の定番でしょう。

川田一輝さんと仰るラジオのDJさんが、かわいらしいイラストつきで説明されたものがあり、非常に分かりやすいです。

海の中でコンブから出汁がでないのはなぜ? | 知って得する!川田一輝のお魚あれこれ No.88 | p1 | WEBマガジン HEAT

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この川田さんが説明されている通り、大切なポイントは、細胞壁や細胞膜が破壊されているかどうかです。

海の中で生えている時には、膜構造が十分に機能して中のエキス分が溶出しづらいのは、イメージしやすいかと思います。

 

膜構造の破壊につながる代表的な要因は「加熱」と「乾燥」です。

だしを十分に抽出するためには、このどちらかが必要条件であるとお考えいただいて良いかと思います。

 

例えば、干し椎茸。

干したものなら水に浸すだけでダシが出るのに、生の椎茸を水に浸しても、ほとんどダシにはなりません。

これは、「乾燥」によって膜構造が破壊され、干椎茸のエキスが溶出している事例だと捉えることができます。

 

例えば、丸鶏スープ。

チキン一羽を寸胴で煮込めば、おいしい丸鶏スープがとれるでしょう。

しかし、丸鶏を冷水にいくら浸していても、エキスはほとんど出てきません。

これは、煮込む際の『加熱』によって、鶏肉の膜構造が破壊されたからだと考えられると思います。

野菜のダシなども同じです。

生の野菜をいくら水に浸してもダシにはなりませんが、それを煮るだけで美味しいべジブロスになりますね。

 

冒頭の疑問「昆布が海の中でダシが出ないのなんでだろう〜」も、海中では加熱も乾燥もされていない状態なので、ダシが出ないとお考えいただければと思います。

 

これは、だしを取る方法についてのお話しにもつながります。

販売されている昆布は乾物ですので、乾燥によって既に膜構造が破壊されているわけです。

であれば、加熱は必要条件ではありません。

つまり、十分に時間さえかければ『水出し』が可能なのです。

 

他の日本の伝統的なだしの素材を考えてみますと、

昆布と干し椎茸は「乾燥」が、煮干しと鰹節は製造過程で「加熱」もされています。

つまり、これらの素材は全て、水に漬けておくだけで一応ダシがでます。

 

『一応』と書きましたのは、鰹節の『香り』については、少し別の観点があるからです。

香りの成分は、温度が上がれば多く出る傾向がありますので、それを活かすには、煮だす方が良いと思います。

鰹節の水出しをしてしまうと、少し生臭く感じられるかも知れませんが、これは良い香りによるマスキング効果が出ていないからでしょう。

 

その一方、昆布は香りを楽しむというよりは、うまみの底支えをするのが主な役割ですから、水出しでも全く問題ないかと思います。

煮干しについては、やはり魚臭さがどうしても存在しますから、加熱によって臭いの成分が出るのを抑えるため、水出しの方が良いでしょう。

 

このように、味と香りを分けて考えると、それぞれの素材へのアプローチが整理されて、ご理解いただき易いかと思います。

 

 

昆布だしについては、10年ほど前から、「60℃で一時間煮出すのがベスト」などと言われることが多くなりました。

これは、悪い方法だということは決してないのですが、それを丸ごと鵜呑みにしてしまう事の問題点について、次回の投稿で書く予定です。(↓こちらです)

konbudoi4th.hatenablog.com

 

(了)