販売を開始して40年近くが経過し、ロングセラー商品となった「十倍出し」。
世間に多く流通する所謂「だしのもと」に「本物」と呼べそうなものが無い当時の背景で、三代目が「便利な本物」というキーワードの元に開発したものです。
以後、改良を続けながら現在までつくり続けてきたわけで、ある意味私共の看板商品的でもあります。
しかし近年、この製品をつくり続けるにあたり、どんどん逆風が強くなってきています。
その解決策の一つとして「純植物性十倍出し」の開発を始めたわけですが、本日はその動機について、書き記します。
段落としましては、【現在の原料調達状況】、【できるだけ価格を上げたくない理由】、【伝統的精進だし】、【ヴィーガン対応、昆布の価値】、【まとめ】
と続きます。
それでは、
【現在の原料調達状況】
現在、「十倍出し」は二種類の製品をご用意しています。
高級版の「本格十倍出し」と廉価版「標準十倍出し」です。
前者は昆布と鰹節を原料に、後者は昆布と鰹節と煮干しを使用しています。
つまり、原材料の全ては海産物なのです。
北前船の昔から大阪の昆布文化を支え、最高級品とされた「真昆布」。
このブログでも、天然真昆布の常態化した大凶作は、何度もお伝えしている通りです。
今年に至っては二年養殖の真昆布すら大変な希少品と言える状況で、世間に流通する真昆布は一年養殖(促成)ばかりになってしまいました。
こうなると、良い原料昆布の入手にも大きな問題が出てきます。当然価格も高騰します。
この状況は鰹節でも煮干しでも同じで、徐々に入手困難、価格高騰が進んでいます。
特に今年は、カタクチイワシの漁獲量が激減し、煮干しが大幅に高騰しました。
「環境悪化」と「一次生産者の人口減少」、この二つの時流の中で、こんな傾向は今後益々厳しくなっていくように思います。
原材料の調達コストが上がれば、私共で「値上げ」をする必要が出てきます。
思えば「十倍出し」も、昔と比べると高くなりました。
【できるだけ価格を上げたくない理由】
前述のように、原料が大きく高騰すれば、製品価格を上げる他ないわけです。
しかし、経済が停滞する日本でこれ以上値段が上がると、もはやそれは「特に経済的に恵まれた一部の方への製品」となってしまうように思います。
先日、キャビアの生産者の方にお会いしましたが、キャビアなど庶民が日常に食べるものではありません。
お金に余裕があって食べたい方が食べれば良いのだと思います。
こういった製品は、価格が高くても特に問題ないでしょう。
しかし、「だし」を同様に考えて良いのでしょうか。
一昔前までは、ほとんどの一般家庭に「本物のだし」があったわけです。
それが失われていくことを、私はできるだけ避けたいと考えているわけです。
ずっと昔から、こんぶ土居がウェブサイトや印刷物で、以下のように書いてきました。
『こんぶ土居では、伝統ある大阪の食文化を守り育て、本物を次代に伝えることが私どもの使命だと考えています。』
伝統的食文化を守ることが私共のミッションです。
一人でも多くの方に、うまみ調味料に依存しない「伝統的な本物のだし」を使っていただくために、できるだけ価格を抑えたいと思っています。
【伝統的精進だし】
前述のように、海産物の高騰によって原料価格が上がっているわけですが、日本には昔から植物性のだしがあったはずです。
主に仏門の方々に利用されてきた「精進料理のだし」です。
当然、動物性素材は一切使われません。
精進料理のだしの素材として大活躍なのは、昆布と干椎茸です。
つまり、開発中の「純植物性十倍出し」は、伝統的な精進料理に長く使われてきたものに立脚していると言って良いと思います。
この場合、鰹節と煮干しは使いませんので、そちらの価格高騰の影響は受けません。
椎茸も良いものは非常に高価格ですが、こちらには簡単な解決策があるのです。
それは「椎茸軸」です。
椎茸そのものを食べるのでなく、美味しい「椎茸だし」が必要であるのなら、軸でも問題ありません。
そして、「軸は市場で余りがち」です。
それは価格が証明しています。
軸の部分も食べられないわけではないのですが、原木栽培の場合は特に硬く、あまり人気は無いものです。
だからこそ価格が安いのです。
この、利用価値の低い原木椎茸の軸を使って製品を作れば、社会的にも良いことのように思います。
できるだけ多くの方にお使い頂けるようにするため、可能な限りの低価格を目指しているわけですが、そこに椎茸軸が大いに活躍してくれます。
【ヴィーガン対応、昆布の価値】
健康に関することだったり、環境問題や、世界人口の増加を踏まえた社会課題、理由は様々ですが、世界的にヴィーガン人口が急増しています。
私も、持続可能性の観点からは、これまで同様の動物性食品の利用には限界が来ると考えています。
そんな背景も関係しているのでしょうか。
実は今、「野菜だし」が大流行です。
「べジブロス」などとも呼ばれます。
製品としても、本当に多くのメーカーが作るようになりました。
昆布屋である私共がつくる「純植物性十倍出し」ですから、当然味のベースは昆布であり、原材料の最大配合割合を占めます。
そこに、干し椎茸と野菜の味を補うことでの製品化を目指しています。
言うなれば、「伝統の精進だし」と「現代のべジブロス」の融合、でしょうか。
開発の過程で、改めて強く感じたのは、「昆布の力」です。
他社の「野菜だし」製品も、たくさん購入して参考にしましたが、私は多くの他社製品を「おいしい」とは思えませんでした。
大変失礼ながら、逆に「よくこんなものを売ってるな」と思う製品が非常に多かったです。
その差を生んでいるものが、やはり「良い昆布の味」の有無だと感じています。
やはり伝統の力は偉大です。
なにしろ日本人は昔から煮干しや鰹節でだしをとってきたわけです。
それは、「おいしいから」でしょう。
宗教的禁忌のある仏門におられる方は、精進だしとして「昆布と干椎茸」を長い間使ってきたわけです。
それを簡単に「野菜」だけで代替してしまおうというのは、なかなか無理があるように思います。
【まとめ】
「昆布ってすごいなぁ」と、改めて感じます。
まだまだ開発段階であり、これから微調整や改良を続けますが、現状でもなかなか良い品質に仕上がってきています。
時代の要請に合う良い製品になるよう、引き続き努力します。
なんとか、多くの方に支持される良い製品になると良いのですが。
ご期待下さい。
(了)