こんぶ土居店主のブログ

こんぶ土居店主によるブログです。お役に立てれば。

『文化を守る人』>『美味しいものをつくる人』、と言いたい。

本ブログでも、何度も取り上げている天然真昆布の大凶作。

特に、大阪の料理人さん方は、たいへん困っておられます。

なにしろ、真昆布のだしは大阪料理の要。

良い昆布が手に入らないということは、その要が揺らぐことであるわけです。

 

こんな背景で、料理人の皆さん方も、様々に工夫をされます。

手に入る素材の中で、食べる方の最大の満足を得るための工夫ですので、素晴らしいことだと思います。

 

例えばこの料理。

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どこからどう見ても日本料理のお椀ですが、実は、だしに鰹節も昆布も一切使われていません。

その名も「コンソメ椀」です。

 

私は食べていませんが、美味しいそうです。

そりゃそうでしょう。

一流の料理人さんが、工夫を凝らして用意したダシですから。

しかし、私は少し釈然としないものを感じるのです。

 

 

 

私たちは日本に暮らす日本人ですから、私たちこそが日本文化の担い手です。

とは言え私自身も、毎日そんなことを意識して生活しているわけではありません。

日々洋服を着て生活していますし、外国料理を食べる機会も非常に多いです。

 

しかしだからこそ「文化の担い手」となる人が必要であって、日本料理の料理人さんは、「伝統食文化の担い手」だと自認して欲しいと個人的に考えています。

特に一流の日本料理人さんは、そうあって欲しいです。

 

日本料理の献立の中でも、何と言っても花形は、昆布と鰹節で引いた一番だしの「お椀」です。

その日本料理の「花形」までもが、伝統素材を背景とした『独自性』を失いつつあるのなら、本当に悲しいことです。

この『独自性』こそが、文化であるわけですから。

ただそれは、良い昆布が手に入らないことに起因するものですから、「しょうがない」とも言えそうです。

 

しかししかし。

いつの時代も、問題が発生したときに「その問題を回避する人」と「問題を解決する人」の両方がいるものです。

どちらかと言えばコンソメ椀は「前者」かと思いますが、後者の料理人さんもいるのです。

 

 

さて、本年2023年の10月。

最高級の真昆布産地の、北海道の旧南茅部町域にてイベントを開催します。

会場は北海道南茅部高校。

対象者は、南茅部高校の全生徒と、南茅部中学校の全生徒、保護者、漁業関係者、行政、教育機関等々です。

私が最初に、産地の方々へ向けて、いかに南茅部の昆布が日本の食文化に大切なものであるか、また未来へ向けた問題点や展望についてお話します。

そして後半には、料理人さんの力をお借りし、別の角度からのお話しと、昆布だしの活きた料理の試食会も開催します。

 

協力してくださるのはミシュランガイドの三ツ星料亭「柏屋」のご主人の松尾英明さん。

jp-kashiwaya.com

 

松尾さんには、過去から何度となく、お世話になっています。

まだ、世に天然真昆布の問題を報じるメディアが少なかった時代に、いち早く取り上げて下さった、産経新聞の北村博子記者の記事。

こちらでも、松尾さんにコメントをお願いしています。

改めて振り返ってみても、当時の一面でこの記事が出た意義は非常に大きく、松尾さんが協力して下さったからだとも言えます。

その他、昨年の南茅部高校の生徒が大阪への修学旅行時に、私共を訪問して下さった際にも、お忙しい中を駆けつけて生徒を激励して下さいました。

 

 

そして、もうお一方。

こちらも同じくミシュラン料理人「雲鶴」の島村雅晴さんです。

www.unkaku.jp

料理人さんのお仕事は、当然「おいしい料理を提供すること」です。

しかし、これだけ環境が厳しくなれば、それを越えた役割を果たそうとする素晴らしい方々が生まれてくるわけです。

 

昆布だけのことではありません。

「問題を回避」することが悪いことだとは言いませんが、「問題の解決のために働きたい」と考える人が一人でも多くなれば、世界は良い方向へ向かうのではないでしょうか。

雲鶴の島村さんは正にそんな方で、過去にもブログで書きました。

konbudoi4th.hatenablog.com

 

この過去投稿の中で、核になる部分を再度抜粋します。

天然真昆布は大阪の味の決め手だが、ないなら仕方がない、他の食材を探そうと考える料理人も少なくない。他の産地の昆布に代えるという人もいる中で、島村さんは釈然としないものを感じていたと言う。

「『これまで昆布のうま味に頼りすぎていた』と皆さん口々に仰るのですが…。でも、ほうっておいて昆布は育つものではない。里山再生と同じく、海の中を人の手で育てていかないと復活は難しい」と島村さん。

「函館の産地に再生をして欲しいと願うなら、料理人は真昆布が必要だと伝えなければいけない。そのためには、他の食材で代用するのではなく、真昆布を使い続けることが大事だと思う」と話す島村さん。穏やかな口調ながら、揺るぎない思いが伝わってくる。

 

このようにに言っておられたわけですが、言うだけでなく早くも行動に移す島村さん。

自ら、今回の産地訪問への参加を買って出て下さいました。

 

「良い昆布が採れない」という現状を受け、その解決策を昆布以外のところに求めるならば、状況は加速度的に悪くなるようにも思えて心配で、島村さんのようなお考えの方は本当に有り難いです。

 

「文化の担い手」。

大変なところもありますが、とても素敵な役割だと思いませんか?

私共に関しても、昆布屋のような斜陽業界、経済的な利益のみを求めてやれるようなものでは決してありません。

こんぶ土居ウェブサイトのトップページにも、以下のように書いています。

こんぶ土居では、伝統ある大阪の食文化を守り育て、本物を次代に伝えることが私どもの使命だと考えています。

www.konbudoi.jp

 

10月の産地イベントについては、また事後報告を、このブログでしたいと考えています。

 

(了)