過日、私共の店舗に北海道からの訪問客がありました。
当日は私が不在だったため、店舗スタッフが対応させて頂いたのですが。
それが、タイトルに書いた、黒口浜真昆布の産地、北海道の椴法華にて昆布の漁師さんをされている「オカヤマジュンヤ」さんの奥様でした。
(ご自分で「オカヤマジュンヤ」とカタカナ表記されていることが多いですが、以後「岡山さん」で)
実は、昆布業界において、岡山さんはちょっとした有名人。
私も存じ上げていました。
知っていたどころか、今年の北海道出張時に、訪ねて行くつもりにしていた方です。
そんな方が、向こうから来て下さったわけですから、面白いものです。
岡山さんが、他の漁師さんと何が違うか。
まずは、こちらのウェブサイトを見ていただければ分かるかと思います。
昆布漁師さんが自分で商品をプロデュースして販売する事例は、まだまだ少ないものですが、「千切りビストロ昆布」と名付けられた、細切りのサラダ昆布のような製品が看板商品。
岡山さんのサイトの説明によれば、
『通常の生育期間の半分以下で水揚げした身の柔らかな若い昆布を使っています。
茹でて細く麺状に刻みシート状にして乾燥させたものを調理に使いやすいようコンパクトにカットしました。サラダやお刺身、パスタ、味噌汁など、さまざまなお料理にお使いいただけます。』
とのことです。
(函館空港の売店で撮影した、岡山さんの製品「千切りビストロ昆布」の写真)
こういうジャンルの製品は、大阪の伝統的な昆布文化とは違いますが、新しい食べ方として、とても魅力的なものです。
岡山さんと言えば、もうひとつ大切なことは「干場への除草剤不使用」のお取組みです。
これについては、正しい理解をしていただく必要がありますので、次の段で詳しくご説明します。
『除草剤不使用の目的』
昔ながらの昆布の天日乾燥の際、砕石や砂利を引いた「干場(かんば)」に昆布を敷き並べます。
ちょうど、こんな風景ですね。
この砕石の下は、土だったりします。
雑草の種などが風に乗って運ばれ、砕石の隙間から下へ入り込むと、芽を出して雑草が生えることもあるわけです。
せっかく砕石を敷いたのに、雑草が伸びては困りますので、漁師さんが除草剤を撒く場合があります。
岡山さんは、それを問題視され、一切除草剤を使わずにお仕事をしておられるのです。
除草剤を使用することの最も大きな問題点は、海洋環境を汚染するリスクです。
撒かれた除草剤は、雨などで最終的に海に流れ込むこともあるでしょう。
こういった可能性には、当然注意が払われるべきであって、岡山さんのお取組みは本当に素晴らしいと思います。
それとは別の観点として。
消費者の方々のご心配として「その除草剤成分が昆布に付着して、安全性に問題が出るんじゃないか」とのお声もあるでしょう。
これについては、まず「天日乾燥」と「機械乾燥」に分けて考える必要があるかと思います。
前述のように「干場」に昆布を敷き並べるのは、天日乾燥の場合です。
機械乾燥では、このように昆布を吊るして乾燥室に入れる場合が多いので、干場に昆布が触れることはありません。
では、天日乾燥なら、どうでしょうか。
「そんなリスクは全くない」とは申し上げられませんが、基本的には心配する必要はあまり無いかと思います。
当然ですが、干場が数日で雑草まみれになるようなことはありません。
ですので、夏の昆布漁の時期に除草剤を撒く漁師さんなど誰もいないと思います。
撒くとしたら、「シーズンオフに」です。
「シーズンオフに撒かれた除草剤成分が干場の表面に残留し、天日乾燥時に昆布に成分が移る」というリスクも、皆無だとは言えないでしょう。
ただ現場を見ている私の感覚で言えば、「農作物に使用する農薬などに比べると、遥かにリスクは少ない」ということだけは申し上げられると思います。
一方、理解が足りず過度に不安がったり、「一般的な昆布は除草剤で汚染されているリスクがあって危険なんだ!!」と言った、除草剤ネタを利用した奇妙なマーケティングに走る業者も出てくることが予想されますし、冷静なご判断を頂けると嬉しいです。
古い時代には、海水を撒くことで雑草が生えるのを防いだそうです。
人力でこの作業をするのは、なかなか骨が折れますが、多くの漁師さんが取り入れてくれると嬉しいです。
岡山さん方でも砕石を敷いたスペースはありますが、昆布を機械乾燥されますから、そもそも昆布が干場に触れることはありません。
更に岡山さんは、「昔ながらの天日乾燥にする、意味が分からない」とまで仰います。
だいたい、私も同じ考えです。
岡山さんがそう考える最大の理由は、「衛生面」です。
干場に敷き並べる場合には、様々な外的なリスクがあるのはご理解いただけるかと思います。
例えば、あまり言いたくないですが、空に鳥が飛んでいるのならば、何か落とすこともあるでしょう。
こんぶ土居で販売している昆布も、ほとんどは機械乾燥されたものです。
食品衛生に求められるものがどんどん厳しくなる時代背景です。
「昔ながらの天日干し」というイメージだけを表面的に捉えず、「良し悪し」のところがあることは、多くの方にご理解いただきたいです。
昆布の天日乾燥と機械乾燥については、過去投稿でまとめています。
ご興味あれば、こちらもご一読下さい。
まぁなにしろ岡山さん、面白い方です。
作業風景も見せていただきましたが、私が過去に見たどの漁師さんよりも丁寧なお仕事ぶりかと思います。
ご自身の仕事への誇りが滲み出ています。
こんな方が増えると、昆布漁業も良い方向に変わっていくんでしょうけど、岡山さんは「良い意味で異端児」です。
ただ、昆布再生の取り組みも一緒で、ひとりでは動かないわけですから、大きな輪にしていく必要があります。
岡山さんの考えに賛同する漁師さんが増えると良いですね。
余談ですが、岡山さんのサイトには、
『香害対策のため、普段の洗濯時に香り付き柔軟剤不使用。(環境のため柔軟剤自体も不使用です)』
なんて書いてあります。
こんなのは、個人的に大いにツボにはまり、面白くてしょうがないです。
私も全く同感で、奇妙なケミカルな香りを纏って平気な人が多い昨今、なんとかならないものかと思います。
岡山さんのお考えと同じ趣旨に立って、私が書いた2020年10月17日の過去投稿「石けんを売る昆布屋」も、是非ご一読下さい。
少数であっても、共通の価値観で理解し合える漁師さんがいて下さるのは、本当に有難いものです。
(了)